5 / 7
第五章 わたしの前の下僕
しおりを挟む
今日は朝から下僕がおうちにいる。
こうやって毎日下僕がおうちにいればいいのにと思っていると、下僕がわたしを運ぶやつを持ってきた。
その運ぶやつを持って来たということは、病院なのね! 嫌よ!
運ぶやつに入れられないようにわたしが慌ててキャットタワーの上に逃げると、下僕がわたしの手を握ってこう言った。
「病院じゃないって。今日はおばあちゃんのところに行くぞ」
おばあちゃんのところ? それならいいわ。
おばあちゃんっていうのは、わたしの前の下僕の名前。前の下僕はなんでかしらないけどわたしのお世話ができなくなって、それでわたしは今の下僕のところに来た。
前の下僕がわたしのお世話をできなくなってからすこしの間、色々な猫のお世話をしてる人間のところにいたのだけど、その時に他の猫から他の下僕のところに行ったら前の下僕にはもう会えないと言われていて、すこしだけ寂しかった。
でも、今の下僕は時々わたしを前の下僕の所に連れて行ってくれる。前の下僕にはわたしも会いたいし、大人しく運ぶやつの中に入った。
それからしばらく下僕に運ばれて、途中、やっぱり病院に行くんじゃないかとも思ったけど、病院には行かずにちゃんと前の下僕のおうちに着いた。
前の下僕のおうちには年寄りの人間がいっぱいいて、わたしが行くとみんなうれしそうに笑う。
他の人間にちょっとだけ挨拶をした後、下僕がわたしの体に紐を付けた。これはお散歩の準備だ。
下僕が前の下僕に話し掛ける。
「それじゃあ、公園をお散歩しましょうか」
「いいですねぇ。
それじゃあお願いします」
前の下僕は、お散歩をすると言ってもずっと椅子に座ったままで、でも、その椅子にはコロコロが付いてるから下僕が押してあげれば一緒にお散歩ができる。
下僕と前の下僕と一緒におうちを出て、おうちの近くにあるとっても大きな公園に行く。
この公園は子供の人間もいっぱいいてたまにちょっかいを出されるけど、まあ子供のすることだからしかたないわね。
下僕が前の下僕の椅子を押すのに合わせて、わたしは前の下僕の隣を歩く。
「今日も元気ねぇ」
前の下僕がわたしを見てにこにこと笑う。
そうよ。わたしはいつも元気よ。だって下僕がごはんもささみもおもちゃもくれるもの。
ちょっと得意げになってわたしが歩いていると、前の下僕と下僕がにこにこと話す。
「緑さんはよく会いに来てくれてうれしいわ」
「そうですか? よかったです。
お子さんとかお孫さんとは会ってるんですか?」
「それがねぇ、年に一回か二回くらいしか会わないのよ。
今はもう、緑さんの方がよく会いに来てくれてるくらい」
下僕たちが時々話しながら、大きな公園をぐるっと回って、公園の中にある大きな椅子に下僕が座る。前の下僕は、その隣に座ってた椅子ごと座ってるので、わたしは前の下僕の膝の上に乗っかった。
今の下僕のところに来る前は、よくこうやって前の下僕の膝の上でお昼寝したっけ。
そんなことを思い出しながら丸まっていると、前の下僕が優しく背中を撫でてくれた。
それからまたお散歩をした後に前の下僕のおうちに帰って、また運ぶやつに入れられた。
「それじゃあ帰ろうか」
もうわたしのおうちに帰るのね。前の下僕ともう少し一緒にいたかったけど、おうちに帰らないとごはんが食べられないからしかたないわ。
下僕に運ばれて、おうちに帰ってくる。わたしが運ぶやつから出ると、下僕がわたしを膝の上に抱えてひんやりするなにかで、わたしの手と足の裏をごしごしする。
「今日はお外歩いたから、おててとあんよ拭いておこうな」
「なーん」
お散歩のあとにこうやって手と足をごしごしされるのはあんまり好きじゃないんだけど、お散歩は好きだからがまんしてる。
下僕がごしごししながら、優しい声で言う。
「またおばあちゃんのところに行こうな」
前の下僕のところになら、何度行ってもいいのよ。なんならまた明日行ってもいいわ。
でも、今日は一日下僕が私と一緒にいたから、きっと明日は下僕は昼間、わたしが知らないどこかに行くんだと思う。それくらいわたしにだってわかってるのよ。
下僕がごしごしをやめたので膝の上から飛び降りると、下僕はキャットタワーの側にあったごはん皿を持って台所に行く。すぐにカラカラという音が聞こえてきた。
ごはんだわ。今日はカリカリだけかしら。それともささみもあるのかしら。
ワクワクしながら待ってると、下僕の持ってきたごはん皿にはカリカリだけが入っていた。
本当はささみも入れて欲しいけど、カリカリだけでもおいしいからまあいいわ。早速カリカリを食べる。
今日はいっぱいお散歩したし、運ぶやつで運ばれて緊張したからとってもお腹が空いている。だから、いつもなら何回かに分けて食べるカリカリも一気に食べてしまった。
ふと下僕を探すと、下僕は机でなにかをやっていた。
下僕はたまにこうやって、机にしがみついてなにかをしてる。なにをしてるんだろうと思って近づいて覗き込むと、机の上にキラッと光るお気に入りのおもちゃがあった。
わたしは手を伸ばしてそのおもちゃを思いっきり叩く。
「あっ! おみみ!」
おもちゃがシュッと飛んでいくと、下僕が困ったように笑っておもちゃを拾って、おもちゃをしまってしまった。
他のおもちゃだと遊んでくれるのに。このおもちゃだけは、下僕が遊んでくれないの。なんでかしら。
こうやって毎日下僕がおうちにいればいいのにと思っていると、下僕がわたしを運ぶやつを持ってきた。
その運ぶやつを持って来たということは、病院なのね! 嫌よ!
