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第十二章 不毛な争い
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美言さんからの依頼を受け、先日の話だけでは納得いかなかった事を徹底的に訊こうと思って、許可を得た上で俺は紙の守出版の編集部に居た。
応接間の椅子に座り、お茶とお茶菓子を頂く。
美言さんがちょっと書類を整理するために席を外している訳なのだが、静かなはずの応接間にはよく解らない声が響いていた。
俺が何か独り言を言っている訳でも、霊障という訳でも無い。ただ単に隣の部屋から声が聞こえてきていると言うだけの事だ。
「お前何言ってんの?
なに? なんでそんな俺様なの?
そんなにヤキモチ焼かれたってこっちに有能な人材が居るんです邪魔しないで下さ~い。
お前のとーちゃんで~べそ~。
ピッピロピ~」
どうやら電話で口げんかしているようなのだが、内容が小学生レベルすぎる。
隣の部屋に居るって事はこの低レベルな悪口を言っている人も神様な訳で、やっぱり八百万の神だなと妙に安心する。
暫く隣の部屋の声を聞いていたら、美言さんがやってきた。
「お待たせしました。
今日は詳しいお話が聞きたいという事でしたよね」
「そうなんですけど、その前に隣でなんか口げんかしてる人が気になるんですけど」
「それも含めてお話ししましょう」
悠希さんが小説家デビューする事を、背後に立っている西洋系の霊が阻んでいるので何とかして欲しいと言う話は前回聞いたのだが、何故その邪魔をする霊を西洋系の神様達が監視しているのかと言う事についての話を聞く事になった。
事の発端は、出版社潰しをしているあの霊を、西洋の神様陣に何とかして貰おうと美言さんの上司が電突を掛けた所から始まったらしい。
西洋の神様は非常にプライドが高く、自分達の縄張りの中から次の世界を作れる人物を出したいと思っていたそうだ。
けれども現在、悠希さん程能力の高い人材が西洋に居ない。
その事実に逆ギレした西洋の神様が、悠希さんの邪魔をしているというのだ。
その事実を知った美言さんの上司を含む八百万の神々が、西洋の神や天使に戦争をしかけたという。
戦争、と聞いて一瞬血の気が引いたが、何のことは無い、お互いの縄張りの中間地点である中国辺りで、盛大なパイ投げ大会をしたのだそう。
人間の目にはパイも、パイのクリームも見えない訳なのだが、心霊的な物に敏感な中国国民が霊的クリームに足を滑らせるという事案が多発し、それを見て激怒した中国の仙人や神様が、わざわざエジプトから猫神様を連れてきて日本と西洋の神様達を鎮めさせた。
猫神様には八百万の神様だけで無く西洋の神様や天使も甘いので、猫神様の一言で戦争という名のパイ投げは終了したらしい。
勿論その後、中国の仙人や神様達にずらっと囲まれて説教されたらしいが。
「すいません、どこからツッコめばいいでしょかね?」
「平和的に事が済んだと言う事で、ご理解いただければと思います」
あまりにも酷い内容だったので思わず一旦話を切ってしまったが、美言さんはもう少し話を続けた。
パイ投げ大会の後、双方共に自分の縄張りに帰りはした物の、次世代の世界創造についての確執はまだ残っており、結局悠希さんの件については何の進展も無かったのだという。
「あの、失礼ですが、隣の部屋で小学生レベルの口げんかを電話でしてるのって、上司の方ですか?」
「誠に遺憾ながら、私の上司の語主様です。
天使長の方と電話をして居るみたいですね」
結構突っかかってくるような電話が掛かってくるんですよ。業務に支障が出るんですけどね~。なんて美言さんは言っているけれど、この話をカナメにしたら、なんか法律的に片付けられそうだななんて、少し思ったのだった。
