我田引鉄だけじゃない? 原首相のまったり運営

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天下泰平なれど外憂在り

天下泰平なれど外憂在り08 日本経済、波高し

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 集合住宅は、都市部への利益誘導なり
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 都市部への利益誘導として、外務大臣幣原によって、アメリカの要望による関税引き下げが実施され、組立工場が建設も開始された。横浜製フォードと大阪製シボレーが、日本の路上を走るようになったのである。大正4年に897台であった輸入車は、昭和元年には3万台を超えるようになった。しかしながら、工兵学校では、統制型エンジンのメンテナンスしか受けなかったので、維持管理にはかなりの高コストとなったのである。フォードは、横浜緑町工場で維持管理を引き受けていて、ゼネラルは大阪大正区鶴町の組み立て工場で対応したのである。

 フォードやゼネラルは、国内で部品が無いことも多く、本国から部品が送られるのに、二カ月三カ月待たされることも多かったのである。

 大震災以降の環状道路建設事業と街道建設は、震災対策として、四車線から六車線道路を御所を中心として、環状に着工することで、防災対策を考慮しつつ、新たな帝都を築くという、後藤新平の案は、予算が削られたものの、国家による土地買収は、山本権兵衛内閣が強引に進めることで、隅田公園、浜町公園、錦糸公園の防災対策公園についても、当初計画通りに施工され、10万平米の公園が建設されたのである。

 震災復興の中で、横網町公園には、東京都復興記念館、慰霊堂と共に建設され、現在にも伝えられている、一大事業となった。

 都市部は、復興事業の中で、非常に大きく利益を得たものも多く、共産主義の浸透で、不平不満を持つものも多かったのは事実である。復興事業は、既得権益の破壊でもあった。

 山本権兵衛内閣が推進した、都市復興事業は、帝都環状道路建設事業として始まった。関東大震災の火災による被害は、密集した木造住宅が、大きな被害を受けて焼け出されえた人々への住居建設ラッシュとして始められた。

  都市部の建設ラッシュは、災害対策事業から始まった。火災対策を重視するため、都市部の集合建物は、コンクリート建築による、集合住宅が建設された。集合住宅は、震災被害者の復興支援事業であり、内務省主導による同潤会が設立され、「世に言う同潤会アパート」建設が始まった。電気ガス水道に水洗トイレといった、安全衛生を含めたインフラ整備が都市部で進められた。

 都市復興は、結果的に憲政会主導で進められ、コンクリート建築が推奨され、「同潤会アパート」は、防火対策を施された建築として、都市部での整備が急ピッチですすめられた。





 山本権兵衛内閣から原内閣に代わっても、都市部での防災建築は、継続して進められた。元々、山本権兵衛内閣前、第二次原内閣で推進された震災対策事業でもあり、大きく影響を受けることはなかった。

「原首相、震災事業というには、かなり拡大しているようですが、良いのでしょうか」

「風間君。都市整備は、橋の架け替えを含めて、山本さんがやってくれたからな。これからは、縮小していく方向で対応すれば、それほど大きく問題にはならんだろう」

「都市の人達は、憲政党の支持者が多いですよ、首相」

「構わんさ。政友会は、地方優先。憲政党は、都市部優先となれば、有権者が決めることになるさ」

「首相」

「はっはは。だからと言って、政友会は選挙で負ける気はないぞ」

 言い切って笑った。だが、まじめな顔で、

「しかし、幣原さんが商務省と工務省の反対を押し切って、フォード、ゼネラルの工場まで、日本に立てさせるとは思わなかったな」

「首相は、どうされるのですか」

「建った以上は、仕方ない。だが、国産企業に対して、税制面での優遇措置がとれないか、内務の床次さんに頼んでいる。淡路車はどうなんだ」

 鉄工所製モータリゼーションは、統制エンジンから始まった。
 統制エンジンとは、日本国内で、大量生産体制の基盤を築くためにも、同一規格、同一設計、同一構造の基本エンジンの生産が始められた。横浜工廠で設計・製造された、ガソリンおよびディーゼルエンジンは、工兵学校で製造され、工兵大学校でメンテナンスや改良がなされていった。

 淡路の鉄工所は、淡路車と呼ばれる、農業用耕運機や運搬荷台を作って、販売し始めたのである。これが四国、兵庫に伝わり、工兵大学校で、購入者の要望に合わせた、改造や改良を施した、特殊車両が多数製造されたのである。駆動車両と牽引車両を分けて設計・製造することで、カスタマイズを簡便にしたのである。夜店に使うポン菓子車や、商業用宣伝車も作られたのである。
 原首相も、選挙演説用に演説台を設置した、選挙車を発注し、遊説して回ったのである。

「地方で走っているのは、淡路車ですよ。フォードやシボレーを見るのは、大阪と東京だけですね」

「そうか、それは良い。天神祭りの屋台にも工兵大学校製が出てたな」

「そうですね。コストが安いこともあって、テキヤの発注も多いようです」

 各工兵大学校は、車両に校章を刻印するので、どこの工兵学校製造か確認できるようになっていた。

「それに変わった車も作っていたな。無線車だったか」

「それは、東北工兵大学校ですね、東北帝大の八木博士が考案した、アンテナを使って、航路誘導ができるといった報告書があがってました」

「それ以上だよ。電探用にも使用できそうだと、加藤君が喜んでいた」

 加藤友三郎海軍大臣は、八木博士の報告を受けて、無線方位信号所だけでなく、電探開発を始めさせていた。南洋庁と安土航空から、航路誘導に使用可能な、電波灯台の研究にも研究費が投下されていた。東北工兵大学校では、南洋庁をスポンサーとして、GHzの高周波帯域を利用した、無線方位信号所を島嶼に設置していた。

 日本経済は、活況を呈していたものの、インフレが進んでいたので、生活に苦しんでいる人たちが増えた時期でもあった。





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 格差の拡がっていく社会が、徐々に構築されていくことに、反対する者達も多かったのである。
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