琉球お爺いの綺談

Ittoh

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竜紋笹竜胆

宵闇胡蝶綺譚:世界に飛び出した、竜紋笹竜胆 西海竜王が嫡孫玲の肌に浮かぶは、竜紋の|徴《しるし》

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 日ノ本があやかしひとならざるものの長、渡辺惣官家三代渡辺弼が霊代、西海竜王が嫡孫、渡辺玲。

「玲様」

イツキか、わらはのことは、玲で良いぞ」

「え、それは」

 八幡衆の長は、日本のリアルチート、鎮西八郎源為朝であったが、旗艦「建御雷タケミカヅチ」の船長は、渡辺惣官家三代渡辺弼が霊代、西海竜王の嫡孫の玲であった。

「かまわぬ。イツキと将は、わらはつまじゃ」

「でも、」

 肌に浮かぶ竜紋は、海民うみんちゅうが飾る、刺青ハジチと異なり、肌の奥底から浮かび上がる紋様となっていた。気を纏う流れを、肌に映すように、淡く蒼白い光を発していた。イツキは、玲にキスをして、背中から抱く様にギュッと抱きしめていた。

「本当に綺麗だ、玲さ、、、」

「玲だよ、イツキ

「は、はい。玲」

イツキは、わらはの竜紋が、綺麗に見えるか」

「はいッ。とても、綺麗です」

「嬉しいものよ、イツキ

 玲はイツキを、抱き寄せるように、ギュっとすると、そのままキスを交わして言った。

「そなたは、あやかしひとならざるものが傍におるのを、許してくれるのか」

「え。うん。どうして、玲」

イツキ。妾《わらは》を含めて、あやかしひとならざるものは大陸を追われ、日ノ本へと逃げ込んだ」

 玲は、あやかしひとならざるものは、主上おかみを「まつろう」ことで、日ノ本で社の眷属しんしとして生きることを許された。人とあやかしひとならざるものが、共に棲む世界、人を母とすれば人、あやかしひとならざるものを母とすればあやかしひとならざるもの。そんなあやかしひとならざるものの歴史を語り、最後には、人が持つ本音も話してくれた。

「でものぉ、イツキわらはの母は人なれど、それでも人は、わらはを人とは呼ばぬ。あやかしひとならざるものなのじゃ」

「姿形が違うから」

「そうじゃな、人の姿に化生しても、裳着となれば、本生を晒さねばならぬ。竜の血が強すぎたのじゃ」

 玲の本生は、「竜神」。それも、神代の生き残りとも言われる、西海竜王の血が色濃くでたらしい。それでも、血が薄いために、よほどの相手でなければ、「竜神」としての本生を顕すことは無い。ただ、蒼い肌に竜紋が浮かぶことは、化生できずに、晒すこととなる。人との異なりは、明確であり、隠せるようなモノではなかった。

「為朝ならば、わらはの本生を晒せるであろうが、為朝は知ろうとせぬ」

「玲の本生って」

「竜に象形無く、風と波の化身となるが、西海竜王の姿じゃ」

「竜って、自然の象徴みたいな感じなのかな。玲」

「そうかも知れぬな」

 玲の話によれば、竜王の血は、あやかしひとならざるものの中でも、希少種であり、竜王との間に子を為せる者はさらに少ないという。竜に愛されることは、海に愛されることで在り、竜に嫌われるモノは、海を追われるモノとなる。

 西海竜王は、風と波を徴すしるす

「玲が、望めば、風も波も自在ってこと」

「そうじゃな。しかし、歪も生まれる」

「歪って」

「竜の力は、強すぎるが故に、放つ力の加減などできぬ。風を送れば、帆を破るやもしれぬし、帆を膨らますことも出来ぬかもしれぬ」

「竜の力は、加減が効かないんだ、玲」

「そうじゃな、力が大きすぎて、あやかしひとならざるものは、己で己を制することはできぬことがある。それこそが、あやかしひとならざるものが征伐される理由、そのひとつとなったのだと思う」

 日ノ本では、荒ぶる神となれば、それこそ自分では止められない災厄となる。だからと言って、災厄を運ぶ神は、豊穣を運ぶ神でもあったりするし、航海や旅の安全を約す神ともなる。災厄は幸福の表裏でしかない。

