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エリート官僚は、内部抗争がお好き?
エリート官僚は、内部抗争がお好き?番外編 省益の争いは、大蔵省主計局の壁に阻まれる。陸軍編
しおりを挟む正面戦力は現行のアメリカやイギリスと互角戦力の維持を目標とし、軍縮体制の中で、正面戦力の抽出に四苦八苦していた。空母および艦載機の設計開発がすすめられたのも、軍縮条約の結果として、正面戦力について、戦力互角を維持するのがやっとの予算状況であったためである。
日本の議会は、軍事予算には非常に厳しく、限られた予算でのやりくりさせられていた。最新鋭機の開発ともなれば、国内だけで部品の調達ができない場合もあり、外貨による調達を必要とすると、定額手形が使えないことも多くなる。結果的に、金本位制に基づいた兌換紙幣を使った、調達を必要とするため、審査は厳しいものとなっていた。
こういった兌換紙幣による購入によって、金の海外流出を嫌うのが、大蔵省主計局であった。日本政府の財務管理上では、大きな壁となって立ちはだかり、予算を渋る代表が、大蔵省主計局なのである。
帝国陸軍も同じであり、シベリア出兵以来、仮想敵国をソビエトとした報告書を提出し、予算獲得を図っていた。最終的には、ソビエト政府を倒し、シベリア各地に親日国家を建国する案まで、提出されていた。
日本が、大陸に派遣していた戦力は、満洲出兵で動員された、シナ派遣軍20万だけである。ただし、満洲鉄道都市警備局には、出向した工兵大隊が各駅に派遣されていて、
現実的な帝国陸軍の対応としては、シベリア大陸に緩衝地帯を維持することに主眼を置いていた。緩衝地帯である、極東ロシア共和国、蒙古共和国を支援するためには、最新鋭の戦闘車両を、多数必要としていたのである。
外国に対して、最新鋭として売却した兵器が、統制型戦闘車両であった。
統制型戦闘車両とは、国産エンジンや国産部品、国産兵装で設計・製作される。純国産兵器である。統制型であれば、国内調達が可能であり、工務学校で生産することができた。また、調達や支払いに定額手形を使えるため、主計局からの横槍が少なかった。このような背景から、工務大学校では、統制型戦闘車両の設計開発が、卒業研究になることが多かったのである。陸軍省で審査を受けて、実務に耐えられると判断されれば、戦線に送られたのである。
統制型六輪戦車「走竜」は、工務大学校の学生が設計・製造した、戦闘車両であった。
統制型ガソリンエンジンを動力源として、武装も統制型30mm機銃を搭載した、純国産の戦闘車両として「走竜」は開発された。特殊な部品も殆どないことから、工務学校での量産が可能であり、全国工務学校で月産100台生産可能な対歩兵戦闘車両として、大陸に送られた。使用された、統制型30mm機銃と徹甲弾は、100mの距離で40mm級の正面装甲を撃ち貫けたことから、対装甲車戦闘でも、無力ではなかった。ソビエト製初期型BT-7とは互角に戦えたのである。車体重量23トンであった。
統制型六輪戦車「火竜」は、工務大学校の学生が設計・製造した、戦闘車両であった。車体重量35トンと重く、統制型ディーゼルエンジンを搭載し、時速20キロと低速ながら巡行することができた。帝国陸軍の105mm高射砲を改造した、105mm砲を搭載したため、生産数に制限がかかるが、自走砲としては、一定の性能を持っていた。水平射撃試験では、500mで100-120mmの装甲板を撃ち貫き、1000mで80-100mmの装甲板を撃ち貫いたことで、待ち伏せであれば、敵戦車を撃破可能と判断された。有効射程が、9500mあることから、遠距離からの射撃も可能であり、数を揃えることができれば、非常に使い勝手の広い戦闘車両となった。105mm高射砲からの改造なので、改造期間がかかり、量産が厳しいという状況にあったが、戦況の厳しい蒙古共和国や極東ロシア共和国には最新鋭戦闘車両として売却された。
「走竜」「火竜」は、機動戦と支援火力を担う戦闘車両であり、帝国陸軍の中では、量産に向いている構造になっていた。「走竜」は、工務学校製として月産100台が生産され、大陸へと輸出されていった。シナ派遣軍の前線指揮官根本博中将は、後から送られて来た「六式重戦車牛鬼」や「六式突撃戦車一突」よりも、整備性が良く稼働率が高い「走竜」や「火竜」の方を前線で使用した。「六式」の戦闘車両に使用される、スーパーチャージャー搭載型ディーゼルエンジンは、メンテナンスに手間がかかり、前線の工兵に嫌われていたのである。
シナ派遣軍では、「走竜」の30mmから、47mm速射砲に変更した、射程1キロで50mmの装甲板を打ち貫いた速射砲を搭載した「走竜改」が、使用されるようになった。シナ派遣軍から1万の義勇軍が、極東ロシアへ派遣されて、ソビエト赤軍とイルクーツク西方で激突した。BT-7やT-34-85を主力としたソビエト機甲師団を含む10万に対して運動戦を展開し、「火竜」50台を含めて、極東ロシア軍が保有する火砲を集めて、射程内に引き込んで、殲滅戦を成功させた。
