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第十章 折れた小枝
しおりを挟む化粧品メーカーに就職して2年。
碧は24歳になり忙しい毎日を送っていた。
ようやく営業の仕事も慣れてきた頃、営業を担当している化粧品ブランドの年に一度行われる泊まりがけの表彰式パーティーに碧は来ていた。
(またまだこれには慣れないな~)
昼から夕方までは勉強会や、役員達による挨拶や年度の売り上げ報告などをし、夜からは食事会と表彰式などが行われるのだ。
営業の自分は表彰式の準備や挨拶回りなどでバタバタしていた。
やっと夜になり食事会が始まりゆっくりできた。
「成田くん、お疲れ。疲れたよね?さ、飲んで」
声かけてくれたのは隣に座る同じ営業の上司である日並さん。
30代後半でガタイのいい日並は碧に優しく指導してくれる優しい上司だ。
「日並さんもお疲れ様です!」
日並さんはコップにお酒を注いでくれ、碧も日並さんのコップにお酒を注ぐ。
そしてテーブルにいる同じ営業の同期や上司と世間話や近況などを話す。
表彰式はもう半ばまで進んでおり、個人売上の表彰まできていた。
「今年も個人売り1位は影山くんかな~?」
と日並が言う。
ちらっと彼の方をみる。
肩につくかつかないかのゆるいパーマのかかった黒髪をハーフアップにし、同じ店舗のスタッフと歓談しながらお酒を飲んでいた。
影山朝也は都内の人気路面店の副店長であり、ブランド専属のメイクアップチームの筆頭アーティストでファッションショーなどでも活躍している。
腕はもちろんだが、影山朝也は顔もかなり男前なのだ。キリッとした切れ長の二重とスッとした鼻に薄い唇。クールな印象にみえる彼だが中身は優しく丁寧だそうで大人と言う感じだ。
そして175cmある碧でも少し見上げる180cmを超えるだろう身長の彼は芸能一家に育った自分でもドキッとさせる美貌で魅力的だ。
まだ2年目の碧は都内の数店でしか担当はしていないのでシーズントレーニングや本社などで会った時に挨拶くらいしか関わりはないのだが、毎回会う度にじっと見つめられ時があって妙な気持ちになるのだ。
彼の方をぼーっと見ていると視線を感じたのかバチっと目が合ってしまった。
笑顔でぺこっとお辞儀をされて内心焦りながら丁寧にお辞儀を返し視線を外す。
(びっくりした~相変わらずかっこいいな…)
まだあちらから視線を感じるが気づいていないフリをする。
(俺なんか変な事したかな?)
と思いつつパーティーを楽しんでいた。
そのまま表彰式が進みついついお酒を飲んでしまっていた。
(まずいな、飲み過ぎた…少し気持ち悪い…)
表彰式は終わりに近づき個人売上の発表をしている。
そして個人売上1位は予想通り影山だったのだ。
表彰台にあがり社長から記念品をもらい写真撮影をしている。
「影山かっこいいな~、でも女の噂聞かないな~」と日並が言う。
「確かに。そうっすねー」「選り取り見取りだろうに。」「付き合って長い彼女とかいるんじゃない?」とかそれぞれにテーブルにいる皆が話していた。
(どんな人と付き合ってるんだろう。なんか恋愛してる姿想像できないな。)と碧は思っていた。
(彼はどんな愛情表現をするんだろう。)
そんな事を考えていると
「成田も人気だよな~お前みたいな綺麗な男なかなか見ないよ。よく女性スタッフにお前に彼女がいるか聞かれるよ。」
急に自分の話になりびっくりした。
「確かに、お前どうなんだよ。お前自分の事あんまり話さないよな。」と同期に言われる。
「仕事に忙しくて恋愛してる余裕ないですよ。」と当たり障りなく返す。
「なんだよ~もったいないな~」と皆からからかわれる。
正直、ゲイなのを自覚してもなかなか自分を認められず恋愛やらを避けてきた。
そもそも自分に好きな人ができるのだろうか。
そして好きって言えるのか。
取り繕ってばっかの自分を好きになってくれる人はいるのだろうか。
(まだまだ自分には難しいな…)
そうこうしてるうちに表彰式は終わりを迎えまだ飲みたい人は2次会へ向かう。
次の日も店舗スタッフはメイクトレーニングの日程があり、営業や本社スタッフはミーティングなど朝から忙しい。
なので2次会は自分の判断で休みたい人は会場のホテルに戻っていいのだ。
泊まりがけの表彰式なので2人1部屋の同室で営業の碧は上司の日並と同じ部屋だった。
日並はお酒好きなので2次会に行くようだ。
(俺は部屋に戻ろう…明日の為に早く寝よう)
「日並さん、俺先に戻って休みますね。」
と一言声をかける。
「おー、気をつけて戻れよ。俺朝まで飲むかもしれないしゆっくりしろよ。」
(日並さん、元気だな。俺には無理だ。)
ご機嫌の日並さんを見送り碧は部屋に戻った。
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