その後暫く、八百万の神様や次世代世界の創造についての話をしていたのだが、少し話の間が開いた所で気になっていた事を美言さんに訊ねた。
「あの、前に、左手の中指に光の輪が填まっているのは、世界創造の力に長けている人物だとおっしゃっていましたよね?」
「はい。その通りです」
「あの、俺の友人でもう一人、左手の中指に光の輪が填まっている奴が居るんですよ」
戸惑いながら俺がそう言うと、美言さんは笑顔を浮かべてこう答える。
「存じております。
柏原カナメさんでしょう?」
やっぱり知っていた。八百万の神は、カナメの事をやっぱり利用するつもりで……
少しだけ苛立ちを感じながらも何も言えないで居ると、美言さんがそれを察したかのように言葉を続けた。
「新橋悠希さん、柏原カナメさん、この両名は現時点で次世代の世界を作るのに欠かせない人物です。
けれども、世界創造は自主的にやっていただかないと上手くいかない物です。
利用している、と言えばそうかもしれませんが、私達はあの二人の作り出す物を守るのが主な目的です」
「無理矢理小説を書かせる気は無い。と?」
「その通りです」
無理矢理やらせる気が無いのなら、別に良いような気がする。
カナメは勿論、悠希さんだって何かを作る事が好きだ。それを守りたいと言っている神様達を責める必要は無い。
「我々の立てているプランとしては、悠希さんに小説家デビューしていただいて、悠希さんの作品でカナメさんに二次創作していただきたいのですが、そうならなくても仕方ないでしょう。
あの二人の心赴くままに、物語を綴って貰いたいのです」
「なるほど」
悠希さんの補佐としてカナメを充てたいのか。
まぁ、カナメ自体最近は二次創作が楽しいみたいだし、上手く歯車がかみ合えば。と言う程度の認識か。
何はともあれ、今回の依頼は除霊と言うよりも、悠希さんに憑いている霊の説得と言う事になりそうだ。
でも、前に怒らせてしまった事もあるし、上手く説得出来るかな……
神の守出版から帰ってきた俺は、早速西洋系の宗教について調べ始めた。
多神教的な物も有ったみたいだけど、悠希さんの後ろに憑いている彼は、服装から鑑みるに、おそらく一神教の信徒だろう。
その宗派についての事は、俺は殆ど知らない。
退魔師やってるんだったらそれくらい知っておけと言われそうだが、俺の実家お寺だからな?
八百万の神様はともかく、西洋の神様の文献に触れる機会など全くと言って良い程無かったのだ。
「う~……
あの霊と円滑に話を進めるのに法具とか欲しいけど、有っても上手く使えるかな……」
ざっくりとネットで資料を読んだ後、チャペルショップのネット通販ページを見てる。
ロザリオなんかが有れば、何となくあの霊と共通話題を持って和やかに話が出来る気がしたのだ。
しかし、ネットショップで買うとなると、俺と相性の良いロザリオが来るとは限らない。
誰か作れる奴が居てくれればな。そう思いながら取りあえずチャペルショップのページを閉じた。
それから暫く経って、俺はカナメと会う機会があった。
カナメは最近美夏さんと婚約したらしく、左手の薬指には指輪が填まっている。
「よう、婚約おめでとう。
その指輪何処で買ったんだ?」
「婚約指輪?
これね、悠希さんから石を譲って貰って、美夏とお揃いのをシルバーワイヤーで作ったんだ」
そう嬉しそうに笑って指輪を見せるカナメ。
それを見て胸にちくりと棘が刺さる。
ふと、胸の前で手を重ねているカナメを見て気になる物が目に入った。
カナメはロングネックレスを付けているのだが、その先端に十字架が付いている。
小さめのビーズを十個区切りで繋げ、その間に大きめのビーズが挟まれているそのネックレスは、見覚えの有る形だった。
「カナメ、そのロザリオ何処で買ったんだ?
それとも作ったのか?」
俺の問いにカナメは少し驚いた顔をして答える。
「え?
勤はこれがロザリオだって、見て解ったの?
