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第十三章 お母さんライブに行く
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カナメの結婚式から数ヶ月。悠希がたまには実家に顔を出そうと、鎌谷と一緒に実家へと向かっていた。
実家へと向かう途中、駅ビルに入っているケーキ屋でシュークリームを買っていく。シュークリームは匠はもちろん、母親も父親も、姉も好きなお菓子だからだ。もっとも、このところは姉も忙しいようでなかなか家には帰って来ていないけれども。
電車に乗り数分、実家最寄りの駅に着いた。改札にある時計を見ると、おやつ時のちょっと前だ。
「思ったより早く着いちゃったね」
悠希がそう言うと、鎌谷はぽんと悠希の脚を叩く。
「まぁ、これからみんなでおやつを食べるにはいい時間じゃないか?」
「そうだね」
駅のエスカレーターを上り地上に出る。そこからまた数分歩けば、悠希と鎌谷の実家だ。
閑静な住宅街を歩いて、一軒の家の前で足を止める。そこで悠希は鍵を取りだして玄関を開けて中に声を掛けた。
「ただいまー」
「あ、おかえりー」
返事を返してきたのは父親だ。居間にいたようで、キッチンへ続くドアを開けて悠希と鎌谷を出迎えに来た。
「やあ悠希、久しぶりだね」
「うん、お父さんも久しぶり。
今日はみんなで食べるのにシュークリーム買って来たんだけど」
「そうなの?」
父親は恰幅の良い体を捻って、近くにある小さな部屋のドアの方を向く。それから、その部屋の中に向かって声を掛けた。
「お母さん、悠希がシュークリーム買って来てくれたけど、食べてから行く?」
これから母親は出かける予定があったのか。間が悪かったかと悠希は申し訳なさそうな顔をする。
小部屋の中から返事が返ってくる。
「お母さんは帰ってきてから食べるわ。
みんなは先に食べちゃってて」
「そうなの?」
母親と一緒に食べられないというのが少し寂しいのだろう、父親がしゅんとする。そうしていると、母親が小部屋から出て来た。いつもはしない化粧をして、よそ行きのおしゃれな服を着て、持っている鞄からは二本の棒のようなものが覗いている。
玄関に上がった悠希が、驚いたような顔をして母親に訊ねる。
「あれ? お母さんこれからどこに行くの?
お友達とおでかけっていう風には見えないけど」
すると母親は、鞄から覗いている棒を二本取りだして、その棒に付いているスイッチを入れる。棒がそれぞれ緑とピンク色に光った。
「これからアイドルのライブに行くの。久しぶりにチケット取れたんだよね」
「そういえばだいぶ前から追っかけてたよね」
母親が追いかけているアイドルは、悠希がまだ短大に通っていた頃にはまったらしく、テレビに出てくる度に録画していたものだった。当時はまだ匠が小学生で、その面倒を見ないといけないのでなかなかライブに行くのも難しかったのだけれども、匠が中学生になってから、ライブに行くようになった。
はじめは、一度ライブに行けば満足するだろうと思っていたようだけれども、一度会場であの臨場感を味わってしまうと、また体験したいと思ってしまうようだった。
「それじゃあお母さんもう行くから。
お父さんあとよろすこ!」
そう言い残して、母親は玄関を出て行く。それを見送った父親と悠希と鎌谷は、居間へと移動する。
「今日はどんなライブなんだろうね」
父親が大きな体を居間の椅子に収めているのを見ながら悠希が言う。すると、父親はにっこりと笑ってこう答える。
「お母さんがお気に入りのアイドルの子、デビューしてからだいぶ人気が出たみたいだから、結構大きい会場なんじゃないかなぁ」
「大きい会場かぁ」
悠希が感心していると、鎌谷が驚いたような顔をしている。
「それだと、よくチケット取れたよな。なに? 母ちゃんファンクラブ入ってるとか?」
それを聞いた父親は首を傾げてから言う。
「どうなんだろう。特にファンクラブのなにかが届いたとかそういうのはないから、入ってないと思うけどねぇ」
ふたりの話をぼんやりと聞きながら、悠希は先程の母親のことを思い出していた。悠希自身はアイドルに対する興味は薄いけれども、母親が楽しそうにしているのは単純に嬉しく思うのだ。
鎌谷が父親に問いかける。
「父ちゃんは、母ちゃんにほっとかれてもいいのか?」
すると、父親は照れたように笑って返す。
「お父さんはいつもお母さんにかまってもらってるから」
「おう、のろけか」
なんだかんだで、両親の仲は良いのだなと、悠希は安心する。そもそも、ケンカをしているところをほとんど見たことがない両親ではあるけれども。
三人で話をしていると、玄関が開く音が聞こえた。
「ただいまー」
