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10章 DT、マリッジブルーを味わう

290話 テツ、フラグ回収? らしいです

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 アリア達がポロネに振り回されてた頃、テツとディータはペーシア王国の王子、ゼンガーと面会する為に城に訪れていた。

 テツは地下に入る為の許可を得にやってきたので分かるが、ディータも付いてきた事にテツは不思議に思っていた。

「僕は土の宝玉の確認に行く為に許可を貰いに行くだけなのでディータさんはダンテの所に行って貰っていいんですよ?」
「いや、ユウイチからゼンガー王子に手渡して、必要な処置をするように言われている。必要ならテツを使え、念押しされた」

 ディータが真顔で言うので、ダンガにいるはずの雄一に泣き事を届けたい思いで一杯になる。

 雄一がそう言った以上、ディータは遠慮なしに使いまくるのが見えていた。

 既に賽は振られた、と諦めたテツがディータに聞く。

「どんな用件を頼まれたのですか?」
「うん、テツも多少は聞いているだろうが、騎士団の腐敗ぶりが目に余るようになり、治水工事の金を着服して下水が機能せず、疫病が蔓延しかけている」

 確かに、リホウの調査報告書を読んだ事があるテツは、確かにその懸念を指摘してある文章があったのを思い出す。

 だが、ペーシア王国が自分達で自浄する事を見守るという辺りまでしか知らなかったテツがディータが雄一に頼まれた意味を理解して唾を飲み込む。

「ペーシア王国に内部干渉するという事ですか?」
「その手前、警告だな、罪を認めて出頭するか見る」
「いや、ディータさん、それは既に警告の意味が違いません!?」

 ディータからすれば出頭すればペーシア王国が裁く訳だから違うのだろうが、雄一とリホウが絡んでいる以上、グゥの音も出ない証拠が用意されているはずである。

 シラを切ったり、逃げたら潰すと言ってるようなものである。

 そこまで考えが及んだ時、テツはある可能性に気付く。

「も、もしや、ユウイチさんが僕を使え、と言ったのは……」
「そうだ、各国に広がってる『戦神の秘蔵っ子』の名前を使って脅せという事だろう」

 予想通りの解答が帰ってきたテツは大慌てでディータに思いとどまらせようとする。

「いやいや、待ってください。さすがにやりすぎでしょう?」
「被害を最小限にする為に威嚇は必要だ。それにユウイチがこれだけの強硬な手を使うのか、これを読めば分かる」

 ディータに手渡された書類はどうやらリホウから渡された最新のペーシア王国の実情のようだ。

 前宰相一派が居なくなった事で文官の地位が弱くなり、騎士団の力が強くなった。

 最初は前宰相一派に対する義憤もあったからか、積極的に政治に関わるモノもいたが、自由にできる政治で旨みを覚えてしまった輩が馬鹿な事を始めてしまった。

 治水工事などの費用の着服から始まり、下水関係が原因の疫病が発生。

 ポーションの需要が跳ね上がり、商人達から鼻薬を嗅がされた者達は見て見ぬふりで暴利を貪るのを見逃した。

 疫病とポーションの高騰による生活困窮者が現れた事で、違法ギリギリの人身売買が行われた。

 形としては花嫁修業を兼ねてメイドとして雇うであるが実情は妾で、中にに少年を囲うモノが男女共にいるようだ。

 最初は体面を整えてやられていたが最近は形骸化して言葉のみになってるらしい。

「酷い、いや、放っておけば際限なく酷くなるのが見えてる」

 テツがムカつきを覚えて胸を掻き毟るようにしながら顔を歪める。

「私もそう思う。私も昔はそちら側で見ていたから、言葉で止まる者など少数だとは分かる。だが、止めれる者とて簡単に止まれない。だから、テツ。自分の肩書きを利用してでも被害を最小限にするのは嫌か?」
「その言い方は卑怯ですよ……」

 テツは弱ったように頭を撫でる。

 そんなテツを好意的な視線で見つめるディータが肩に手を置いてくる。

「テツ、お前は凄いヤツなんだぞ? もっと自信と自分が何者かを理解しろ。ユウイチがなんだかんだ言いながら期待してるのはリホウとお前なんだぞ?」
「えっ? 僕が?」

 雄一にそこまで思われているとは思ってなかったテツは目を白黒させる。

 頷くディータはテツの目を見つめる。

「確かに子供達の事に関してはホーラや私達を頼ってくれている。だが、子供達の目がない所でやっている事をテツ、お前は期待されている」
「ま、まさか、そんな事はないでしょう? 今でもホーラ姉さんは怒られないのに僕は怒られ、叩きつけられたりしていますよ!?」

