琉球お爺いの綺談

Ittoh

文字の大きさ
上 下
469 / 511
琉球お爺ぃ小話

戦国椿説景03 人頭戸籍は、名主台帳

しおりを挟む

 渡辺荘「なにわ」の税制は、難しいモノではなく、人頭税を基本とした。北に淀川、東に平野川、南に大和川、西が瀬戸内乃海に囲まれた、渡辺荘に入るには、6文銭の支払いが必要となる。中に住んでいるモノが、「なにわ」から出るのは無料だが、入るには6文かかる。これは、人もあやかしひとならざるものも同じであり、6文払えば「なにわ」に入ることができる。

 渡辺の名主なぬし台帳は、母方の家を基本として、母から子への記録を基本としている。これは、延喜格式で決められた、母が人であれば人、母があやかしひとならざるものであればあやかしひとならざるものという考え方に基づいている。また、平安期は、夫が妻の許へ通う形が基本で、婚姻が成立する形であった。

 渡辺党家祖である渡辺綱も同じであり、人だけでなくあやかしひとならざるものを含めて妻の数が多く、それぞれに子を為しているが、名主なぬし台帳は母方を基準に作成されている。しかしながら、名主なぬし台帳には、生まれた子供が数え七つになった時に、台帳に名前が記載され、父名が記録される。

 このため、渡辺荘の名主台帳では、母の夫が記載されている。夫の数は、ほとんどが一人であるが、複数であることも多く、子供は母方で育てられることが基本となっている。子供が数えで七つになった時に、台帳に名前が記載される場合、子供の父名を添えて記載されるが、父名についても原則1名だけだが、母があやかしひとならざるものの場合は、複数名記録されることも多い。子の母は、原則として一人であるが、養母や猶母に名付け母を含めて、複数の名前が記載されることも多かった。

 渡辺荘の名主なぬし台帳には、生まれた時に台帳に記録されるが、元服すると戸籍が個別に作成される。元服記録には、一般には父親と母親が記録され、武家や商家の場合は、男であれば加冠役、女であれば裳着役、名付け親や媒酌人といった、様々な後見人役が記される。後見人の数は、そのまま家格付であり、人とあやかしひとならざるものに関係なく、家にとっての一代イベントであった。
 渡辺党三代弼は、元服と同時に主上おかみの嫡女を難波斎宮院として迎え、弼自身が難波斎宮院司家筆頭となったため、後見人に詠み人知らずおかみが就き、加冠役には斎宮院の母宮が就き、古今東西に無いイベントとなった。参列者には、諸国から渡辺一門だけでなく、各地のあやかしひとならざるものが訪れたため、本来三日間の婚儀が十八日かかったと記されている。

 斎宮院司家とは、あやかしひとならざるものと同じく、「ひとならざるもの」であり、司家は家の名前で在り、個人として存在していない。つまり、斎宮院が任期を終えると、斎宮院家預かりとなり、すべての司家が仕えるモノとなる。斎宮院が身籠り、子が生まれると、男であれば司家に、女であれば斎宮院補として育てられる。七つになると、子の父にはすべての司家が記載され、男はすべて斎宮院の司となる。伊勢斎宮、賀茂斎院、難波斎宮院、三家の斎宮院家は、基本的にどこも同じ形である。

 通い婚を基本とした平安期の場合、子供の血筋を辿る場合、母方は辿りやすいが、父方は確認できないことが多い。このため、平安期の男子は、母方の家で育てられ、長じて妻の家に入る形となる。男が独立して屋敷を建てて、妻を屋敷に迎えると、新たな一家が形成されることになる。

 つまり、日ノ本では婚儀の形からすれば、独立して一家を立ち上げることで、男は自分の家を立てることができたのである。「なにわ」渡辺津を拝領した渡辺惣官家は、様々な渡辺の本家本流であるが、日本全国に家として渡辺を拡げていったのは、それぞれの場所で血族の男が、一家を立てて独立していったことにある。

 「なにわ」の中で、名主なぬしという言葉は、人とあやかしひとならざるものの双方が使う言葉であり、名前によって、本人が特定できたためである。名前の主を特定することで、租税対象を固定することができ、住民の把握が可能となったからである。

 戦国期に入ると、集団戦闘と乱捕りの増加から、捕縛と凌辱が増加し、子の父が特定し難くなっていった。乱捕りは、男女関係なく生じる結果であったが、母方が基本であったため、男を対象にしても影響が無く、女を対象にした場合だけ、問題が生じる可能性があっただけである。まぁ、女性当主にとって、種が誰であろうが、自分の子であるが、男性当主にとって、種が誰であるかが、問題になるからである。女性を当主として側室に迎えることで、人質代わりとするという対応も多かったので、一概に女性当主が少なかったわけではない。

 難波渡辺荘の名主戸籍は、家祖渡辺綱以来の記録であり、坐摩、住吉、難波、浪花の各社に保管され、難波宮斎宮院に写しも保管されていた。幾度かの火災や戦で、社が焼けたことがあったが、社の写しから戻すことで、記録の保全に努めていた。名主戸籍は、累代の資料であり、「なにわ」発展の歴史そのものであった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

処理中です...