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6章 誘う、森の民が住まう大樹へ

107話 Aランク初依頼

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 死線を潜り抜けた俺はお怒りモードから若干冷却したルナと美紅を連れて冒険者ギルドへと向かっていた。

 確かに俺がした事は笑って許される事ではなかった。

 それは俺自身も納得しているが……

 2人から下手すると魔神の加護を得たサブレと良い勝負するダメージを受けたかもしれない。
 ダンさんに後から来いと言われてなければ絶対安静でベッドで寝ていた自信があるほどのダメージを受けていた。


 見て見て!?

 回復魔法をかけてくれないから折れた腕を三角巾で吊ってるんだよ!?

 アイツ等、マジだからぁぁ!!


 一応、生活魔法の自然治癒促進で普通より治りが早いだろうけど今日、明日では治らないかもしれない。
 マイラが薬や包帯を巻いてくれたから最低限の治療は出来たがマイラが優しいという訳ではない。


 だって……俺の傷口を消毒して痛がる俺を見て嬉しそうだったもん!


 マイラの性格の矯正が今からでも間に合うだろうかと悩むがきっと無理と自己完結していると冒険者ギルドに到着する。

 扉の前に来ると中が騒がしい事に気付いて振り返ると2人も訳が分からないらしく首を傾げていた。


 おかしいな? この時間は物凄く静かなのが普通なんだけど?


 俺は初めての依頼をした時にルナと別行動をしたザックさんの依頼で失敗したルナの為に同行させられた一件の時に夜の冒険者ギルドが静かなのを知っている。一応、シーナさんにも話題で聞いた時も通常がそうだと言われた。


 思い出すと数ヶ月しか経ってないのに数年にも感じる……


 あれ以降、ザックさんからルナ、そして美紅を連れて仕事に来いと言われているが断固としてお断りしている。


 当たり前やん? どうして自分から地獄に足を突っ込まないといけないのよ?


 ザックさん一味(決して特定の集団という意味ではありません)からの逃亡の日々を思い出して涙が出そうになる俺。

 それはともかく、騒がしい状態が普通ではないという事が、ルナは普段から気にしてないが、美紅は時折、質問したい事があると暇を持て余す冒険者ギルドの職員に質問する為にワザと夜にやってくる事があるので信憑性はある。

 訳は分からないがとりあえず、そっと扉に触れて開くと大きな歓声で出迎えられる。

「若き勇者、新Aランク様が来たぞ!!」
「うおおぉぉぉ!! おめでとうぅぅ!!」

 その掛け声がキッカケになって万歳と騒ぎだす人々、冒険者ギルドの職員を始め、顔見知りの冒険者から見た事のない人達が声を張り上げる。

 事情が飲み込めない俺達が目を点にしていると人を掻き分けてほろ酔いしているダンさんが俺の首に腕を廻してくる。

「おお、あんちゃん遅いじゃねぇーか? 主役が来る前に始めちまったぞ?」

 ダンさんの吐く息から始めたばかりというか俺と別れたと同時に飲み始めてないか? と問いたくなるほど酒臭い。

 まだ要領を得ない俺にまだ素面のペイさんが苦笑していってくる。

「戸惑ってるわね? Aランク就任祝いを冒険者ギルドで顔見知りだけでやろうとしたんだけど、どこからか酒の匂いに惹かれた酒好きが集まっちゃって……ねっ?」
「なるほど……」

 俺はやっと事情を把握したと納得しているとルナと美紅が驚いた顔をして俺の前にやってくる。

「Aランク? どういう事なの!?」
「そうです、初耳です。説明してください」
「ああ……言ってなかったな……言える状況でもなかったけど」

 困る俺を見てペイさんがルナと美紅を呼んで俺の代わりに説明をし始める。

 それを横目で見ながらペイさんに感謝をしているとダンさんがイヤラシイ笑みを浮かべて耳打ちしてくる。

「あんちゃん、今日は無礼講だ……分かるだろ、ホレ」

 ダンさんが顎で示す方向に目を向けると見目麗しい受付嬢達が俺に向かって嬉しそうに万歳してくれているのを見て男前な顔になる。


 だって、すっごく縦揺れしてるんだ、男の子だもん。『とおる』


 思わず額縁にしまいたくなるものを考えてしまった俺はその中でも取り分け視線を釘付けにしてくる凶悪なものを持ち合わせるエルフの受付嬢、シーナさんを見つめる。

 そんな俺の背中を優しく叩くダンさんが「骨は拾ってやる」と優しげに頷かれるのに俺は鼻の下を指の腹で擦り、覚悟を決めた男の良い表情で頷く。

 一歩前に出た俺は腕を吊るしていた三角巾を取っ払うと天井ギリギリまで飛び上がる。


 えっ? 折れてたんじゃないのかって?

