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第二章 国家レベルの犬の散歩
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ある日の事、悠希がビーズ編みをしていると、突然電話が鳴り始めた。
誰からの着信かと思ったら、姉の聖史からだ。
聖史は夏頃に選挙に出馬し、気がついたら総理大臣になっていた。そんなわけで、色々と忙しいはずなのに突然何事だろうと電話に出ると、こんな事を言われた。
「久しぶりね。実は今度オフ会がるんだけど、知り合いが鎌谷君に会ってみたいって言うのよ。
だから、ちょっと遠くにはなるけど散歩がてらに鎌谷君と一緒に悠希も来ない?」
オフ会と聞いて、一瞬七海が引っかかってしまったメンヘラオフ会が頭を過ぎったが、 聖史は別にメンヘラという訳でも無い。
総理大臣をやっているからオフ会になど出てる暇は無いと思っていたが、偶にはこの様な休暇が取れているのだなと悠希は少し安心する。
「うん良いよ。いつ何処で待ち合わせ?」
「明後日の話でとても急なんだけど、車で迎えに行くわ」
「そう? わかった。ありがとう」
その後何故か数日分の着替えと薬の用意をする様に言われたのだが、その時悠希は、きっと沖縄や北海道とか、そう言う遠い所なんだろうなとしか思って居なかった。
そして当日。悠希は聖史と鎌谷共々黒塗りの車に乗って空港へと向かっていた。
「しかし姉ちゃんよぉ、良くオフ会なんか出る暇有るな」
「そうね。普段は結構忙しいからこうやって遠い所に足を伸ばせるのは良い機会だわ」
鎌谷と聖史の会話を聞いて、悠希は聖史が余程オフ会を楽しみにしているのだろうなと思わず笑顔になる。
「鎌谷君、お姉ちゃんのお友達と仲良くなれると良いね」
「どんな相手かによるな」
そんな話をしながら、二人と一匹は空港まで行ったのだった。
空港に着くと、黒服のガードマンに囲まれたまま専用のチャーター機に案内される。
促されるままに席に着き、安全ベルトを着けた悠希が動き始めたチャーター機の中で恐る恐る聖史に訊ねる。
「ね、ねぇお姉ちゃん。今回のオフ会って、どんな集まり?」
「え? G20」
「そっかぁ。G20か……」
あまりにも当たり前の様に答えられたので素直に納得しかけたが、改めて内容を反芻して悠希が叫ぶ。
「G20? ちょっとそれオフ会とは言わないよ!」
「いろんな所から来た人が直接顔を合わせるんだから、似た様なもんよ」
「確かに!」
「案外あっさり納得したな」
納得はした物の青い顔をしている悠希を見て鎌谷は呆れ顔をしている。
どうやら聖史から電話が来た時点である程度こう言う物なのだろうと察していた様だ。
「それで、G20の打ち合わせの時に鎌谷君の事を話したら皆さん興味を持ったみたいで、是非会いたいって言うのよ。
それなら、鎌谷君の世話役として悠希も居た方が良いかしらと思って」
ようやく悠希に真相を話した聖史に、鎌谷が鼻を鳴らしてからこう言った。
「そうは言うけどよ、俺をダシにして悠希と旅行したかっただけじゃねーの?」
「鎌谷君、尻尾もがれたい?」
「ごめん、悪かった」
そんなこんなで悠希が顔を青くしている事十数時間、チャーター機は空港に到着したのだった。
チャーター機から降りてまず案内されたのは、宿泊用のホテル。
取り敢えず会議が終わって晩餐会が始まるまではここで悠希と鎌谷に待機していて欲しいという。
「うわー……こんな豪華なホテル初めて……」
思わず緊張した面持ちになる悠希の横で、鎌谷が聖史に訊ねる。
「で、姉ちゃん。
なんでこの部屋ベッドが二つあんだよ」
「私もこの部屋に泊まるからよ」
「よしわかった。俺悠希と一緒に寝るわ」
鎌谷の言葉に一瞬顔を顰めて舌打ちをする聖史だが、不思議そうな顔をして自分の方を見る悠希を見てすぐに平常通りの顔になる。
「お姉ちゃんと一緒かぁ。
お姉ちゃんと一緒に過ごすのは凄く久しぶりだから、なんか嬉しいな」
聖史と同じ部屋だと言う事に安心したのか、悠希が照れ笑いをしながらそんな事を言う。
それを聞き逃さなかった聖史がすかさずこう訊ねた。
「なんなら私と一緒に寝る?」
「え? それは岸本さんに悪いから出来ないよ」
突然出てきた聖史の友人、岸本の名前に、聖史は黙ってポケットからスマートフォンを取り出し、なにやらタップしている。
その様を見ながら悠希は、タッチパネルを使いこなすなんて凄いなぁ。と感心したのだった。
そして取り敢えず会議が終わり晩餐会で。
いつも通りの着物に袴だけれどドレスコードは大丈夫だろうかと心配しつつも、悠希は鎌谷を連れ、聖史と共に晩餐会会場へと足を踏み入れた。
聖史がやってきたのを見た各国の首脳は、驚きと喜びを顔に浮かべて口々に叫ぶ。
「サムライ!」
「ジャパニーズサムライ!」
この反応は予想外だったのか、聖史ですら戸惑っている。
そうこうしている間にも悠希はあっという間に首脳達に囲まれ、ひたすらに握手を求められたのだった。
それから数日、悠希達が帰国のチャーター機に乗っている間、それを知らずに会社の休憩時間にネットニュースを見ていた大柄な男性、悠希の友人のアレクが、いきなりコーヒーを噴いた。
