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祟り神

葛葉の膝枕、世の裏

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 俺の名は、渡辺綱。
 なんとか、葛葉を取り戻した。白銀の大きな尻尾と狐耳が、綺麗でとっても可愛い。
 やわらかくて、気持ちが良いなぁ、、、葛葉の膝に抱かれながら、気持ちよくしていると、
「貴斗は、おらぬのか」
 うん。颯のところ。
「そなたについておると思っておったが、違うのかや」
 貴斗は、颯とだと話せるから、時々、颯に憑いて行動している。颯も貴斗には離すけど、俺に言えない話をしてるし、貴斗は話してくれないなぁ。
「颯は、そなたの闇を与るあずかるつもりのようじゃな」
 どういうこと、
「そなたの邪魔をする者を、闇に葬るのじゃ」
 闇に葬るって、まさか、
 立ち上がろうとするのを、葛葉が止めた。
「ならぬぞ、綱。無駄になる故な、それに、さして問題もあるまい」
 藤原長者、前関白さきのかんぱく藤原師輔の暗殺など、簡単にできるわけがない。
「護衛がおらねば、それほどの難儀になるまいに」
 護衛が、いない、、、
「弓を射こんだのは、藤原の表警護、そなたと仕合ったのは、裏警護じゃぞ。警護が出払っておる」
 そ、それって、保昌様や兼家様が承知ってことなの。
「承知はしておらぬであろう。ただの、此度の五位は、主上の勅なのじゃ。妾を殺したのが、藤原師輔とあれば、保昌とて罪に問われようし、兼家もただではすまぬ」
 じゃぁ、なんで、葛葉を殺そうとしたの。俺を殺すのもためらうし、
「殺気は少なかったであろう、綱」
 うん。だって、手加減じゃないけど、殺せないって感じだった。
「綱が死ねば、妾はだまってはおらぬ。流石に、京洛を瘴気に沈めることにはなろう。妾が死ねば、綱は騒ぐのであろう」
 当たり前だ。たとえ、藤原長者だろうと、ただではすまさん。
「だからじゃよ。殺せぬが殺す命令が消えぬとなればどうする」
 命令を出す人を消す、、、
「綱がの。妾が死ぬのを見ているのなら、妾を殺して、闇に葬る。綱が邪魔に入るならば、師輔殿に責を負ってもらわねばならぬ」
 でも、それって颯がしなくても、
「颯からすれば、立場を明確にするということじゃ」
 立場を明確にするって、
「ほほほ、綱を愛すると宣言し、綱以外の男の命なぞ、塵芥に等しいと宣言すること」
 それが、颯の立場なの。
「そうじゃ、颯にとってな」
 ねぇ、葛葉は、
「綱、、、」
 葛葉は、どうなの、
「綱は、妾にとってのおのこじゃな」
 男と女ってこと、葛葉
「そうじゃ、綱には悪いが、まだつまとは呼べぬな」
 まだ、だね。
 そのまま起き上がるようにして、葛葉を押し倒した。葛葉は、そのまま受け入れるように、俺を抱き留めた。
「綱や、妾は、あやかしひとならざるものじゃ。人には逆らえぬ」
 え、葛葉、
「妾は、あやかしひとならざるもの故に、綱を受け入れることとなる。命を救われた恩義もあれば、魂を持つ者としても、そなたに欲しいと言われれば、妾を捧げよう」
 ねぇ、葛葉。
 少し、葛葉が俺の髪を弄るようにしながら、
「すまぬな、綱。妾自身に区別がつかぬのじゃ。妾の女は、そなたの男を欲しがって濡れておる」
 袴の併せは、尻尾のために広がっていて、下帯の無い、女陰ほとが、蜜に濡れるを顕していた。
 俺は、惹き込まれ、葛葉に溺れるように、愛し合っていった。





講談師には、その後のお話となります。
 夜が明けますと、閨にて倒れ、吐息こと切れておりました、前関白さきのかんぱく藤原師輔が見つかり、病死として届けられたそうにございます。
 京雀には、そのようなことは、さして気にされることも無く、瘴気が薄くなった京洛では、杜湯の話や、信太から御子寺へ千年白狐様がお入りになられたことの方が、大きく噂にながれたのでありました。
「ほぉ、信太から御子寺へか」
「はい。父上」
「道長、稲百俵ほど寄進して、逢って参れ」
道長の父である、関白兼家は、
「父上の死を悼み、精進潔斎じゃとな」
そう言って笑った。
「そういえば、父上。御子寺は、寺でしたね」
「そうじゃ、四条の宮様がおられる門跡寺院じゃぞ」
「了解しました。直ぐにでも」
 稲百俵とは、籾となった米で百個の俵となります。俵一つで五斗(平安期だと30キロ程)であったことから、十斗=一石とすると五十石となります。籾などで、差し引かれるところはありますが、そこらの御大尽とは違った、格を見せつけるような寄進でありました。
 米百俵積んだ荷車を、先導するように道長を乗せた牛車が、都大路を練り歩いて、御子寺へと向かうのでありました。
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