「災厄と幸福は、表裏一体ってこと」

「どちらかだけを選ぶことはできぬ、両方を許容せねばならぬ、日ノ本が民は、国が出来るよりも以前から、災厄と幸福を表裏一体としてきた」

「災厄は、無くならない。幸福も、無くなったりしない」

 大震災で、幾たびも被害を受けて、立ち直るために、手を合わせねばならない。災厄で被害を受けるは、人もあやかしひとならざるものも変わらぬ。暴走した禍ツ神まがつかみは、すべてに災厄を撒き散らして、結果に嘆き悲しむのじゃ。

「だからといっても、止められない」

「山神はそうじゃな、火の御山国津神くにつかみは、力を受けてどこかで発散させねばならぬ」

「火山かぁ、何時起きるかはともかくとして、爆発はする。災厄は誰にも止められない」

イツキ。日ノ本には、毎年のように台風が吹きすさび、大水を呼び、雪に埋まる。時には火山が爆発し、地震が生じる」

 そうだなぁ、普通だと思っていたけど、日本って災害大国なんだよなぁ。毎年のように、日本のどこかで被害が起きて、災厄となって降り注ぐ。

「それでも、日ノ本に住むなら、災厄を許容するってこと」

「人には、災厄を許容できるように、あやかしひとならざるものも許容してもらうと嬉しいのじゃ」

あやかしひとならざるものが人を許しではないの」

あやかしひとならざるものにとって、時に人は眩しいくらいに輝くモノじゃ」

「為朝のこと」

「そうじゃ。まだ幼子であったが、凄まじいまでに、強く滾るほどに、追い求める子であったが、今も変わらぬなぁ」

「玲は、ほんとに為朝が好きなんだねえ」

「そうじゃ。あやかしひとならざるものとは、本来は怠け者じゃ。食う寝る馬鍬う以外は、さして求めはせぬ。殺し食って、馬鍬って、寝れれば、時が過ごせる。時に思うモノじゃ、何故に、人は明日を気にするのであろうとな。イツキは、どうなのじゃ」

「お金が欲しい、強くなりたい、頭も良くなりたい、、、欲にまみれてるけど、満足はしないなぁ」

あやかしひとならざるものが、人に勝てぬのは、負けても負けても人は満足せず、勝つまで挑み続けることじゃ」

あやかしひとならざるものには無いの、玲」

あやかしひとならざるものは、格差があって当たり前と考え、弱肉強食を基本とするが、必要以上に殺すこともせぬ」

「玲。人は、過ぎる欲を持つってことなのかな」

 モノに溢れても、欲を満たせることはない。腹一杯食っても、美味しそうなモノを欲しがる。愛し合えている以上に、相手を求める。大量に食料を輸入しながら、大量に食料を廃棄する、そんなモノに溢れかえっている国に、ぼくは生まれた。

 人が、あやかしひとならざるものと暮らせれば、変わるのだろうか。渡辺綱って人は、互いに相手を求めれば、少しづつ一緒に暮らす世界が築ける。格式を追加して、少しづつ人との共棲を拡げる。

 古代の祝詞の中で、災厄と幸福は、同じ神から生まれる。日本は、助け合って生きねば、生きていけぬほどに、生きるのに過酷な、災厄の多い国なのである。
 古代の祝詞の中で、命を繋ぐのは母であり、父を決めるのも母とされた。
 天平の時代。千余年の祝詞の中で、主上おかみを「まつろう」ことで、人は人、あやかしひとならざるもの眷属しんしとなった。
 延喜の格式で、人を母とすれば人、あやかしひとならざるものを母とすればあやかしひとならざるものと定められた。

イツキ。日ノ本では、あやかしひとならざるものを征伐しても、それほど変わらぬ国になったのだろう。あやかしひとならざるものを受け入れるに、時はかかるかも知れぬが、あやかしひとならざるものを受け入れてもらえると嬉しい」

「そうだね。何ができるかはわからないけど、手伝うよ、玲」

 そっと抱き寄せて、ぼくは玲と同じ褥についた。玲と為朝の子を護るように、将が玲の背中を抱く。
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