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2006年
25:バターミルクティー
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年も明けて少し経った頃、その日は快晴で、空には雲ひとつなかった。それでも空気は冷たい物で、相変わらずシムヌテイ骨董店ではだるまストーブが焚かれている。
暖かい店内で、真利がレジカウンターに立って手を動かしている。手元には、水仙の花束。そこから一輪ずつ、鋏で花を切り落としていた。切り落とした花を金属製のボウルに盛り、花束だった物が全部茎だけになると、ボウルを持って店の外に出た。
店の入り口脇、看板のすぐ側には、テラコッタの器があり、そこには冷たい水が張られていた。真利はその水の上に、一輪ずつ水仙の花を浮かべて行く。丁寧に、丁寧に、ひっくり返らないように。
全部水仙の花を浮かべ終わると、ぶるっと身震いをしていそいそと店内に戻る。
「やはり、少しの間だけとは言え、外は寒いですね……」
水仙の茎をバックヤードで処理し、赤い別珍張りの倚子をだるまストーブの前へと持っていく。今日もストーブの上には鍋が乗せられいて、中にはミルクティーが入っている。何故か近所のスーパーに羊のミルクが入荷されていたので、ミルクからじっくりと茶葉を煮込んでいるのだ。味付けは、塩とバター。甘みはミルク以外の物は、入っていない。
バターの油膜が張ったミルクティーを、マグカップにおたまで注ぐ。そっと口を付けると、火傷しそうなほどに熱かった。少しずつ、ゆっくりと飲んでいくと、体の奥に温かさが染み渡るようだ。
ゆっくりと暖まっていると、店の扉が開いた。
「いらっしゃいませ」
にこりと笑って挨拶をかけたのは、暖かそうなコートを着込んだ木更と理恵だ。
「真利さんあけおめー。
なんか良い匂いするけど、なに飲んでるの?」
早速寄ってきてストーブに手をかざす木更に、真利はカップを見せて答える。
「バター茶ですよ。甘くはありませんが、暖まりますよ」
それから、一旦カップをレジカウンターの上に置き、バックヤードからスツールをふたつ持って来て、ストーブの周りに置く。
「外は寒かったでしょう。ふたりともお掛けになって、暖まって下さい」
「はい、ありがとうございます」
「おーうサンクス」
理恵と木更が座ってから、真利はふたりの分のカップも用意する。ワイルドストロベリーのカップと、グリフィンのカップだ。そのふたつにもそっとバター茶を注ぎ、それぞれに渡す。
ワイルドストロベリーのカップを持って、理恵がはにかむ。
「真利さんって、色々なお茶を知ってるんですね」
やはり熱いのだろう、ふたりはちょっとずつ口を付けている。真利は焦げ付かないように、おたまで鍋底をかき回しながら言う。
「そうですね、お茶のことを色々なお客さんからうかがったり、実際にお土産を持って来てくださったりもするので、それで色々試す機会は多いですね」
おたまから一旦手を離し、真利も自分のカップに口を付ける。バターの油膜が張っているおかげか、お茶は冷めていなかった。
「なんか、このお茶って変わった味がしますね」
「うん、なんかしょっぱさある」
不思議な顔をする理恵と木更に、簡単に説明をする。
「このお茶は塩が入っていますから、ちょっとスープっぽいかも知れませんね」
「なるほどなー」
「そうなんですね」
木更と理恵が納得したところで、真利がはたと思い出した。
「そう言えば、キャラメルを買ってあるんですけれど、食べますか?
