嫌犬2nd

藤和

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第十七章 夏の河原でBBQ

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 すっかり夏の日差しになった頃、悠希は鎌谷と一緒にアパートの前に立っていた。
「こんな平日にバーベキューだなんて、ジョルジュはお仕事大丈夫なのかなぁ?」
「まぁ、あいつは在宅ワークって聞いたし、結構融通効くんじゃね?」
 悠希と鎌谷が話しているように、この日はジョルジュが友人達に悠希を紹介したいと言う事で、涼しい山の河原に一緒に行ってバーベキューをしようと誘われたのだ。
 先程ジョルジュ達の乗っている車が最寄り駅の踏み切り前に居ると言う電話が来たので、暫く待てば来るだろうと、日差しの照りつけるアパートの前で待っている。
 しかし、踏切の前と言っても、あの踏切は開かずの踏切だ。電話をかけてこられたと言う事は、踏切で引っかかっていると言う事なのだろうが、いつ踏切を突破できるのか。普段徒歩で行く時は十分ほど待てば通れるのだが、車が多いと何度も待つことになるだろう。
 無理な運転をしなければ良いのだけれど。そう思いながら、鎌谷の手を握ってぼんやりとする。
 暫く車が来るのを待っていたら、階段を降りてくる足音がした。何かと思って振り返ると、日除けのボレロを着てはいるものの、動きやすそうな服装のカナメがやって来た。
「あ、悠希さんと鎌谷君。こんにちは」
「こんにちは。カナメさんはこれからおでかけ?」
「うん。勤に誘われておでかけするんだ。
勤の友達が車に乗せてくれるらしくて、アパートの前で待っててくれって言われたんだけど」
「そうなんだ」
 今の話に出てきた勤というのは、カナメの高校時代からの友人で、悠希もカナメに紹介されて知り合った。
 悠希と勤の二人だけで会うと言うことはあまり無いのだが、カナメも一緒に居る時に会うことがあるので、どういう人物かはなんとなくわかる。
 暫くの間悠希達二人と一匹で話していたのだが、いつまで経っても車が来ないと、悠希もカナメも言うので、取り敢えず日陰に入って待っていようと鎌谷が提案する。
 日陰に入って待つこと暫く、駅方面から白いワンボックスの車がやって来たので、悠希は達は日陰から出た。その車はアパートの前で止まり、窓を開けて運転手が悠希に声を掛けた。
「やぁ悠希、お待たせ」
「あ、ジョルジュ久しぶり」
 そう挨拶を交わしている間にも、後部座席のドアを開けてひとりの男性が声を掛けてきた。
「カナメもお待たせ。
と言うか、悠希さんと鎌谷君も一緒なんだな。それじゃあみんな、乗って乗って」
「あ、勤さんもお久しぶりです」
「久しぶり。
なんだ、勤のお友達って、悠希さんのお友達だったんだ」
 そんな話をしながら、二人と一匹は車に乗り込む。
 後部座席は二列有って、真ん中の席にはカナメの友人の勤が座っているので、その隣にカナメが座る。悠希と鎌谷は一番後ろの席に乗り込む。
「ところで、勤と悠希は知り合いだったのかい?」
 動き出した車の中でジョルジュが問いかけてくる。その問いに、勤はこう言う。
「いや、俺もお前と悠希さんが友達って知って驚いたんだけどさ。
悠希さんは俺の友人の、こいつ。カナメって言うんだけどさ。こいつから紹介して貰ってて」
「なるほどね。世間は案外狭い物だね」
 二人がそんな話をして居ると、助手席に座っている男性が声を上げた。
「なんだよー、なんかオレだけぼっちっぽいじゃん!
なんでお前らそんな友達いんの?」
 その言葉に、自分もそんなに友達が多いわけでは無いのだけれどと一瞬思った悠希だが、よくよく思い返すと高校以降はそこそこ関係の続いている友人がそれなりに居るような気がするので、困ったような笑みを浮かべるしか出来ない。
 すると、ジョルジュが楽しそうに笑って彼にこう返した。
「ははは、そんな事を言わないでおくれ。
君に紹介するために、今日は僕と勤が友人を誘ったんじゃないか」
 宥めるようなその言葉に続けて、悠希もなんとか口を開く。
「あの、いつもジョルジュと仲良くしてくれててありがとうございます。
それで、良かったらお名前を伺いたいのですが」
 一番後ろの席から声が届くかどうかはやや不安だったが、無事に聞き取れたらしく、明るい声が帰ってきた。
「オレ? イツキって言うんだ。よろしくな!」
 名前を訊ねられてテンションが上がった様子のイツキが、天井を両手でバンバンと叩く。その様子を察したジョルジュが、些か焦った声で、これはお父様の車なんだからやめてくれ。と言っている。それを見ながら、仲が良いなと悠希は思っていたのだが、よくよく考えると、イツキはともかく、ジョルジュと勤の接点がわからない気がした。ジョルジュが通っていた短大は悠希と同じで、高校は東京だ。勤が通っていた大学は仏教学部だと聞いた気がするし、高校もカナメと同じ茨城だと言っていた。勤は実家がお寺でその手伝いをしていると言う事も有るようなので、法事か何かで会ったのか。とも考えたが、そもそもジョルジュはクリスチャンだ。法事で会うはずがない。仕事の関係にしても、ジョルジュはパターンナーなので、お寺関係の仕事をしている勤との接点が見えない。
 ぐるぐると考えて、一体何がきっかけなのだろうと気になったけれども、もしかしたら自分は今日初めて会うイツキが、ジョルジュと勤を引き合わせたのかも知れないと、悠希はなんとなく納得したのだった。