「おかえりー」
玄関から聞こえたのは匠の声だ。父親が返事を返すと、匠はぱたぱたとすぐさまに居間へとやって来た。
「やっぱり、玄関にお兄ちゃんの草履があったからいると思った!」
いたく上機嫌な様子で悠希の隣の椅子に匠が座る。それを見て、悠希はテーブルの上に乗せていた紙箱を匠に見せる。
「おかえり。そういえば、みんな食べるかなと思ってシュークリーム買って来たんだけど、食べる?」
その問いに、匠はきょろきょろと周りを見てから返す。
「食べたいけど、お母さんはもう出かけちゃった?」
「母ちゃんだったらなかなかのテンションで飛び出してったぞ」
「そっかぁ」
鎌谷の言葉を聞いて、匠は少し考える素振りを見せる。それから、シュークリームの箱を見てこう言った。
「お母さんが帰ってきてから食べる」
「そう? それじゃあ冷蔵庫にしまってくるね」
シュークリームの箱を手に取って立ち上がった悠希は、そのまま隣に有るキッチンへと行き、冷蔵庫にシュークリームの箱を収めた。
また居間に戻ると、匠がテーブルに頬杖を突いてこんな事を言っていた。
「でも、お母さんがアイドル好きなんて意外だなぁ」
「そうなの?」
悠希よりも長い時間を母親と過ごしている匠が、母親がアイドルが好きだというのを意外がるとは思っていなかった。
「だって、お母さんが追っかけてるアイドルって、お兄ちゃんより年下でしょ? 子供みたいなもんじゃん」
匠のその言葉に、父親はにこにこと笑って返す。
「それだとなおさら。親戚の子を見てる気分なんじゃないかな」
「そういうもんなのかなぁ」
匠はいまいちピンと来ていないようだけれども、受け取り方は人それぞれだ。悠希は鎌谷を撫でながら、今度母親からCDを借りて見ようかと思った。
ふと、鎌谷が匠に声を掛ける。
「そういえば、匠ちゃんはアイドルとか興味無いのか」
匠は即答する。
「アイドルよりお兄ちゃんの方がいいもん」
「おう、ブラコン」
そんなやりとりを見ながら笑っていた父親が、時計を見て倚子から立ち上がる。
「それじゃあお父さん、夕飯のお買い物いってくるね」
それを見て、悠希も立ち上がる。
「あ、僕も買い物手伝うよ」
「そうかい? じゃあ一緒に行こう」
匠は鎌谷と一緒に留守番をして貰う事にして、悠希は父親と一緒に玄関を出た。
スーパーについて、父親はかごに母親の好物ばかりを入れていく。それを見て悠希は不思議に思ったようだ。それを察した父親が、にこりとして悠希に言う。
「お母さん、夕飯食べないで帰ってくるだろうから、お母さんの好きな物作ろうと思って。
楽しい一日は、美味しく締めくくりたいだろうし」
「うん、そうだね」
父親の言葉を聞いて、なんだかんだで父親は母親のことが大好きなんだなと、悠希は少し照れくさそうに笑った。
実家へと向かう途中、駅ビルに入っているケーキ屋でシュークリームを買っていく。シュークリームは匠はもちろん、母親も父親も、姉も好きなお菓子だからだ。もっとも、このところは姉も忙しいようでなかなか家には帰って来ていないけれども。
電車に乗り数分、実家最寄りの駅に着いた。改札にある時計を見ると、おやつ時のちょっと前だ。
「思ったより早く着いちゃったね」
悠希がそう言うと、鎌谷はぽんと悠希の脚を叩く。
「まぁ、これからみんなでおやつを食べるにはいい時間じゃないか?」
「そうだね」
駅のエスカレーターを上り地上に出る。そこからまた数分歩けば、悠希と鎌谷の実家だ。
閑静な住宅街を歩いて、一軒の家の前で足を止める。そこで悠希は鍵を取りだして玄関を開けて中に声を掛けた。
「ただいまー」
「あ、おかえりー」
返事を返してきたのは父親だ。居間にいたようで、キッチンへ続くドアを開けて悠希と鎌谷を出迎えに来た。
「やあ悠希、久しぶりだね」
「うん、お父さんも久しぶり。
今日はみんなで食べるのにシュークリーム買って来たんだけど」
「そうなの?」
父親は恰幅の良い体を捻って、近くにある小さな部屋のドアの方を向く。それから、その部屋の中に向かって声を掛けた。
「お母さん、悠希がシュークリーム買って来てくれたけど、食べてから行く?」
これから母親は出かける予定があったのか。間が悪かったかと悠希は申し訳なさそうな顔をする。
小部屋の中から返事が返ってくる。
「お母さんは帰ってきてから食べるわ。
みんなは先に食べちゃってて」
「そうなの?」
母親と一緒に食べられないというのが少し寂しいのだろう、父親がしゅんとする。そうしていると、母親が小部屋から出て来た。いつもはしない化粧をして、よそ行きのおしゃれな服を着て、持っている鞄からは二本の棒のようなものが覗いている。
玄関に上がった悠希が、驚いたような顔をして母親に訊ねる。
「あれ? お母さんこれからどこに行くの?
