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第十六章 HAPPY CITIZEN
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今日は日曜。いつもならお店に行かなくてはいけない日だけれども、桐和とマトイさんに見ててもらうことにして、休みを取らせてもらった。とはいっても、無理を言って休みを取ったわけではなく、桐和にそろそろ僕もゆっくり休む時間を取らないとダメだとわりときつめに言われて今日明日と休みを取るに到った。
そんなわけで、今日の休みはわりと前から取れることがわかっていたので、土日休みのサクラとデートをする約束をしているのだ。
僕はいつもお店に行くようなゆるめの服装だけれども、サクラはどんな格好で行くんだろう。それを楽しみにしながら、僕はいつもより明るい色の色つきリップを唇に塗る。メイクもいつも通り、これでOKだ。
持ち歩き用のメイク用品やお財布、それとICカードとタオルハンカチをボディバッグに詰めていく。そうしていると、部屋の外から声が掛かった。
「ミツキ、準備出来たよぉ」
「はーい。僕も今出る」
返事を返して今部屋を出ると、居間ではカジュアルなシャツの上にセーターを着て、さらにその上に膝丈の黒いコートを羽織ったサクラが待っていた。
「おまたせ。それじゃあ行こうか」
僕が声を掛けると、サクラはうれしそうに笑って玄関に向かう。そういえば、僕とサクラの休みがなかなか合わなくて、デートに出かけるなんて久しぶりだ。最後にふたりで出かけたのは、秋にあった同人誌即売会の時だろうか。もうあれから随分と経ってしまった。
駅まで歩いて行って電車に乗って、目的地に着くまでの間、サクラとたわいもない話をする。その中で、ふと思い出したことを訊ねた。
「そういえばサクラ、恵さんと天さんは元気にしてる?」
そう、以前サクラが恵さんと天さんを連れて来てくれてから、あのふたりのことが気に掛かっていた。恵さんはあの後一度、お友達を連れて来てくれたけれども、天さんとは会っていないからだ。
僕の質問に、サクラはにっこりと笑ってこう返す。
「あいかわらず元気だよぉ。
今日も休日出勤で研究所にいるはずだし」
「あ、それはなんか悪いことをしたような」
あのふたりが休日出勤をするほど忙しい中、サクラの仕事の邪魔をしてしまったか。そう思ったのだけれども、サクラは僕の腕を軽く手の甲で叩いてこう言う。
「まぁ、僕も恵さんや天さんがデートの時とか穴埋めてるし、そこはお互い様だよ」
「なるるー」
たしかにサクラもたまに休日出勤をすることがあるけれど、そういうときはみんな揃って出勤しているものだと思っていたので、持ちつ持たれつだとわかってすこし安心した。
話をしながら電車に乗って乗り換えをして、また電車に乗って目的地に着いた。今日はゆっくりとサクラと一緒に街遊びを楽しむ予定だ。
まず向かったのは駅のすぐ側のデパート。お菓子売り場やファッションフロアなど、じっくりと見ていく。ファッションフロアにある服を見て、思わずじっくりとデザインや縫製を見てしまう。そこから、どんなパターンを使っているのかまで考えはじめたところで服から意識をそらす。いけない、このままだと仕事をしているのと変わらなくなってしまう。
「やっぱり、服を見るの好き?」
僕の隣で別の服を見ていたサクラが訊ねてくる。僕は思わず苦笑いした。
「好きだけど、つい仕事モードになっちゃうなぁ」
「んふふ、それだとお休みにならないね」
サクラは僕の頭をわしわしと撫でて、見ていたショップから出る。
「そういえば、近くに本屋さんもあるよね。
俺、本屋さん見たいな」
「そう? じゃあ本屋さん行こうかー」
これはサクラなりに気を遣って、僕がうっかり仕事に気をやらないようにしてくれているのだろう。サクラの案内で、僕は本屋さんへと向かった。
