魔法少女の裏表

藤和

文字の大きさ
上 下
6 / 10

第六章 もっと見つめて

しおりを挟む
「柏原~!
聞いてくれ、俺遂に念願叶ったんだよ!」
 喫茶店で強盗騒ぎに巻き込まれた翌日、円は学校でユカリにそう言いながらしがみつく。
「念願って何だよ。
もしかしてマジカルロータスに会えたとか?」
 でもまさかそんな事は無いよな~。等と笑っているユカリに、円がその通りだと言うと、ユカリの表情が固まった。
「お前、無事か?」
「無事」
「怪我は無いか?」
「無い」
「そうか、それは良かった」
 そう言って一旦円から体を離すユカリ。
一方の円は興奮冷めやらぬと言った様子でユカリに語り続ける。
如何にマジカルロータスが優美であったかを。
 興奮気味に語り続ける円をユカリが落ち着かせる様に肩を叩き、こう訊ねた。
「やっぱ事件に巻き込まれたのか?」
「え? ああ、ちょっと休憩に入った喫茶店に強盗が少々」
「マジカルロータス様々だなほんと」
 本来なら強盗に遭った事がトラウマになってもおかしくないのに、円にとってそんな事はマジカルロータスに会えたという事実の前では芥子粒の様な事の様子。
 全くトラウマになっていない所かむしろ記念日になってしまっている円に、ユカリがこんな事を言う。
「そう言えば、マジカルロータスの素顔が見たいって言ってたけど、見れたん?」
 その言葉に円ははっとする。
会えた嬉しさでいっぱいいっぱいになってしまい、顔を見せて欲しいと頼む所まで行かなかったのだ。
「ああ~、どうしよう、見せて貰いそびれた。
引退するまでにまた会えるかな?」
「お前また事件に巻き込まれる気?」
 思わずそうツッコむが、ユカリが不思議そうな顔をしてこう訊ねてきた。
「引退って、マジカルロータスが魔法少女引退するって事か?」
 改めてそう訊ねられて、本人の口から引退という言葉を聞いた時の寂しさがこみ上げてくる円。
思わず潤む目を押さえながら、答える。
「なんか、今高校生らしいんだけど、高校卒業と一緒に魔法少女引退するって言ってたんだよ。
どうしよう、マジカルロータスちゃん今何年生なんだろう……」
 あまりにも落ち込む円の事を見かねたのか、ユカリが慰めの言葉をかける。
「何年生かは知らないけど、少なくともあと一年近くは期間有るだろ。
俺達と同じ学年だったら三年有るし、そんな落ち込むなよ」
「光陰矢のごとしって言葉があるんだお……」
 なかなか浮上しない円を見て、ユカリはやれやれと言った顔をするのだった。

 そんな訳で、落ち込んだ気持ちのまま円は午前中の授業を受け、やってきた昼休み。
ユカリと二人でお弁当を食べていると、円の携帯電話が震え始めた。
何かと思ったら、ゆきやなぎからのメールだ。
内容を確認すると今度の日曜日に有るコスプレイベントに、久しぶりに行くから一緒にどうかと言うお誘いだった。
「柏原」
「なに?」
「ゆきやなぎさんからイベントのお誘い来た」
「写真オナシャス」
「自助努力しろよ」
「ヒント、俺チキン」
「しょうがないな……」
 ユカリが自力で写真を撮りに行こうとしない事にやや呆れながらも、これももういつもの事。
それはそれとして、円は昨日買ったデジタル一眼レフカメラを早速試そうと、今度はどんな衣装で来るのか空想を膨らませるのだった。

 そしてイベント当日。
円はゆきやなぎと冬桜の二人と会場近くの駅で待ち合わせていた。
本当ならコスプレをする二人が先に会場入りして着替えておいて、後から円が来る方が時間の無駄にならなくて良いのでは無いかと冬桜は言っていたのだが、今回は初めて一眼レフを使うと言う事で、セッティングの為に円も早めに会場入りした。
 円はまだあの二人が何のコスプレをするのかを知らない。
新作衣装かな等色々思いを巡らせつつ、一眼レフの設定をする。
「う~……ストロボ上手く使えるかな……
学校で練習はしたけど、うぎぎ……」
 そんなこんなで四苦八苦している間にも、ゆきやなぎが更衣室から出てきた様で声を掛けられた。
「お待たせしました。
あ、一眼レフ買ったんですね」
「そうなんですよ。
やっぱカメラをいじるのが好きで……」
 そう言って声の方を向くと、そこに立っていたのはマジカルロータスの格好をしたゆきやなぎだった。
 思わず先日出会った本物のマジカルロータスが頭を過ぎる。
別に男であるゆきやなぎがマジカルロータスのコスプレをしている事に不満が有る訳では無い。
むしろ、男でもここまで綺麗な人にコスプレされるのなら嬉しい位だ。
けれども、
「ああ……やっぱり綺麗ですね」
「んふふ。褒めても何も出ませんよ」
 マスケラの奥の笑顔は、やはり違う人の物なのだと言うのを実感してしまった。

