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10章 DT、マリッジブルーを味わう

287話 僕達はあの人に期待されているらしいです

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 ダンテ達が家を出発して冒険者ギルドにやってくると依頼が貼られた場所、位置的に3と4の依頼が貼られている場所で喧嘩が起きていた。

「先に目を付けたのは俺達だ! 横取りするな!」
「馬鹿野郎、取ったもん勝ちに決まってるだろうが!?」

 胸倉を掴み合う冒険者のパーティ同士が殴り合いに発展しそうだ、と見ていたダンテ達の目の前で本当に殴り合いが始まる。

 カウンターから出てきていたダンテ達に説明してくれた受付嬢が、冒険者達を見つめて嘆息してるのを見て、そっと隣に行って質問する。

「あの~止めなくていいんですか? 最悪、刃傷沙汰に発展しそうですけど?」
「いいのよ、止めても無駄だし。あんな馬鹿共なら死んでくれてもいいしね?」
「迷惑なのは分かるの。でも、ちょっと言ってる事が過激なの」

 スゥに苦言を言われた一瞬、ムカッとしたのが顔に出るが、飲み込んだようで肩を竦める。

「貴方達は昨日、ダンガから来たばかりで知らないのだから、そう見えるのはしょうがないか……事情は知らないけど、ここでしばらくいるなら知っておいた方がいいから教えてあげる」

 受付嬢が説明してくれた内容はこうだ。

 2年前の宰相一派が国外逃亡する時に同じようにペーシア王国の力ある大半の商人達も国を捨てた。

 残った商人も既得利益を守る為に保守的になり、依頼をほとんど出さずに息を顰めている。

 そのせいで、冒険者のランクの5以外の依頼が激減してしまった。

 国も宰相がいなくなった直後は活動的に動いてる素振りはあったが、現在ではその大半が昔に戻りつつあるそうだ。

 そんな気配が見え隠れし始めた頃、ペーシア王国の時折、5の依頼も受けてくれる良識があった冒険者達も、1人、また1人と国外に出て行った。

 出て行けない、出たけど出戻りしてきた、他国の冒険者ギルド、コミュニティでやっていけないあぶれ者が喧嘩してる奴等という事らしい。

 たいした実力もないのに5の依頼を見下し、少ない依頼を取り合い、取れなかったら酒を飲んで管を巻く。

「酒飲んでる暇があるなら5の依頼をすればいいのよ! 5の依頼も冒険者ギルドの仕事で依頼者達からの苦情を毎日捌く私達の身になれ、って言いたいわ。でも、少し離れて見たら、こいつ等より問題なのが国ね。下水関係がかなりマズイ事になってて、下水がある近隣に住む人から徐々に原因不明の病気が広がりを見せてるのよ」

 その病気に対する効果的な薬はないらしい。

 だが、風邪のように体力さえあれば治るらしいのでポーションを買い求める人が多くなっているらしい。

 そこで保守的だった商人達がパラメキ国などで売られてるダンガ産のポーションを買い占める勢いで買ったり、ダンガに直接取引して帰ってきて、病人相手に足下を見る商売を始めたから大変な事になってるらしい。

 それを聞いたレイアが思い出したかのように呟く。

「そういや、アタシ達を連れてきてくれた商隊の荷物のほとんどがポーションだったっけ?」
「そうなの? だったら助かるわ。ダンガの商人は手間賃は取るけど良心的な値段で売ってくれるから助かるわ。買占めの動きも掴んでパラメキ国側にも売る相手を選ぶように言ってくれてるけど……」

 そこまで言うと受付嬢が溜息を吐く。

「ダンガにいるという『救国の英雄』様も中途半端に助けるだけでなく、最後まで面倒を見て欲しかったわ。見方を変えれば余計に酷くなってる」

 その言葉を聞いた瞬間、ヒースを除くダンテ達の顔色が変わる。

 スゥが眉尻を上げて叫ぼうと口を開くよりも早く、レイアが受付嬢の胸倉掴んで自分に引き寄せる。

「アイツの悪口を言うなっ!! アイツはいつも頑張ってる。いつも誰かの為に頭を捻り、寝る間も惜しんでアチコチに飛び回ってる。なのに、誰よりも早くに起きて、まだ何もできない無価値とみんなに思われる子供に笑顔で料理を作って幸せを配ってる。いつも、いつも……」

 本人を前にすると言えない感謝の気持ちと自分の誇りを傷つけられた思いが綯い交ぜ感情が抑えられなくなってるレイアに飲まれた受付嬢をレイアから解放しながらスゥが呟く。

「ふぅ、言いたい事をほとんど言われたけど、貴方はどの程度知ってるの? ペーシア王国に対して、関税を10年という期間ではあるけどゼロにするようにナイファ、パラメキの両国に誰が頼んだか知ってるの?」

 感情が籠らない声で喋るスゥにも飲まれて10歳近く年下に言い返せない受付嬢。

「今回はポーションだったけど衣料、食糧などをダンガ経由で商人に手間賃だけで運んで貰い、利益が少ない商人に差額を支払ってるのは誰か知ってるの? まさか居ないと思ってた? 商人が利益を無視して奉仕してると本当に思ってたの?」
「それは……」

 何かを言いかけるが言葉にならずに口を閉ざす受付嬢を見つめるダンテが嘆息する。

「僕達はダンガで貴方が言う『救国の英雄』を間近で見ています。困ってるのが貴方達だけだと思われるのですか? 仮にそうだったとして、1から10を助けられて家畜になりたいのですか?」

 家畜呼ばわりされて目を見開くが静かに見つめるダンテ達に気圧され、俯いてしまう。

 そんな受付嬢の様子などお構いなしにダンテは続ける。

「この国が自分達の足で歩こうとするのを周りから見守り、手助けされてる。貴方達の自立を待ってるのです。今度、彼が表立って介入してくる時、それはすなわち、ペーシア王国が無くなる時を意味します。国として成り立たないと判断される時ですから」

