上 下
76 / 124
4章 500年待ち続けた約束

72話 シリアスだけど、ちょっと違う

しおりを挟む
 村長宅に乗り込んできた少女に連れられて、ミント、ロキ、そして終始困った顔をしながら汗を拭く素振りを見せる村長と一緒に村の中心にある少し拓けた場所、ミント曰く、広場に到着した。

 ミントとロキの視界に爽やかな笑みを浮かべる馬鹿2人を見つける。

 それを見たロキは片方が徹である事を認識し、もう片方の線の細そうな男前の顔を知らなかったので隣にいるミントに問う。

「ウチの馬鹿の隣に居る奴は誰だぁ?」
「あれはジャフと言いまして、私の婚や……幼馴染です……」

 何やら言い直したのか分かった気がしたロキであったが、徹とまったく似てないのに魂の双子のようにソックリに見える男を少しでも他人にしたい気持ちを汲んで聞き逃した事にする。

「あのクソガキの双子より似てる気がするなぁ~」

 おそらく、ミランダの食堂で食事時で忙しい思いをしているだろうな、と思うロキは自分の腹を摩る。

 1つ頷くとミントに言う。

「飯がまだでよぉ? 一緒にどうよ?」
「そう……ですね。ご相伴に預かります。オゴってくださるのですよね?」

 ロキがミントに苦々しい表情を浮かべ、「しっかりしてやがるなぁ」と、ぼやきながら対応に困る村長を無視してミントの肩を押すようにしてこの場から離れようとすると背後から声が響く。

「まい すぃーと はにー ミント!! フィアンセのジャフはここだよぉ!?」
「ロキ君! 君の大親友の徹君もここですよぉ!!」

 その声にロキとミントは本当に嫌そうに振り返った。







 本当に嫌そうな顔を見せるロキとミントの2人に信じられない思いを強くするマイブラザーこと、ジャフと顔を見合わせて被り振る。


 ロキがいつもと違う!?

 いつもなら大親友の俺を見つけたら、肩に腕を廻して「何してんだぁ?」とか言ってきそうなのに……何があった!?


 過去の記録を漁ってもそんな事実は確認されないとか聞く気は俺にはない。

 ジャフも俺と似たような事を考えているようで事情が分からないらしい。

 それでも俺達は嫌そうに近寄る2人に親愛の情が溢れる笑みを浮かべる。

 面倒そうに頭を掻くロキがある種の感心をして見上げて言ってくる。

「なんかエレー余裕じゃねぇーか?」
「余裕? 分からないな、友達を出迎えるのに緊張するような俺じゃないのは良く知ってるだろ?」

 俺はロキを見下ろしながら爽やかな笑みを浮かべ、頬に一滴の汗を流す。

 そんな事、知らねぇけどな? と言うロキと同じように俺を見ていたミントが隣にいるマイフレンドのジャフを半眼で見上げる。

「ここまで至る経緯は分かりませんが、発端と結果は痛いほど伝わりますね」
「バレちゃったか? 君への愛をポエムにしていたんだ。愛してるぅ、ミント!」

 腹の底からシャウトする男前のジャフが熱いハートを届けようとするがミントには届いていないようだ。

 戸惑う俺達をくだらなさそうに見るロキが嘆息しながら言ってくる。

「もう1度だけ聞くぞ? 魔女裁判の火刑みたいになってるけどよぉ、エレ―余裕だな、おめぇ等?」
「「……」」

 思わず黙る俺とジャフを見て被り振るロキが、再びミントの肩を押すようにして広場を後にしようとする。

「ちょっとしたお茶目な悪戯だったのに笑えない展開になってるんだ、助けて、ミント!!」
「ルナと美紅がマジで本気なんだ!? 止めて、ロキ様ぁ!!」

 形振り構わず、泣き叫ぶ俺達の足下に村の少女達が暗い目をしながら薪を一本一本置いて行くのを見ずにロキとミントに助けを求める。

 ミントが村の少女達の本気ぶりにどう声をかけたらいいか悩む素振りを見せる。

 ロキが見つめる先にはサラダ油を片手に傾けようとしているルナに「ルナさん、サラダ油は思ってるより燃えません。鍛冶用のこの油で……」と油を差し替えているのを見て頷く。

「やっぱりメンドークセー」

 欠伸を噛み締めて、この場を去ろうとするロキに慌てて呼び止める。

「メンドークセーって何!? 今、尊い命が失われようとしてるんだぜぇ!!」


 そう、男の夢と書いてロマンを実践し続ける俺とジェフという尊い命をなんだと思ってるんだぁ!!


