魔法少女の裏表

藤和

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第三章 守り切れない物

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 そろそろ受験の準備を始めないといけないと言う時期になり、蓮は早めに美術部を引退した。
まだ三年生になってから少ししか経っていないが、目指す高校に入る為には勉強をする時間を少しでも多く確保しておきたいのだ。
ただでさえ、魔法少女としての活動もあるのだし、それは尚更だ。
 一方、琉菜も早めにテニス部を引退してしまっていた。
琉菜も大学までは行きたいと言っていたので、それなりの高校に入らなければいけない。だから受験勉強の為に早めに引退したのだと思っていた。
「やっぱり、受験は頑張らなきゃって感じするよね」
「ああ、そうだね……」
 部活引退の話をしていた時、なにやら琉菜は些か暗い顔をしていた。
一体何故なのだろうと思ったが、蓮はすぐに琉菜は体を動かすのが好きだから、部活を引退するのが残念なのだろうなと思い当たり、特に追求することは無かった。

 ある日の放課後、蓮は琉菜と一緒に帰ろうと声を掛けたのだが、琉菜は部活の面々に呼び出されているからと言って何処かへと行ってしまった。
引退したのにまだ部活のことでやる事が有るのだろうか。そんな疑問が浮かぶ。
 一体何を頼まれるのか気になった蓮は、何となくこっそりと琉菜の後を付けていった。

 それは信じられない光景だった。
学校の屋上で、罵声を浴びせられ、制服の上から何度も何度も殴られる琉菜。
何故彼女がこんな目に遭わなくてはいけないのだろう。
もしかしたら、今までにもこんな事が有ったのかもしれない。
そう思った蓮はすかさずマジカルロータスへと変身し、琉菜を囲うテニス部員達の前に出た。

 いつも言っている登場の口上は省略し、テニス部員を一人ずつリボンで縛り上げていく。
「あなたたち、自分が何をやってるのかわかっているの?」
 声を荒くすることも無く、淡々とそう蓮が問いかけると、テニス部員達は如何に琉菜が気に入らないか、悪い奴かを口々に話し始めた。
 自分勝手な言い分に、普段は温厚な蓮でさえも怒りが湧いてくる。
「そこのあなた、ちょっと教師を呼んできて下さらない?」
「えっ? あ、はい」
 全身を殴られて痛そうにしている琉菜には悪いが、彼女に頼まないと、蓮がここを離れて教師を呼びに行ったら、今縛り上げている連中が何をしでかすかわからない。
 琉菜が教師を呼びに行っている間にも、テニス部員達は蓮にこう言う。
「魔法少女は正義の味方なんだろ!」
「なんであいつの肩を持つのよ!」
 何と身勝手な奴らなのか。蓮はリボンを締め上げる力を強くし、部員達に言う。
「そう。私は正義の味方。
理不尽な暴力を振るうあなた達の味方では無くてよ!」
 正直、蓮は正義の味方の肩書きを捨ててでも、部員達を琉菜と同じ目に遭わせてやりたかった。
けれどもそれはきっと琉菜も望んでいない事だし、何より、自分の手で暴力を加えるのが怖かった。