帝国陸軍は、極東ロシアの戦場で有効とされた、105mm高射砲搭載し、無限軌道車両とした主力戦車の開発に予算を申請していた。もちろんではあるが、工務大学校で設計された、「火竜」をカタログスペックで上回ることが、必須と求められたのである。
昭和6年に、重量40トン、統制型スーパーチャージャー改造型ディーゼルエンジンV12気筒512馬力を搭載し、時速30キロの正面装甲52mmの「六式重戦車牛鬼」が設計・製作された。重量が重いため、国内の一般鉄道路線を使うことができず、船で大陸へ運び、シナ派遣軍の主力戦車として使われた。
戦車としては、正面装甲が薄いという欠点があるものの、105mm砲の攻撃能力は高く、水平射撃500mで140mmの装甲板を打ち貫き、1000mで120mmの装甲板を打ち貫いたのである。これは、1キロ先のタイガーⅠを打ち貫ける威力ということになる。
「六式重戦車牛鬼」は、砲塔重量が重いことから、砲塔を無くし、仰角だけ変更可能な、「六式突撃戦車一突」が、設計・製作された。重量は30トンとなり、時速50キロで走行することができた。生産には、非常に手間がかかり、「牛鬼」「一突」を合わせて、工廠あたり月10台がやっとで、横浜工廠、大阪工廠、大連工廠で月30台が生産され、大陸戦線に投入された。
根本博中将率いる義勇隊は、陸軍省から技術試験隊の扱いを受けていて、新型戦車や突撃砲、自走砲といった様々な技術試験を、ソビエト赤軍相手に実践していたのである。「走竜」や「走竜改」については、大連工務大学校で、「走竜」の30mm機銃から47mm速射砲に載せ換えて、シベリア鉄道に載せたのであった。根本中将は、「装甲ニ不安アレド、有用ナリ。工兵学校学生ニ感謝ス」と、岡村大将への電報が記録に残っている。
「走竜」の車体ベースは、工務学校で製造できるため、工兵大学校では根本中将からの要望に合わせて、様々なバリエーションで「走竜」を制作していた。75mm砲を搭載した自走砲「角付走竜」や、水冷V12気筒スーパーチャージャー型600馬力ガソリンエンジンに換装した「速型走竜」が生産されていた。「速型走竜」は時速80キロの高速航行が可能であったことから、正面装甲を70mmに変更した装甲強化型「甲型走竜」といった、非常に多くのバリエーションが生産されたのである。根本中将は、試験および実戦への投入を行って、結果が大学校に送られたのである。
実戦報告を受けた、大連砲兵工廠では、「走竜」用47mm砲、「火竜」用105mm砲を量産することで、ベース車体が完成した走竜に搭載した、「走竜改」が通常生産されたのである。大陸では、調達に定額手形が使用できたので、岡村大将の指示により、大連工務大学校では、フランスやドイツから購入した、装甲板や徹甲弾を使った、比較試験が実施され、報告書が作成され提出されていた。
陸軍省からではなく、工務省からの報告が、原首相の下に送られていた。
「風間君。徹甲弾の材質は、フランス製とドイツ製が日本製より良いそうだ」
各工務大学校から提出される、報告書の量は非常に多く、様々な報告書が陸軍省や海軍省に提出されていた。
「首相。報告書を受けた、横浜工廠は、横廠製の徹甲弾を大連に送って、追加実験を行わせたそうです。横廠製は、フランスやドイツより性能が良かったそうで、再確認した結果、日本から送られる、30mm徹甲弾は、バラツキが大きく、実験するたびに結果が変わるという報告を受けてますね」
「どういうことなのか、風間君」
「首相。おそらくは、品質の安定度だと思います」
「それが、バラツキが大きいということか」
「はい。首相、検査を入れれば、コストが上がりますし、生産量が減少します」
「そうだなぁ」
昭和初期までの日本の工場では、作った部品の検査は、検査方法があまり確立されていなかった。硬さ試験機などの検査装置を保有する、工廠や工務大学校はともかくとして、一般工場での検査は、目視検査がほとんどで、定量検査体制は確立されていなかった。
工務省から、「製品の性能保証および検査体制確立に向けた指針」が、昭和2年3月に公布された。指針の中で、国内で生産される工業製品について、作りっぱなしではなく、性能検査や耐久試験に合格させる必要があるとされた。
これは、努力目標扱いであり、コスト増を強要するものではなかった。しかしながら、陸軍省は、納入する企業に対して、納品にあたって性能試験を義務付けたのである。中小零細から、統制品として納品される部品供給と、陸軍省から購入する大企業では、かなり大きな差が生まれるようになっていくことになる。
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