我田引鉄だけじゃない? 原首相のまったり運営

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我田引鉄だけじゃない?

我田引鉄だけじゃない?07 アメリカ対中政策と日本

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 民族自決は、幻想なり
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 「特区」の支配体制は、本国政府の思惑によって大きく変わっていった。山東省から北京方面に権益を伸ばそうとするアメリカにとって、最大の障害は、味方であるはずの中国国民党であった。

「風間君、アメリカが大陸で、えらく苦労しているようだが」

「はい。山東省を地代だけで、アメリカに譲ったのは正解です、首相」

「アメリカは、中国国民党を支援しているのだろう。順調だったのではないか」

「アメリカは、アメリカの論理で行動しますし、中国は中国の論理で行動します」

「どういうことだ、風間君」

「アメリカは、国民党が、中華の治安維持能力があるという幻想を抱いています」

「何。国民党は、ただの軍閥だ。北方に行けば張作霖などの軍閥も多い、国民党からの要請など、そのまま受けることは無い。そんなことも知らんのか」

「はい。国民党から青島から北京までの鉄道敷設権を得て、ドイツの協力で敷設を開始しましたが、かなりの妨害を受けているようです」

 まぁ、軍閥からすれば、自分達に仁義も切らず、勢力圏を活動している軍隊など敵でしかない。だからこその、「諸族協和」であり、「公正取引」なのだ。金勘定の範囲内であれば、民族が異なっても、言語が異なっても、取引は可能だ。取引は契約で在り、互いに信義があって成立する。一方的に破るような連中には、誰も従わない。

「どうも、易姓革命を起こすような連中を、アメリカは誤解しているようだな、風間君」

「はい」

 易姓革命とは、ちゃぶ台を引っくり返すようなものだ、過去をご破算にできる。代が変われば、そのまま国家が変わるようなものだ、契約は白紙になっていると主張するだろう。アメリカとは、本質的に相性が悪い。

「首相。アメリカは、神との契約ピルグリムファーザーズで生まれた国です。」

 メイフラワー号が、アメリカに入植した時に、誓約で結ばれた。メイフラワー号の誓約Mayflower Compactである。アメリカの国家は、誓約を根幹とする契約国家だ。契約を守らぬ相手など、人間とも思うまい。

「アメリカはどうすると思う、風間君」

「おそらくは、国際連盟の統治範囲を、拡大してくるものと思います」

 国際連盟の統治範囲は、ロシア帝国が勢力圏としていた、満洲、沿海州を中心とした地域だ。トロッキーには、極東ロシア共和国。極東白軍が、蒙古共和国。これは、権限の確保が出来る範囲で、赤軍を分裂させ、独立させているようなものだ。

「風間君。アメリカの要求範囲は、どのくらいになると思う」

「北洋軍閥を力で潰すとすれば、黄河の北方全域ですか」



 アメリカは、中国を制圧するのに、どのくらいの兵力が必要か解っているのか。底なし沼のように、戦力を削られていくぞ。山東省から西に日本が軍を派遣すれば、日本が前面に立たされるところだったか、助かったというところか、流石だな原首相。



「張作霖は、どうする。彼は今、奉天の市長だろ」

「はい。まぁ、満洲については、北洋軍閥とは言っても、アメリカは何も言わないでしょう」

 北洋軍閥の一角を占めていた張作霖は、日露戦争当時に現陸軍大臣田中儀一(日露戦争時は少佐)に命を救われていた。満洲での治安維持を確保するため、張作霖を奉天市長として、満洲鉄道都市警備局は迎えていた。点と線を護るため、面の支配については、ほとんど張作霖に丸投げにしたようなものだった。拡充したと言っても、満洲鉄道都市警備局の兵力は、30万だけど、10万は鉄道の敷設維持管理要員だ。旅順に予備兵力として5万、遼陽に5万、奉天、長春、哈爾濱、ハバロフスクに各3万。残りは、各駅の警備として、大隊を派遣して、張り付いている。山東省に送り出せる兵力などない。張作霖の私兵が無ければ、満洲の面など維持できない。
 炭田や鉱山は、フランスの権益になっているが、フランス軍は、満洲全土合わせても、三千人しかいない。そのくせ鉱山や炭田じゃなく、哈爾濱や長春にほとんどが居るんだ、とても権益を守る気があるとは思えない。せいぜいが威嚇程度だな。

