上 下
47 / 69
閑話休題 太平洋戦争は勝てません?

閑話休題 太平洋戦争は、勝てません06 シナ派遣軍は、英雄となるけどね。

しおりを挟む

<<<<<>>>>>
 シナ派遣軍の活躍は、日本でも報道され、困ったことに熱狂した。
<<<<<>>>>>



「風間君。相変わらず、日ノ本の民は、戦争の勝利には、興味があるのだな」

「首相。戦争なんですが」

「戦争が好きというのではない。お祭りが好きなのだろうな」

 遥か彼方での戦争は、文字と写真の上で起きるイベントに過ぎない。平穏な後方で、クェートやバクダットの戦場をテレビの中で観るように、祭りのようなものだろう。

「戦争が、お祭りですか、首相」

「ははは、日ノ本では、誰かが死ぬことも無い。千里の彼方だよ、風間君」

「しかし、首相。それでは」

「風間君。二百三高地のように、人が死に過ぎれば、政府は責任を問われる。勝っても、許されないということになる」

「首相」

「日清戦争以降は、勝つ戦しか日本はしていないよ、風間君」

「首相。勝つ戦って、それは、必死で積み上げたからではないですか」

「そうだな、風間君。しかしながら、政治と言うモノは、結果でしか判断されない」

「首相。戦争に勝つだけでは、戦争には勝てません」

 ソビエトは、負けただけで、諦めていない。

「あぁ、だからと言って、主計局にとっては、関係ないことだ」

 大蔵省主計局は、大いなる拒否権保持組織であるが、拒否権を行使することで、実益があるわけではなく、中立の立場で判断できる組織ともいえます。大蔵省主計局の権益は、予算策定の決定権を、実務として握っていることにあります。主計局が拒否するのは、自分の権利を他の省庁に確認させ、自身を一段高く認めさせることにあります。

「何故なのでしょうか、首相」

「予算を削るのが、彼らの仕事だからな。だからと言って、陸軍は、結果を出した。師団の増設は認めなければならんよ、風間君」

 主計局を認めさせるために、譲歩をする。何か、間違ってもいるが、これが、これからの政治ということになる。

「半島を使おう」

「半島ですか、首相」

「風間君。半島は、削減されているが、6個師団が配備されている」

「さらに半島から、戦力を引き抜くのですか、首相」

「あぁ、そういうことだ。フランスが1個師団を「特区」の安東に配備した。日本は、京城へ1個師団、釜山に1個師団で良かろう」

 朝鮮鉄道都市警備局は、主要30駅に、工務隊を15万配備していた。つまり、予備戦力としては、7個師団半ということになる。フランスに安東から京城までの5フィート広軌レール敷設工事を委託したことで、工務隊5万を抽出して蒙古へ派遣する方向で調整を始めていた。半島には、工務隊10万ということになるが、いたしかたないということか。

「半島から、2個師団削減、2個師団移動であれば、主計局も説得できるだろう」

 2個師団を半島から削減することで、主計局の顔を立て、蒙古へ2個師団増設を容認させる。

「首相。日本国にとって国益とは、なんなのでしょうか」

「餓えない国造り、欧米と対等になるための国造り、それが国益だろうな」

 ちょっと言いよどむようにして、

「風間君。既に明治維新の目的は、達成されている」

 少し寂しそうに原は、語った。

「目的は、達成されている。首相」

「そうだ。だから、主計局は吝嗇になった」

「これからは、維持運営が大切だということですか」

「ま、そういうことだ、風間君。だが、陸軍省も海軍省も、そうはいかない」

「省益を守るですか、首相」

「そうだ。目的そのものに、意味はないよ」

「陸軍は、ソビエトを敵として、海軍はアメリカを敵としていますが、首相」

「それは、予算獲得のためでしかないよ、風間君。わざわざ、ソビエトと戦う必要は無い」

「では、何故」

「極東ロシアにも蒙古にも、ソビエトに負けてもらっては困るからだ」

 「特区」を守るために、極東ロシア共和国、蒙古共和国を親日として、スターリンに敵対する勢力を引き込んだ。どちらが敗れても、次は「特区」が戦場になる。これは、認められることではない。

