1 / 20
第一章 光の指輪
しおりを挟む ごねて中に通さない伯父様に呆れた私達の後ろで、大柄な漁師が言い放った。
「ここで構わねえぞ」
王宮の謁見の間なんて意味がない。直球で価値を否定されたのに、伯父様はほっとしていた。全然理解していないわ。民に見放されたも同然の発言だった。お父様を玉座の前に通したら、自分の席が取られると思っているみたい。
呆れているのは民だけじゃないわ。貴族はやれやれと首を横に振っているし、ドラゴン達も尻尾を意味ありげに振り回した。妙な真似したら、ぶっ飛ばすぞ……ですって。
「ダニエル、お前に帰国の許可は出していない。それにセレスティーヌの離婚はなんだ? シャルリーンの婚約破棄も、みっともない。蛮族相手に……ぐっ!」
最後まで言い切る前に、お父様の右拳が炸裂した。吹き飛ばされた伯父様が転がる。尻餅くらいならともかく、転がるほど打ったのね。歯が折れたようで、血と一緒に吐き捨てた伯父様の表情が歪んだ。
失礼、表情だけじゃなく顔の骨格も歪んでそうだわ。怒りが収まらないお父様の腕は、まだブルブルと震えていた。余計な一言を吐いた途端、もう一発喰らわせる気でいるわね。
「兄上が……いや、お前が罵った蛮族にセレスティーヌは嫁いだんだ。愛する男と別れ、国のためになると信じ、二十年も我慢した。その努力を嘲笑う権利は、お前にはない!」
一歩前に出るお父様に圧され、伯父様が尻でずって後ろに逃げる。追うようにまた一歩踏み出した。
「勝手な妄想で俺を貶めるのは構わん。だがシャルの十年は努力と忍耐の上にあった。それを……っ!!」
ガッと鈍い音がする。もう一発殴られた伯父様は、血塗れだった。鼻血はもちろん、頭の出血は派手なのよね。殴り殺したりはしないでしょう。御前会議というより、兄弟喧嘩の見物になっている。
漁師のおじさんは太い腕を振り回し、行けっそこだ! と叫ぶ。農家の若い青年は、瓦礫を放りながら情けないと息をつく。商家の奥さんなんて、数日は何食べても痛そうね、と苦笑いした。
御前試合になっているけど、これでいいのよ。本来はもっと早くこうして戦うべきだった。お父様と伯父様の間の確執なんて、民には関係ないし、私や叔母様にはもっと意味がないわ。
「お前に何がわかるっ!」
捨て鉢になったのか、伯父様が拳を握って反撃に出た。それを胸で平然と受け止め、防御もしない父が鼻で笑う。
「この程度の力で、何が守れるか!」
喧嘩が激しくなる中、国民の興奮も高まっていく。ドラゴン達もそわそわしながら、大きく尻尾を揺らした。王宮の一部の建物や渡り廊下が壊れている。そろそろ止めるタイミングね。私達、こんな光景を見にきたわけじゃないの。
「伯父様、お父様。ここで終わりになさって。王宮が粉々になりますわよ」
殴りかかる手を止めたお父様は、ドラゴンの尻尾で破壊された瓦礫に目を見開く。伯父様は顔を覆って嘆いた。その二人に、私は重大な指摘をする。
「ところで、伯父様。さきほど私をシャルリーンと呼んだようですが、シャルリーヌですわ」
ここは重要な部分なので、きっちり訂正させていだきますわ。
「ここで構わねえぞ」
王宮の謁見の間なんて意味がない。直球で価値を否定されたのに、伯父様はほっとしていた。全然理解していないわ。民に見放されたも同然の発言だった。お父様を玉座の前に通したら、自分の席が取られると思っているみたい。
呆れているのは民だけじゃないわ。貴族はやれやれと首を横に振っているし、ドラゴン達も尻尾を意味ありげに振り回した。妙な真似したら、ぶっ飛ばすぞ……ですって。
「ダニエル、お前に帰国の許可は出していない。それにセレスティーヌの離婚はなんだ? シャルリーンの婚約破棄も、みっともない。蛮族相手に……ぐっ!」
最後まで言い切る前に、お父様の右拳が炸裂した。吹き飛ばされた伯父様が転がる。尻餅くらいならともかく、転がるほど打ったのね。歯が折れたようで、血と一緒に吐き捨てた伯父様の表情が歪んだ。
失礼、表情だけじゃなく顔の骨格も歪んでそうだわ。怒りが収まらないお父様の腕は、まだブルブルと震えていた。余計な一言を吐いた途端、もう一発喰らわせる気でいるわね。
「兄上が……いや、お前が罵った蛮族にセレスティーヌは嫁いだんだ。愛する男と別れ、国のためになると信じ、二十年も我慢した。その努力を嘲笑う権利は、お前にはない!」
一歩前に出るお父様に圧され、伯父様が尻でずって後ろに逃げる。追うようにまた一歩踏み出した。
「勝手な妄想で俺を貶めるのは構わん。だがシャルの十年は努力と忍耐の上にあった。それを……っ!!」
ガッと鈍い音がする。もう一発殴られた伯父様は、血塗れだった。鼻血はもちろん、頭の出血は派手なのよね。殴り殺したりはしないでしょう。御前会議というより、兄弟喧嘩の見物になっている。
漁師のおじさんは太い腕を振り回し、行けっそこだ! と叫ぶ。農家の若い青年は、瓦礫を放りながら情けないと息をつく。商家の奥さんなんて、数日は何食べても痛そうね、と苦笑いした。
御前試合になっているけど、これでいいのよ。本来はもっと早くこうして戦うべきだった。お父様と伯父様の間の確執なんて、民には関係ないし、私や叔母様にはもっと意味がないわ。
「お前に何がわかるっ!」
捨て鉢になったのか、伯父様が拳を握って反撃に出た。それを胸で平然と受け止め、防御もしない父が鼻で笑う。
「この程度の力で、何が守れるか!」
喧嘩が激しくなる中、国民の興奮も高まっていく。ドラゴン達もそわそわしながら、大きく尻尾を揺らした。王宮の一部の建物や渡り廊下が壊れている。そろそろ止めるタイミングね。私達、こんな光景を見にきたわけじゃないの。
「伯父様、お父様。ここで終わりになさって。王宮が粉々になりますわよ」
殴りかかる手を止めたお父様は、ドラゴンの尻尾で破壊された瓦礫に目を見開く。伯父様は顔を覆って嘆いた。その二人に、私は重大な指摘をする。
「ところで、伯父様。さきほど私をシャルリーンと呼んだようですが、シャルリーヌですわ」
ここは重要な部分なので、きっちり訂正させていだきますわ。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!
かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。
その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。
両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。
自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。
自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。
相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと…
のんびり新連載。
気まぐれ更新です。
BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意!
人外CPにはなりません
ストックなくなるまでは07:10に公開
3/10 コピペミスで1話飛ばしていたことが判明しました!申し訳ございません!!



目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる