我田引鉄だけじゃない? 原首相のまったり運営

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天下泰平なれど外憂在り

天下泰平なれど外憂在り04 統制という名の規格制限

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 工務省は、機械および電気関連の規格について、メートル条約への批准と共に、フランスに合わせる形で進めていた。これは、国際連盟の後、フランスのエコール・ポリテクニックを視察した、石井菊次郎と原首相の指導で、工兵大学校と工兵学校を大連で始められた。

 陸軍軍務省が、工兵大学校、工兵学校を設立していた。海軍が、航空兵学校と航空大学校を設立させ、拡充を図るようになった。陸軍も工兵学校、工兵大学校に航空科を併設するようになると、陸海軍の統制を図る動きが生まれるようになった。

 メートル条約に日本は、明治8年から度量衡法が施行されて、明治18年(1885年)に批准し、翌年メートル条約として公布された。明治22年(1889年)には、メートル原器、キログラム原器が日本に届き、国内単位の統一を図った。しかしながら、土木建築の現場では、尺貫法や貫目といった度量衡が有用であることから、変換を基本とした体制が作られた。1匁(3.75g)や1貫目(3.75kg)を基本とした、秤や分銅は、建築土木関連では、並行して使用されていて。変換係数となる3.75を厳格に守るように規定された。車両設計等で、内装や扉やハンドルといった、人の大きさを判断基準とする分野では、尺貫法の考え方が踏襲されたのである。

 エンジン等を扱う、精密機械では、メートル法に準拠しつつ、アメリカやイギリスが使用する、ポンド、ヤードも変換を規定して対応を図ったのである。

 こういった状況から、度量衡をメートル法で記述しつつ、国内外の調整を行っていった。

 規格基準を確定させるため、工務省は、統制局を設置し、民間用途で使用するガソリンエンジンやディーゼルエンジン等を固定し、統制型三式ディーゼル、三式ガソリンと年数で確定させたのである。工兵学校では、そのまま統制型エンジンで開発を行ったので、陸軍の軍用車両や海軍の小型船舶は、すべて統制型エンジンで駆動するように、設計開発されることとなる。

  統制型エンジンは、設計図や整備指示等を完備し、工兵大学校でも製造・組立ができるように、設備を導入していった。統制型エンジンは、このために開発期間が長く、設計更新がされ難いという欠点があった。半面、各学校で改善・改良が行われ、出力向上型や耐久性向上といった、様々な派生型が生まれることとなる。

 統制型エンジン搭載の駆動車両と牽引車両の開発は、それぞれの作業現場で、カスタマイズされて、独自の建機や重機の開発が進められた。南方では、統制型エンジンだけを送付して、現地で様々な部品を組み合わせて、現地で車両の製造や簡易発電機の組立まで行える程度に、基礎技術力の向上を図ることができるようになった。

 昭和に入って商工省は、工務省と商務省に分かれ、統制型の拡大が進められた。特に、陸軍と海軍で部品や消耗品の流用ができるように、勅令統制型の部品が、進められたのである。ボルトやナットといった機械部品だけでなく、小型のエンジンや実包についても共有化が図られ、陸海軍の双方で採用されるようになった。

 歩兵銃は、38式歩兵銃を基本として、実包を交換できるように、三式軽機関銃を制作した。使用する6.5mm弾は、歩兵用一般兵装用として確立され、徹甲型など様々な派生型が研究・開発されていった。三式軽機関銃の開発に成功後、同実包を共用できる、携帯できる自動小銃の開発を進め、自動小銃が、東京砲兵工廠で製作され、五式自動小銃として採用された。ボルトアクションで部品点数が少ない、38式小銃も生産は継続された。
 自動拳銃としては、南部麒次郎による、6.5mm実包を採用した、小型自動拳銃と、7.7mm実包を採用した大型自動拳銃が南部式自動拳銃として製造された。南部式自動拳銃は、海外でも有名となり、満洲や蒙古だけでなく、中華民国でも正式に採用され、欧州へも販売された。

 銃器類として、マキシム機関銃を購入し構造を分析し、イギリスからの支援を受けたヴィッカース重機関銃、アメリカのブローニングM1919重機関銃、スイス製エリコンFF機銃のライセンスを取得し、試作運用試験が開始された。7.7mm機銃としてヴィッカース機関銃、20mm機銃には、エリコンFF機銃を採用した。こういった各種銃器類は、統制型と同じように、ベルト給弾方式への改造や、航空機迎撃用に簡易式対空射撃管制装置と連動した、対空連装20mm機銃が開発されるといった改造がなされていった。

