魔法少女の裏表

藤和

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第七章 新しい魔法少女

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 学校の授業も進み、気がついたら高校二年生になっていた蓮。
学業に打ち込んでいたからと言うのも有るのだが、マジカルロータスとして働いているのも、時が早く過ぎる様に感じる要因だろう。
 そんな中、ある休日に蓮は鏡の樹の魔女に呼び出された。
一体何なのかと思ったら、新しい魔法少女を任命するので、立ち会って欲しいとの事だった。
 新しい魔法少女かと、蓮は少し、今までの魔法少女生活の事を思い出す。
確かに魔法少女はやりがいのある仕事だ。これから後輩魔法少女になる子には出来るだけアドバイスしたいと、蓮は鏡の樹の魔女の下へと向かった。

 鏡の樹の魔女の所に行くと、既に先客が居た。
中学生くらいの女の子が四人。
その中の一人は、毎日蓮が顔を合わせている妹の睡だった。
思わず驚きを顔に出してしまう蓮。
しかしそれは睡も同じで、こんな事を言う。
「今、鏡の樹の魔女さんから、マジカルロータスさんに来て貰うって聞いたんだけど、お姉ちゃんがマジカルロータスだったの?」
「う……ん
そうなんだだよね。隠しててごめん」
 それはそれとして、まずは自己紹介をしなさいと言う鏡の樹の魔女に促され、蓮から挨拶をしていく。
「初めまして。
マジカルロータスこと森下蓮です。」
 それに続いて睡が自己紹介をする。
「私、マジカルロータスの妹の森下睡って言います。よろしくね」
 二人が自己紹介をしたので言いやすくなったのか、他の三人も自己紹介を始める。
「新橋匠です。よろしくね」
「篠崎ローラよ。よろしく」
「泉岳寺ステラです。よしなに」
 全員が名乗った所で、戸惑いが流れる。
「せ……せん……?」
「せ……うん」
 どうやら皆ステラの名字を覚えられ無さそうだ。
それを見かねたステラが言う。
「うん。みんな下の名前で呼び合おうか」
 ステラの助け船に、皆下の名前で呼び合う様になる。
 ある程度交流が持てた所で、本題に入った。
四人を新しい魔法少女に任命したいと言う事と、アドバイスを蓮にして欲しいと言う事だ。
蓮からのアドバイスが終わった所で、鏡の樹の魔女は改めて四人にこう訊ねた。
「ところで、衣装の希望とか有る?」
 するとそれぞれに希望を述べていく。
睡は、露出が低めな衣装を。
匠は、フリルがついた衣装を。
ローラは、折角中学生になったのだからとセクシーさを出した衣装を。
ステラは、視界を遮らなくて動きやすい服装を。
それぞれに希望を出した所で、鏡の樹の魔女は述べられた希望を反映して衣装デザインを幾つか出す。
この四人には同地区を任せるつもりらしいので、お揃いで色違いの衣装だ。
 ああでもないこうでもないと言いながら決まった衣装は、フリルのあしらわれたハイネックのレオタードにタイツ、ロングブーツに長手袋。それからとんがり帽子だ。
 新しい魔法少女達の任命が完了し、皆鏡の樹の魔女の下から去る。
家に帰る道中、蓮は睡からこんな事を言われた。
「お姉ちゃんがマジカルロータスなの、知らなかった。
お姉ちゃん、学校と魔法少女と、大変でしょ」
 それに蓮は微笑んで答える。
「大変だけど、やりがいのある仕事だよ。
最初は不安になる事も有るけど、慣れれば人の役に立ってるんだなってそう思えるもん」
 そこまで言って、蓮は琉菜のことを思い出す。
「でも、そうだね。
魔法少女だから誰でも助けられる訳じゃ無いってのは、有るけどね」
「そうなの?」
「世の中には、魔法少女よりも身近な人が支えてあげた方がいい人が居るの、身に染みてわかった事があってさ。
魔法少女だって万能じゃ無いんだなって思ったよ」
「そっかぁ……」
 蓮の話に、睡はいまいち理解し切れていない様子。
でも、いつか睡にも、蓮が話した事がわかる様になる日が来るだろう。
二人姉妹は、夕日が照らす中、家へと帰っていった。

 それから数日後、テレビのニュースでマジカルロータス以外にも新しい魔法少女が登場したと言う情報が流れた。
映っているのは、クラブナイトと名乗っている睡だ。
 夕食前にニュースを見ながら、蓮は睡に訊ねる。
ステラと匠は都内在住らしいが、ローラは他県在住の筈だ。わざわざ都内まで出てきているのかと言うのが気になっていた。
その問いに、睡はこう答える。
ローラの実家は他県だけれども、今は都内にある私立の中学校に親戚の家から通っていると。
 なるほどと納得した蓮だが、新しい魔法少女の登場に、自分の活動のカウントダウンが始まっている様な気がした。

 睡達四人が変身する魔法少女、クラブナイト、スペードペイジ、ダイヤキング、ハートクイーンは、まだ夜が更けてからの活動をする事は出来ない。
中学生と言う事で、門限が厳しいのだ。
その分、ある程度門限も外れ、時間の融通が利く蓮ことマジカルロータスが夜間の活動をする事が増えた。
 マジカルロータスとして活動しているうちに、少しずつではあるが蓮の中で進路について親と真剣に話し合う勇気が持てる様になってきた。
 そしてある日の夕食後、睡は両親にこう言った。
自分は、大学では無くて調理師学校に行きたいのだと。
勿論両親は反対する。
出来の良い娘を有名な大学に入れたいのだ。
両親の言い分に、蓮は強い視線を返しながらこう訊ねた。
「有名な大学に入れって、それは本当に私の為に言ってるの?
それとも、有名な大学に入った娘が居るって言うステータスが欲しいだけなの?
どっちなの?」
「勿論、蓮の事を考えて……
良い大学に入らないと、良い会社には入れないし、調理師学校に行って人生棒に振りたくないでしょ?」
 母親のその言葉に、蓮はカチンとくる。
自分が目指している調理師学校を貶める様な事は、いくら両親でも許せない。
「良い大学、良い会社って、結局ステータスが欲しいだけなんじゃ無い。
調理師学校に行ったって就職は出来るし、人生を棒に振ったなんて思わないから」
 意志の強い蓮の言葉に、父親が溜息をついて蓮に言った。
「わかった。お前の進路は調理師学校で良いんだな?
入学してからこんな筈じゃ無かったなんて弱音を言わないのなら、調理師学校に進んでも良いぞ」
 父親のその言葉に蓮は喜び、より一層勉学に励もうと思ったのだった。

 両親との話し合いの後、進路の心配が無くなったのか、蓮のマジカルロータスとしての活躍も順調になった。
その様子をニュースで見ていた琉菜が、電話越しにこんな事を言った。
『最近調子良いみたいだけど、何か有った?』
 その問いに、蓮は嬉しそうに答える。
「お父さんとお母さんが、高校卒業後調理師学校に行って良いって言ってたの。
だから、私も胸を張って調理師学校に入れるように頑張ろうと思って」
『そっか、進路認めて貰えたんだ。
良かったね』
「うん!」
 蓮がマジカルロータスで居られる期間は、あと二年程。
今はまだ調理師学校に行くのが夢だが、マジカルロータスで無くなる頃には、調理師学校を無事に卒業するのが目標になるのだろう。
蓮は、目標の為に今は精一杯出来る事を頑張ろうと心に決めた。
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