我田引鉄だけじゃない? 原首相のまったり運営

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天下泰平なれど外憂在り

天下泰平なれど外憂在り11 戦は混迷を極めて、日ノ本は安寧を極める

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 大陸の戦塵は、収まる気配を見せず、混迷の中に沈み込んでいった。米軍は、外征をおこなったものの、ザミンウードまでの蒙古への補給線の維持に翻弄され、西へ出る体力は無かった。ドイツ軍も3個師団を派遣したものの、北京、天津の鉄道路線を守るので精一杯の状況であった。

 北洋軍閥は、河北や山西で武装蜂起を繰り返し、張作霖は山海関に私兵20万を展開した。張作霖の私兵展開は、奉天、遼陽の穀倉地帯からの食料が、私兵に流れることとなり、張作霖は、山海関に陣取って、自分が買い取って集めた食料を高値で捌いて、敵味方関係なく捌いて、金を巻き上げていた。

 張作霖の行動は、「走竜」「火竜」を手に入れて、さらに強気に出ていた。

「張作霖の行動は、許容できるのですか、風間君」

「許容できるかと言えば、民兵の行動は、満洲における国際連盟の権益を損なってはいません」

「では、原首相は、御認めになると」

「商売の範囲であれば、許容する。ただ、軍事行動は、許容できない。日本は、山海関に駐留できる私兵は、5万を上限とし、国際連盟の権益保護を優先せよと」

「走竜」50両、「火竜」を20台を融資する。代わりに、私兵10万を墾田開発に回して、食料増産することで、明日の利益を拡大することを望むと。

「ほぉ、そのための「走竜」「火竜」ですか、剛毅なものですな」

「シナ派遣軍へは、「走竜」300両、「火竜」50両揃えました。何卒、岡村司令に頼むと」

「つまり、張作霖が、言を守らねば」

「今の時点では、10万人までは許容するということです、司令官」

「しばらくは、様子見ということですか」

「司令官。油断せず、山海関を越えさせるなと」

「越えた敵は、潰しても良いですか、補佐官殿」

「はい。それが、シナ派遣軍の務めであると」

「戦域拡大は、陛下の望みでもない。しかし、「走竜」「火竜」はやり過ぎです」

「それは、首相から、すまないと謝っておられました」

「オーストラリア軍への通達は、どうなっていますか、補佐官殿」

 営口から展開しているオーストラリア軍3万は、根本中将のシナ派遣軍2万と共同で、営口郊外に展開していた。つまり、20万の張作霖軍が展開する、山海関の後方に展開していることになる。

「イギリスからは、共同戦線は取れないが、黙認するとの連絡を受けました。根本中将も、味方でないものを使うくらいであれば、大将より援軍派遣をお願いすると」

「正式な命令でないのは、何故ですか、田中大臣から命令書があっても良いと思いますが、補佐官殿」

「帝都では、大陸を満洲のように、日ノ本で牛耳れば良いという意見があります。命令書を出そうとすると、変更される可能性があると」

「だから、個人的にと頼まれるのは、迷惑ですよ。補佐官殿」

「判っています。私にできるのは、お願いすることだけです。貧しくなった大陸で、血を流すのが、陛下の御心に沿う事とは思いませんか」

「さて、補佐官殿。陛下の御心は、判断しかねます」

「私も、大将閣下へお願いにあがりました。ただそれだけです」

「ならば、首相へお伝えください。職責を全うするだけだと」

「わかりました。お伝えいたします」

 日本という国家は、困ったことに、人は優秀であっても、組織は硬直化して、動けぬ鈍重と化していた。原首相は、石井菊次郎を国際連盟担当大臣に任命し、国際連盟の調整に奔走していたが、アメリカは「特区」承認を認め、軍の駐留拡大を求めていた。アメリカが求めたのは、河北、山西、河南と「特区」にすることで、山東省の租借権についても、「特区」扱いにすることを要求していた。

 アメリカの「特区」の要求は、ドイツの国際連盟参加についても、認めることまで含まれていた。ドイツの国際連盟参加については、フランスが反対し、イギリス、イタリアも難色を示していた。

 米独の協商条約が締結され、イギリスとフランスが借款の減額を実施したことで、ドイツの借款は、返済されつつあった。ドイツが借款返済にあてているのは、アメリカの大陸利権の維持管理であった。

「アメリカは、ドイツを番犬に雇ったということか、石井君」

「原首相。アメリカとドイツが、山東省の実効支配を続ければ、山東省は奪われますが、いいですか」

「アメリカとドイツからの移民は、多くなる一方だよ、石井君」

 本国で食べられない、ドイツからの移民は、昭和2年に20万を越えて、青島へと渡ってきていた。ドイツでは、生存圏という考え方に、山東省が含まれていたのである。アメリカでは、大陸をネオ・フロンティアという呼び方をして、移民を推奨していた。

