琉球お爺いの綺談

Ittoh

文字の大きさ
上 下
452 / 511
未来if

歴史if 激変する環境「穢される青」

しおりを挟む

 西暦2101年を過ぎた頃、崩壊の序曲は黒く染まった太河の氷が解けて、後に21世紀海進と呼ばれる37mの海面上昇を招いた。
 急激な海面上昇と津波の頻発は、そのまま海岸域に巨大な都市を形成していた世界を汚泥に埋めて、臭気の漂うヘドロの穢れに包まれていったのである。

 海岸という水辺は、居住区でもあったが、海進はヘドロの海を押し上げて、そのまま都市部を呑み込んでいったのである。

 黒き泥濘、黒き雨が降り、川に集まり、流れる先は、海であった。微かな穢れであれば、紺碧の海にシミとなる程度で収まり、海そのものは宇宙から見て青く輝いている。しかしながら、世界各地に穢れが巻き散らされ、紛争の中で処理されることなく増加していった結果、「青い地球」はどす黒く変色していった。

 変色したことで太陽の熱が籠り、氷床は溶け出して、海進が進んでいった。1000万を超える海岸線の都市は、ことごとくが海へと沈んでいって、ヘドロの中に高層ビルが立ち並ぶ腐海へと変貌していった。

 食料事情の悪化は、凄まじい勢いで広がって、病気や飢餓による死者数は、数百万単位の規模で拡大していった。

 金髪碧眼の少女は、そんな世界で、ヘドロに沈む都市を見ながら、
「滅びるって、本当に、あっという間なのね」
呟いていた。
「はい、お嬢様」
応える声は、年配の渋い男が放つ声。
「祇園精舎の鐘の声か・・・」
「盛者必衰ですか、お嬢様。滅びゆくのは、人類そのものにございますよ」
「そうね。・・・建設は、順調なの立花」
「はい、筑波山系に掘り込むように、地下都市建設が進められています」
 百万人ほどを収容する、巨大地下都市の建設、都市そのものを閉鎖空間として活用する巨大な施設、建設計画ですらすさまじい規模となっていた。

 滅び逝く世界へ、抵抗するように、人類は生存圏の確立を急いでいた。当初は、食糧供給を図る、巨大地下農場の建設計画であったが、海進は農場建設だけでなく、都市建設も並行に進められていったのである。

「この都市では、どのくらい延命できるの」
「設備の延命を図っても、二百年というところでしょう」
「広告では、五百年と記載されているけど、間違いってこと」
「地球環境が、百年で回復する、という見積りですから」
「立花は、違う意見ってこと」
「そうですね、ここまで環境が破壊されたとすると、破壊された状態で安定すると考えた方がよろしいかと」
「やはり、人間そのものを、改造するのね」
「はい。もうしわけありません、お嬢様」
 人工心肺装置・・・黒き灰に塗れた空気の中でも、呼吸を可能とし、体液の濾過機能を付加した、人類が生き残るための施術。黒き雨に耐えて、生き残るための生残戦略として、人間の強制的進化と位置付けられていた。
 父の研究成果を示す、そのための手術に、あたしは向かっていた。
「手術が成功すれば・・・弟は、あの建物で暮らせるのね」
「はい・・・」
 手術が成功すれば、人類は、この穢れた世界でも、生残戦略を立てることができるようになる。
「明様は、自分が変わると、言っておられましたが」
「眠ってるんでしょ」
「はい・・・」
「頼むわね、立花・・・明のこと」
「お任せください」
 エレベータの扉が開き、白衣というよりは、防護服に包まれた者達が、あたしを誘導し、立花はそのままエレベータに残り戻っていく。

「人類の矯正進化、可能性と将来」
 父の論文は、環境が激変する世界に、人類そのものが順応するための、矯正進化による方策を示した論文であった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

処理中です...