本屋さんですこし買い物をしてから、僕達は一番の目的のプラネタリウムへと向かう。プラネタリウムは高層ビルの中にあって、子どもなんかも見に来ているようだった。
プラネタリウムのタイムスケジュールを見て、チケットを買う。それから、上映時間が来るまでの間、同じビルの中にある小さな博物館を見ることにした。
その博物館はオリエントの考古学的なものが展示されていて、一般教養の選択単位で考古学を一応取ったという程度の僕には、よくわからないものがほとんどだった。
でも、よくわからなかったけれども、まじまじと展示物を見ているサクラを見ていると、来て良かったと思うし、なんとなく僕も楽しいような気がしてきた。
しばらく博物館を見て、プラネタリウムの上映時間が近づいてきた。僕とサクラはプラネタリウムに戻って上映ホールに入る。それから間もなく上映時間になってホールの中が暗くなる。静かな声のアナウンスと共に、たくさんの星が映し出された。
淡々とした解説をぼんやりと聞きながら、星空を見上げる。夜空にはこんなにたくさんの星があるはずなのに、僕が住んでいる街からは、ほとんど見えていないのだなと思った。
ふと、隣に座っているサクラの手をぎゅっと握る。すると、サクラも僕の手をぎゅっと握り返してくれた。
サクラの手の温もりを感じながら、僕が自分のお店を立ち上げたときのことを思い出す。僕はブランド自体は在学中から持っていたけれども、そのブランドを支柱にして、自分でお店を持つと決めたときのことだ。
僕は学校を卒業した日に、サクラと約束した。サクラが大学を卒業する三年後までにお店を持って、そのお店を軌道に乗せて、サクラを迎えに行くと。だから、それまで待っていて欲しいと言ったのだ。
僕には、サクラが待っていてくれるという確信があった。だから、なにがなんでも自分のブランドを軌道に乗せようと頑張れたのだ。
はじめの目標は三年でお店を持つことだったけれども、結局お店自体は一年で実店舗を構えられるほどに上手くいった。それから一年は苦しかったけれども、次の一年で今の家を借りられるくらいに稼ぎが出るようになった。僕は本当に、サクラが卒業するときまでに、サクラを迎えに行く準備を整えられたのだ。
自分のお店を持つのは昔からの夢だったし、それに加えてサクラと一緒にいたい一心だった。今まで頑張ってこられたのは、サクラと、お店に来てくれる常連さんや、その他僕を支えてくれたたくさんの人のおかげだ。
偶にこうやって、サクラとのふたりの時間を大切にしながらこれからもやっていきたい。僕はしみじみとそう思った。
そんなことを考えながら星空を見ていたら、あっという間に上映時間が終わってしまった。
「きれいだったね」
「うん、すごかった」
僕の方を見てにっこりと笑うサクラに、僕も笑顔を返す。それから、ホールを出てお昼ごはんはどうしようかという話をした。
お昼ごはんにもすこし遅い時間だけどと、プラネタリウムと同じビルに入っているレストランに入り、ふたりでオムライスを食べる。
「わあ、このオムライスおいしい」
サクラがうれしそうにそう言う。
「おいしいよね。このパンとかも甘くておいしいし」
僕もしっかりと味わいながらオムライスを食べる。ふたりで食事を楽しみながら、この後どうするかの話をしていたら、このビルの中に水族館も入っているらしいので次はそこに行こうということになった。
聞いたことはあるけれど、こんなビルの中に水族館があるというのは、なんとなく不思議な感じがする。でも、そんな不思議な水族館はぜひ行ってみて、サクラと一緒に楽しみたい。今日は夜までふたりでゆっくり楽しむのだ。
オムライスを食べ終わって、デザートのパフェを待っているサクラを見てふと思った。サクラは僕と生活をしていて、しあわせなのだろうか。
いや、これは考えずに今度直接訊いた方が良いだろう。そしてその時に、少なくとも僕はしあわせだと伝えるのだ。
