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第一章 一日のはじまり
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朝、いつもの時間にぱっちりと目が覚めた。
カーテン越しに差し込む光を見ると、まだ日は昇りきってないようだった。弱い光が入ってくる中、隣で寝てる僕の彼氏の顔を見つめる。普段は別々の部屋で寝てるけど、たまに僕と一緒に寝た時は、いつもこうやって安心しきった顔で寝ている。
とりあえず、いつまでも彼氏の顔を見てるわけにもいかない。僕はベッドから出て台所に行き、朝ごはんと、ふたり分のお弁当の準備をする。
朝ごはんはそんなに手の込んだものは作らない。カット野菜にりんごやオレンジを添えたフルーツサラダと、昨夜のうちに炊飯器にセットしておいた十六穀米、それにベーコンエッグくらいだ。
お弁当も、そんなに難しいことは言わない。二段になっているお弁当箱の下段に十六穀米を詰めて、上段に昨夜の残り物と、プチトマトを入れるだけ。たまに残り物が無い時なんかはなにかしら作るけど、大体の場合は夕飯を多めに作るのでお弁当までまかなえる。
お弁当に詰めた十六穀米を冷ましている間に、洗面所で顔を洗って身嗜みを整える。いつもこの段階でメイクもしてしまうのだけれど、下地を塗ってリキッドファンデを塗って、若干のシェービングをしてからビューラーで睫毛を上げて、色つきリップを塗るだけ。これだけなら慣れてしまえば二十分も経たずにできてしまう。
彼氏は、僕と同棲しはじめてからしばらくの間、僕が毎朝メイクをしているのに気づいていなかった。まぁ、それも仕方ないかなとは思う。男性のメイクはまだ一般的ではないし、そもそも僕はメイクをしているとひと目でわかるようなあからさまなメイクはしない。
軽くメイクを済ませてから時計を確認する。そろそろ彼氏を起こす時間だ。彼氏が寝ている部屋に戻って、僕は彼氏の肩を揺する。
「サクラ起きて。朝だよ」
すると、僕の彼氏のサクラは、ぼんやりと目を開けて僕の顔を見て笑う。
「ミツキ、おはよ」
「うん、おはよー」
ベッドの上で起き上がって伸びをしたサクラが洗面所に向かう。サクラが洗面所で顔を洗って歯を磨いている間に、僕はテーブルの上に先程作ったサラダとベーコンエッグを並べて、十六穀米をお茶碗に盛ってそれも並べる。添える飲み物はレンジで温めた麦茶だ。
テーブルに着いて待ってるとサクラが戻ってきたので、ふたりでいただきますをして朝ごはんを食べる。
「そういえば最近ダイエットアプリをスマホに入れたんだけどさ」
サクラがフルーツサラダを食べながら言う。
「あれ? 最近太った?」
僕が素朴な疑問をぶつけると、サクラは手を振ってこう返す。
「太ったわけじゃなくて、栄養管理もできるみたいだから入れてみたんだよね」
「うん」
「そしたら、ミツキの作ってるごはんめっちゃバランス良くて」
「そうなんだ?」
普段特にバランスの良い食事を作ろうとしているわけではないけれども、バランスが悪いよりはずっと良い。でも、バランスが良くなっているポイントが僕にはよくわからなかった。
話をしながら朝ごはんを食べ終わって、サクラが食器を洗う。その間に、僕は冷ましておいたお弁当をお箸と一緒にお弁当包みで包んだ。
洗い物もそんなに多くなく、お弁当を包むのもそんなに難しくないのでその作業はすぐに終わった。僕はお弁当を片方サクラに渡す。
「はい。これ、忘れないうちに」
「あ、ありがと。忘れちゃったら大変だもんねぇ」
お弁当を受け取ったサクラはにっこりと笑って自室へと戻る。これから着替えて出勤の準備をするのだろう。
テーブルの上を拭いていると、サクラはすぐに着替えて部屋から出て来た。出勤用の鞄もしっかりと持っている。
「それじゃあ、そろそろ行ってくるね」
「うん、いってらっしゃい」
いつものようにサクラが僕の側に寄って、空いている方の手を僕の頬に添えてキスをする。サクラがこうするのをはじめの内は不思議に思ってたけど、今ではもう当たり前になった。