 結局、琉菜に暴行を加えていた部員達は厳重注意を受けはした物の、特に自宅謹慎が言い渡されると言うことも無く日々は続いた。
琉菜には誰からも謝罪が無い。
自分を悪いと思っていない部員達は勿論、その親からも、学校からも。
 その後琉菜が部員に呼び出されていると言った時などは、仕事があるなら自分も手伝うと言って蓮も同行して事なきを得ては居るが、何故琉菜が暴行を受けなくてはいけないのかがわからなかった。
 ある日、蓮が訊ねた。
「私ね、この前マジカルロータスさんに会う機会があって言われたんだけど、琉菜、いじめられてるんだって?
何でか心当たり有る?」
 蓮の問いに、琉菜は少し困った様な顔をしてこう言った。
「そう言うの、昔からなんだ。
実は、この学校入ってから部活中とか偶に意識が無くなることが有ってさ、気がつくと他の部員がボコボコになってたりとかしたことがあるから、それが悪いんじゃ無いかなぁ」
 その言葉に、蓮は最近読んだ本のことを思い出した。
 多重人格。
多重人格になった人は、非常に理不尽な目に遭った場合が多いと本に書いてあったが、もしかしたら琉菜はそれなのかもしれない。
 昔から理不尽に言葉や物理の暴力を加えられ、暴力から身を守る為に自分を守る人格を作り上げた。そうなのでは無いかと思った。
 けれども、その事を訊ねる勇気は無く、蓮はこの言葉しか琉菜にかけられなかった。
「周りがなんて言っても、私は琉菜の友達だよ」
 琉菜が少し鼻声で呟く。
「ありがと……」
 きっと、蓮と琉菜は違う高校に進むだろう。
けれどもきっと、高校では琉菜がこんな目に遭わない様に。そう胸元のペンダントに手を当てて静かに祈った。

 有る休日、蓮は鏡の樹の魔女の下へと訪れた。
「あらお久しぶり。何か御用?」
 相変わらず優雅に話しかけてくる鏡の魔女に、蓮は肩を震わせながらこう言った。
「私の友達が、学校でいじめられてるんです」
「あら……」
「いじめた人達を教師に突き出しはしたんですけど、その後全然状況が改善されなくて、学校側も何もしてくれなくて、私、私……」
 涙を零しながら話す蓮に、鏡の樹の魔女はゆっくりと声を掛ける。
「もしかして、復讐したいの?」
 蓮は黙って頷く。
「そうなのね。
それをあなたがどうするかを決める権限は私には無いわ。好きになさい。
けれども、魔法の力を使って復讐するつもりなら、おやめなさい」
「だって、魔法少女に変身しないと、私なんか弱っちくて……!」
 息を切らせ、言葉を詰まらせながら泣く蓮に、鏡の樹の魔女はこう諭す。
「魔法少女の力はね、『復讐』の為に有るんじゃ無いの。
魔法少女の力を使って復讐をしたら、その時あなたはただの悪人になるのよ」
「変身しないで復讐するのは、悪じゃ無いんですか?」
「度合いに寄るわ。オーバーキルって言う言葉があるでしょう。
魔法少女の力を使って復讐をしたら、確実にオーバーキルになる。
これは避けなくてはいけないことだわ」
「じゃあどうしたら良いんですか!」
 顔を真っ赤にして取り乱す蓮。
鏡の樹の魔女は、優しく蓮の頬をハンケチで拭いながら、問いかける。
「あなたなら、自分がいじめられていたとして、大事な友達に復讐して貰いたいと思う?」
 蓮は頭を横に振る。
わかっている。琉菜が蓮に復讐をして欲しい訳では無いのは、いじめられている現場を見た時からわかっている。
けれども納得がいかなかった。
 鏡の樹の魔女が問いかける。
「あなたなら、どうして欲しい?」
「……何もしなくて良いから、友達で居て欲しい。忘れないで欲しい」
「そう」
 鏡の樹の魔女が、蓮の後ろを指さす。
そろそろ夕暮れ時だ、蓮にもう帰った方が良いと言うのだろう。
「今日は有り難うございました」
「いいのよ。悩んだらまた来なさい」
 鏡の樹の魔女に背を向け歩き出すと、こんな言葉をかけられた。
「幸せはね、気付いてないだけで結構近くにあったりする物なのよ」
 幸せ、蓮は琉菜のことが心配ではあるけれど、おおむね幸せな生活が出来ている。
けれども琉菜はどうなのか。
自分が友達である事が琉菜の幸せで有れば良いなと思いながら、蓮は鏡の樹の魔女の前から姿を消した。
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