「イギリス、フランスは、極東ロシア、蒙古共和国を認めているのですか」

「あぁ、イタリアを含めて、それは大丈夫だ。国境の線引きとしては課題が残るが、アメリカも反対はしない」

 北伐で国境線で中華民国と争っているが、蒙古共和国そのものについて、アメリカも滅ぼすつもりは無いということですか。

「極東ロシアは、共産主義国家だ。困ったことに、私が認めたく無いんだよ、風間君」

「首相は、普通選挙にも反対しておられましたね、忘れていました」

「陛下を敬い、税を納めれば、確かに国民だが、政治に参加するのは別と思わんかね、風間君。新聞を読んだ、国民は、お祭りをしている。
 極東ロシア、蒙古を支援し、浸透突破から後方展開、ソビエト軍を鮮やかな包囲殲滅で、10万を撃破、まるで御伽噺だな」

「そうですね。勝ち過ぎですか、首相」

「あぁ、勝ち過ぎだ。根本中将からは、現状で(ソビエトを)迎え撃つことはできても、進撃は不可能と報告があがっている」

「進撃は不可能ですか、首相」

「ま、岡村大将からも同じ報告だ、シベリアでの冬季装備開発を要請する、だそうだ」

「シベリアに対応した冬季装備ですか、確かに難しそうですね、首相」

「伊達の坊ちゃんが、満洲里に工務大学校を建てた。満洲里なら、対応できるだろう」

 シベリア鉄道とザバイカル線で結ばれた、満洲と極東ロシアの国境の町、満洲里。獣医科を含めて設置された、工務大学校だけでなく、診療科卒業後に、イギリスの支援でウラジオストクに建てられた英国士官学校の中で、医学科への編入が認められ、診療科から医者になる道が開かれた。これを受けて、奉天にフランスに医科大学を建てて貰って、編入させたいと、工務大学校から要望がでていた。

「確かに、満洲里にしても「特区」の市長は、自由に動いているようですね、首相」

「「特区」は、大蔵省の影響が少ないからな。「特区内」であれば、厚生省も文句は少ないだろうよ。それに市長は、日本人の必要すら無いからな、帝大への遠慮など知らんだろ」

 市長の支持者は、住民であり、住民の要望は、市長にとって無視できないモノである。人口が拡大する「特区」の医者不足は、「特区」全体で課題となっていた。満洲里には、郊外に屋根をガラスとした、薬樹園を建設し、工務大学校の診療科内に漢方コース、鍼灸コースまで作っていたのである。

「イルクーツクへの病院建設は、間に合いませんね、首相」

「そうだな、風間君。だが、医者が来た時に対応できるくらいの設備で建設はしておこう」

「わかりました、首相。建設を担当する工務隊には、そのように伝えます」

「頼む。私は、宇和島に手紙を書こう」

「伊達の当主は、仙台では」

「母者が、宇和島に戻っておるからの、頼んでもらう。良い返事であれば良いが」

 地方における医者不足、これは、明治以来の課題であった。完全なエリート集団である、帝大医学部を頂点とするため、医者はエリート意識が強く、他者を排除する傾向があった。地方診療に興味がある医者は珍しく、地域への利益誘導を目的とする政友会にとって、病院の設置は、大きな壁となっていた。

 医者の会合は、憲政会が幅を利かせて、厚生省や内務省に働きかけをおこなっていた。都会優先の憲政会は、エリート意識の強い医者にとっても、応援しやすい政党であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

陸のくじら侍 -元禄の竜-

陸 理明
歴史・時代
元禄時代、江戸に「くじら侍」と呼ばれた男がいた。かつて武士であるにも関わらず鯨漁に没頭し、そして誰も知らない理由で江戸に流れてきた赤銅色の大男――権藤伊佐馬という。海の巨獣との命を削る凄絶な戦いの果てに会得した正確無比な投げ銛術と、苛烈なまでの剛剣の使い手でもある伊佐馬は、南町奉行所の戦闘狂の美貌の同心・青碕伯之進とともに江戸の悪を討ちつつ、日がな一日ずっと釣りをして生きていくだけの暮らしを続けていた…… 