 北洋軍閥の勢力圏は、黄河北方から満洲一帯だ。袁世凱が、皇帝になった時に、叛旗を翻した連中だから、彼らは国民党や中華民国を信用していない。

 山東省から北京を目指すアメリカにとって、北洋軍閥そのものが、排除対象ということになる。国民党が支配する今の中華民国も、アメリカが北洋軍閥を潰すのは歓迎しそうだ。

「首相。問題は、北京を中心としている連中です」

 ボリシェビキのレーニンは、極東へ手を出せる状況ではなかった。レーニン率いる赤軍は、白軍を叩くために、クリミア半島に向けて進撃中だ。クリミア半島が陥落しなければ、こっちに手を出す余裕が、レーニンには無い。

「風間君、ウクライナの戦況は、赤軍が優勢だ」

「イタリアが、義勇兵を派遣し、支援に入っていたハズですが」

「風間君。後方支援が薄い、白軍からすれば、兵だけ送られても持て余すだけだよ」

「はぁ、なんですか、それは」

「イタリアは、義勇兵3万を送ったが、資金面で武器弾薬の後送ができず、反ボリシェビキのドン共和国も崩壊した。クリミアを取られるのは、時間の問題だ」

「クリミアが落ちれば、極東ロシア共和国ですね、首相」

「そういうことだ、トロッキーが敵に回らないよう、対応を頼む」

 困ったものだ。レーニンとトロッキーは政敵同士だが、共産主義者で赤軍を率いているのは変わらない。組まれたら、こちらはかなり厳しい。

「、、、はい。田中陸軍大臣は、なんておっしゃっているんですか」

「極東に派遣する兵力次第だそうだ」

「兵力次第ですか」

「あぁ、極東ロシア共和国が敵に回っても、50万くらいまでは、対応は可能とのことだ」

「クリミアが落ちれば、赤軍は500万は動員できますよ」

「兵站を考慮しなければな、赤軍の欠点は、兵站が細いことだ。前線の規模に比べて、後方支援体制が薄い」

「つまり、侵攻作戦では、戦線を拡大できないということですか」

「風間君、田中大臣の話では、シベリア鉄道沿いに兵力を展開し、こちらを撃破することしかできんそうだ」

「正面から来る敵を叩けば良いということですか。ですが、ハバロフスクは河川航行が可能です」

「クリミアが陥落し、トロッキーが敵に回れば、ハバロフスクを日本は放棄するしかないそうだ」

 ハバロフスクは、米陸軍が5万を展開している、沿海州の部隊を根こそぎ集めても、ハバロフスクの防衛には15万がやっとだろう。確かに、対応できる赤軍の限界は、50万くらいか。

「ハバロフスクの警備局は、一個大隊1000名ほど、相手になりませんな」

「クリミアが陥落した段階で、警備局が駅へ派遣している大隊の家族を、哈爾濱以南に撤収させる。準備を頼む」

「はい」

 哈爾濱の北は、30駅くらいか、3万の家族となれば、10万は必要になるな。哈爾濱の家族を含めれば、20万人分の職員宿舎建設、長春、奉天、大連に建設しよう。哈爾濱は戦場になりかねん。

「首相。公務員のための職員宿舎建設であれば、予算は出ますか」

「あぁ、風間君。それなら大丈夫だ、問題ない。商工省は喜んで対応してくれるよ」

 満洲鉄道都市警備局は、陸軍に所属しているが、あくまで国営企業の公務員だ。財界への利益誘導ということで、対応はできるということか。旧ロシア国境と哈爾濱までは500キロくらいか、縦深としてはポーランド国境からモスクワの半分ってとこか。本当に広いな、ロシアは。

「わかりました、準備にかかります」






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 大正10年(1921年)5月10日、クリミア半島セヴァストポリ要塞包囲。
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