嫌犬2nd

藤和

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第四章 フライヤー制作現場

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 学校は丁度春休み時。その一日に、妹の匠が悠希の部屋を訪れていた。
 何の為に来たのかと言うと、イベントの時に配る、アクセサリーのフライヤーを作りたいと言う。
「それで、もしお兄ちゃんの知り合いでフライヤーに載っても良いって言うモデルさんに心当たりがあったら教えて欲しいなって」
「え? 匠が写るのは駄目なの?」
「えー……と、今は余り自分の顔を配りたくないかなって。
もう少し大人になってからなら考えるけど」
「そうなんだ」
 そのやりとりを聞いた鎌谷は、匠の顔写真を迂闊にばらまいて魔法少女だとバレたら面倒な事になるんだろうなと思いつつ、気付いていない様子の悠希にはその事を言わない。
 匠は悠希だけで無く大体の人には秘密にしているのだが、学校とバイトの合間を縫って、世間様を守る魔法少女をやっているのだ。
 そんな事情を知らない悠希は、匠の友人には聞いてみたのかと訊ねているが、匠曰く、友人一同には断られたとの事。
 少しだけ困ったような顔をして悠希は知り合いの顔を思い浮かべていく。
 イベントの性質上、ロリータファッションに理解のある人が良いだろう。その条件に当てはまるのは……
 暫く考えて思い当たった。
「あ、このアパートに住んでる人で心当たり有るよ。ちょっとメールで訊いてみようか?」
「え? そんな近場に居るの?」
「うん。ちょっと待ってね」
 悠希は早速携帯電話を取りだし、メールを打つ。
 簡潔に用件をまとめ、メールを送信して数分後、返信が来た。
 メールを確認していると、少し心配そうな顔をした匠が悠希を見る。
「お兄ちゃん、どう?」
「取り敢えず詳しく話を聞いてから考えるって言ってる。
何だったらこの人の部屋にお邪魔して詳しく話をさせて貰えそうなんだけど、これから行く?」
「そうだね。お兄ちゃんだけに任せるのはちょっと心配だし」
 そのやりとりを聞いていた鎌谷が、早速風呂敷を首に巻いて訊ねる。
「どっちに確認取ったんだ?」
「一応両方にメール送ったんだけど、今二人ともカナメさんの部屋に居るみたい」
 いまいち人間関係を把握し切れていない匠が目を白黒させているが、悠希が怖い人では無いからと言って宥め、揃って悠希の友人であるカナメの部屋へと向かう事になった。

 そして向かった先の部屋では、赤毛で小柄な女性と、金髪で一見女性に見える男性の二人に迎えられ、お茶を振る舞われつつ自己紹介と、今回の用件の話をする。
「イベントで配るフライヤーの写真ですか。どうしよう、僕は構わないんだけど美夏はまずいよね?」
 匠から話を聞いた金髪の男性、カナメは少し困ったような顔をして、隣に座っている赤毛の女性、美夏にそう言う。
「そうね、顔が出るとなると、私はまずいわね」
「え? 何で美夏さんはまずいって話になるんですか?」
 カナメと美夏の言葉に一瞬不思議そうな顔をした匠だったが、美夏の顔を見てふと思い当たる節があった。
 何となく、この顔はニュースで見た事がある。
 一体何でなのかを思い出そうと考えた末に、叫び声を上げてしまった。
「こ、小久保美夏陸軍大将じゃないですか! 何でこんな所に? え? なんでお兄ちゃんの知り合いなの?」
「う~ん、どう説明すれば良いのかなぁ……」
「匠ちゃん、めんどくせぇからそう言うもんだと思って受け止めてくれ」
 取り敢えず、悠希が一生懸命匠を宥め、落ち着いた所で話を進める。
 匠の要望では、アクセサリーのモデルは男女一人ずつ欲しいと言う事で、男性モデルは悠希に頼もうかと思っていたのだが、このままでは女性モデルが確保出来ないしどうしようと言う事になる。
 それに対し、美夏がさらりと答える。
「女の子のモデルだったらカナメで良いんじゃ無いですか?」
「すいません美夏さん、カナメさんは男性ですよね?」
 戸惑う匠に、美夏はカナメに断りを入れ、本棚に入っていたフォトアルバムを取り出して見せた。
「これは……」
 そこに入っているのは、ロリータファッションに身を包んだカナメの写真。
 写真を見た悠希がなにやら顔を赤くしているのにも気がつかず、匠は写真とカナメを見比べる。
「やっぱり僕じゃ務まらないかなって思うんですけど……」
 申し訳なさそうな顔をするカナメに、匠は頭を振って言う。
「いえ、十分です。カナメさんさえ良ければフライヤーのモデルをお願いしたく……」
「はい、僕で良いなら協力しますよ」
 そうしてフライヤーの話を詰め。結局モデルは悠希とカナメの二人でやる事になったのだった。

 フライヤーの撮影当日。服をカートに積めた悠希とカナメと、匠。それにカナメの知り合いというカメラマンがレンタルスタジオに集まっていた。
 緊張した面持ちの匠の肩を悠希が叩き、落ち着かせようとする。
「匠、落ち着いて。いきなりカメラマンさんが来てびっくりしてるのは僕も同じだけど、今日は匠が監督なんだから」
「で、でも、お兄ちゃんもプルプルしてるじゃない。
あ、あの、円さん、今日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
 にこにこと返事を返してくれるカメラマンこと円に頭を下げ、悠希とカナメは早速更衣室に入る。
 着替えをしている間に、匠と円でどの様な写真を撮るかのすり合わせだ。
「なるほど、商品を前面に出すと言うよりは、雰囲気重視なんですね」
「そうですね、雰囲気を重視した写真と、あとは商品写真を何枚か撮ってそれでアピールをって考えたんですけど……」
 そうこうしている内に、悠希が更衣室から出てきてアクセサリーの確認をする。
「あれ? お兄ちゃん、カナメさんはまだ?」
「今メイク終わってこれから着替えるみたいだから、ちょっと待っててね」
 写真の打ち合わせに悠希も加わり数分後、カナメも更衣室から出てきた。
「お待たせしました。円さん、打ち合わせはどう?」
「大体詰まってるかな。後は写真撮りながら調節って感じですね」
 カナメも打ち合わせに加わり、大体のイメージを伝えられる。
 それから、フライヤーの撮影が始まったのだった。

 撮影開始から約二時間半、偶に写真のチェックなどをしながら進め、無事に撮影終了となった。
 匠がスタジオのスタッフに撮影終了の連絡を入れ、到着までの間に今回の謝礼を円に渡す。
「円さん、今回はお仕事が忙しい中本当にありがとうございました」
「いえいえ、俺もたまたま今日仕事が空いてたんで」
 匠に続き、悠希とカナメもお礼を言い、退室手続きをした後スタジオを出て行ったのだった。

 そうして撮った写真を匠が加工し、出来上がったフライヤー。
 イベントで配る前に、サンプルとして悠希に一枚渡して有るのだが、そのフライヤーを見て悠希は何度も照れ笑いをする。
「おい、なにそんなニヤニヤしてんだよ」
「いやぁ、やっぱりカナメさんかわいいなって」
「よし、お前は改めて現実を見ろ」
 鎌谷がそう言って現実を突きつけては来る物の、フライヤーには悠希とカナメが寄り添った写真も有り、悠希はその写真が表に来るようにクリアポケットにしまったのだった。
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