これは悠希さんの妹さんが作ってる奴を買ったんだ」
割と手の届く範囲でロザリオを作れる人物が居た。
俺はカナメから悠希さんの妹について、詳しく話を聞く事にした。
応接間の椅子に座り、お茶とお茶菓子を頂く。
美言さんがちょっと書類を整理するために席を外している訳なのだが、静かなはずの応接間にはよく解らない声が響いていた。
俺が何か独り言を言っている訳でも、霊障という訳でも無い。ただ単に隣の部屋から声が聞こえてきていると言うだけの事だ。
「お前何言ってんの?
なに? なんでそんな俺様なの?
そんなにヤキモチ焼かれたってこっちに有能な人材が居るんです邪魔しないで下さ~い。
お前のとーちゃんで~べそ~。
ピッピロピ~」
どうやら電話で口げんかしているようなのだが、内容が小学生レベルすぎる。
隣の部屋に居るって事はこの低レベルな悪口を言っている人も神様な訳で、やっぱり八百万の神だなと妙に安心する。
暫く隣の部屋の声を聞いていたら、美言さんがやってきた。
「お待たせしました。
今日は詳しいお話が聞きたいという事でしたよね」
「そうなんですけど、その前に隣でなんか口げんかしてる人が気になるんですけど」
「それも含めてお話ししましょう」
悠希さんが小説家デビューする事を、背後に立っている西洋系の霊が阻んでいるので何とかして欲しいと言う話は前回聞いたのだが、何故その邪魔をする霊を西洋系の神様達が監視しているのかと言う事についての話を聞く事になった。
事の発端は、出版社潰しをしているあの霊を、西洋の神様陣に何とかして貰おうと美言さんの上司が電突を掛けた所から始まったらしい。
西洋の神様は非常にプライドが高く、自分達の縄張りの中から次の世界を作れる人物を出したいと思っていたそうだ。
けれども現在、悠希さん程能力の高い人材が西洋に居ない。
その事実に逆ギレした西洋の神様が、悠希さんの邪魔をしているというのだ。
その事実を知った美言さんの上司を含む八百万の神々が、西洋の神や天使に戦争をしかけたという。
戦争、と聞いて一瞬血の気が引いたが、何のことは無い、お互いの縄張りの中間地点である中国辺りで、盛大なパイ投げ大会をしたのだそう。
人間の目にはパイも、パイのクリームも見えない訳なのだが、心霊的な物に敏感な中国国民が霊的クリームに足を滑らせるという事案が多発し、それを見て激怒した中国の仙人や神様が、わざわざエジプトから猫神様を連れてきて日本と西洋の神様達を鎮めさせた。
猫神様には八百万の神様だけで無く西洋の神様や天使も甘いので、猫神様の一言で戦争という名のパイ投げは終了したらしい。
勿論その後、中国の仙人や神様達にずらっと囲まれて説教されたらしいが。
「すいません、どこからツッコめばいいでしょかね?」
「平和的に事が済んだと言う事で、ご理解いただければと思います」
あまりにも酷い内容だったので思わず一旦話を切ってしまったが、美言さんはもう少し話を続けた。
パイ投げ大会の後、双方共に自分の縄張りに帰りはした物の、次世代の世界創造についての確執はまだ残っており、結局悠希さんの件については何の進展も無かったのだという。
「あの、失礼ですが、隣の部屋で小学生レベルの口げんかを電話でしてるのって、上司の方ですか?」
「誠に遺憾ながら、私の上司の語主様です。
天使長の方と電話をして居るみたいですね」
結構突っかかってくるような電話が掛かってくるんですよ。業務に支障が出るんですけどね~。なんて美言さんは言っているけれど、この話をカナメにしたら、なんか法律的に片付けられそうだななんて、少し思ったのだった。
その後暫く、八百万の神様や次世代世界の創造についての話をしていたのだが、少し話の間が開いた所で気になっていた事を美言さんに訊ねた。
「あの、前に、左手の中指に光の輪が填まっているのは、世界創造の力に長けている人物だとおっしゃっていましたよね?」