 実包統制についても統制型が採用され、陸海軍で基本合意がなされ、歩兵銃用6.5mm、機銃用7.7mm、12.7mm、20mm、30mmまでを共有実包とし、陸海軍共通とした。拳銃用で、6.5mmショート、7.7mmショートが実包として、開発された。



 ソビエト赤軍が、極東ロシアに攻め込むと共に、中国共産党と共同で、西涼から黄河へと侵攻し、蒙古方面に進撃を開始した。友好国である極東ロシア共和国、蒙古共和国へ侵攻したことで、シナ派遣軍は、千名の義勇兵を技術試験大隊として選抜し、極東ロシア共和国および蒙古共和国の協力を受け、技術試験を開始した。大連のシナ派遣軍は、大連工兵学校を抱えていて、様々な兵装の実地運用を蒙古で開始していた。兵装試験は、耐候環境試験を含めて実施され、横浜工兵学校からは、南洋庁の協力を受けて、千名の技術試験要員を派遣していた。国内での技術試験は、北海道から沖縄に設置された、工兵学校および工兵大学校で実施され、最終試験が蒙古、極東、南洋で実施された。試験は、実戦を含めたもので、蒙古共和国軍や極東ロシア共和国だけでなく、イギリスやフランスの観戦武官も含まれていた。

 蒙古共和国への義勇兵の派遣によって、アメリカから抗議が行われたが、国連大使石井菊次郎は、
「蒙古共和国は、北京の軍閥とは異なり、日本の友好国である。国境における賊徒への攻撃はともかくとして、蒙古共和国への侵攻は、義によって立たざるを得ない」
 そう言って、アメリカ大使の抗議を退けた。

 アメリカとの政治的な関係は、アメリカ軍の北伐以降、アメリカからの自動車輸入関税についての問題も浮上し、ギクシャクし始めるようになっていった。

「風間君、アメリカからの自動車関税は、できれば自由化したいと思うが、交渉してもらえんか」

「工務省を説得するんですか、閣下」

「現在の、統制型エンジンは、小型エンジンとしての採用が確定し、原動機付きなどの小型車両や小型船舶は、すべて統制型に切り替わっている。アメリカからの輸入車については、統制型の範囲外の車両に限り認めるという方向でまとめてほしい」

「以前に大陸に移転させた、現地工場についても、認めるんですか、閣下」

「それは、そのままだな、風間君。大陸からの輸入については、大連経由であれば、輸送は日本の収入になるのだから、関税はかけられないと説得してくれないか。野田さんは、知ってるだろ」

「工務省大臣、野田卯太郎さんですか、商売人ですよ」

「だからだ、5年待たせて、統制規格を浸透させた。これ以上の引き延ばしはできんと言ってやれ」

「昭和からは、真っ向からアメリカと勝負しろですか」

「そういうことだ。淡路から始まったモータリゼーションは、欧州とはかなり違うのだろ」

「そうですね。統制エンジンであれば、工兵学校内でエンジンから駆動車までを、一貫して製造できますから、車両の価格は人件費無しで販売されています」

 製造数そのものは、月産数台程度であったが、カスタマイズまでを、地元の要望で一貫生産していた。様々なカスタマイズの中には、稲刈り機や耕耘機だけでなく、店の看板を取り付けた宣伝車、夜店用のポン菓子やタコ焼き器を組み入れた屋台車など、様々な要望で造られた車が多かったのである。

「あたりまえだ。彼らの俸給は手形払いなんだ、農家や商家の手伝いができてあたりまえだろ」

 原首相と高橋大蔵大臣は、震災復興のための国債回収費用や金本位制へ移行資金確保のため、公務員俸給に定額手形を発行するという賭けに出た。公務員俸給を、兌換紙幣の現金ではなく、不換紙幣である手形という、無利子無期限の借金にすることで、凌いだのである。公務員俸給は、国民に対する借金であり、公務員の職務遂行を以て、民間に手形割引を願うものであるとしたのである。
 この恐ろしく強引な賭けは成功し、日本銀行発行の兌換紙幣の流通を抑え、公務員俸給として流通した、政府発行の無利子無期限の手形決済は、日本経済を大きく活性化させたのである。

 日本の産業推進を支えたのは、軍備縮小の流れから、軍から民へ就職していった、技術者たちであった。民に就職しても、工兵学校や工兵大学校の機材を活用して、脱穀機や製粉装置、消防用ポンプ車、タンクローリー、土練機、コンクリートミキサー、コンクリート艇、移動無線車両、非常に多岐に渡った開発も行われていた。無人走行車が開発されたのも、工兵大学校であった。
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