寺生まれの勤くん

藤和

文字の大きさ
上 下
7 / 20

第七章 組み上がる物

しおりを挟む

「何か変?」


「いや、何でも。ただ僕らの時と違って、カダンは随分優しいなと思ってね。僕たちの時は、ちょっとずつじゃなんて配慮はなかった」


 カウルとルイは、自分がどれだけの衝撃を受けたか孝宏に言い聞かせた。

 孝宏の体験よりも悲惨だったと。身内だからか遠慮がない分、激しい魔力の圧に死ぬかと思ったと、自身の体験を力いっぱいに語った。


「初めての時、俺は手を握った事しか覚えてなかったぞ。気がついても脳が揺すぶられているみたいでその日は飯が食えなかったな」


「僕は意識はあったけど即効で立てなくなった。あの後熱が出てね、しばらく寝込んだな。まあ、何回か繰り返せばなれるんだけどね」


「ルイは俺よりも長い事特訓してたよな」


「僕はカウルより繊細だからね」


(あれで、優しくされていたのか?そいつは……驚きだ)


 三人の勇者の中でも、一番の落ちこぼれで魔術も満足に使えない。

 彼の落胆ぶりは肌で感じ取っていたし、期待が大きかった分その落差も大きい。

 孝宏ずっと、ひょっとすると、カダンに嫌われてるのかもしれないと思っていた。


「そう意外そうな顔しないでよ。カダンは素直じゃないだけだから」


 孝宏が、もしかすると勘違いかもしれないと僅かに持っていた希望を、皮肉にもルイのフォローが否定した。

 少なくとも自分に対してよそよそしい態度であったのは間違いないようだ、と孝宏は思った。


「苦しかったのはわかる。僕らもそうだった。でもその分、効果は抜群だよ。魔力が濃い分はっきりと感じ取れるからわかりやすいんだよ」


「へ、へぇ。まあ確かに解り易かったかも。ルイの杖で火柱で出したのあの後すぐだし」


 (でもあの後も制御をできてない俺って、もしかして不器用なんじゃ)


「待てよルイ。うっかり聞き流す所だったが、お前タカヒロにこれをしていないのか?マリーにはやっていただろう?」


 孝宏にとっては随分と不公平で、寝耳に水な情報だ。孝宏が批難の目を向けると、ルイは顔面に貼り付けた笑顔でこちらを見ていた。


「あ、いや?たまたまタイミングが合わなくて、する機会がなかったんだ。………………ゴメンネ」


「鈴木さんには?」


 孝宏のルイを見る目は厳しい。

 マリーが特別扱いなのか、それとも自分だけが特別なのか、その差は大きい。出来れば前者であって欲しい。後者だったらきっとしばらく立ち直れないだろう。


「そう考えるとこの三人の中で、一番すごいのは自力で魔法を会得したスズキだね」


 ルイは胸の前で腕を組んで、したり顔で何度も頷いた。孝宏はほっと胸をなで下ろしたが、冗談めかして何とか誤魔化したいルイに、ちょっと意地悪をしてやろうとにやりと笑った。


「ルイってさ、いやらしいのな。訓練建前にして、マリーに触りたかっただけだろ?」 


 ルイの表情が引きつり固まった。肯定したも同然だ。ルイは孝宏の胸ぐらに掴みかかり凄んだ。


「タタカヒロ!?なな、何、根も葉もないことを言ってるのかな!?僕はただマリーの訓練になればって」


「す、け、べ」


「てめっ、その口削いでや……」


「そういや、なんでマリーは静かなんだ?」


 荷物の影に隠れて見えなかったが、マリーは自分のバッグを枕に規則的に寝息を立てていた。

 これほど騒いでも起きてこない所を見るに、寝入っているようだ。

 ルイは気が抜けて浮いた腰を下ろした。どうやらマリーから助平呼ばわりされるのは回避でき、安堵したようだった。


「おい、マリーを起こせ」


 外のカウルが言った。声の調子が嫌に重いのは気のせいだろうか。


「ソコトラが見えてきた」


 遂にソコトラに着いてしまった。ルイにも緊張の色が浮かぶ。孝宏はますます腹の奥がズンと重くなった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!

かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。 その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。 両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。 自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。 自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。 相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと… のんびり新連載。 気まぐれ更新です。 BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意! 人外CPにはなりません ストックなくなるまでは07:10に公開 3/10 コピペミスで1話飛ばしていたことが判明しました!申し訳ございません!!

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

絶対服従執事養成所〜君に届けたいCommand〜

ひきこ
BL
少数のDomが社会を支配する世界。 Subと診断された者にはDomに仕える執事となるため英才教育が施され、衣食住が保証され幸せに暮らす……と言われているのは表向きで、その実態は特殊な措置によりDomに尽くすべき存在に作り変えられる。 Subの少年ルカも執事になるほかなかったが、当然そこには人権など存在しなかった。 やがてボロボロに使い捨てられたルカと、彼のことをずっと気にかけていた青年との初恋と溺愛とすれ違い(ハッピーエンド)。 ◆Dom/Subユニバース設定の世界観をお借りしたほぼ独自設定のため、あまり詳しくなくても雰囲気で読んでいただけるかと思います。ハードなSM的描写はありません。 ◆直接的な描写はありませんが、受け・攻め どちらも過去にメイン相手以外との関係があります。 ◆他サイト掲載作に全話加筆修正しています。 ※サブタイトルは試験的に付けており、変更の可能性があります ※表紙画像はフリー素材サイトぴよたそ様よりお借りしています

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

Promised Happiness

春夏
BL
【完結しました】 没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。 Rは13章から。※つけます。 このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。

処理中です...