運ぶやつに入れられないようにわたしが慌ててキャットタワーの上に逃げると、下僕がわたしの手を握ってこう言った。
「病院じゃないって。今日はおばあちゃんのところに行くぞ」
おばあちゃんのところ? それならいいわ。
おばあちゃんっていうのは、わたしの前の下僕の名前。前の下僕はなんでかしらないけどわたしのお世話ができなくなって、それでわたしは今の下僕のところに来た。
前の下僕がわたしのお世話をできなくなってからすこしの間、色々な猫のお世話をしてる人間のところにいたのだけど、その時に他の猫から他の下僕のところに行ったら前の下僕にはもう会えないと言われていて、すこしだけ寂しかった。
でも、今の下僕は時々わたしを前の下僕の所に連れて行ってくれる。前の下僕にはわたしも会いたいし、大人しく運ぶやつの中に入った。
それからしばらく下僕に運ばれて、途中、やっぱり病院に行くんじゃないかとも思ったけど、病院には行かずにちゃんと前の下僕のおうちに着いた。
前の下僕のおうちには年寄りの人間がいっぱいいて、わたしが行くとみんなうれしそうに笑う。
他の人間にちょっとだけ挨拶をした後、下僕がわたしの体に紐を付けた。これはお散歩の準備だ。
下僕が前の下僕に話し掛ける。
「それじゃあ、公園をお散歩しましょうか」
「いいですねぇ。
それじゃあお願いします」
前の下僕は、お散歩をすると言ってもずっと椅子に座ったままで、でも、その椅子にはコロコロが付いてるから下僕が押してあげれば一緒にお散歩ができる。
下僕と前の下僕と一緒におうちを出て、おうちの近くにあるとっても大きな公園に行く。
この公園は子供の人間もいっぱいいてたまにちょっかいを出されるけど、まあ子供のすることだからしかたないわね。
下僕が前の下僕の椅子を押すのに合わせて、わたしは前の下僕の隣を歩く。
「今日も元気ねぇ」
前の下僕がわたしを見てにこにこと笑う。
そうよ。わたしはいつも元気よ。だって下僕がごはんもささみもおもちゃもくれるもの。
ちょっと得意げになってわたしが歩いていると、前の下僕と下僕がにこにこと話す。
「緑さんはよく会いに来てくれてうれしいわ」
「そうですか? よかったです。
お子さんとかお孫さんとは会ってるんですか?」
「それがねぇ、年に一回か二回くらいしか会わないのよ。
今はもう、緑さんの方がよく会いに来てくれてるくらい」
下僕たちが時々話しながら、大きな公園をぐるっと回って、公園の中にある大きな椅子に下僕が座る。前の下僕は、その隣に座ってた椅子ごと座ってるので、わたしは前の下僕の膝の上に乗っかった。
今の下僕のところに来る前は、よくこうやって前の下僕の膝の上でお昼寝したっけ。
そんなことを思い出しながら丸まっていると、前の下僕が優しく背中を撫でてくれた。
それからまたお散歩をした後に前の下僕のおうちに帰って、また運ぶやつに入れられた。
「それじゃあ帰ろうか」
もうわたしのおうちに帰るのね。前の下僕ともう少し一緒にいたかったけど、おうちに帰らないとごはんが食べられないからしかたないわ。
下僕に運ばれて、おうちに帰ってくる。わたしが運ぶやつから出ると、下僕がわたしを膝の上に抱えてひんやりするなにかで、わたしの手と足の裏をごしごしする。
「今日はお外歩いたから、おててとあんよ拭いておこうな」
「なーん」
お散歩のあとにこうやって手と足をごしごしされるのはあんまり好きじゃないんだけど、お散歩は好きだからがまんしてる。
下僕がごしごししながら、優しい声で言う。
「またおばあちゃんのところに行こうな」
前の下僕のところになら、何度行ってもいいのよ。なんならまた明日行ってもいいわ。
でも、今日は一日下僕が私と一緒にいたから、きっと明日は下僕は昼間、わたしが知らないどこかに行くんだと思う。それくらいわたしにだってわかってるのよ。