僕はなんとなくで付けた僕のブランド名に相応しい生活をしている。
『HAPPY CITIZEN』それが僕のブランド名。
たくさんの人をしあわせにしたくて、でもそのためにはまず僕がしあわせにならないとどうにもならない。
だから僕はささやかでもいいからしあわせな生活を続けるんだ。
そんなわけで、今日の休みはわりと前から取れることがわかっていたので、土日休みのサクラとデートをする約束をしているのだ。
僕はいつもお店に行くようなゆるめの服装だけれども、サクラはどんな格好で行くんだろう。それを楽しみにしながら、僕はいつもより明るい色の色つきリップを唇に塗る。メイクもいつも通り、これでOKだ。
持ち歩き用のメイク用品やお財布、それとICカードとタオルハンカチをボディバッグに詰めていく。そうしていると、部屋の外から声が掛かった。
「ミツキ、準備出来たよぉ」
「はーい。僕も今出る」
返事を返して今部屋を出ると、居間ではカジュアルなシャツの上にセーターを着て、さらにその上に膝丈の黒いコートを羽織ったサクラが待っていた。
「おまたせ。それじゃあ行こうか」
僕が声を掛けると、サクラはうれしそうに笑って玄関に向かう。そういえば、僕とサクラの休みがなかなか合わなくて、デートに出かけるなんて久しぶりだ。最後にふたりで出かけたのは、秋にあった同人誌即売会の時だろうか。もうあれから随分と経ってしまった。
駅まで歩いて行って電車に乗って、目的地に着くまでの間、サクラとたわいもない話をする。その中で、ふと思い出したことを訊ねた。
「そういえばサクラ、恵さんと天さんは元気にしてる?」
そう、以前サクラが恵さんと天さんを連れて来てくれてから、あのふたりのことが気に掛かっていた。恵さんはあの後一度、お友達を連れて来てくれたけれども、天さんとは会っていないからだ。
僕の質問に、サクラはにっこりと笑ってこう返す。
「あいかわらず元気だよぉ。
今日も休日出勤で研究所にいるはずだし」
「あ、それはなんか悪いことをしたような」
あのふたりが休日出勤をするほど忙しい中、サクラの仕事の邪魔をしてしまったか。そう思ったのだけれども、サクラは僕の腕を軽く手の甲で叩いてこう言う。
「まぁ、僕も恵さんや天さんがデートの時とか穴埋めてるし、そこはお互い様だよ」
「なるるー」
たしかにサクラもたまに休日出勤をすることがあるけれど、そういうときはみんな揃って出勤しているものだと思っていたので、持ちつ持たれつだとわかってすこし安心した。
話をしながら電車に乗って乗り換えをして、また電車に乗って目的地に着いた。今日はゆっくりとサクラと一緒に街遊びを楽しむ予定だ。
まず向かったのは駅のすぐ側のデパート。お菓子売り場やファッションフロアなど、じっくりと見ていく。ファッションフロアにある服を見て、思わずじっくりとデザインや縫製を見てしまう。そこから、どんなパターンを使っているのかまで考えはじめたところで服から意識をそらす。いけない、このままだと仕事をしているのと変わらなくなってしまう。
「やっぱり、服を見るの好き?」
僕の隣で別の服を見ていたサクラが訊ねてくる。僕は思わず苦笑いした。
「好きだけど、つい仕事モードになっちゃうなぁ」
「んふふ、それだとお休みにならないね」
サクラは僕の頭をわしわしと撫でて、見ていたショップから出る。
「そういえば、近くに本屋さんもあるよね。
俺、本屋さん見たいな」
「そう? じゃあ本屋さん行こうかー」
これはサクラなりに気を遣って、僕がうっかり仕事に気をやらないようにしてくれているのだろう。サクラの案内で、僕は本屋さんへと向かった。
本屋さんですこし買い物をしてから、僕達は一番の目的のプラネタリウムへと向かう。プラネタリウムは高層ビルの中にあって、子どもなんかも見に来ているようだった。
プラネタリウムのタイムスケジュールを見て、チケットを買う。それから、上映時間が来るまでの間、同じビルの中にある小さな博物館を見ることにした。
