寺生まれの勤くん

藤和

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第十一章 ご神託

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 何とも無しにSNSのニュースを辿っていたある日の事。こんな記事を見つけた。
『同性同士の婚姻を認める法案が可決』
 同性同士の婚姻かぁ、ほんのちょっと前までだったら、カナメに求婚してたかもしれない。
そう思いながらざっくりと目を通すと、反対派の意見は色々有ったようなのだが、同性婚を認める事でより多くの家庭を作り、孤児の里親になれる家庭を増やす。と言うのがこの法案のキモらしい。
 そうだよな、いくら今現在日本国が平和だって言っても、色々な理由があって施設で暮らしている子供も沢山居るんだ。
 記事を読んでぼんやり考え事をしていて、浮かんできたのはカナメと美夏さんの事。
同性婚が許可されれば、女の子になりたいって言ってたカナメと、美夏さんが夫婦になっても、奇異の目で見られる事が減ってくるんじゃ無いだろうか。
すぐに無くすというのは無理だろうけど、徐々に減っていけばなと。
 少しだけ胸を痛ませながら記事を閉じると、携帯電話が鳴り出した。
どうやらメールの着信のようだ。
 メールの内容を確認すると、仕事の依頼。
いつものように除霊の依頼なので、待ち合わせの時間を決めようとメールを返した。