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

世界大戦は終わらない

Ittoh
歴史・時代
 歴史上、人類が経験した、初めての世界大戦、元老井上馨が、「天祐」といったのは、大日本帝国の国際的な地位確立を図る好機であった。世界中の人々を巻き込んだ世界大戦は、世界の歴史そのものを変えたのである。そして大陸には、国際連盟の委任統治領として、「特区」が生まれるのである。

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

剣客逓信 ―明治剣戟郵便録―

三條すずしろ
歴史・時代
【第9回歴史・時代小説大賞:痛快! エンタメ剣客賞受賞】 明治6年、警察より早くピストルを装備したのは郵便配達員だった――。 維新の動乱で届くことのなかった手紙や小包。そんな残された思いを配達する「御留郵便御用」の若者と老剣士が、時に不穏な明治の初めをひた走る。 密書や金品を狙う賊を退け大切なものを届ける特命郵便配達人、通称「剣客逓信(けんかくていしん)」。 武装する必要があるほど危険にさらされた初期の郵便時代、二人はやがてさらに大きな動乱に巻き込まれ――。 ※エブリスタでも連載中

三国志 群像譚 ~瞳の奥の天地~ 家族愛の三国志大河

墨笑
歴史・時代
『家族愛と人の心』『個性と社会性』をテーマにした三国志の大河小説です。 三国志を知らない方も楽しんでいただけるよう意識して書きました。 全体の文量はかなり多いのですが、半分以上は様々な人物を中心にした短編・中編の集まりです。 本編がちょっと長いので、お試しで読まれる方は後ろの方の短編・中編から読んでいただいても良いと思います。 おすすめは『小覇王の暗殺者(ep.216)』『呂布の娘の嫁入り噺(ep.239)』『段煨(ep.285)』あたりです。 本編では蜀において諸葛亮孔明に次ぐ官職を務めた許靖という人物を取り上げています。 戦乱に翻弄され、中国各地を放浪する波乱万丈の人生を送りました。 歴史ものとはいえ軽めに書いていますので、歴史が苦手、三国志を知らないという方でもぜひお気軽にお読みください。 ※人名が分かりづらくなるのを避けるため、アザナは一切使わないことにしました。ご了承ください。 ※切りのいい時には完結設定になっていますが、三国志小説の執筆は私のライフワークです。生きている限り話を追加し続けていくつもりですので、ブックマークしておいていただけると幸いです。

浅葱色の桜 ―堀川通花屋町下ル

初音
歴史・時代
新選組内外の諜報活動を行う諸士調役兼監察。その頭をつとめるのは、隊内唯一の女隊士だった。 義弟の近藤勇らと上洛して早2年。主人公・さくらの活躍はまだまだ続く……! 『浅葱色の桜』https://www.alphapolis.co.jp/novel/32482980/787215527 の続編となりますが、前作を読んでいなくても大丈夫な作りにはしています。前作未読の方もぜひ。 ※時代小説の雰囲気を味わっていただくため、縦組みを推奨しています。行間を詰めてありますので横組みだと読みづらいかもしれませんが、ご了承ください。 ※あくまでフィクションです。実際の人物、事件には関係ありません。

満州国馬賊討伐飛行隊

ゆみすけ
歴史・時代
 満州国は、日本が作った対ソ連の干渉となる国であった。 未開の不毛の地であった。 無法の馬賊どもが闊歩する草原が広がる地だ。 そこに、農業開発開墾団が入植してくる。 とうぜん、馬賊と激しい勢力争いとなる。 馬賊は機動性を武器に、なかなか殲滅できなかった。 それで、入植者保護のため満州政府が宗主国である日本国へ馬賊討伐を要請したのである。 それに答えたのが馬賊専門の討伐飛行隊である。 

処理中です...