 叫びながらも縄を解けたらいいな? ぐらいに暴れるがさすがミランダから色々習っている美紅、縄の縛り方も完璧だった。

「だってなぁ?」

 同意を得るようにミントに言うが困った顔をされるだけで要領を得れなかったロキは嘆息すると近くで松明を持っていた村人から引っ手繰ると油を撒かれた辺りに放る。

「うわぁぁ!! 君は頭がおかしいのかっ!!」
「ギャ――ス!! キャンプファイアー!!!」

 ルナが撒いてた油に引火して一気に燃え上がるのを首を鳴らしながら見守るロキに俺とジャフが悪態と悲鳴を上げる。

 それに慌てたミントがロキに掴みかかると遠慮なくビンタをくれる。

 ニヤけた笑みを浮かべたまま受けるロキに怒鳴る。

「貴方は頭が良い方だと思ってました……すぐに消してください!」
「心配いらねぇーよ。俺がメンドークセーと言った意味がすぐ分かるぜぇ?」

 ほれ、見ろと後ろを顎をしゃくるロキに釣られて前を見ると慌てた様子のルナと美紅が魔法で水を生むと俺とジャフを中心に大量の水を落とす。

 その水でしこたま俺達は水を飲んでしまったが火が鎮火してホッと胸を撫で下ろす。


 助かった……


「ルナ、美紅、ありがとう……もう胸がないって口にしないようにするな?」
「そんな事を考える事自体が失礼なのっ! それより……」

 そう言ったルナがネコのような目をしたと思ったロキに飛び蹴りを仕掛ける。

「にゃぁぁ!!」


 本当にニャーって言ったぞっ!?


 飛んでくるルナの足を片手で掴むロキは面倒そうに首を廻しながら言う。

「やっぱりな、俺が介入して止めたらこうなると思ったんだぜぇ……」
「分かってたのなら口で止めるの!」

 掴まれたままでロキに連続蹴りを放つがロキに空いてる片手で文字通り、あしらわれる。

 だるそうな顔をするロキがルナと後方で睨んでる美紅を交互に見て文句を言う。

「本気でやる気ねぇーのに止めたらヤル、ヤラないでメンドークセー事になっただろうが? こっちも大概メンドークセーがな」

 ロキにそう言われて悔しそうにするルナと美紅を見て俺の胸の内が震える。


 ルナ、美紅、俺の為にそこまで……


「つまり、後2~3回は許されそうって事だな?」
「おい! トール、頭で考える事と口にしようとしてる事が逆転してないかっ!?」

 ジャフにそう言われて、ハッとした俺はルナと美紅を見つめると絶対零度の視線に震える。


 やってもーた、いつものイージーミスですやん!?


「やってもーた、いつものイージーミスですやん!?」
「トール……頭の中身と言動が同じになってないか……」

 ルナの表情が消え、美紅が微笑を浮かべる。


 めっさ怖いですよ! ロキ兄やん助けてぇ!


 そう思ってロキがいる方向を見るとそそくさと去ろうとしてる姿に驚愕するが美紅がその背に声をかける。

「ロキさん、今日は禁酒ですからね?」
「げっ……はぁ、了解だぁ」

 げんなりとしたロキが肩を落として去っていくのを見て、助けは期待できない事を知る。

 再び、俺を見つめる美紅が言ってくる。

「トオル君は今日は寝かせませんよ? 朝までお説教です……」
「お嬢さん、それはこちらの用が終わってからにしてくれるかな?」

 美紅の言葉に被せるように言ってくる30代後半の精力的な雰囲気を漂わす男が取り巻きを連れて現れる。

 その男を見たジャフとミントが眉を顰める。

「お説教もいいが、村の方の罰も受けて貰わないとね。2~3日、懲罰室でおとなしくして貰おう。それで良いですよね、村長?」
「む、むぅ、致し方がないな」

 美紅もさすがにそう言われると引き下がらない、と思ったようで渋々頷く。

 ゲッ、と思う気持ちもあるが終始30代の男を睨むように見るジャフが気になり、小声で声をかける。

「なぁ、あのオッサンと何かあったのか?」
「名はパテル……ミントを人身御供に、と声高に言ってる代表格で次期村長に名乗り上げてる」

 これはタダでは済まない予感がヒシヒシさせる情報に本格的にゲンナリする俺の耳に

「ちぃ、ジャフを燃やし損ねた……」

 と舌打ちする村の少女達の声が届き、隣でオッサン、パテルと決戦直前の睨み合いをするようにするジャフを見つめる。


 ねぇ、ジャフ、お前、村の子にどこまで恨まれるような事したの?


 ミントに見捨てられたら、この村で結婚相手を捜すのは絶望的な予感しかしない俺はシリアスするジャフの隣で違う意味でもミントの人身御供を阻止しなければならないと誓いを新たにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

処理中です...