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ここからが玩具箱の本番

アリアとスゥの花嫁修業①

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 事の発端はレイアの一言から始まった。

「料理もできないのに嫁になるとかないだろ?」

 これに口をへの字にして胸を張る少女が2人立ち上がった。

「「やればできるもん!!」」

 これは雄一の嫁になると日常から言い張るアリアとスゥの黒歴史として葬り去られた彼女達の1ページのお話である。





 困った顔をする幼いエルフの少年がぼやく。

「どうして僕も巻き込まれてるの?」
「しゃーないだろ? 初めてする料理だから1人だけでいいからサポートを付けさせろ、という2人の要望とのせめぎ合いでの妥協案なんだからさぁ」
「それで、私が現場監督役という事かしら?」

 ぼやくダンテは自分に選択肢が与えられてない事を言っていたが、レイアが発言権すらないと言わんばかりに言い切ってくる。

 その2人の様子に苦笑を浮かべるテツの最愛の人であり、雄一に次ぐ、台所の責任者であるティファーニアが肩を竦める。

 ティファーニアには本当に危険な行為をしようとした時に止める役として呼ばれていた。

 人権を無視されて項垂れるダンテにテキパキとヒヨコ柄のエプロンを装着するディータが満足そうに頷く。

「我が弟ながら良く似合ってます。いつでも嫁に出せますよ!」
「姉さん……男だからね、僕は? 弟と分かってるのにどうして嫁?」

 時折、姉のディータの発言から垣間見れる言葉で本当は妹が欲しかったのではないだろうか? とヒシヒシと感じるダンテ。

 苦悩するダンテの隣にいるアリアとスゥにディータなど目ではない速度でテキパキと2人にフリフリのエプロンを装着していく長髪の大男の姿があった。

「こんな事もあろうかと用意しておいた甲斐があったな! 2人とも良く似合ってるぞ!!」

 アリアにはピンク色でスゥには黄色のエプロンを着けて満足そうに頷く。

 そのエプロンを満足そうに触れる2人は顔を見合わせると自信ありげに頷く。

「完璧」
「もう美味しくできたも同然なの!」

 形から入って満足してしまうパターンの2人を見つめるダンテは注意報レベルの危険を感知していた。

 大男は青色のフリフリのエプロンを持って振り返り、レイアを見つめる。

「さあ、レイアもメイクアップ!」
「着ないからなっ! それにお前は介入するなって口が酸っぱくなる程に言っただろうが! ホーラ姉に頼んでたのに……ホーラ姉!!」

 にじり寄る大男から後ずさりながらホーラを呼ぶレイアを背後で見つめるピンク髪の獣人の少女がテーブルで項垂れながら「腹減った」という言葉と同時に大男の足下に投げナイフが刺さる。

 その投げナイフを難なく避けて台所の勝手口から飛び出す大男。

「ちぃ、外したさ! 待てぇ、ユウ!」

 大男、雄一が飛び出した勝手口から外に飛び出すホーラとその場にいる者達に「お邪魔しました」とペコペコ頭を下げて、エプロンを装着中のティファーニアにデレた表情を見せるテツも勝手口から出て行った。

 それを見送ったレイアが額に浮かぶ汗を腕で拭う。

「良し、脅威は去ったな……じゃ、アタシとミュウは出来上がった料理を食べる役。アタシ達に美味いと言わせたら勝ち」

 アリア達に指を突き付けるレイアに負けないとばかりに闘志を燃やすアリアとスゥ。

 消極的に手を上げるダンテ。

「僕は2人の作業の手伝いをすればいいの?」

 そう言われたレイアが「そういや説明してなかったな」と頭を掻き、簡単そうに言ってくる。

「作業は手伝ったら駄目。ダンテの役は味見役だ」
「えっ!? エプロン着ける意味ないよね? それ以前に初めて料理する2人の食事は味見というより毒見じゃない!?」
「やる時はいつもで全力ですよ、ダンテ!」

 注意報から警報に変わった事を自覚するダンテに変なスイッチが入ったディータが激励してくる。

 はっきりと迷惑だ、と言えたらどれだけ良いかと思いながら、後ずさるように逃げ始めるダンテの両手を掴むアリアとスゥが自信ありげに頷く。

「安心するといいの! これでも毎日、ユウ様の美味しいご飯を食べて舌が肥えてるの!」
「一撃必殺」
「スゥ、舌が肥えてるからのと上手に作れるのは別問題だからね? アリアは頑張る方向間違ってない!?」