前に召し上がっていただいた、あの甘い物なのですが」
それを聞いて、木更が嬉しそうに片手を上げる。
「やったー、食べる! きっとこのお茶に合うよ」
理恵も、にこにこして言う。
「合わせたら塩キャラメルみたいになりそうですね。私も食べたいです」
「ふふっ、かしこまりました。ただいまご用意いたしますので、少々お待ち下さい」
嬉しそうなふたりを見て、真利はにこりと笑う。
一旦マグカップをレジカウンターに置いて、キャラメルの準備をしにバックヤードへと入っていった。バックヤードの給湯設備で、板状になっているキャラメルを、小さなブロック状にナイフで切り分ける。それを数個ずつ、三枚の白い小皿に乗せる。三枚の小皿を器用に両手で持ち、店内に戻って双子に渡す。お皿は膝の上に置いて貰う事にした。
「わーい、いっただきまーす!」
「いただきます」
意気揚々と口に放り込む木更と、少しずつ囓(かじ)る理恵。食べ方にも、ふたりの性格の違いが出ている。
「お皿を落とさないように、気をつけて下さいね」
お茶とキャラメルを味わうふたりを見ながら、真利も一欠片キャラメルを囓る。濃厚な甘みと、ほのかな苦みが口に広がった。
暖かい店内で、真利がレジカウンターに立って手を動かしている。手元には、水仙の花束。そこから一輪ずつ、鋏で花を切り落としていた。切り落とした花を金属製のボウルに盛り、花束だった物が全部茎だけになると、ボウルを持って店の外に出た。
店の入り口脇、看板のすぐ側には、テラコッタの器があり、そこには冷たい水が張られていた。真利はその水の上に、一輪ずつ水仙の花を浮かべて行く。丁寧に、丁寧に、ひっくり返らないように。
全部水仙の花を浮かべ終わると、ぶるっと身震いをしていそいそと店内に戻る。
「やはり、少しの間だけとは言え、外は寒いですね……」
水仙の茎をバックヤードで処理し、赤い別珍張りの倚子をだるまストーブの前へと持っていく。今日もストーブの上には鍋が乗せられいて、中にはミルクティーが入っている。何故か近所のスーパーに羊のミルクが入荷されていたので、ミルクからじっくりと茶葉を煮込んでいるのだ。味付けは、塩とバター。甘みはミルク以外の物は、入っていない。
バターの油膜が張ったミルクティーを、マグカップにおたまで注ぐ。そっと口を付けると、火傷しそうなほどに熱かった。少しずつ、ゆっくりと飲んでいくと、体の奥に温かさが染み渡るようだ。
ゆっくりと暖まっていると、店の扉が開いた。
「いらっしゃいませ」
にこりと笑って挨拶をかけたのは、暖かそうなコートを着込んだ木更と理恵だ。
「真利さんあけおめー。
なんか良い匂いするけど、なに飲んでるの?」
早速寄ってきてストーブに手をかざす木更に、真利はカップを見せて答える。
「バター茶ですよ。甘くはありませんが、暖まりますよ」
それから、一旦カップをレジカウンターの上に置き、バックヤードからスツールをふたつ持って来て、ストーブの周りに置く。
「外は寒かったでしょう。ふたりともお掛けになって、暖まって下さい」
「はい、ありがとうございます」
「おーうサンクス」
理恵と木更が座ってから、真利はふたりの分のカップも用意する。ワイルドストロベリーのカップと、グリフィンのカップだ。そのふたつにもそっとバター茶を注ぎ、それぞれに渡す。
ワイルドストロベリーのカップを持って、理恵がはにかむ。
「真利さんって、色々なお茶を知ってるんですね」
やはり熱いのだろう、ふたりはちょっとずつ口を付けている。真利は焦げ付かないように、おたまで鍋底をかき回しながら言う。
「そうですね、お茶のことを色々なお客さんからうかがったり、実際にお土産を持って来てくださったりもするので、それで色々試す機会は多いですね」
おたまから一旦手を離し、真利も自分のカップに口を付ける。バターの油膜が張っているおかげか、お茶は冷めていなかった。
「なんか、このお茶って変わった味がしますね」
「うん、なんかしょっぱさある」
不思議な顔をする理恵と木更に、簡単に説明をする。
「このお茶は塩が入っていますから、ちょっとスープっぽいかも知れませんね」
「なるほどなー」
「そうなんですね」
木更と理恵が納得したところで、真利がはたと思い出した。
「そう言えば、キャラメルを買ってあるんですけれど、食べますか?
前に召し上がっていただいた、あの甘い物なのですが」
それを聞いて、木更が嬉しそうに片手を上げる。
「やったー、食べる! きっとこのお茶に合うよ」
理恵も、にこにこして言う。
「合わせたら塩キャラメルみたいになりそうですね。私も食べたいです」
「ふふっ、かしこまりました。ただいまご用意いたしますので、少々お待ち下さい」
嬉しそうなふたりを見て、真利はにこりと笑う。
一旦マグカップをレジカウンターに置いて、キャラメルの準備をしにバックヤードへと入っていった。バックヤードの給湯設備で、板状になっているキャラメルを、小さなブロック状にナイフで切り分ける。それを数個ずつ、三枚の白い小皿に乗せる。三枚の小皿を器用に両手で持ち、店内に戻って双子に渡す。お皿は膝の上に置いて貰う事にした。
「わーい、いっただきまーす!」
「いただきます」
意気揚々と口に放り込む木更と、少しずつ囓(かじ)る理恵。食べ方にも、ふたりの性格の違いが出ている。
「お皿を落とさないように、気をつけて下さいね」
お茶とキャラメルを味わうふたりを見ながら、真利も一欠片キャラメルを囓る。濃厚な甘みと、ほのかな苦みが口に広がった。
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