 今、治りました!

 この状況、折れてる場合じゃないだろう!!


 俺は空中で三回半捻りをして万歳しているシーナさんを目掛けて滑空する。

 すぐに俺の行動に気付いて、何をしようとしてるか察したシーナさんが必殺技の目潰しの行動に移る。

 ルナ達も気付いたがペイさんと話していて、こちらを見てなかったタイムラグで今回は邪魔にすらなれない。

 なので、今回の障害はシーナさんのみ……最近、気付いたが、ここ数回、必殺である目潰しを備えた事でシーナさんに隙が生まれている事に気付いていた。

 当然のように対策は既に考えている俺の口許には余裕の笑みが浮かぶ。

 俺の滑空に合わせるようにチョキを突き出すシーナさん。


 今や!!


 パリン パリン


 ガラスが割れるような音が2回する。

 それは俺が作った生活魔法の風で作った足場が壊れた音であった。

 シーナさんが放ったチョキを避ける為に右側に作った足場を蹴って左に移動したと同時に左に展開していた足場を蹴ってシーナさんのチョキを掻い潜るようにして元の位置に戻ったという訳だ。

 つまり、空中で三角飛びをした。

 驚くシーナさんの顔を見つめて、後はあの素晴らしいお胸様にダイブするだけだと思っていた俺の予想を裏切るアクシデントが発生する。

 俺から逃げようとしたシーナさんが身を捩った事で事故は起こる。


 おっぱいに殴られた!?


 これでは何か分からないだろう。

 つまり、身を捩った事で縦揺れしていた胸が横揺れして、俺はおっぱいに平手打ちをされた。

 その重量感。

 素晴らしいの一言で吹っ飛ばされる俺は幸せであった。

 例え、その行き先で拳を握りしめたルナと美紅がいたとしても俺に後悔はない。

 繰り出される2つの拳を見つめながら俺は呟く。

「し~あわせだなぁ」

 俺は最高の笑みを浮かべた。





 それから1時間が経過した頃であろうか。

 俺は自分の手を使わずに色んな男女、関係なく所謂『あーん』されたり、飲みモノを飲まされたりしていた。


 まさにビップ! V・I・P

 余は満足じゃ!


 満喫していると冒険者ギルドの入口を蹴破るようにして入ってきたヤツにみんなの視線が集まる。

 荒い息を吐く熟練冒険者が息を整えようと深呼吸をしているのを見て、たまにダンさんと談笑している人だ。

 ある程度、息が整うと酔っ払っているダンさんの肩を掴んで声を荒らげる。

「酔ってる場合じゃないぞ、ダン! Aランクに緊急依頼案件だ、酔いを覚ませ!」

 そう言われたダンさんが近くにあった冷水を一気飲みした後、残った水を顔にぶっかける。

 ざわざわとする冒険者ギルドの室内。

「頭ははっきりした。で、なんだ……ああ、そうだ。もう俺はAランクじゃない。後任のAランクに先に話をしてくれ」
「はぁ!? 初耳だぞ……まあいい、誰なんだ?」

 一瞬、慌てた様子を見せた熟練冒険者だが、すぐに冷静さを取り戻して問い返すとダンさんだけでなく、その場にいる者達が一斉に俺を指差す。

 指の先を追いかけた熟練冒険者の目が点になる。

「こ、こいつがAランクに?」

 戸惑う熟練冒険者が俺とダンさんを交互に見つめて、混乱した様子を見せる。

 どうやら今回は立ち直るのに時間がかかるようだ。

 色々と現実を認める努力をした熟練冒険者が眉間を揉みながら言ってくる。

「どうして簀巻きにされて逆さ吊りされてるんだ?」
「えっと、色々ありまして……」

 ルナと美紅の折檻の一環でされた事であるが悪乗りしたこの場にいる者達に嬉々して吊るされた。

 紐を固く結び過ぎたらしく「外れないの!」と騒ぐルナに「どいてください、切ってしまいます」と美紅が応答してるのにドキドキしながら俺は言う。

「緊急依頼案件とは?」

 その言葉と同時に地面に叩きつけられた俺を不安そうに見つめる熟練冒険者が溜息を吐きながら言ってくる。

「隣国のエルフ国との国境沿いにある村でモンスターパニックが起こった」
「「「「――ッ!!」」」」

 絶句する俺とルナと美紅以外の面子。


 どうやら何の事か分からないけどAランク祝いしてる場合じゃない、とんでもない事態が起こってるみたいだな。


 俺のAランクの初依頼はどうやらハードモードの予感がヒシヒシと伝わり、頬に冷たい汗が流れた。
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