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2005年
24:異国の文字
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外には冷たい風が吹き、雪が降ってもおかしくないという気候になったある日、真利は寒い日にしては珍しく、少しだるまストーブから離れていた。
倚子をレジカウンターの裏に移動させ、レジの上には新聞を広げている。よく見るとその新聞の文字は、日本国の物では無かった。
「こんにちは。何してるの?」
「えっ? あ、林檎さんこんにちわ」
突然声を掛けられて顔を上げると、レジカウンターの向こう側に、把手の付いた紙製の箱を持った林檎が立っていた。
「何かご用ですか?」
三つの山になった新聞をそれぞれ軽く纏め、レジカウンターの上に小さいながらも空間を作る。そうすると、林檎が紙製の箱を差し出した。
「さっき、悠希さんが来てくれて、ドーナッツをお土産でくれたのよ。だから、良かったら一緒に食べないって思って」
悠希が来たと聞いて、真利は驚く。全くそんな気配を感じなかったからだ。
「そうなんですか。今日は林檎さんの所にだけ用事があったんでしょうかね」
少し残念そうに真利が言うと、林檎がくすくすと笑って答える。
「こっちも覗いたみたいなんだけど、真利さんがすごく集中してるみたいで邪魔しちゃ悪いからって、入るのやめたんですって」
「えっ、あ、申し訳ないことをしてしまいましたね……」
「私と一緒に声を掛けに行く? って訊いても、やっぱり入りづらかったみたいね」
「遠路遙々来て下さったのに、本当に申し訳ないです……」
俯いて縮こまる真利に、それよりもと、林檎が声を掛ける。
「お話しできなくて申し訳ないって思うんだったら、このドーナッツを駄目にしちゃったらもっと申し訳ないでしょ?
ひと休みして一緒に食べない?」
林檎の言う事ももっともだ。これで好意まで不意にしてしまうわけにはいかない。
「それじゃあ、一旦これをどかして、お茶を淹れますか」
そう言って立ち上がり、まずは林檎の分の倚子を用意した。
レジカウンターの上から新聞をどけ、今はチャイナボーンと、萩焼と、白いティーポットが乗っている。
「今日のお茶は何? 甘い香りだし、紅茶とは違うみたい」
カップから上る香りを楽しむ林檎に、真利が返す。
「ルイボスティーにバニラの香りを付けた物です。
偶にはカフェインから離れた方が良いと思いまして」
「確かに。気がつくとかなりカフェイン摂ってそう」
渋みの無い、まろやかな味のお茶を飲みながら、ドーナッツを食べる。ふわふわの生地を、グレーズだとかシナモンだとか、きなこやチョコレートでコーティングした物だ。
「ふふっ、美味しいドーナッツですね。後でお礼をしないといけませんねぇ」
「そうね。悠希さんには、いつももいただいてばかりだから」
ゆったりとドーナッツを味わう合間に、林檎が訊ねた。
「そう言えば、さっきの新聞はなんなの?