キスをした後、サクラはにっこりと笑って玄関を出て行く。これでごきげんに出勤できるのなら、これでいいのだと思う。
サクラが家を出た後、僕はパジャマからTシャツとスウェットに着替えてヨガマットを敷き、日課の筋トレをする。学生時代に比べると筋トレだとかトレーニングをする時間は減ったけれど、それでも一日三十分から一時間はやっている。
元々はマーシャルアーツを習っていたのでそれでトレーニングをしていたのだけれども、いまでは筋トレの習慣だけが残っている感じだ。
今日もしっかりと筋トレをして、僕も出勤の準備をする。筋トレの前にメイクをしていて汗で崩れないかとサクラに訊かれたことがあるけれど、そもそもで僕が使っているファンデーションはウォータープルーフのものなので汗でそうそう崩れたりはしない。
Tシャツとスウェットから、カラーシャツにサルエルパンツに着替え、仕上げに前を開けて着るタイプの小さめのベストに袖を通す。これに、お弁当やお店で必要な書類を詰めた鞄を持って出勤の準備は万端だ。
時計を見て、僕も家を出る。しっかりと鍵を閉めて駅へと向かった。
通勤の電車の中で、ぼんやりと今日の仕事のことを考える。そろそろ新作の服のデザインやパターンをやらないと。
僕が経営してるアパレルショップは小さくて、デザインもパターンも縫製も、全部お店の中でやっている。店員の人数も少ないので、多分、他のお店に比べると定休日も多いだろう。普通に仕事を休むためだけでなく、お店に出す商品を作るためにお店を休みにして作業に当たらなくてはいけなかったりするからだ。
それにしても、新作はどんなデザインにしよう。最近は業界が発表するトレンドと、実際の流行とで差が大きくなってきた。業界の情報だけを鵜呑みにしてデザインをやっても売れないし、何より僕のお店のテイストを気に入ってくれているお客さんのために僕の色も出さなくてはいけない。なかなか難しい問題なのだ。
そんなことを考えているうちに、お店最寄りの駅に着いた。駅の階段を上がって大通りを歩き、小さな路地に入る。大通りには人が沢山いたけれども、路地に入ると急に静かになった。
この路地の中に、僕のお店がある。路地を少し歩いていると、数段階段を降りたところにガラスのドアがある店舗が見える。そこが僕のお店だ。
お店の鍵を開けて中に入り、奥の作業場に荷物を置く。それから、掃除用具を取り出してお店の中の掃除をはじめた。
お店の中は、布ものを扱っているせいもあるのだろうけれどもすぐにほこりが溜まってしまう。僕のお店ではアクセサリーなんかも扱ってるので、そういったものがほこりを被っているとあまり良くないので、開店前に念入りに掃除をする。
そうしていると、入り口が開く音がして声が聞こえてきた。
「店長、おはようございます」
声の方を向くと、入ってきたのはこの店の店員だ。今のところこのお店は、僕とこの店員だけで回している。
「おはよー。桐和はレジ頼める?」
「わかりました」
来たばっかりの店員、桐和が荷物を奥に置いてからレジの確認をはじめる。桐和は簿記の資格を持っているのでお金のことをまかせるのにうってつけなのだ。
桐和がレジの確認をしている間に、僕は店内の掃除を済ませて奥に戻る。お店のオープンまで新作のコンセプトコラージュを作る作業をするのだ。
僕が夢中でコラージュをしていると、作業場の中でカタカタと音がしはじめた。なにかと思って見回すと、レジの確認が終わったようすの桐和がミシンやアイロンのメンテナンスをしていた。
桐和は僕と同じ服飾科の学校を出た後輩だ。なので、こういったところもまかせられてとても心強い。
安心してコンセプトコラージュを作っていたら、突然声を掛けられた。
「店長、オープンの時間です」
「あれ? もうそんな時間?」
慌てて時計を見ると、たしかにオープンの時間だった。
「どうします? このまま作業を続けますか?」
桐和に訊かれて少し考える。
