世界大戦は終わらない

Ittoh

文字の大きさ
上 下
6 / 59
世界大戦は終わらない

序章06 「贖罪」もあってはいけません?

しおりを挟む
 「贖罪」は、罪を贖うと書く。

 罪を贖えると考えること、神に許されるとすること、それこそが戦争と言う地獄を止められない地獄に変えるのである。戦場で死ぬ命を、数字で見ることで、賠償金で贖えると考えるのである。賠償金が支払えたとしても、数字ではない命を贖うことはできないし、殺し合いと言う戦争の中では、自分だけが被害者にはならない。

 日本は、日露戦争で勝利しながら、賠償金が取れないことを知っていた。大日本帝国にとっての日露戦争は、賠償金も領土も確保できない、現状維持するために必要な、最低限の生存戦略から生まれた戦争であった。

 「殺人は正義ではなく、贖罪は有り得ない」それでも戦争を選択する。

 戦争の終結を前提として、講和条件を把握し、限定された範囲で戦争を遂行する。幕末の動乱から、国際法に準拠して、大日本帝国の礎を築いた上で、最低限の戦争条件であった。

 世界大戦は、国際法を砂上の楼閣として、人の感情が戦争という地獄に蝕まれた結果、理性で考えれば、有り得ない戦争を引き起こしたのである。誰もが止められると考えながら、誰にも止められない感情の暴走は、世界大戦そのものを暴走させていったのである。

 ウッドロー・ウィルソンは、崩れ去ろうとしていた砂上の楼閣ではなく、1918年1月8日「Freedom of navigation平和の原則」を新たに定義しようとした。自らを省みず、単に理想となる原則だけを掲げ、現実を見ないという結果ではあったが、

 ウラジミール・レーニンが掲げたのは、1917年11月8日「平和に関する布告」であり、「無賠償」・「無併合」・「民族自決」を前提とした、世界大戦終結への提言であった。理想を追い求め、社会主義を追いかけ、革命を起こした人間が夢をみた幻想である。

 「Freedom of navigation平和の原則」も「平和に関する布告」も、戦争終結に向けた提言であり、暴走する世界大戦を終結させる言葉でもあった。

 どちらも理論であって、自国の現実を顧みず、ただ理想を掲げることであった。

 そして、理想を実現させるため、幾億の血が流れようとも、臆することなく実現に向かう。ウッドロー・ウィルソンにしてもウラジミール・レーニンにしても、流される血の量を一切考慮せず、原則に矛盾が生じて対応も出来ず、世界を蝕む疫病のように拡がっていったのである。

 それでも、彼らの言葉があって初めて、世界大戦が終結へと向かったのである。

 すべての人が、けっして望まぬ形であったとしても・・・
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

帝国夜襲艦隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
1921年。すべての始まりはこの会議だった。伏見宮博恭王軍事参議官が将来の日本海軍は夜襲を基本戦術とすべきであるという結論を出したのだ。ここを起点に日本海軍は徐々に変革していく…。 今回もいつものようにこんなことがあれば良いなぁと思いながら書いています。皆さまに楽しくお読みいただければ幸いです!

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

処理中です...