梱包に使うとか?」
その問いに、真利は苦笑いを浮かべる。
「そうなんですよ。梱包用にと取り寄せたんですけれど、選別が大変で」
「選別? 傷んでるとか穴がいてるとか、そう言うの?」
きょとんとする林檎に、真利が説明する。
「新聞と言う事は、色々なニュースが載っている訳なんですよ。良い物も、悪い物も。
梱包資材として使ってお客様に渡す以上、事件や事故の記事は避けたいなと思いまして」
「あー、なるほど。確かに、折角買ったかわいい小物が殺人事件の記事で包まれてたら、縁起が悪いものね」
「そうですね、殺人事件はもちろん、もっと質の悪い事件もありますしね」
「あー、うん。そうね……」
思わず気まずそうな顔をする林檎に、それでも。と言って真利が一枚の記事を見せる。
「こう言った記事は、積極的に使いたいですね」
「……ふふっ、そうね」
その記事には、イルミネーションで彩られたクリスマスツリーの写真が載っていた。
倚子をレジカウンターの裏に移動させ、レジの上には新聞を広げている。よく見るとその新聞の文字は、日本国の物では無かった。
「こんにちは。何してるの?」
「えっ? あ、林檎さんこんにちわ」
突然声を掛けられて顔を上げると、レジカウンターの向こう側に、把手の付いた紙製の箱を持った林檎が立っていた。
「何かご用ですか?」
三つの山になった新聞をそれぞれ軽く纏め、レジカウンターの上に小さいながらも空間を作る。そうすると、林檎が紙製の箱を差し出した。
「さっき、悠希さんが来てくれて、ドーナッツをお土産でくれたのよ。だから、良かったら一緒に食べないって思って」
悠希が来たと聞いて、真利は驚く。全くそんな気配を感じなかったからだ。
「そうなんですか。今日は林檎さんの所にだけ用事があったんでしょうかね」
少し残念そうに真利が言うと、林檎がくすくすと笑って答える。
「こっちも覗いたみたいなんだけど、真利さんがすごく集中してるみたいで邪魔しちゃ悪いからって、入るのやめたんですって」
「えっ、あ、申し訳ないことをしてしまいましたね……」
「私と一緒に声を掛けに行く? って訊いても、やっぱり入りづらかったみたいね」
「遠路遙々来て下さったのに、本当に申し訳ないです……」
俯いて縮こまる真利に、それよりもと、林檎が声を掛ける。
「お話しできなくて申し訳ないって思うんだったら、このドーナッツを駄目にしちゃったらもっと申し訳ないでしょ?
ひと休みして一緒に食べない?」
林檎の言う事ももっともだ。これで好意まで不意にしてしまうわけにはいかない。
「それじゃあ、一旦これをどかして、お茶を淹れますか」
そう言って立ち上がり、まずは林檎の分の倚子を用意した。
レジカウンターの上から新聞をどけ、今はチャイナボーンと、萩焼と、白いティーポットが乗っている。
「今日のお茶は何? 甘い香りだし、紅茶とは違うみたい」
カップから上る香りを楽しむ林檎に、真利が返す。
「ルイボスティーにバニラの香りを付けた物です。
偶にはカフェインから離れた方が良いと思いまして」
「確かに。気がつくとかなりカフェイン摂ってそう」
渋みの無い、まろやかな味のお茶を飲みながら、ドーナッツを食べる。ふわふわの生地を、グレーズだとかシナモンだとか、きなこやチョコレートでコーティングした物だ。
「ふふっ、美味しいドーナッツですね。後でお礼をしないといけませんねぇ」
「そうね。悠希さんには、いつももいただいてばかりだから」
ゆったりとドーナッツを味わう合間に、林檎が訊ねた。
「そう言えば、さっきの新聞はなんなの?
梱包に使うとか?」
その問いに、真利は苦笑いを浮かべる。
「そうなんですよ。梱包用にと取り寄せたんですけれど、選別が大変で」
「選別? 傷んでるとか穴がいてるとか、そう言うの?」
きょとんとする林檎に、真利が説明する。
「新聞と言う事は、色々なニュースが載っている訳なんですよ。良い物も、悪い物も。
梱包資材として使ってお客様に渡す以上、事件や事故の記事は避けたいなと思いまして」
「あー、なるほど。確かに、折角買ったかわいい小物が殺人事件の記事で包まれてたら、縁起が悪いものね」
「そうですね、殺人事件はもちろん、もっと質の悪い事件もありますしね」
「あー、うん。そうね……」
思わず気まずそうな顔をする林檎に、それでも。と言って真利が一枚の記事を見せる。
「こう言った記事は、積極的に使いたいですね」
「……ふふっ、そうね」
その記事には、イルミネーションで彩られたクリスマスツリーの写真が載っていた。
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