上 下
26 / 44

神官ミリアは神の言うことしか聞きません 4

しおりを挟む
「ここ、か?」

 ルビィの地図を元に女神ユーヴァを奉ずる教会へと向かうと、そこは安い飲み屋街の真っただ中だった。

 当の教会も外観は場末のバーにしか見えなかった。

 本当にこれが教会だろうか。
 いやしかしルビィが俺に嘘を教えるはずがないし――。

 俺はとりあえず、ドアを開けて中へ入ってみることにした。

「やっぱりバーだろここ……」

 棚に並ぶ酒瓶と長いカウンター。
 完膚なきまでにバーであった。バーでしかなかった。

 そしてカウンターの向こうには一人、女がいた。

「あん……? 誰だいあんた見ない顔だね」
 鋭い目つきで俺をにらんでくる女は、褐色の肌をしていた。

 服装は白いシャツにチョッキっぽいベスト……バーテンダーだろう。
 
 こりゃ完全に間違えた。

 俺は嘆息しつつ言う。
「……ちょっと場所を間違えたみたいだ。なあ、ここらに教会ってあるか?」

「教会ぃ? 教会ならここさ。あんたここが教会以外のなにに見えるってんだい」

「バーとかバーとか、あとバーに見える……」

「ちなみにアタシは見ての通りしがない神官さ」

「いやバーテンダーにしか見えねえし、神官は自分のことしがないとか言わねえだろ」

「まあ、とにかくすわんなよお客人。アタシも暇してたところでさ、一杯付き合いな」

「神官は信徒のことお客人とか呼ばねえだろ……」
 いちいち突っ込んでいては切りがないので、俺は大人しく席につくことにした。

 酒のグラスを片手に、カウンター越しに女と向かいあう。

「アタシの名前はラーニャ。もう長いことこの街で神官やってるよ。ま、最近は安い飲み屋に信徒をとられて、祈りを捧げる機会はとんとなくなっちまったけどね」

「普通、教会は飲み屋と信徒を取り合ったりしないけどな……」

「信徒は来なくなるわダチは次々結婚しやがるわ、アタシばっかり取り残されてこの様さ。ったく寂しいったらないよ」
 ラーニャはグイッと酒をあおる。
 唇の端からつー……っと垂れていく酒の滴がエロい。

「……まあ、友達結婚すると寂しいよな」
 わけもわからなかったが、俺は話を合わせてやることにした。

「お、わかるかいあんた? 本当そうなんだよ。……ダチの結婚式に出るとさ、あいつら気使ってこっちにブーケ投げてくんの。すっげえピンポイントで飛んでくんの、ブーケが。やめろっつーの、なんだよそのコントロール、アタシがみじめになるだろうが。思わずキャッチしちゃったじゃねえか」

「……キャッチしたのか」
 いやしかし、俺は教会にレベルアップにきたはずのになんで女の酒に付き合っているのだろう。

「いやね、アタシもね、もてないわけじゃないんだよ。でもさ、神官やってるなんて言うとさ、男も尻込みするわけ。さすがに神職汚すのは怖いみたいでさ。いいから勇気を出して聖域に踏み込んでこいっつーの。てめえらの踏み込みが足りないせいであたしが男もないまま三十路の領域に踏み込んじまったじゃねえか」

「…………っお、おう」

「そんなこんなでさ、人生っていろいろあるわけよ――あんたも酒飲みながら胸のもやもや吐き出しちまいな。アタシでよけりゃ聞いてやるからさ」
 ちらっ、と俺の目をのぞいてくるラーニャ。

 なるほど、どうして彼女が急に自分の身の上話をしてきたのかわかった。

 先に自分が話すことで、俺が告解しやすい雰囲気をつくってくれたのだ。

 そのへんの気遣いは、かろうじて神官っぽい。かろうじて。

 しかし――。

「気つかってもらっておいて悪いが……俺、今日はお悩み相談じゃなくてレベルアップに来たんだ」

「ん? なんだいそっちかい。おいおいそれ早く言いなって。あんたが疲れた顔してるから、うっわ、意気消沈ボーイだわってアタシつい気使っちゃだろうが」

「まあ、疲れてはいたけどな」
 ここ来る前に疲れる行為をしてきたので。
 今日のルビィはとてもよかった……。

「じゃあ、これにあんたの武功を書きな。あるんならね」
 ラーニャは俺に紙とペンを差し出してくる。

 この紙に俺が今まで成した偉業を書きつけ、女神ユーヴァに報告するのだ。

 しかし俺の武功か……。
 そう言われるとないんだが。

 戦闘タイプのチートじゃないので、姑息なことしかしてこなかった。
 
 まあ取り繕ってもしかたがないので、俺は正直に書くことにした。
 
『転生者ユータロウのハーレム要員ルビィを寝取ってめちゃくちゃセッ○スしてやった。ついでに同行者のリューともセック○してやった。ちなみに、どちらとも付き合う気はない。セフレ扱いするつもり』

 ラーニャは、俺が武功を記した紙を見て、頬を引くつかせた。
「……あんたさあ、いくらユーヴァ様がちょっとあれな女神だからってこんなん武功として認められるわけ……――めっちゃ認められてる!?」

 ラーニャが紙を燃やした瞬間、あたりに金色の粒子が舞い散った。

 金の粒子は俺の頭上でぐるぐる回る。

 神官でない俺にも、女神ユーヴァが喜んでるのがわかった。

『グッジョブ、君まじグッジョブ』と俺にサムズアップをしてくる女神の姿が、ぼんやりと頭の中に浮かんだ。

 ……やっぱり、こういうのがいいんだ。
 ゲスな俺が、正統派の主人公に嫌がらせして苦しめる様を、女神ユーヴァは望んでいるらしい。

「……おおう」
 体に力がみなぎってくる。
 自分の格があがったのがよくわかった。これなら――。
 
「……あんた、いったい何者だい?」

「名前はモトキ、しがない転生者だ」

「転生者!? 転生者ってことはあんたあれかい、こっちに家族とかうるさい親戚もいないってことだろう? しがらみオールナッシングの優良物件じゃないか!」
 ラーニャはガッと俺の肩を掴んでくる。
「あんた、火遊びなんかやめてさ、アタシと身固めないかい? とりあえず今夜は既成事実つくらないかい?」
 シャツのボタンをはずし、谷間をちらちら見せつけてくるラーニャ。

 汗のしたたる浅黒い肌、深い谷間……俺はごくりと息を飲む。

「まあ……それはまた後日」
 据え膳は全部いただくタイプの俺なのでいずれラーニャともやるつもりだが、今日はひとまず我慢することにした。

 今日は早く、あれを試したかった。

**

 その後、俺は夜にまたリューと一緒に墓所に向かい、朽ちた死体を掘り起こした。

 そして――

「よっし……!」

 俺はついに、新たな力を手に入れた。

 朽ちた古い死体を見て、その生前の姿を再現する力を。

「これなら……」

 もうミリアは攻略したようなものだ。

 金髪を振り乱して声をあげるミリアの声を想像し、俺はごくりと生唾を飲んだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

勇者パーティーを追放された俺は腹いせにエルフの里を襲撃する

フルーツパフェ
ファンタジー
これは理不尽にパーティーを追放された勇者が新天地で活躍する物語ではない。 自分をパーティーから追い出した仲間がエルフの美女から、単に復讐の矛先を種族全体に向けただけのこと。 この世のエルフの女を全て討伐してやるために、俺はエルフの里を目指し続けた。 歪んだ男の復讐劇と、虐げられるエルフの美女達のあられもない姿が満載のマニアックファンタジー。

処理中です...