 2人に突っ込むダンテは、ハッ! と目を見開き、ある事に気付いて首だけ廻して離れた場所に居るレイアを見つめる。

「僕の介入を認めたのって自分の身を守る為……? 本当に毒見役のつもりなんだねっ!」
「な、な訳ねぇーだろ? アタシがそんな事をダンテにさせる事ない、うん、ない」

 目を逸らすレイアはダンテに近づき、椅子に座らせると雄一の動きを見習うようにテキパキと縄で縛って動けなくしていく。

 ダンテが絶叫する。

「レイア、君はさいて……フゴフゴ!!」
「静かにな? アリア達の料理の邪魔になるから」

 縛る作業をこなしながら猿轡まで決めるレイア。

 涙目のダンテが何やら叫んでいるが猿轡がなければダンテ史上、もっとも汚い言葉が聞けたであろう。

 そのやり取りを見ていたティファーニアが苦笑いと共に溜息を洩らすとアリア達に向き直り話しかける。

「それで何を作るつもりなの?」
「カレーライスなの!」

 スゥの言葉を聞いたダンテは騒ぐのを止めて、諦めたように首をカックンと倒す。

 カレーライスであれば、それほど目を剥く程の問題は起こり得ない。

 野菜を水で煮込んで雄一特製のル―を投入すれば誰でも作れるからであった。

 ディータのように何やらスイッチが入っているアリアが口をへの字にして胸を張る。

「ユウさんのルーは使わない。あくまでオリジナルで勝負、必殺アリアスペシャル……!!」


 スパイス各種 + オリジナル + 必殺 = 致死率∞


 この数式がダンテの頭で組み立てられた瞬間、息を吹き返したかのようにダンテが椅子ごと跳ね上げて暴れ始める。

 そんなダンテに近づくティファーニアが話しかける。

「ダンテ、私に任せて、妙案があるわ」

 そう言うティファーニアを救いの女神のように見つめるダンテに頷くと胸元から小瓶を出して見せてくる。

「テツ君から、お腹を壊したら良く効くという薬を預かってる。同じエルフのダンテにも、きっと良く効くわ!」

 良い笑顔を向けるティファーニアを血走った目を剥き出しにして必死に被り振るが、所詮はテツの婚約者、変な所でずれてるティファーニアには伝わらない。

 そんな2人を余所にアリアとスゥの調理は始まる。

 スゥが水洗いしたジャガイモをアリアが指で掴むようにして包丁で切り始める。

 それを見たティファーニアが、

「皮は剥かないの?」
「私のカレーはワイルドさが売り」

 フンヌ、と鼻息を洩らすと同時にジャガイモを真っ二つにして少しだけ包丁がまな板に斬り込みを入れる。

 それを見つめるティファーニアは普段の訓練で刃物を扱う方法を雄一に習ってるのに不器用だな? と思っていると思いだしたように隣にいるディータを見つめる。

「どうかしたか?」
「ううん、何でもないわ」

 とある事件を思い出し、戦闘訓練と調理とは似て非なるものであると再確認したティファーニアであった。

 色んな意味で呆れるティファーニアの見つめる先に突如現れた大きな影、カンフー服の大男の雄一が現れ、アリアの背後から両手に手を添えて包丁の使い方をレクチャーを始める。

「左手はニャンコの手で添えるようにして野菜を押さえる。この包丁は良く斬れるからそんなに力を入れなくてもいいぞ?」
「ニャンコ……にゃぁ」

 雄一に言うように真似をしてジャガイモを再び切るとストンという音と共に無理なく切れる。

「ああっ!! お前は来たら駄目だろうが! 何度言えば分かるんだ……ホーラ姉! ここにいるぞっ!!」

 レイアがそう叫ぶと台所に飛び込むようにホーラがやってくる。

「見失ってすぐにここに来たようさ!!」
「ちっ!」

 ホーラの姿を確認した雄一は再び勝手口から飛び出すと、それを追うようにホーラが勝手口の所からパチンコを引き絞る。

「込めるは……爆裂!!」

 空中にいる雄一に放つが空中を蹴る事であっさり避けられる。

「ちぃぃ!! 直撃して少しはおとなしくするさ!!」

 雄一が飛んで逃げた先の目指してグランドを横切るように走るホーラ。

 また同じく「中断させてゴメンね?」と謝るテツがティファーニアに目を向けた時、猿轡をされて縛られるダンテと視線が交差する。

 捨てられた子犬のように目をウルウルさせるダンテが必死にテツに助けを求める。

 そんなダンテから辛そうに目を逸らしたテツが苦渋の決断をした男が出せる声音で言う。

「強く生きて……ダンテ!」
「フガッ!?」

 見捨てられた事を知ったダンテを直視できないテツがホーラを追いかけるように勝手口を飛び出す。

 グランドを駆けるテツの耳にダンテの悲しみの呻き声が、いつまでも追いかけ続けた。
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