 自分はまだまだで期待されるような存在じゃないと力説するがディータは柔らかい笑みを浮かべる。

「確かにホーラが優秀なのは認める。私から見てもホーラとテツに大きな開きはない。なのにテツ、お前に辛く当たるのは男である事を差し引いてもユウイチがお前に期待してるとは思えないか?」
「ぼ、僕が期待されてる……?」

 テツは雄一に投げかけられた数々の言葉を思い出していく。その言葉は常にテツに道を示し続けてくれた。

 だが、最近は余り言ってくれなくなっていた事が寂しく思っていた。

 それは自分が雄一に失望されてるのではないかと、ザガンから帰ってからしばらくした時ぐらいから自信を失い気味であった。

 ミチルダに梓を、と言われた時もポプリにはあのように言ったが、受け取れなかったのはこの自信も失くしかけていた情けない理由も存在した。

 葛藤するテツを見つめるディータが笑みを浮かべる。

「私から言えるのは自信を持て、だ。案外、お前がユウイチから離れて見つめる機会にする為にアリア達に同行させたのかもな?」

 そう言われたテツが見透かされた恥ずかしさから赤面する。

 雄一ならありそうだとテツも思ったからであった。

 ディータはテツから書類を取り戻すと踵を返す。

「行くぞ、テツ」
「あっ、はい!」

 置いて行かれそうになったテツがディータを追いかける。

 追いかけながらテツは首を傾げる。

「あれ? 僕に同行する形でディータさんが来てたのに気付いたら逆転してる」

 苦笑するテツは、いつもの事かと割り切り、ペーシア王国のゼンガー王子に会う為に城へと向かった。





 ペーシア城に着いたテツ達はゼンガー王子と面会を果たしていた。

 ゼンガーはディータから手渡された書類を熟読しながらドンドン眉間に皺を生んでいた。

 全部読み終えたゼンガーが肺にある息を全部吐き切るようにする。

「失礼ながら、これは全部、裏が取れているのですね? 私達が把握してたのが氷山の一角であったと叩きつけるような調査報告書だったので……」
「ええ、間違いありません。それは以前、前宰相の調査で精度は良くご存じかと思いますが?」

 ゼンガーとて、この調査報告書が間違っているとは思ってないだろうが、ここまで酷い事を自国の騎士団がやってると信じたくなかったのだろうとテツは労わるように見つめる。

 片手で頭を抱えて下唇を噛み締めるゼンガーが苦悩しているのを見つめるテツ達。

 大事な事だから決して急かしたりしない。

 しばらく時間が経ち、ゼンガーが覚悟を決めた目を向けてくる。

「1日、お時間頂けないだろうか?」
「どうされるのですか?」

 テツが聞き返すと自嘲するような笑みを浮かべるゼンガーが言ってくる。

「自分でも甘いとは思うのですが、貴方達のお力を借りずに説得してみたい!」

 王族であるゼンガーはテツ達に頭を深く下げる。

 自国の者達を自分の言葉で目を覚まして欲しい、だが、それは我儘と分かっているゼンガーが出した結論が、王族でもないテツ達に頭を下げてまで頼む事であった。

 テツとしては頷きたいがディータが雄一からどんな指示を受けているが全部を知らないので見つめているとディータが答える。

「ユウイチから、ゼンガー王子がそう願い出たら任せるように言われています。ですが……」
「分かっている。聞かなかった者達の裁量は全てユウイチ殿に託す」

 ゼンガーの言質を受けたディータは「ユウイチにはそう連絡しておきます」と伝えるのを聞いて、一段落したと判断したテツがゼンガーに頼む。

「話が変わるのですが、地下に入る許可を頂けませんか? 土の精霊獣のアイナさんに確認をしておいて欲しいと言われたので?」
「分かりました。すぐに用意させましょう」

 ゼンガーが近くにいた者に声をかけると割符を取りに部屋から出て行った。

 帰ってきた者から割符を受け取ったテツはディータと共にゼンガーにまた明日に伺います、と伝えて城を後にした。





 地下に入る入口の辺りに来た時、テツを呼ぶ声が聞こえ、振り返る。

「良かった、間に合ったさ!」

 振り返った先にいたのは別行動していた馬に乗ったホーラであった。

 馬から降りると入口の兵に預かるように頼むとテツとディータの下にやってくる。

「ホーラ姉さん、お帰り」
「お帰りじゃないさ! こっちに向かう途中でポプリの伝言を伝えに来たロットから聞いた内容が呑気な顔してられない事態に……」

 ホーラから聞いた内容にテツ達の顔が強張る。

「じゃ、もしかして、ここにも?」
「分からないさ、それを確かめに行くさ」
「急ぎましょう!」

 テツは2人の背を追うようにして地下へと続く道へと走る。

 何か色々諦めるように頭を掻き毟るテツは呟く。

「出発前に感じた通りになりそうだよ……」

 落ち込みかけている気持ちに発破をかけてホーラ達に置いて行かれないように足を速めた。


  10章   了
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