下僕がごしごしをやめたので膝の上から飛び降りると、下僕はキャットタワーの側にあったごはん皿を持って台所に行く。すぐにカラカラという音が聞こえてきた。
ごはんだわ。今日はカリカリだけかしら。それともささみもあるのかしら。
ワクワクしながら待ってると、下僕の持ってきたごはん皿にはカリカリだけが入っていた。
本当はささみも入れて欲しいけど、カリカリだけでもおいしいからまあいいわ。早速カリカリを食べる。
今日はいっぱいお散歩したし、運ぶやつで運ばれて緊張したからとってもお腹が空いている。だから、いつもなら何回かに分けて食べるカリカリも一気に食べてしまった。
ふと下僕を探すと、下僕は机でなにかをやっていた。
下僕はたまにこうやって、机にしがみついてなにかをしてる。なにをしてるんだろうと思って近づいて覗き込むと、机の上にキラッと光るお気に入りのおもちゃがあった。
わたしは手を伸ばしてそのおもちゃを思いっきり叩く。
「あっ! おみみ!」
おもちゃがシュッと飛んでいくと、下僕が困ったように笑っておもちゃを拾って、おもちゃをしまってしまった。
他のおもちゃだと遊んでくれるのに。このおもちゃだけは、下僕が遊んでくれないの。なんでかしら。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
蒸気都市『碧霞傀儡技師高等学園』潜入調査報告書
yolu
児童書・童話
【スチパン×スパイ】
彼女の物語は、いつも“絶望”から始まる──
今年16歳となるコードネーム・梟(きょう)は、蒸気国家・倭国が設立した秘匿組織・朧月会からの任務により、蒸気国家・倭国の最上級高校である、碧霞(あおがすみ)蒸気技巧高等学園の1年生として潜入する。
しかし、彼女が得意とする話術を用いれば容易に任務などクリアできるが、一つの出来事から声を失った梟は、どう任務をクリアしていくのか──
──絶望すら武器にする、彼女の物語をご覧ください。
二人を結ぶ花手紙~ナラとカエデの恋物語~
燦一郎
児童書・童話
舞台はのんびりしたノンビ山。
思いを寄せる二人はナラの木とカエデの木。
いずれも年をとった老木で、たがいに姿を見ることができない場所に住んでいます。
二人を結ぶものは花びらに書いた「花手紙」
季節は春。
二人とも字が書けず昆虫に代筆してもらっていましたが、その春は字の練習をして自分で書くことに。
始めて交わす自筆の花手紙です。
でも……。
ノンビ山に人間が来て伐採を始めたのです。
今回狙われたのは老木たち。
二人の運命は?
茶臼山の鬼(挿絵つき)
Yoshinari F/Route-17
児童書・童話
いろいろな作品に挑戦しようと思っています。
茶臼山には、鬼がたくさん棲んでいます。その中でも、赤鬼の「アギョウサン」と、青鬼の「サギョウゴ」は、人間に変身できる、特別な鬼です。
2人の鬼は、人間に変身して、トラックに乗って、街にやって来ます。
何をしにやって来るのか、知っていますか?
原作 文 Yumi F
イラスト Yoshinari F
お弁当ミュージカル
燦一郎
児童書・童話
学校の行事で六年生の「ぼく」は一年生のユウトとペアで遠足にでかける。
ぼくはお弁当を作ってくれる人がいないのでコンビニ弁当。
ユウトはおかずの種類が豊富な豪華な弁当。
ユウトの前でコンビニ弁当を開きたくなくて、お腹が痛いといって寝てしまう。
夢の中で見たのはお弁当ミュージカル。
弁当の惣菜が歌をうたったり、踊ったりする。
ぼくはそのミュージカルを見て、お弁当への感謝の気持ちを持つ。
♪ぼくの母さん生きている
ぼくが優しい気持ちを持ったとき
そこに母さんいるんだよ
お店の弁当に優しさを
ユウトの弁当に優しさを
ぼくは心に 誓います♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる