Tajlorinoj seĝo de radoj

藤和

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第三章 物語の続き

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 いつも通りカミーユが作業場で刺繍を刺していると、店頭で客が来ないかどうかを見ていたギュスターヴが声を掛けてきた。
 何かと思ったら、仕立て屋時代に何度も利用してくれていて、依然お得意様である貴族の、アヴェントゥリーナが刺繍の依頼をしたいと言っている様子。
 今刺している刺繍が何となく中途半端な気はしたけれども、一旦作業を中断して、注文を訊きに行った。

「はい、ローズマリーの刺繍ですか」
 アヴェントゥリーナからの依頼は、香辛料として親しまれているローズマリーを刺したハンカチを、二枚作って欲しいと言う事だった。
 何故二枚なのかを訊ねると、なんでも数ヶ月前に亡くなった息子の友人と元婚約者が婚約したそうで、二人にお祝いの品を贈りたいというのだ。
 息子と仲の良かった二人の事なのだから、もっと豪華な物を贈ろうかとも思ったらしいのだが、何が欲しいかを二人に尋ねた所、ローズマリーが欲しいとの事だったそう。
 それで、ローズマリーの鉢植えと言うのも考えたのだけれど、折角ならいつでも持ち歩けるようにお揃いのハンカチにしようと思ったらしい。
 その説明に納得したカミーユは、アヴェントゥリーナと詳しく刺繍の図案について詰めていく。
 幾つかデザインを提案した結果、息子の友人にはローズマリーの小枝を、婚約者の方にはローズマリーの花が咲いた小枝を刺す事になった。
 刺繍のデザイン案を見て、アヴェントゥリーナは昔を懐かしむように、うっとりして言う。
「ちょっとだけ違うお揃いって良いわね~。私も若い頃を思い出しちゃった」
「アヴェントゥリーナ様も、誰かとお揃いの物を持ちたいのですか?」
「ん~、持ってた事もあるけど、捨てちゃった」
「何故です?」
「私じゃなくて、他の人とお揃いになってた方が良いかなって、思っちゃったのよね」
「そうなのですか」
 何となく気まずい事を聞いてしまった気がして、カミーユが申し訳なさそうな顔になる。
 けれども、アヴェントゥリーナはそれに気付いていないのか、今度はこんな話を出してきた。
「そう言えばカミーユ君、最近物語書いてるんだって?」
「え? 書いていますけれど、何故それをご存じで?」
「え? さっきギュスターヴ君から聞いたの」
 確かにアヴェントゥリーナが言う様に、刺繍の仕事を始めてから、刺繍糸の色がわからなくなる夜は物語を書いて過ごしている。
 それを兄弟だけに知られている内は特に何とも思っていなかったのだが、改めて他人に物語を書いているというのを知られ、カミーユは何とも無しに気恥ずかしさを感じる。
 少し顔を赤くしたカミーユに、アヴェントゥリーナがどんな話を書いているのかを訊ねてきたので、物語を一から作るのは難しいから童話の続きなどを書いている。と答えたら、アヴェントゥリーナがカミーユの手を取って、真剣な顔でこう言った。
「童話の続き書くの、得意なの?」
「得意と言いますか、そうですね。書くのは楽しいです」
「それなら、折り入ってお願いがあるんだけど……」

 その日から暫く経ち、カミーユは無事に依頼の品をアヴェントゥリーナの元に納品できた。
 仕事の切れ目の休日、カミーユはノートに綴られた文字を読み込んでいた。
 四冊ほどにもなるそのノートに書かれているのは、空想物語り。
ふと、四冊目のノートの半ば辺り。物語が途切れ、代わりに書かれた著者のメッセージを読む。
『誰か代わりに、この物語の続きを書いてください』
 このノートは、アヴェントゥリーナから渡された物だ。
 アヴェントゥリーナの息子が生前に、少しずつ書き進めていた物語だという。
 最後に書かれた、震えた文字のメッセージ。
 それを指でなぞりながら、カミーユはこのノートを自分に手渡した時の、アヴェントゥリーナの事を思い出していた。
 息子の葬儀以降、何時までも沈んでいたら息子が心配するからと、いつも明るく振る舞っているアヴェントゥリーナ。彼女が、死装束の依頼をしてきた時のように泣き崩れたのだ。
 大切な息子の物語を、信用ならない輩に任せる事は出来ない。だから、何卒カミーユの手で続きを書いて欲しい。そう言っていた。
 正直な事を言うとその話をされた時、カミーユは物語の続きを綴り、完結させる自信が無かった。
 けれども、やらないで投げ出す事は出来なかった。
 だから、仕事の合間にはなるけれども、物語の続きを書く事を請け負った。
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