「どういうことなの……」
視線の先には『G20に現れたサムライ』と言う見出しで、 各国首脳に囲まれた悠希の写真が添えられた記事が有った。
誰からの着信かと思ったら、姉の聖史からだ。
聖史は夏頃に選挙に出馬し、気がついたら総理大臣になっていた。そんなわけで、色々と忙しいはずなのに突然何事だろうと電話に出ると、こんな事を言われた。
「久しぶりね。実は今度オフ会がるんだけど、知り合いが鎌谷君に会ってみたいって言うのよ。
だから、ちょっと遠くにはなるけど散歩がてらに鎌谷君と一緒に悠希も来ない?」
オフ会と聞いて、一瞬七海が引っかかってしまったメンヘラオフ会が頭を過ぎったが、 聖史は別にメンヘラという訳でも無い。
総理大臣をやっているからオフ会になど出てる暇は無いと思っていたが、偶にはこの様な休暇が取れているのだなと悠希は少し安心する。
「うん良いよ。いつ何処で待ち合わせ?」
「明後日の話でとても急なんだけど、車で迎えに行くわ」
「そう? わかった。ありがとう」
その後何故か数日分の着替えと薬の用意をする様に言われたのだが、その時悠希は、きっと沖縄や北海道とか、そう言う遠い所なんだろうなとしか思って居なかった。
そして当日。悠希は聖史と鎌谷共々黒塗りの車に乗って空港へと向かっていた。
「しかし姉ちゃんよぉ、良くオフ会なんか出る暇有るな」
「そうね。普段は結構忙しいからこうやって遠い所に足を伸ばせるのは良い機会だわ」
鎌谷と聖史の会話を聞いて、悠希は聖史が余程オフ会を楽しみにしているのだろうなと思わず笑顔になる。
「鎌谷君、お姉ちゃんのお友達と仲良くなれると良いね」
「どんな相手かによるな」
そんな話をしながら、二人と一匹は空港まで行ったのだった。
空港に着くと、黒服のガードマンに囲まれたまま専用のチャーター機に案内される。
促されるままに席に着き、安全ベルトを着けた悠希が動き始めたチャーター機の中で恐る恐る聖史に訊ねる。
「ね、ねぇお姉ちゃん。今回のオフ会って、どんな集まり?」
「え? G20」
「そっかぁ。G20か……」
あまりにも当たり前の様に答えられたので素直に納得しかけたが、改めて内容を反芻して悠希が叫ぶ。
「G20? ちょっとそれオフ会とは言わないよ!」
「いろんな所から来た人が直接顔を合わせるんだから、似た様なもんよ」
「確かに!」
「案外あっさり納得したな」
納得はした物の青い顔をしている悠希を見て鎌谷は呆れ顔をしている。
どうやら聖史から電話が来た時点である程度こう言う物なのだろうと察していた様だ。
「それで、G20の打ち合わせの時に鎌谷君の事を話したら皆さん興味を持ったみたいで、是非会いたいって言うのよ。
それなら、鎌谷君の世話役として悠希も居た方が良いかしらと思って」
ようやく悠希に真相を話した聖史に、鎌谷が鼻を鳴らしてからこう言った。
「そうは言うけどよ、俺をダシにして悠希と旅行したかっただけじゃねーの?」
「鎌谷君、尻尾もがれたい?」
「ごめん、悪かった」
そんなこんなで悠希が顔を青くしている事十数時間、チャーター機は空港に到着したのだった。
チャーター機から降りてまず案内されたのは、宿泊用のホテル。
取り敢えず会議が終わって晩餐会が始まるまではここで悠希と鎌谷に待機していて欲しいという。
「うわー……こんな豪華なホテル初めて……」
思わず緊張した面持ちになる悠希の横で、鎌谷が聖史に訊ねる。
「で、姉ちゃん。
なんでこの部屋ベッドが二つあんだよ」
「私もこの部屋に泊まるからよ」
「よしわかった。俺悠希と一緒に寝るわ」
鎌谷の言葉に一瞬顔を顰めて舌打ちをする聖史だが、不思議そうな顔をして自分の方を見る悠希を見てすぐに平常通りの顔になる。
「お姉ちゃんと一緒かぁ。
お姉ちゃんと一緒に過ごすのは凄く久しぶりだから、なんか嬉しいな」
聖史と同じ部屋だと言う事に安心したのか、悠希が照れ笑いをしながらそんな事を言う。
それを聞き逃さなかった聖史がすかさずこう訊ねた。
「なんなら私と一緒に寝る?」
「え? それは岸本さんに悪いから出来ないよ」
突然出てきた聖史の友人、岸本の名前に、聖史は黙ってポケットからスマートフォンを取り出し、なにやらタップしている。
その様を見ながら悠希は、タッチパネルを使いこなすなんて凄いなぁ。と感心したのだった。
そして取り敢えず会議が終わり晩餐会で。
いつも通りの着物に袴だけれどドレスコードは大丈夫だろうかと心配しつつも、悠希は鎌谷を連れ、聖史と共に晩餐会会場へと足を踏み入れた。
聖史がやってきたのを見た各国の首脳は、驚きと喜びを顔に浮かべて口々に叫ぶ。
「サムライ!」
「ジャパニーズサムライ!」
この反応は予想外だったのか、聖史ですら戸惑っている。
そうこうしている間にも悠希はあっという間に首脳達に囲まれ、ひたすらに握手を求められたのだった。
それから数日、悠希達が帰国のチャーター機に乗っている間、それを知らずに会社の休憩時間にネットニュースを見ていた大柄な男性、悠希の友人のアレクが、いきなりコーヒーを噴いた。
「どういうことなの……」
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