「そうだね。お店開けておいて、しばらく頼める? このままもうちょっと続けたい」
「わかりました」
こういうこともよくあることだ。
こうして、僕のお店の一日ははじまる。
カーテン越しに差し込む光を見ると、まだ日は昇りきってないようだった。弱い光が入ってくる中、隣で寝てる僕の彼氏の顔を見つめる。普段は別々の部屋で寝てるけど、たまに僕と一緒に寝た時は、いつもこうやって安心しきった顔で寝ている。
とりあえず、いつまでも彼氏の顔を見てるわけにもいかない。僕はベッドから出て台所に行き、朝ごはんと、ふたり分のお弁当の準備をする。
朝ごはんはそんなに手の込んだものは作らない。カット野菜にりんごやオレンジを添えたフルーツサラダと、昨夜のうちに炊飯器にセットしておいた十六穀米、それにベーコンエッグくらいだ。
お弁当も、そんなに難しいことは言わない。二段になっているお弁当箱の下段に十六穀米を詰めて、上段に昨夜の残り物と、プチトマトを入れるだけ。たまに残り物が無い時なんかはなにかしら作るけど、大体の場合は夕飯を多めに作るのでお弁当までまかなえる。
お弁当に詰めた十六穀米を冷ましている間に、洗面所で顔を洗って身嗜みを整える。いつもこの段階でメイクもしてしまうのだけれど、下地を塗ってリキッドファンデを塗って、若干のシェービングをしてからビューラーで睫毛を上げて、色つきリップを塗るだけ。これだけなら慣れてしまえば二十分も経たずにできてしまう。
彼氏は、僕と同棲しはじめてからしばらくの間、僕が毎朝メイクをしているのに気づいていなかった。まぁ、それも仕方ないかなとは思う。男性のメイクはまだ一般的ではないし、そもそも僕はメイクをしているとひと目でわかるようなあからさまなメイクはしない。
軽くメイクを済ませてから時計を確認する。そろそろ彼氏を起こす時間だ。彼氏が寝ている部屋に戻って、僕は彼氏の肩を揺する。
「サクラ起きて。朝だよ」
すると、僕の彼氏のサクラは、ぼんやりと目を開けて僕の顔を見て笑う。
「ミツキ、おはよ」
「うん、おはよー」
ベッドの上で起き上がって伸びをしたサクラが洗面所に向かう。サクラが洗面所で顔を洗って歯を磨いている間に、僕はテーブルの上に先程作ったサラダとベーコンエッグを並べて、十六穀米をお茶碗に盛ってそれも並べる。添える飲み物はレンジで温めた麦茶だ。
テーブルに着いて待ってるとサクラが戻ってきたので、ふたりでいただきますをして朝ごはんを食べる。
「そういえば最近ダイエットアプリをスマホに入れたんだけどさ」
サクラがフルーツサラダを食べながら言う。
「あれ? 最近太った?」
僕が素朴な疑問をぶつけると、サクラは手を振ってこう返す。
「太ったわけじゃなくて、栄養管理もできるみたいだから入れてみたんだよね」
「うん」
「そしたら、ミツキの作ってるごはんめっちゃバランス良くて」
「そうなんだ?」
普段特にバランスの良い食事を作ろうとしているわけではないけれども、バランスが悪いよりはずっと良い。でも、バランスが良くなっているポイントが僕にはよくわからなかった。
話をしながら朝ごはんを食べ終わって、サクラが食器を洗う。その間に、僕は冷ましておいたお弁当をお箸と一緒にお弁当包みで包んだ。
洗い物もそんなに多くなく、お弁当を包むのもそんなに難しくないのでその作業はすぐに終わった。僕はお弁当を片方サクラに渡す。
「はい。これ、忘れないうちに」
「あ、ありがと。忘れちゃったら大変だもんねぇ」
お弁当を受け取ったサクラはにっこりと笑って自室へと戻る。これから着替えて出勤の準備をするのだろう。
テーブルの上を拭いていると、サクラはすぐに着替えて部屋から出て来た。出勤用の鞄もしっかりと持っている。
「それじゃあ、そろそろ行ってくるね」
「うん、いってらっしゃい」
いつものようにサクラが僕の側に寄って、空いている方の手を僕の頬に添えてキスをする。サクラがこうするのをはじめの内は不思議に思ってたけど、今ではもう当たり前になった。
キスをした後、サクラはにっこりと笑って玄関を出て行く。これでごきげんに出勤できるのなら、これでいいのだと思う。
