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閑話休題 太平洋戦争は勝てません?
閑話休題 太平洋戦争は、勝てません06 シナ派遣軍は、英雄となるけどね。
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シナ派遣軍の活躍は、日本でも報道され、困ったことに熱狂した。
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「風間君。相変わらず、日ノ本の民は、戦争の勝利には、興味があるのだな」
「首相。戦争なんですが」
「戦争が好きというのではない。お祭りが好きなのだろうな」
遥か彼方での戦争は、文字と写真の上で起きるイベントに過ぎない。平穏な後方で、クェートやバクダットの戦場をテレビの中で観るように、祭りのようなものだろう。
「戦争が、お祭りですか、首相」
「ははは、日ノ本では、誰かが死ぬことも無い。千里の彼方だよ、風間君」
「しかし、首相。それでは」
「風間君。二百三高地のように、人が死に過ぎれば、政府は責任を問われる。勝っても、許されないということになる」
「首相」
「日清戦争以降は、勝つ戦しか日本はしていないよ、風間君」
「首相。勝つ戦って、それは、必死で積み上げたからではないですか」
「そうだな、風間君。しかしながら、政治と言うモノは、結果でしか判断されない」
「首相。戦争に勝つだけでは、戦争には勝てません」
ソビエトは、負けただけで、諦めていない。
「あぁ、だからと言って、主計局にとっては、関係ないことだ」
大蔵省主計局は、大いなる拒否権保持組織であるが、拒否権を行使することで、実益があるわけではなく、中立の立場で判断できる組織ともいえます。大蔵省主計局の権益は、予算策定の決定権を、実務として握っていることにあります。主計局が拒否するのは、自分の権利を他の省庁に確認させ、自身を一段高く認めさせることにあります。
「何故なのでしょうか、首相」
「予算を削るのが、彼らの仕事だからな。だからと言って、陸軍は、結果を出した。師団の増設は認めなければならんよ、風間君」
主計局を認めさせるために、譲歩をする。何か、間違ってもいるが、これが、これからの政治ということになる。
「半島を使おう」
「半島ですか、首相」
「風間君。半島は、削減されているが、6個師団が配備されている」
「さらに半島から、戦力を引き抜くのですか、首相」
「あぁ、そういうことだ。フランスが1個師団を「特区」の安東に配備した。日本は、京城へ1個師団、釜山に1個師団で良かろう」
朝鮮鉄道都市警備局は、主要30駅に、工務隊を15万配備していた。つまり、予備戦力としては、7個師団半ということになる。フランスに安東から京城までの5フィート広軌レール敷設工事を委託したことで、工務隊5万を抽出して蒙古へ派遣する方向で調整を始めていた。半島には、工務隊10万ということになるが、いたしかたないということか。
「半島から、2個師団削減、2個師団移動であれば、主計局も説得できるだろう」
2個師団を半島から削減することで、主計局の顔を立て、蒙古へ2個師団増設を容認させる。
「首相。日本国にとって国益とは、なんなのでしょうか」
「餓えない国造り、欧米と対等になるための国造り、それが国益だろうな」
ちょっと言いよどむようにして、
「風間君。既に明治維新の目的は、達成されている」
少し寂しそうに原は、語った。
「目的は、達成されている。首相」
「そうだ。だから、主計局は吝嗇になった」
「これからは、維持運営が大切だということですか」
「ま、そういうことだ、風間君。だが、陸軍省も海軍省も、そうはいかない」
「省益を守るですか、首相」
「そうだ。目的そのものに、意味はないよ」
「陸軍は、ソビエトを敵として、海軍はアメリカを敵としていますが、首相」
「それは、予算獲得のためでしかないよ、風間君。わざわざ、ソビエトと戦う必要は無い」
「では、何故」
「極東ロシアにも蒙古にも、ソビエトに負けてもらっては困るからだ」
「特区」を守るために、極東ロシア共和国、蒙古共和国を親日として、スターリンに敵対する勢力を引き込んだ。どちらが敗れても、次は「特区」が戦場になる。これは、認められることではない。
「イギリス、フランスは、極東ロシア、蒙古共和国を認めているのですか」
「あぁ、イタリアを含めて、それは大丈夫だ。国境の線引きとしては課題が残るが、アメリカも反対はしない」
北伐で国境線で中華民国と争っているが、蒙古共和国そのものについて、アメリカも滅ぼすつもりは無いということですか。
「極東ロシアは、共産主義国家だ。困ったことに、私が認めたく無いんだよ、風間君」
「首相は、普通選挙にも反対しておられましたね、忘れていました」
「陛下を敬い、税を納めれば、確かに国民だが、政治に参加するのは別と思わんかね、風間君。新聞を読んだ、国民は、お祭りをしている。
極東ロシア、蒙古を支援し、浸透突破から後方展開、ソビエト軍を鮮やかな包囲殲滅で、10万を撃破、まるで御伽噺だな」
「そうですね。勝ち過ぎですか、首相」
「あぁ、勝ち過ぎだ。根本中将からは、現状で(ソビエトを)迎え撃つことはできても、進撃は不可能と報告があがっている」
「進撃は不可能ですか、首相」
「ま、岡村大将からも同じ報告だ、シベリアでの冬季装備開発を要請する、だそうだ」
「シベリアに対応した冬季装備ですか、確かに難しそうですね、首相」
「伊達の坊ちゃんが、満洲里に工務大学校を建てた。満洲里なら、対応できるだろう」
シベリア鉄道とザバイカル線で結ばれた、満洲と極東ロシアの国境の町、満洲里。獣医科を含めて設置された、工務大学校だけでなく、診療科卒業後に、イギリスの支援でウラジオストクに建てられた英国士官学校の中で、医学科への編入が認められ、診療科から医者になる道が開かれた。これを受けて、奉天にフランスに医科大学を建てて貰って、編入させたいと、工務大学校から要望がでていた。
「確かに、満洲里にしても「特区」の市長は、自由に動いているようですね、首相」
「「特区」は、大蔵省の影響が少ないからな。「特区内」であれば、厚生省も文句は少ないだろうよ。それに市長は、日本人の必要すら無いからな、帝大への遠慮など知らんだろ」
市長の支持者は、住民であり、住民の要望は、市長にとって無視できないモノである。人口が拡大する「特区」の医者不足は、「特区」全体で課題となっていた。満洲里には、郊外に屋根をガラスとした、薬樹園を建設し、工務大学校の診療科内に漢方コース、鍼灸コースまで作っていたのである。
「イルクーツクへの病院建設は、間に合いませんね、首相」
「そうだな、風間君。だが、医者が来た時に対応できるくらいの設備で建設はしておこう」
「わかりました、首相。建設を担当する工務隊には、そのように伝えます」
「頼む。私は、宇和島に手紙を書こう」
「伊達の当主は、仙台では」
「母者が、宇和島に戻っておるからの、頼んでもらう。良い返事であれば良いが」
地方における医者不足、これは、明治以来の課題であった。完全なエリート集団である、帝大医学部を頂点とするため、医者はエリート意識が強く、他者を排除する傾向があった。地方診療に興味がある医者は珍しく、地域への利益誘導を目的とする政友会にとって、病院の設置は、大きな壁となっていた。
医者の会合は、憲政会が幅を利かせて、厚生省や内務省に働きかけをおこなっていた。都会優先の憲政会は、エリート意識の強い医者にとっても、応援しやすい政党であった。
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