 円とゆきやなぎが談笑している事暫く。
遅れて冬桜が更衣室から出てきた。
 この二人は本物のマジカルロータスとは似て非なる物だと実感はしたが、それでもこの二人の作った衣装も、本人達も綺麗なので円の撮影にも思わず熱が入る。
円が持参した一眼レフ以外にも、撮られている二人が持って来たコンパクトデジタルカメラでも撮影をする。
「円さんはコンデジの扱いも慣れてて綺麗な写真を撮ってくれるから」
 と二人は円の腕を評する。
その言葉は、今までカメラの腕を磨き続けてきた円にとって嬉しい物だった。
これまで何度もイベントに参加してコスプレイヤーの写真を撮ってきた円だが、一眼レフでは無くコンデジで撮っていると言うだけで冷たくあしらわれる事も有ったから。
 いつの事だったか、ゆきやなぎと二人で話している時にこう訊ねた事がある。コンデジで撮られるのは嫌では無いのかと。
するとゆきやなぎは笑って答えた。
「だって、どんなに良いカメラを使ってても、使いこなせてなかったら良い写真は撮れないでしょ?
僕は円さんが撮ってくれた写真、好きだよ?」
 同じ事を冬桜にも訊ねたのだが、冬桜の言い分はこうだった。
「カメラをステータスだと思ってる人の言う事なんて気にしなくて良いの。
コンデジだけど円さんは良い写真を撮れる。
これはあなたの技術が確かって言う事じゃないのかな」
 そんな事を言っていた二人だから、今回は初めての一眼レフで慣れないかもと前置きをした訳なのだが、自分達の写真を撮って腕を上げられるなら、出来る範囲で協力すると言ってくれた。
円にはただただ、感謝の気持ちしか無い。
 イベント終了まで試行錯誤を繰り返し撮影をした後、二人にお礼を言って円は帰路についた。

 家に帰り、夕食後改めて本日撮った写真を見てみると、やはり慣れないカメラを使っていると言うぎこちなさが有った。
それでも改善点をメモに書き上げ、ぎこちない写真を次回はより良く出来るようにと試行錯誤をする。
 ふと、円はぼんやりと思った。
自分の憧れは魔法少女マジカルロータスでは有るけれど、本当に、些細な事で人を助ける事はやろうと思えば魔法少女でなくとも出来るのではないだろうか。
現に自分は、魔法少女の姿をした、何のことは無い一般人であるあの二人に、少しではあるけれど救われた。
だから、マジカルロータスが普通の女の子に戻っても、きっと何処かで誰かを助けるのだろう。
 そう思ったら、マジカルロータスが魔法少女を引退してしまう事を受け入れられる様な気がした円だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

人生を諦めた私へ、冷酷な産業医から最大級の溺愛を。

海月いおり
恋愛
昔からプログラミングが大好きだった黒磯由香里は、念願のプログラマーになった。しかし現実は厳しく、続く時間外勤務に翻弄される。ある日、チームメンバーの1人が鬱により退職したことによって、抱える仕事量が増えた。それが原因で今度は由香里の精神がどんどん壊れていく。 総務から産業医との面接を指示され始まる、冷酷な精神科医、日比野玲司との関わり。 日比野と関わることで、由香里は徐々に自分を取り戻す……。

公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる

夏菜しの
恋愛
 十七歳の時、生涯初めての恋をした。  燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。  しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。  あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。  気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。  コンコン。  今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。  さてと、どうしようかしら? ※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。

悔しいけど、君が好き。

矢凪來果
恋愛
「人生最後の日に何したい?」 私はそう聞いてきたあいつに会いたかった。 社畜のミサキは、ある日、大学時代の忘れられない男友達の言葉を思い出してしまう。そして物騒なニュースを見ていると、少しづつおかしくなる世の中で、いつ「人生最後の日」がくるかわからないと怖くなった。 だったら、取り返しがつかなくなる前に、ダサくても、今更でも、やっぱりもう一度会いたい! そんなふうに勢いづけて連絡を取ってみたものの。 「なぁ、誰に会いにきたんだよ」 「そっちこそ」 素直じゃない大人同士の、バレバレの攻防戦。 ※カクヨム、小説家になろうでも掲載いたします。 ※4話の短編予定。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...