サクラが家を出た後、僕はパジャマからTシャツとスウェットに着替えてヨガマットを敷き、日課の筋トレをする。学生時代に比べると筋トレだとかトレーニングをする時間は減ったけれど、それでも一日三十分から一時間はやっている。
元々はマーシャルアーツを習っていたのでそれでトレーニングをしていたのだけれども、いまでは筋トレの習慣だけが残っている感じだ。
今日もしっかりと筋トレをして、僕も出勤の準備をする。筋トレの前にメイクをしていて汗で崩れないかとサクラに訊かれたことがあるけれど、そもそもで僕が使っているファンデーションはウォータープルーフのものなので汗でそうそう崩れたりはしない。
Tシャツとスウェットから、カラーシャツにサルエルパンツに着替え、仕上げに前を開けて着るタイプの小さめのベストに袖を通す。これに、お弁当やお店で必要な書類を詰めた鞄を持って出勤の準備は万端だ。
時計を見て、僕も家を出る。しっかりと鍵を閉めて駅へと向かった。
通勤の電車の中で、ぼんやりと今日の仕事のことを考える。そろそろ新作の服のデザインやパターンをやらないと。
僕が経営してるアパレルショップは小さくて、デザインもパターンも縫製も、全部お店の中でやっている。店員の人数も少ないので、多分、他のお店に比べると定休日も多いだろう。普通に仕事を休むためだけでなく、お店に出す商品を作るためにお店を休みにして作業に当たらなくてはいけなかったりするからだ。
それにしても、新作はどんなデザインにしよう。最近は業界が発表するトレンドと、実際の流行とで差が大きくなってきた。業界の情報だけを鵜呑みにしてデザインをやっても売れないし、何より僕のお店のテイストを気に入ってくれているお客さんのために僕の色も出さなくてはいけない。なかなか難しい問題なのだ。
そんなことを考えているうちに、お店最寄りの駅に着いた。駅の階段を上がって大通りを歩き、小さな路地に入る。大通りには人が沢山いたけれども、路地に入ると急に静かになった。
この路地の中に、僕のお店がある。路地を少し歩いていると、数段階段を降りたところにガラスのドアがある店舗が見える。そこが僕のお店だ。
お店の鍵を開けて中に入り、奥の作業場に荷物を置く。それから、掃除用具を取り出してお店の中の掃除をはじめた。
お店の中は、布ものを扱っているせいもあるのだろうけれどもすぐにほこりが溜まってしまう。僕のお店ではアクセサリーなんかも扱ってるので、そういったものがほこりを被っているとあまり良くないので、開店前に念入りに掃除をする。
そうしていると、入り口が開く音がして声が聞こえてきた。
「店長、おはようございます」
声の方を向くと、入ってきたのはこの店の店員だ。今のところこのお店は、僕とこの店員だけで回している。
「おはよー。桐和はレジ頼める?」
「わかりました」
来たばっかりの店員、桐和が荷物を奥に置いてからレジの確認をはじめる。桐和は簿記の資格を持っているのでお金のことをまかせるのにうってつけなのだ。
桐和がレジの確認をしている間に、僕は店内の掃除を済ませて奥に戻る。お店のオープンまで新作のコンセプトコラージュを作る作業をするのだ。
僕が夢中でコラージュをしていると、作業場の中でカタカタと音がしはじめた。なにかと思って見回すと、レジの確認が終わったようすの桐和がミシンやアイロンのメンテナンスをしていた。
桐和は僕と同じ服飾科の学校を出た後輩だ。なので、こういったところもまかせられてとても心強い。
安心してコンセプトコラージュを作っていたら、突然声を掛けられた。
「店長、オープンの時間です」
「あれ? もうそんな時間?」
慌てて時計を見ると、たしかにオープンの時間だった。
「どうします? このまま作業を続けますか?」
桐和に訊かれて少し考える。
「そうだね。お店開けておいて、しばらく頼める? このままもうちょっと続けたい」
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