 絶句する受付嬢を見つめながら、今も醜い争いをする冒険者達を指差す。

「僕達から見れば、あの人達と貴方の違いが分かりません。普段の不満から漏れた言葉だったのでしょうが、2度と僕達の耳があるところで『救国の英雄』の悪口は言わないでください」
「……ごめんなさい」

 謝る受付嬢から視線を外し、掲示板にある依頼書をザッと見て一枚取る。

「この依頼の受理をお願いします。貴方が生活をする為の仕事をお願いします」
「受理しておきます……」

 下唇を噛み締めて、声を殺して泣く受付嬢に少し胸が痛むが、ここで泣ける人ならこれからもお付き合いしていけるかもしれないとダンテは思う。

 スゥはまだ感情を持て余すレイアの肩を抱き、ダンテはヒースに出ようと促す。

 4人は冒険者ギルドから出て行き、出口の所で待っていたミュウと合流する。

 ダンテの案内に従い、依頼場所へと歩きながらダンテとスゥが話し始める。

「やっと、ユウ様が私達をペーシア王国に行かせた理由が見えてきたの。だから、お母様があんなに感心してたの!」
「うん、僕もおぼろげに見えてきたと思う。でも、スゥ、まだ判断するには早過ぎる。もっと知る為にも僕達はユウイチさんが縛りを付けた5の依頼をこなして知る必要があるよ」

 頷き合うダンテとスゥを見て、処理しきれない感情を持て余してたレイアが2人に意識を向ける。

「どういう事だよ?」
「今は、まだ……でも、何も考えずに自活する事だけ考えて仕事してたら僕達もあちら側の仲間入りという事は言えるかな」

 首を傾げるレイアがダンテに問う。

「良く分からないけど、アタシ達をペーシア王国に来させたのはアタシ達に何か期待してるってことか?」
「うん、きっとね!」
「がぅ、ミュウ、頑張る」

 レイアとミュウがハイタッチするのを見つめるダンテ達であったが、スゥが思い出すように言ってくる。

「あの時は良く分からなかったけど、ディータの言ってた意味も少し分かってきたような気がするの」

 後、ダンテの言ってた意味も……というスゥであったが、ダンテは苦笑いを浮かべる。

「確か、「今の僕達は権利を与えられただけの子供。だから、義務を果たして僕達は大人になろう」だったかな? あの時は大方理解できたと思ったけど、まだ勘違いがあったね。そして、今もきっと勘違いをしてると思う」
「そうかもしれないの」

 確認し合う2人であるが当面は雄一の指示通りにしてみないと見えてこないという結論に落ち着き、足を速めようとした時、ヒースがぼやくように言ってくる。

「やっぱり、色々聞いてるとユウイチさんって凄い人だよね? そんな凄い人と1度しっかり会いたいな」

「「「「それは止めておけ」」」」

 異口同音でステレオのように言われたヒースが目を白黒させる。

 大変、遺憾とばかりに眉間を揉む4人。

 ヒースに関して雄一は世界クラスに駄目な人という事実が情けない4人であった。





 ダンテが選んだ仕事は建物の解体作業と分別の作業の依頼であった。

 早速とばかりに現場の親方に会いに行く。

「ん? えっ、冒険者ギルドからきたのか? もう諦めかけてたからビックリしちまった」

 ガハッハハ、と笑う親方はダンテ達を見渡し、眉を寄せる。

「とはいえ、女ばかりか……力仕事をする男が少なかったから本当は男の方が欲しかったが、まあいい、分別の仕事も沢山あるからな?」
「すいません」

 謝るダンテに「気にするなっ!」と日焼けした顔を人好きする笑みを浮かべる。

 そう話す2人にレイアが口を挟む。

「アタシは細かい仕事が苦手だから解体に廻してくれ」
「ミュウも!」

 そう言うが眉を寄せる親方の見てる前で壊しかけの家を拳一つで粉砕して見せるレイアと落ちてたハンマーでその反対側の壁を叩き潰すミュウ。

「おお! お前等やるじゃないか! よし、解体の方を頼むぞ?」
「任せろよ!」

 そう言って鼻の下を擦るレイアとガゥガゥと嬉しそうにするミュウ。

 改めて、ダンテ達を見渡す親方は、解体班と分別班を分ける。

「分別場所に案内したら帰ってくるから、それまで待っててくれ」

 そうレイア達に言うと親方は両手の片方ずつにスゥとダンテの肩を掴んで連れて行こうとする。

 ハッ、と我に返ったダンテが叫ぶ。

「親方さん! 僕は男ですよ!?」
「はぁ? 嘘だろ? お前さんが一番女ぽいぞ?」

 本当に男と必死に訴えるダンテ。

 余りに必死だったので信じてはくれたようだが親方は頭をボリボリと掻く。

「しかしよぉ? この細腕で解体作業は無理だろ? 女の中で仕事して他の奴等から男と騒がれたら仕方ねぇから解体に廻してやるよ?」

 気を使って貰ってるのが伝わる親方の人の良さそうな笑みにダンテは折れる。

 さすがに誰かは疑問に思うはずだからとダンテは「それでお願いします」と答えると分別場所にスゥと一緒に連れて行かれた。



 それからしばらく作業をしていて、昼飯の時間になり食事を配給されてみんなと合流したダンテが叫ぶ。

「どうして、誰も僕が男って気付かないんだ!!」

 午前中、完全に女しかいない空間に溶け込んでいたダンテが憐れでダンテと目を合わせずに食事を始めるしかなかったレイア達であった。
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