お友達とおでかけっていう風には見えないけど」
すると母親は、鞄から覗いている棒を二本取りだして、その棒に付いているスイッチを入れる。棒がそれぞれ緑とピンク色に光った。
「これからアイドルのライブに行くの。久しぶりにチケット取れたんだよね」
「そういえばだいぶ前から追っかけてたよね」
母親が追いかけているアイドルは、悠希がまだ短大に通っていた頃にはまったらしく、テレビに出てくる度に録画していたものだった。当時はまだ匠が小学生で、その面倒を見ないといけないのでなかなかライブに行くのも難しかったのだけれども、匠が中学生になってから、ライブに行くようになった。
はじめは、一度ライブに行けば満足するだろうと思っていたようだけれども、一度会場であの臨場感を味わってしまうと、また体験したいと思ってしまうようだった。
「それじゃあお母さんもう行くから。
お父さんあとよろすこ!」
そう言い残して、母親は玄関を出て行く。それを見送った父親と悠希と鎌谷は、居間へと移動する。
「今日はどんなライブなんだろうね」
父親が大きな体を居間の椅子に収めているのを見ながら悠希が言う。すると、父親はにっこりと笑ってこう答える。
「お母さんがお気に入りのアイドルの子、デビューしてからだいぶ人気が出たみたいだから、結構大きい会場なんじゃないかなぁ」
「大きい会場かぁ」
悠希が感心していると、鎌谷が驚いたような顔をしている。
「それだと、よくチケット取れたよな。なに? 母ちゃんファンクラブ入ってるとか?」
それを聞いた父親は首を傾げてから言う。
「どうなんだろう。特にファンクラブのなにかが届いたとかそういうのはないから、入ってないと思うけどねぇ」
ふたりの話をぼんやりと聞きながら、悠希は先程の母親のことを思い出していた。悠希自身はアイドルに対する興味は薄いけれども、母親が楽しそうにしているのは単純に嬉しく思うのだ。
鎌谷が父親に問いかける。
「父ちゃんは、母ちゃんにほっとかれてもいいのか?」
すると、父親は照れたように笑って返す。
「お父さんはいつもお母さんにかまってもらってるから」
「おう、のろけか」
なんだかんだで、両親の仲は良いのだなと、悠希は安心する。そもそも、ケンカをしているところをほとんど見たことがない両親ではあるけれども。
三人で話をしていると、玄関が開く音が聞こえた。
「ただいまー」
「おかえりー」
玄関から聞こえたのは匠の声だ。父親が返事を返すと、匠はぱたぱたとすぐさまに居間へとやって来た。
「やっぱり、玄関にお兄ちゃんの草履があったからいると思った!」
いたく上機嫌な様子で悠希の隣の椅子に匠が座る。それを見て、悠希はテーブルの上に乗せていた紙箱を匠に見せる。
「おかえり。そういえば、みんな食べるかなと思ってシュークリーム買って来たんだけど、食べる?」
その問いに、匠はきょろきょろと周りを見てから返す。
「食べたいけど、お母さんはもう出かけちゃった?」
「母ちゃんだったらなかなかのテンションで飛び出してったぞ」
「そっかぁ」
鎌谷の言葉を聞いて、匠は少し考える素振りを見せる。それから、シュークリームの箱を見てこう言った。
「お母さんが帰ってきてから食べる」
「そう? それじゃあ冷蔵庫にしまってくるね」
シュークリームの箱を手に取って立ち上がった悠希は、そのまま隣に有るキッチンへと行き、冷蔵庫にシュークリームの箱を収めた。
また居間に戻ると、匠がテーブルに頬杖を突いてこんな事を言っていた。
「でも、お母さんがアイドル好きなんて意外だなぁ」
「そうなの?」
悠希よりも長い時間を母親と過ごしている匠が、母親がアイドルが好きだというのを意外がるとは思っていなかった。
「だって、お母さんが追っかけてるアイドルって、お兄ちゃんより年下でしょ? 子供みたいなもんじゃん」
匠のその言葉に、父親はにこにこと笑って返す。
「それだとなおさら。親戚の子を見てる気分なんじゃないかな」
「そういうもんなのかなぁ」
匠はいまいちピンと来ていないようだけれども、受け取り方は人それぞれだ。悠希は鎌谷を撫でながら、今度母親からCDを借りて見ようかと思った。
ふと、鎌谷が匠に声を掛ける。
「そういえば、匠ちゃんはアイドルとか興味無いのか」
匠は即答する。
「アイドルよりお兄ちゃんの方がいいもん」
「おう、ブラコン」
そんなやりとりを見ながら笑っていた父親が、時計を見て倚子から立ち上がる。
「それじゃあお父さん、夕飯のお買い物いってくるね」
それを見て、悠希も立ち上がる。
「あ、僕も買い物手伝うよ」
「そうかい? じゃあ一緒に行こう」
匠は鎌谷と一緒に留守番をして貰う事にして、悠希は父親と一緒に玄関を出た。
スーパーについて、父親はかごに母親の好物ばかりを入れていく。それを見て悠希は不思議に思ったようだ。それを察した父親が、にこりとして悠希に言う。
「お母さん、夕飯食べないで帰ってくるだろうから、お母さんの好きな物作ろうと思って。
楽しい一日は、美味しく締めくくりたいだろうし」
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