我田引鉄だけじゃない? 原首相のまったり運営

Ittoh

文字の大きさ
上 下
27 / 69
天下泰平なれど外憂在り

天下泰平なれど外憂在り02 自動車および航空産業拡大す

しおりを挟む
 日本列島のインフラ整備は、各地域ごとに進められていった。我田引鉄ならぬ我田引道は、最大政党である政友会の主導で進められた。日本国としてではなく、各地域での街道整備が優先される形で進められた。

 政府与党憲政党主導で進められる、国家防衛を主軸とした環状道路の推進は、政友会との予算獲得抗争でもあった。政友会は、南洋庁を巻き込み、国内に海上交通による、民間飛行会社の設立させた。

 川西が開発した、航続距離4000キロを超える、四発大型飛行艇の開発は、南洋航路だけでなく、大陸航路の開拓へと繋がっていった。琵琶湖湖畔に設立された安土航空は、海軍と南洋庁の支援を受けて、バイカル湖までの航路および南洋諸島を航路で結び、航空時代を開いた。これは、大陸及び国内で高まる、石油需要を賄える、満洲での油田開発が進んだ結果でもあった。

 大陸で生じたモータリゼーションの拡大は、大量生産を主導する米国のビッグスリーは、満洲に工場を建設し、量産を始めていた。日本国内は、工務省を中心として、国内の自動車産業を纏め、日本自動車産業の保護育成を進めていた。小型エンジンおよび自動車は、国内の需要に合い、大量生産されるようになった。大型のアメリカ車では、地方では走るのには厳しく、日本車は地方に浸透し、アメリカ車が都市部で需要が増大していった。

 国内の生産台数が、1万台を越えたのが、昭和元年であったが、大半は関西圏で、小型車を中心として、急速に拡大していった。日本産の小型車は、価格が安いこともあって、住宅地の密集地が多い、満洲の都市部でも、日本車を数多く見かけるようになった。日本では、小型の耕運機や稲刈り機といった、農業用途の専用車両が開発され、発売されていた。遼陽郊外では、日本から輸入された稲作が始まっていて、大連の工業開発部が、最初は土木作業車両を改造していたが、専用の耕運機や稲刈り機を開発に成功した。満洲の人口増大に伴って、食料生産を拡大し、大陸の人口増加への対応に成功した。開発された耕運機や稲刈り機は、日本にも輸出され、国内でも食料生産の拡大が進められていった。

 大陸の戦線が激化するにつれて、大陸の食料の不足が生じ、食料に余裕がある、満洲や日本からの輸入に頼っている状況にあった。特にアメリカは、物資の輸送を含めて、後方支援の大半を日本に頼っていて、昭和3年には、対日貿易赤字が初めて発生する状況となっていた。これは、日本が大陸からの輸入拡大によって、生産量が拡大したことで、アメリカからの輸入が減少し、生糸や繊維産業の北米への輸出が拡大した結果であった。

 アメリカは、昭和3年5月に生糸や繊維の関税を引き上げると共に、日本に輸入車の関税引き下げを求めた。山本内閣は反発し、関税の引き下げは、拒否するとの通告をしてきた。アメリカは、自由貿易を求めて、国際連盟への提訴を行ってきた。

「石井閣下、政府のアメリカへの対応は、厳しくないですか」

「それは、確かにな。しかし、彼らは気づいたようだ」

「なんですか、閣下」

「日本政府が大陸には、あまり興味がないということにだよ、風間君」

「それは」

「風間君。本土の貿易赤字は、今年のことだが、大陸を含めれば、大正の頃に既に赤字だ。政府は、それを知らない」

「何故でしょうか、閣下」

「ははは、大陸で使用される、衣服や食料を含め、アメリカは消費の大半を満洲に頼っている。車両の修理や、燃料といった兵站物資についてもな」

「ならば、閣下。関税の引き下げを、受け入れても良いのではないですか」

「無理だよ、風間君。大陸で儲けが出ても、本土の車両販売が赤字になれば、工務省は納得せんよ」

「日本車には、欠点も多いですからね」

 人力車に動力を着けた自動人力車といった、軽車両が基本となる、日本の自動車は、短距離移動を基本とした車両であった。数百キロを移動することは、考慮されていない、小型車両ばかりである。大陸を数百キロ移動することを前提とした、アメリカや欧州の車両とは、根本的に設計が異なる製品だった。このため、アメリカの車両は、日本でも重宝されるが、アメリカではすぐ壊れる車と考えられていた。事実、日本の車両は、三百キロも連続で走れば、オーバーヒートするくらいに、脆かったのである。

 日本国内の事情としては、原動機付き自転車から、発展した日本の自動車産業であり、庶民の車という認識が強かった。木造家屋が多い日本では、建機や重機も大馬力を必要としない、小型エンジンが使われていた。日本のエンジンは、民間用の小型エンジンと、軍が使用する大型エンジンに、開発が分かれていたのである。

