琉球お爺いの綺談

Ittoh

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はじめての世界大戦

ifはじめての世界大戦後 「パンとサーカス」求める姿は「足るを知らず」

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 バルト三国が呑み込まれ、ポーランドも選挙の中で、全体主義勢力に呑み込まれていった。

「新渡戸先生。何故、戦争になるのでしょうか」

 一個軍集団相手に、激戦の末に全滅した義勇兵は、日本の国論を過激な方向へと動かしていた。亡命してきた、ラトビア首相の謝辞と哀惜の意は、陛下への上奏と共に、日本全域を駆け巡っていた。

 国際連盟の事務局もあわただしく、錯綜する情報の分析に追われ、連盟各国大使への連絡に追われていた。事務局を務めていた新渡戸は、局長補佐であり、実質的には事務処理は、すべて新渡戸の仕事となっていた。上海事変の発生で、邦人および旧ロシア帝国臣民救出に動いた、護衛総体は難民となった彼らを、遼陽の関東都督府に送り届けた。アナスタシア殿下は、横浜から御所への礼を述べるために参内し、浜離宮に上皇陛下をお見舞いなされたのである。横浜への帰郷を見届けて、風間は、横浜からジュネーブへ大艇に乗って、悲鳴を上げる国際連盟事務局の応援に赴いたのである。

「風間君。足るを知らねば、欲望のままに戦うことになろうな」

「足るを知る、、、老子ですか」

「あぁ。自分自身を知ることは、身の程を知ることであり、自らが持っていることを知ることだ」

「自分が持っていることを知るですか」

「今、生きていることを感謝し、明日の命に不安が無いことを感謝する、だよ風間君」

「なかなか、難しいですね」

「君は、皇女殿下のため、皇女の姉殿下のため、この事務局で仕事をしてくれているのだろ」

「はい。他に望みはありませんから」

「君と出会って、思うのだよ。よほど、あやかしひとならざるものの方が、人間らしいのではないかとな」

「ですが、私も軍人ですよ」

 皇女殿下をボリシェビキから救うため、ボリシェビキを殺し、上海では殿下脱出の為に、多くの犠牲者をだしてしまった。

「だからこそだよ。君と同じように、ラトビア、エストニア、リトアニアに派遣された義勇兵のような、足るを知る軍人を、死なせてしまった」

「生きておられる方もいました」

「君に迎えに行ってもらったな」

「はい」

 政府首脳だけでなく、国外へ逃亡を図る多くの人々を救うため、117名の派遣軍は、三日間の間、数百キロを移動しながら、敵軍を翻弄し、最終的には動員された全軍団に包囲され、最期は白兵突撃を遂行した本隊と、通信電波強度を逆探しながら、闇に紛れて軍司令部を強襲しセミョーン・ブジョーンヌイ将軍以下司令部員を爆殺し、指揮系統を破壊して、軍団機能を完全にマヒさせたのである。白兵突撃をおこなった本隊は全滅、司令部襲撃した5名は、そのまま、脱出行を開始して、半年ほどかけて、南に抜けて黒海を回り、トルコに到達して、日本領事館に報告したのである。奇蹟の生還を果たした。

 軍は、当初、生きていることを信じず、全員が私服であったことで、スパイの可能性までかけられていた。小野寺を知っていた私が、急遽、イスタンブールへ飛び、本人を確認して、大艇を用意し、本国への帰還を図ったのでした。

 大艇が用意され、南方経由で横浜へと帰還、南洋庁職員という形で、陸軍へ報告し、桂離宮へお見舞いに行かれた、陛下と離宮で拝謁し、ねぎらいの言葉をかけられたのでした。書類上は彼らは当日はポーランドで事務処理を行って、義勇兵の派遣軍にいなかったとされて、ドイツの同盟国となったポーランド領事館に派遣された。領事と共に拘束され、日本へ送り返されたポーランド義勇兵は、そのままドイツ大使に任ぜられた杉原と共に、ドイツへと赴いたのである。ドイツに赴いた義勇兵には、バルト三国から生きて戻った5名も含まれていたのである。

「彼らは、今はポーランドです。先生」

「そうだな。風間君。日本の現状も思わしくはないのだろ」

「戦を叫ぶ民衆に、売れるからと迎合する新聞も、あまり良い状態ではありません」

「パンとサーカスとは羅馬ローマの詩人は、良くいったものだ」

「権力者は、食料と娯楽パンとサーカスを提供できるのであれば、国民に支持される、話ですか先生」

「戦争も千里離れたら、娯楽になるのだろうよ、哀しいことであるがな」

 日清、日露、世界大戦と勝ち続けた日本は、領土を拡大に拡大を重ねて、内地に住まう人間からすれば、戦争そのものが、遠い世界の出来事になっていったのである。外地の人口を合わせれば、1億とも呼ばれる人口の中で、100人の死者は、身近に感じられるものではなく、遠い世界になっていくのだろう。

「上海では、米軍の南下と共に、中華民国軍が暴走して、邦人救出に移行したのだな」

「はい。上海を逃げ出した人達で、海は埋まっていました」

「護衛総体は、上手く、脱出の支援はできたのだな」

「中国人を含めて、3万人ほどの難民を、船に乗せて、大連と営口へ運びました」

「難民が多くなったが、関東都督府が、対応はできたのか」

「ポーランドからの亡命者は、大半がアメリカで対応してくれましたし、熱河省の墾田も開発は進んでいますが、働き手が少ないので、歓迎されているようです。それに、義勇兵への応募が、内地を含めて増えています」

 新聞が煽っていることもあって、内地での義勇兵への応募は、工務学校の修了生だけでなく、在校生を含めて、非常に多くなっていて、万で数えるようになったのである。担当官が、断るのに苦労しているという話が、政府に報告されていた。
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