その博物館はオリエントの考古学的なものが展示されていて、一般教養の選択単位で考古学を一応取ったという程度の僕には、よくわからないものがほとんどだった。
でも、よくわからなかったけれども、まじまじと展示物を見ているサクラを見ていると、来て良かったと思うし、なんとなく僕も楽しいような気がしてきた。
しばらく博物館を見て、プラネタリウムの上映時間が近づいてきた。僕とサクラはプラネタリウムに戻って上映ホールに入る。それから間もなく上映時間になってホールの中が暗くなる。静かな声のアナウンスと共に、たくさんの星が映し出された。
淡々とした解説をぼんやりと聞きながら、星空を見上げる。夜空にはこんなにたくさんの星があるはずなのに、僕が住んでいる街からは、ほとんど見えていないのだなと思った。
ふと、隣に座っているサクラの手をぎゅっと握る。すると、サクラも僕の手をぎゅっと握り返してくれた。
サクラの手の温もりを感じながら、僕が自分のお店を立ち上げたときのことを思い出す。僕はブランド自体は在学中から持っていたけれども、そのブランドを支柱にして、自分でお店を持つと決めたときのことだ。
僕は学校を卒業した日に、サクラと約束した。サクラが大学を卒業する三年後までにお店を持って、そのお店を軌道に乗せて、サクラを迎えに行くと。だから、それまで待っていて欲しいと言ったのだ。
僕には、サクラが待っていてくれるという確信があった。だから、なにがなんでも自分のブランドを軌道に乗せようと頑張れたのだ。
はじめの目標は三年でお店を持つことだったけれども、結局お店自体は一年で実店舗を構えられるほどに上手くいった。それから一年は苦しかったけれども、次の一年で今の家を借りられるくらいに稼ぎが出るようになった。僕は本当に、サクラが卒業するときまでに、サクラを迎えに行く準備を整えられたのだ。
自分のお店を持つのは昔からの夢だったし、それに加えてサクラと一緒にいたい一心だった。今まで頑張ってこられたのは、サクラと、お店に来てくれる常連さんや、その他僕を支えてくれたたくさんの人のおかげだ。
偶にこうやって、サクラとのふたりの時間を大切にしながらこれからもやっていきたい。僕はしみじみとそう思った。
そんなことを考えながら星空を見ていたら、あっという間に上映時間が終わってしまった。
「きれいだったね」
「うん、すごかった」
僕の方を見てにっこりと笑うサクラに、僕も笑顔を返す。それから、ホールを出てお昼ごはんはどうしようかという話をした。
お昼ごはんにもすこし遅い時間だけどと、プラネタリウムと同じビルに入っているレストランに入り、ふたりでオムライスを食べる。
「わあ、このオムライスおいしい」
サクラがうれしそうにそう言う。
「おいしいよね。このパンとかも甘くておいしいし」
僕もしっかりと味わいながらオムライスを食べる。ふたりで食事を楽しみながら、この後どうするかの話をしていたら、このビルの中に水族館も入っているらしいので次はそこに行こうということになった。
聞いたことはあるけれど、こんなビルの中に水族館があるというのは、なんとなく不思議な感じがする。でも、そんな不思議な水族館はぜひ行ってみて、サクラと一緒に楽しみたい。今日は夜までふたりでゆっくり楽しむのだ。
オムライスを食べ終わって、デザートのパフェを待っているサクラを見てふと思った。サクラは僕と生活をしていて、しあわせなのだろうか。
いや、これは考えずに今度直接訊いた方が良いだろう。そしてその時に、少なくとも僕はしあわせだと伝えるのだ。
僕はなんとなくで付けた僕のブランド名に相応しい生活をしている。
『HAPPY CITIZEN』それが僕のブランド名。
たくさんの人をしあわせにしたくて、でもそのためにはまず僕がしあわせにならないとどうにもならない。
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