「はい。その通りです」
「あの、俺の友人でもう一人、左手の中指に光の輪が填まっている奴が居るんですよ」
戸惑いながら俺がそう言うと、美言さんは笑顔を浮かべてこう答える。
「存じております。
柏原カナメさんでしょう?」
やっぱり知っていた。八百万の神は、カナメの事をやっぱり利用するつもりで……
少しだけ苛立ちを感じながらも何も言えないで居ると、美言さんがそれを察したかのように言葉を続けた。
「新橋悠希さん、柏原カナメさん、この両名は現時点で次世代の世界を作るのに欠かせない人物です。
けれども、世界創造は自主的にやっていただかないと上手くいかない物です。
利用している、と言えばそうかもしれませんが、私達はあの二人の作り出す物を守るのが主な目的です」
「無理矢理小説を書かせる気は無い。と?」
「その通りです」
無理矢理やらせる気が無いのなら、別に良いような気がする。
カナメは勿論、悠希さんだって何かを作る事が好きだ。それを守りたいと言っている神様達を責める必要は無い。
「我々の立てているプランとしては、悠希さんに小説家デビューしていただいて、悠希さんの作品でカナメさんに二次創作していただきたいのですが、そうならなくても仕方ないでしょう。
あの二人の心赴くままに、物語を綴って貰いたいのです」
「なるほど」
悠希さんの補佐としてカナメを充てたいのか。
まぁ、カナメ自体最近は二次創作が楽しいみたいだし、上手く歯車がかみ合えば。と言う程度の認識か。
何はともあれ、今回の依頼は除霊と言うよりも、悠希さんに憑いている霊の説得と言う事になりそうだ。
でも、前に怒らせてしまった事もあるし、上手く説得出来るかな……
神の守出版から帰ってきた俺は、早速西洋系の宗教について調べ始めた。
多神教的な物も有ったみたいだけど、悠希さんの後ろに憑いている彼は、服装から鑑みるに、おそらく一神教の信徒だろう。
その宗派についての事は、俺は殆ど知らない。
退魔師やってるんだったらそれくらい知っておけと言われそうだが、俺の実家お寺だからな?
八百万の神様はともかく、西洋の神様の文献に触れる機会など全くと言って良い程無かったのだ。
「う~……
あの霊と円滑に話を進めるのに法具とか欲しいけど、有っても上手く使えるかな……」
ざっくりとネットで資料を読んだ後、チャペルショップのネット通販ページを見てる。
ロザリオなんかが有れば、何となくあの霊と共通話題を持って和やかに話が出来る気がしたのだ。
しかし、ネットショップで買うとなると、俺と相性の良いロザリオが来るとは限らない。
誰か作れる奴が居てくれればな。そう思いながら取りあえずチャペルショップのページを閉じた。
それから暫く経って、俺はカナメと会う機会があった。
カナメは最近美夏さんと婚約したらしく、左手の薬指には指輪が填まっている。
「よう、婚約おめでとう。
その指輪何処で買ったんだ?」
「婚約指輪?
これね、悠希さんから石を譲って貰って、美夏とお揃いのをシルバーワイヤーで作ったんだ」
そう嬉しそうに笑って指輪を見せるカナメ。
それを見て胸にちくりと棘が刺さる。
ふと、胸の前で手を重ねているカナメを見て気になる物が目に入った。
カナメはロングネックレスを付けているのだが、その先端に十字架が付いている。
小さめのビーズを十個区切りで繋げ、その間に大きめのビーズが挟まれているそのネックレスは、見覚えの有る形だった。
「カナメ、そのロザリオ何処で買ったんだ?
それとも作ったのか?」
俺の問いにカナメは少し驚いた顔をして答える。
「え?
勤はこれがロザリオだって、見て解ったの?
これは悠希さんの妹さんが作ってる奴を買ったんだ」
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