「それでは、山東省は、譲るのですか」

「石井君。蒙古共和国領を長城の北とアメリカが認め、アメリカ軍を長城から南に撤退すれば、山東省の売却について、陛下に奏上しよう」

「首相。売却ですか、アメリカにいくらで」

「1000万ドルでどうだ、石井君、アラスカより狭いが、価値は高いだろ」

「その金は、どうする気ですか」

「医療科と看護科を工兵学校、大学校に組み込む」

「はぁッ、なんですか、それは」

「石井君。満洲で始まっていることだ。公的な医療機関を、地方の駅前に設置する。都会には医者は居ても、地方には居ない。無医村解消だな」

 満洲では、駅に派遣する工兵大隊には、医療中隊が同行するようになって、各都市住民の診療補助を始めていた。

「また、選挙民へのアピールですか」

「工兵学校に科を設置すれば、公務員だからな、派遣先は国家が任命することができる」

「無医村対策とは、地味ですね、原首相」

「民草への支援は、地味なものが、役に立つとは思わんか、石井君」

「しかし、医療機関ともなれば、金もかかります。農村では、払えんでしょう」

「国民から金を集める。患者から金を集めるのではなく、保険金として国民全員から集める制度だ」

「そんな制度ができますか、首相」

「最初は、全国では、難しいからな、越谷から要望されとるんだ」

「越谷、、、埼玉のですか、保険であれば、纏まるということですね」

「そういうことだ。上手くいけば、山形、延岡にも設置を始める。全国の工兵大学校には、内務省から職員を派遣する」

「工務省が、嫌がるでしょう。独立させてはどうですか」

「それは、後だ、学校の設置は難しいからな、大学校の設置を先にする」

「医者は、流石に許されんでしょう」

「技官だよ、技官。医療技術担当官、地域の診療補佐として派遣するだけだ」

「医者ではないと、強弁するんですか」

「そうだ、医者ではないから、医療行為は行えないが、薬学や施療に長けていれば、予防は可能だろう」

「つまりは、地方で、健康維持管理業務を行う者達を育てる、そういうことですか」

「石井君。全国へ展開するには、金がかかる」

「だから、山東省の売却ですか、アメリカに買わせると」

「金が要るんだよ、医療機器は、海外多いからな。予算を手形で出すことができん」

「確かに、それは難しいですね」

「軍にしても、軍に医療技官と衛生兵を増やせるんだ、田中君を通じて永田君にも頼んだよ」

「承知したんですか」

「あぁ、南洋庁も乗り気で、海軍からの要望を出して貰ったからな」

 日本からはるか遠い、南洋島嶼地域は、医者の手配が困難な地域が多く、保健所に近い形であっても、欲しがっていたのである。

「つまりは、説得は終わっているんですね」

「後は、石井君次第だ、出来る限り高く売ってくれ」

「はぁ、首相。私は、営業ではありませんよ」

「何を言う、石井君。日ノ本の国益を高めるのは、外交官の営業努力では無いのかね」

「間違っていますが、山東省の件は承知します。軍閥が暴発することはありませんか」

「暴発ならば、鎮圧できる。シナ派遣軍司令官は、岡村寧次大将だし、営口には根本中将に出張ってもらっている」

「そうですか、実務上は大丈夫ということですね」

「岡村君のところに、「走竜」「火竜」を出来る限り送った。兵站状況も山海関までは問題ない」

「山海関は越えないということですね」

「あぁ、張作霖には、田中君から手紙を出してもらってもいる」

「ほぉ、首相。内容を聞いても良いでしょうか」

「構わんよ。私兵20万のうち、10万を墾田開発に欲しい、食料生産を上げて、混迷する大陸で儲けてはどうかとな。墾田資金は、満洲鉄道都市警備局予算に1億を手形で追加すると言った」

「満洲なら、資金が手形で発行できるということですか、首相」

「あぁ、満洲の生産量は拡大一方だ。資金は問題なく融通できる」

「農業車は、満洲でも出回っているんですか、首相」

「あぁ、労働人口が確保できれば、土木工事も治水工事も、都市工兵隊が手形払いで指揮してくれる」

 定額手形は、日ノ本の信用通貨という、ただの借金証書でしかない。それでも、満洲鉄道都市警備局への支払いは、定額手形で可能であり、人頭税の支払いも、定額手形払いが可能であることから、定額手形は疑似通貨のように、大陸に流れ込んでいったのである。

「石井君。頼んだぞ」

「わかりました」

 しぶしぶ頷いた、石井であった。





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 平穏無事な日本の政治は、平和安寧の中に、国民皆保険制度の開始について、号令をかける動きをしていったのである。
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