 横浜で小型のディーゼルエンジンが、独自に開発されたことで、大連では耕運機や稲刈り機といった、独自の車両が開発されたことも事実であった。小型特殊と呼ばれる動力搬送車原動機付きリヤカーは、淡路で開発され造られ始めて、日本本土の地方における簡易的な移動手段として、大量に出回るようになっていた。結果として、本土各地で、様々な工夫が加えられ、単なる荷運び用から、椅子を付けた客車を引いたバスが造られた大型車両も開発されるようになっていた。

 工兵大学校では、様々な用途に合わせて、駆動車と貨車を別個に設計・製作することで開発期間の短縮に成功していた。建機、重機、兵員輸送、戦闘車両、自走砲といった貨車が開発され、駆動車も畦道や山道といった難路走行を対象に開発され、香川工兵大学校で開発された、六輪装甲駆動車や兵員搬送車は、陸軍に正式採用され、量産されたことで、工兵大学校対抗の大会が開催されるようになった。兵員輸送車、ディーゼル式軽便鉄道車、救急搬送車といった車両は、工兵大学校開発車両である。ディーゼル式軽便鉄道車の開発によって、客車を三両程度であれば引くことができ、軽便鉄道路線を引くことができるようになったのである。

 日本の道路事情が悪いことで、小型で多用途に使用できる、小型車両は、生産台数も発売数も不明なまま、日本で浸透していったのである。工務省で把握できない、小型車両が昭和3年には、5万台は走っていると、推定されていた。当時の日本の車両生産は、ようやく3万台に達した程度でしかなかった。地方では、遥かに多くの軽車両が、走っていたのである。






<<<<<>>>>>
 日本のモータリゼーションは、淡路島の鉄工所から、農業車として始まったのである。
<<<<<>>>>>






「閣下、どうされるのですか」

「アメリカの提唱は、拒否せざるを得ない」

「まぁ、満洲での支援は、現状のまま実施すると言えば、脅しにはなるだろう」

「つまり、閣下は知っているぞと言うのですね」

「そうだ、それに来年は選挙だ。原さんは、返り咲く気なのだろう」

「それは、わかりません」

「相変わらずだな、風間君」

 あやかしひとならざるものとしての本文を守る。これは、控えめでありながら激しい行動を取る、風間真人の本質でもあったのだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

ナポレオンの妊活・立会い出産・子育て

せりもも
歴史・時代
帝国の皇子に必要なのは、高貴なる青き血。40歳を過ぎた皇帝ナポレオンは、早急に子宮と結婚する必要があった。だがその前に、彼は、既婚者だった……。ローマ王(ナポレオン2世 ライヒシュタット公)の両親の結婚から、彼がウィーンへ幽閉されるまでを、史実に忠実に描きます。 カクヨムから、一部転載

いや、婿を選べって言われても。むしろ俺が立候補したいんだが。

SHO
歴史・時代
時は戦国末期。小田原北条氏が豊臣秀吉に敗れ、新たに徳川家康が関八州へ国替えとなった頃のお話。 伊豆国の離れ小島に、弥五郎という一人の身寄りのない少年がおりました。その少年は名刀ばかりを打つ事で有名な刀匠に拾われ、弟子として厳しく、それは厳しく、途轍もなく厳しく育てられました。 そんな少年も齢十五になりまして、師匠より独立するよう言い渡され、島を追い出されてしまいます。 さて、この先の少年の運命やいかに? 剣術、そして恋が融合した痛快エンタメ時代劇、今開幕にございます! *この作品に出てくる人物は、一部実在した人物やエピソードをモチーフにしていますが、モチーフにしているだけで史実とは異なります。空想時代活劇ですから! *この作品はノベルアップ+様に掲載中の、「いや、婿を選定しろって言われても。だが断る!」を改題、改稿を経たものです。

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

枢軸国

よもぎもちぱん
歴史・時代
時は1919年 第一次世界大戦の敗戦によりドイツ帝国は滅亡した。皇帝陛下 ヴィルヘルム二世の退位により、ドイツは共和制へと移行する。ヴェルサイユ条約により1320億金マルク 日本円で200兆円もの賠償金を課される。これに激怒したのは偉大なる我らが総統閣下"アドルフ ヒトラー"である。結果的に敗戦こそしたものの彼の及ぼした影響は非常に大きかった。 主人公はソフィア シュナイダー 彼女もまた、ドイツに転生してきた人物である。前世である2010年頃の記憶を全て保持しており、映像を写真として記憶することが出来る。 生き残る為に、彼女は持てる知識を総動員して戦う 偉大なる第三帝国に栄光あれ! Sieg Heil(勝利万歳!)

処理中です...