 その数日後、いつもの個室飲食店で一人の女性と話をしていた。
除霊をして欲しいのは彼女自身では無く、他の人物だという。
一体誰なのかと訊ねると、彼女はこんな事を言い出した。
「最近、潰れる出版社が多いと思いませんか?」
 一体今回の件とどんな関係があるのだろう。
取りあえず俺は心当たりはあるので素直に答える。
「そう言えばSNSに載っているニュースで、出版社の倒産が相次いでいると言う話は見ましたね」
「実はその事についてなのです」
 え? もしかして潰れた出版社は何かの霊障か何かが原因だったのか?
不思議に思う俺に、彼女は一枚の写真を差し出す。
「この方に憑いている霊が悪さをして、出版社を潰しているようなのです」
 その写真を見て思わず凍り付く。
そこに写っているのは見覚えの有る顔。
西洋系の霊を連れている悠希さんだった。
「あの、なんと申しましょうか、この方とは付き合いがあるのですが、彼に憑いている霊は特に悪さはしていないので……」
 とは言うものの、そう言えば約一名程祟り殺した前科があるなと思ったが、あれは悠希さんやカナメに害をなしたから祟り殺した訳で。
出版社が悠希さんに害をなしているとは思えないから、もしかして他にも何か憑いているのだろうか?
 思わずしどろもどろになる俺に、彼女はこう答える。
「実は、この方に憑いている霊が、宿主が有名になるのを恐れて、小説を刊行しようとした出版社を祟っているそうなのです」
 スキンシップ過剰なのは知ってたけど、そんなに嫉妬深かったのあいつ。
 しかし、それにしても彼女が出版社を潰す霊を除霊して欲しいという理由がわからない。
勤め先か何かを潰された事があるのだろうか?
疑問に思ったので彼女に尋ねると、彼女が改めて名刺を差し出してきた。
「改めて自己紹介させていただきます。
私、『紙の守出版』に勤めております、夜杜美言と申します」
「『紙の守出版』ですか」
 紙の守出版と言えば、だいぶ前に買った神道系の本を出版している会社だ。
「それで、この度当出版社でも小説大賞の募集を掛けたいと思いまして、その時にこの彼が応募をしてきても問題が無いように、予め先手を打っておきたかったのです」
「なるほど」
 美言さんの説明に納得はしたが、引っかかる部分はある。
悠希さんの小説を書籍刊行しようとした会社が潰されたというのはわかった。だが、それなら悠希さんの小説を採用しなければ良いだけの話。
もしかして紙の守出版は、悠希さんの小説を採用する事を前提で小説大賞の募集をかけると言っているのでは無いだろうか。
 それを素直に訊ねると、その通りだった。
悠希さんの小説を世に出すのがそもそもの目的だという。
確かに悠希さんの小説は面白い。刊行したらきっと売れ筋になるだろう。
けれども、神道系の本に力を入れている紙の守出版がいきなり小説を出すという事実にも違和感を感じる。
「実は、紙の守出版さんの本を何冊か持っているんですよ。
神道系の本がメインだと思って居たのですが、この度小説の刊行に手を出そうと思われた理由を聞かせて貰っても良いでしょうか?
もし守秘義務があるのでしたら、無理にとは言いませんけど」
 俺のその言葉に、美言さんの目が鋭く光る。
「当社の本をお読みになっているのなら話は早いですね。
当社の本は、八百万の神について非常に詳しく書かれているとは思いませんでしたか?」
「え?
確かに、今まで読んだ書籍の中では一番詳細な事が書かれていましたね」
 俺の回答を聞いた美言さんは、大きく、圧倒的な霊的圧力を掛けてきた。
「我々紙の守出版は、八百万の神が運営する出版社です。
神道系の本は資金を積み上げるために刊行されているだけの物なのです。
我々八百万の神が出版社を立ち上げた本当の目的は、彼、新橋悠希さんの作り上げる物語を世に出す事です」
 紙の守出版の運営元が、八百万の神だって?
確かに、あの本を見た時神様が書いたのでは無いかと一瞬思いはした。
 美言さんの言葉は嘘八百と取らても文句は言えないような内容では有る。
しかし、美言さんが掛けてきている霊圧は、人間の物では無かった。
神聖で、大きく、圧倒的で、底が無い。
「あなたも、神なのですか?」
 背中にじっとりと汗をかいている感覚を覚えながら、そう訊ねる。
「そうです。
末端に位置する小さな神ではありますが」
 にっこりと笑う美言さんを見て、俺はとんでもない依頼が来てしまったななどと思った。
 しかし、美言さんを始め、紙の守出版の皆さんが神様なのなら、悠希さんに憑いているあの霊を強制排除する事が可能なのでは無いだろうか。
そう思って訊ねると、美言さんは溜息をつく。
「実は、あの後ろに憑いている西洋系の彼、西洋の神様陣に監視されていて、我々ではどうしようも無いんです」
「神様がどうしようも無いって言ってる案件を人間に任せるとかどういう事なんですかね?」
「私達八百万の神は、神道系と、割と最近では仏教系の霊までは対処出来るのですけれど、西洋の神の影響力を撥ね除けるためのメソッドが無いんです。
その点、宗教ちゃんぽんな日本国に住んでいる人間の方が柔軟な対応が出来るかなと思いまして」
「神様が宗教ちゃんぽんとか言う乱暴な単語使っちゃって良いんですかね?」
 流石日本国を統べる八百万の神、宗教観が緩い。
まぁ、八百万ってくらい神様が居れば、後から仏が来ようと神の息子が来ようと『おい、そこ開いてるから座れよ。お茶いる?』って言うくらいの感覚なんだろうな。
 そうそう、もう一つ疑問点が有るのを思いだした。
「所で、なんで悠希さんの小説を世に出すためだけに、出版社を?」
「それもお話ししましょう。
長くなりますが……」
 美言さんが言うにはこう言う事だった。
悠希さんを始め、物語を作る人は次世代、自分達の息子や孫という意味では無く、今有るこの世界が終わった後の次の世界を構築する事が出来るのだという。
けれども、新しく出来た世界は手入れを怠るとすぐさま枯れ果て消えてしまう。
悠希さんは特に世界の構築に長けているのだが、世界が自立出来る程まで手を掛ける事が余りない。
なので、小説を一般流通させ、二次創作という形で他の人に世界の手入れをさせようというのだ。
「悠希さんの左手の中指に、光の輪が填まっているでしょう?
あれは世界を作る力が強い者の証なのです」
 それを聞いて思い浮かんだのは、カナメの事だった。
カナメの左手にも、光の輪が填まっている。
これは邪推になるかもしれないが、八百万の神はカナメの事も利用するつもりなのでは無いだろうかと、そう思った。
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