 車で走ること暫く、予定していたらしい場所に着いた悠希達は、機材を車から運び出してバーベキューを楽しんでいた。
 機材の設置の際、一見細身に見える悠希とカナメが重い物を軽々と持ち上げているのを見てジョルジュと勤が驚いていたが、滞りなく準備を済ませられた。
 折角涼しいところで気持ちよく飲み食いするならと、飲み物はアルコールも用意されている。
「酒があるのは良いけどさ、帰り誰が運転すんの? カナメと悠希さんは免許持ってないみたいだから、俺らのうち誰かってなるけど」
 トングで肉をひっくり返しながら勤が訊ねると、ジョルジュは当然と言った顔で返す。
「ああ、僕が運転していくよ。そもそも企画を立てたのが僕だからね、その辺りの責任はきちんと持つよ」
「そっか、ありがとな」
 帰りの運転を担ってくれることに勤がお礼を言うと、ジョルジュは苦い顔をする。
「まぁ、今日乗ってきたのがお父様の車だから、他の人に任せて何かあったら困るからね」
 それから、鎌谷の頭を撫でて言葉を続ける。
「そう言えば悠希、なんで今まで鎌谷君が宇宙犬だって言うのを話してくれなかったんだい?」
 そう言えばジョルジュには鎌谷が宇宙犬だと言う事を話していなかった。悠希は少し気まずそうに答える。
「うん、なんか、言うタイミング逃しちゃって……」
「そうなのかい?
まぁ、宇宙犬は珍しいから、なかなか話しづらいだろうしね」
 話していなかった要因として、ジョルジュがあまりにも普通に鎌谷を一般犬として扱うので言い出しづらかっただけなのだが、自己完結しているならいいかと、特にそれ以上のことは言わない。
 そうこうしている間にも肉や野菜が焼けてきて、イツキやカナメがどんどん食べて行っている。
「ジョルジュと悠希さんも、食べないと食い尽くされるぞ。いや、割と本気で」
 次から次へと食材を焼いていく勤がそう言うので、悠希とジョルジュも野菜や肉を取り分け始める。
「勤さん、とうもろこし貰っていいですか?」
「おう。とうもろこしだけでいい? ピーマン食べない?」
「勤、ピーマン嫌いだからって他の人に押しつけちゃダメだよ」
「うっ、カナメ、俺がピーマン嫌いなの覚えてたんだ」
 悠希と勤とカナメでそんなやりとりをして、ふと、イツキに目をやったカナメが言う。
「イツキさんも、お肉ばっかりじゃダメですよ? ちゃんと野菜も食べてください」
「じゃあとうもろこし食べるー」
 その様子に、悠希も一言。
「イツキさん、とうもろこしは炭水化物ですから、ピーマンやニンジンやタマネギも食べてくださいね。キャベツでも良いですよ」
「ウワー。なんかおかんが二人いる感じだー」
 そんな様子を見て、鎌谷はビールを飲んでイツキの脚に鼻を押し当てる。
「そうは言っても、満更でもない感じに見えっけどな」
 酔っているのか妙にすり寄る鎌谷の頭を撫でて、イツキは嬉しそうだ。カナメと悠希に言われ、素直に野菜を器に取って、イツキは言う。
「でも、おかんぽいってそんな悪い感じじゃないよな。
あー、悠希かカナメがオレの恋人になってくれたらなー」
「お前は何を言ってるんだ」
「カナメには彼女居るからな」
 これもいつものことなのか、戸惑う様子もなくジョルジュと勤が即座に返しているのを見て、悠希はなんとなく微笑ましい気持ちになった。
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