おみみちゃんと下僕の生活

藤和

文字の大きさ
上 下
7 / 7

第七章 わたしの下僕

しおりを挟む
 下僕が知らない人間に連れて行かれてから、わたしはおもちゃの下僕のおうちにいた。
 おもちゃの下僕のおうちには人間が何人もいて、おもちゃの下僕のご主人様らしき人間もいた。
 おもちゃの下僕のおうちでもごはんやおやつはもらえたし、おもちゃでもいっぱい遊んだけど、キャットタワーがないから少し動き足りない。
 そんなふうに過ごしていたある日のこと。わたしがおもちゃの下僕のおうちに来てからどれくらい経った頃かはわからないけれども、下僕がわたしのことを迎えに来た。
 すごくうれしかった。わたしは下僕に飛びついて抱っこしてもらう。
「おみみ、帰ってきたよ。
もう大丈夫だから。心配させてごめんな」
 ずっと抱っこしててもらいたかったけれど、おもちゃの下僕がわたしを運ぶやつを持ってきてこう言った。
「おみみちゃんもはやく家に帰りたいだろう。送っていくから一緒に帰ろう」
「あー、猫トイレまで持ってきてもらってるんだよな。
送ってくれると助かる。ありがと」
 下僕がわたしを運ぶやつ開けて私の方に向ける。
 これからわたしのおうちに帰るのよね? 病院になんて行かないわよね?
 一応そう訊いてから、わたしは運ぶやつの中に入る。運ぶやつの中にいてもわかる。下僕が、わたしのことをやさしく抱っこしてくれているのが。
 それから、おもちゃの下僕のおうちに来た時みたいに、車とかいう大きい箱に入ってわたしのおうちまで帰った。

 わたしのおうちに帰ってきてわたしが運ぶやつから出ると、下僕とおもちゃの下僕がソファに座っていつもみたいにおもちゃを出してきた。
 わたしはおもちゃの下僕と遊んであげてるんだけど、その間におもちゃの下僕と下僕がなにか話をしている。
「……それで、結局病名はなんだったんだ?」
「肺ペスト。
結核だったら退院後もしばらく投薬治療がいるって言われたけど、肺ペストだったら入院中に確実に治せるって言われて。
でも、それでちょっと入院が長引いちゃったんだよな」
「そうか」
 わたしがおもちゃを捕まえてくわえていると、いつもみたいにおもちゃが逃げていかない。どうしたんだろうと思っておもちゃの下僕をみると、おもちゃの根元を離して下僕にしがみついてた。
「ん? どうした?」
 下僕がおもちゃの下僕の頭を撫でると、おもちゃの下僕はぐすぐすしながら言う。
「……あの時は、もうだめかと思ったんだ。
無事に帰ってきてよかった……」
「うん。心配かけてごめんな。
でも、恵のおかげで助かったよ。ありがとう」
「……うん……」
 もしかして、おもちゃの下僕は泣いているの? だれかにいじめられたの? それとも悲しいことがあったの?
 わからないけれど、下僕が帰ってきたからもう大丈夫よ。
「なーん」
 わたしがおもちゃの下僕を元気づけるように話し掛けると、おもちゃの下僕はちょっとだけ私の方を向いて笑ってから、また下僕に抱っこされた。
 下僕はしばらくいつもわたしにしてるようにおもちゃの下僕のことを撫でる。
 それから、おもちゃの下僕が泣き止んでからわたしのことを撫でて帰っていった。
 おもちゃの下僕が帰った後、下僕はすこしぼんやりしてソファに座って、わたしの方を見て膝をぽんぽんと叩いた。
 それを聞いて、わたしは下僕の膝の上に乗る。
 下僕、今までどこに行っていたの? おもちゃの下僕が言っていたように病院にいたの?
「なーん」
 わたしがそう訊ねると、下僕はわたしのことをぎゅっと抱っこしてから背中を撫でてくれる。
 なんだか急に安心した気がした。やっぱり、下僕はどこかに行ってもちゃんと私のところに帰ってくるんだって思った。
 下僕の顔をペロペロして、スリスリもする。それから、下僕のおなかでふみふみした。
「ははは、病み上がりでそれはちょっときついなぁ」
 下僕そう言って笑うので、わたしはもっとふみふみをする。
 下僕のお腹でふみふみするのはとってもひさしぶりな気がして、やっぱりこうしていると落ち着く。そうしているうちにだんだん眠くなってきて、下僕の膝の上でまるくなった。

 ねぇ下僕、もうわたしの前からいなくなっちゃだめよ。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

バロン

Ham
児童書・童話
広大な平野が続き 川と川に挟まれる 農村地帯の小さな町。 そこに暮らす 聴力にハンデのある ひとりの少年と 地域猫と呼ばれる 一匹の猫との出会いと 日々の物語。

獣人ディックと赤ずきんちゃん

佐倉穂波
児童書・童話
「赤ずきん」の物語を読んでトラウマになった狼の獣人ディックと、ほんわかしてるけど行動力のある少女リリアの物語。  一応13話完結。

二人を結ぶ花手紙~ナラとカエデの恋物語~

燦一郎
児童書・童話
舞台はのんびりしたノンビ山。 思いを寄せる二人はナラの木とカエデの木。 いずれも年をとった老木で、たがいに姿を見ることができない場所に住んでいます。 二人を結ぶものは花びらに書いた「花手紙」 季節は春。 二人とも字が書けず昆虫に代筆してもらっていましたが、その春は字の練習をして自分で書くことに。 始めて交わす自筆の花手紙です。 でも……。 ノンビ山に人間が来て伐採を始めたのです。 今回狙われたのは老木たち。 二人の運命は?

サンタさんのおまじない

hanahui2021.6.1
児童書・童話
ひとりぼっちの のらネコが、サンタクロースからプレゼントされたものは?

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

ひきこもり妖精と旅人アリ

みず
児童書・童話
家に閉じこもってしまった妖精エトが、世界中を旅してきたアリさんのお話を聞いて勇気をもらう物語です。

ふさすぐりと巨人のお話

ふしきの
児童書・童話
大人のおとぎ話

ぼくはさいしょに手をつなぐ

美木いち佳
児童書・童話
ぎゅっとね。 手を繋ぎ、一緒に笑って、友達になる。 くすぐったいけど大事なこと。

処理中です...