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10章 DT、マリッジブルーを味わう

279話 不良債権は溜めずに処理らしいです

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 アリア達がペーシア王国に行ってしまって、いつもより元気ではない雄一は肩を落とし気味で市場を歩いていた。

 落ち込んでいても家にはお腹をいつも空かせている子供達が食事時になると大変な事になり、戦争よりも大変な修羅場が台所では起こっている。

 その為の弾薬の代わりの食糧を買い出しにでかけるのもサボる訳にはいかない雄一は今日も市場に来ていた訳であった。

 右手には買い物籠を抱え、左手にはミレーヌが抱き付いていた。

 抱き付いているミレーヌが市場の人達に「ミレーヌちゃーん!」と呼ばれる度に嬉しそうに返事しながら手を振り返していた。

 この異常事態に眉間を揉みたい雄一であったが両手が塞がっているのでどうする事もできずに溜息を吐くと隣で笑顔を輝かすミレーヌに問いかける。

「なぁ、ミレーヌさん。なんでダンガの住人がアンタがいる事を不思議に思ってないんだ? しかも、女王と呼ばずにミレーヌちゃん?」
「まあまあ、ユウイチ様。私の事はミレーヌで良いのですよ? もしくは、『お前』で!」

 ミレーヌは、キャァ――と黄色い声を上げて喜ぶ。

 テンションの高いミレーヌは視野教唆になってるのか、確信犯なのか分からないが雄一の質問に答えてこない。
 一応、2択にはしたが雄一は後者である事を疑ってない。

 諦めずに問おうとした時、雄一に声をかけてくる者がいた。

「それはウチで庶民見習をしてる最中に客を通して情報を拡散したからですよ」
「ん? おお、アンナとガレットか久しぶりだな?」

 雄一に声をかけてきたのは独り立ちしたアンナとそれを手伝うガレットであった。

 活発なアンナが「お久しぶりです、師匠!」とニカッと笑い、ガレットは、はにかみながら会釈をしてくる。

「で、いつから来てたんだ?」
「えっと、10日前ぐらいですかね?」

 アンナの答えを聞いた雄一は、「戴冠式が済んだ日に出発したな?」とミレーヌに問い詰めるとたおやかに笑みを浮かべるだけで何も言ってこない。

 さすが、女王だっただけの事はあると嘆息する雄一は諦める。

「それで、『ミレーヌちゃん』と呼ばせたのは女王と呼ばせない為か?」

 角度を変えて質問するが可愛らしく首を傾げられるだけであったが想定内であった雄一は続ける。

「入れ知恵したのは、糸目か? 馬鹿エルフか?」

 そう質問した雄一の馬鹿エルフと言った瞬間、ミレーヌの瞳が揺れたのを見逃さなかった雄一は頷く。

 どちらかが入れ知恵したのは確信していた。

 平和で豊かさでピリピリとした空気がほぼ皆無なダンガでは結構ワルノリは許容される。
 特にそれが雄一に絡む事になるとその程度が酷くなり、自分から参加したがる風潮が生まれていた。

 この風潮が生まれたのもアクマ2人が6年の歳月を費やした情報操作の賜物である。

 雄一を困らせる事に全力の2人であった。

「よし、冒険ギルドの馬鹿エルフの受付を殺しに行こう!」

 名案だ、とばかりに頷く雄一は踵を返して冒険者ギルドに向かおうとするのをミレーヌが雄一の逞しい腕にガシッと抱き付く。

 腕に伝わる柔らかい感触に雄一が一瞬動きを止める。

「まあまあ、師匠。どうせ行った所で煙に巻かれて追い払われる……? あれ、どうして少し顔を赤くしてるんです、師匠?」

 雄一に通せんぼして説得しようとしたアンナであったが、少し困った顔をする雄一が固まっているのに気付いて首を傾げるが、すぐに答えに気付く。

 いやらしい笑みを浮かべるアンナが後ろにいたガレットを前に出してくる。

「師匠、師匠! ウチのガレットも立派なモノを持ってますよ? 沢山の嫁を貰うんだから後1人ぐらい増えても問題ないでしょ?」
「馬鹿モン! 問題ありまくりだ。何よりガレットはかなりモテると聞いたぞ?」

 そう、ガレットは容姿端麗で性格良し、家事全般に穴がなく良妻賢母になるのが約束されたような存在で、もし、ダンガでお嫁さんにしたいコンテストがあればグランプリも取れる逸材であった。

 ちなみにホーラやポプリが参加したら予選落ちは確実であった。ダンガで住む者達の認識では見た目はいいがアレを受け入れられるのは雄一しかいないというのが共通認識であった為である。

 3ケタ断られるまでに諦めるかトトカルチョされるダンを筆頭に求婚者が後を絶たないらしい。

 顔を真っ赤にして上目遣いしてくるガレットに笑みを浮かべる。

「アンナもそうだが、ガレット、お前も幸せになる事を祈っている。俺で出来る事があればいつでも頼ってくれ」

 アンナを手伝う人物でもう1人コホネというウサギの獣人がいるが、彼女は去年に常連のお客さんとゴールインしていた。

 顔だけでなく耳まで赤くするガレットの背を押しながら「ガレット、いけ! 虎になるのだぁ!」と楽しそうに騒ぐアンナの押す力に抵抗しながら首が千切れる勢いで横に振る。

「え、えっと、それではユウイチさん、失礼しますっ!!」

 目をグルグルさせるガレットは雄一の下から飛び出すようにして市場の人波に飛び込んで姿を眩ます。

 逃げるガレットをつまらなさそうに見送るアンナは「あの根性無しめ!」とぼやくをの笑みを浮かべるミレーヌが爆弾を放つ。

「アンナも大変ね? ガレットが落ち着いてくれないと貴方の王子様が諦めがつかなくて他に目を向けてくれないのだから?」

 今度はアンナが顔を真っ赤にさせるとミレーヌの口を手で塞ぎに行く。

 アンナを見つめる雄一が「どういう事だ?」と首を傾げると「何でもない!」と言いながら、ミレーヌに懇願する。

「ミレーヌさん……庶民見習に協力したじゃないですか!」
「うふふ、そうだったわね。もう口にしない。これでいい?」

 楽しそうに笑みを浮かべるミレーヌが疑わしいのか涙目の半眼で見つめるアンナは嘆息して、雄一に挨拶をするとガレットが消えた方向へと去って行った。

 アンナの態度がおかしい理由が分からない雄一が首を傾げているとミレーヌが笑いながら話しかけてくる。

「ユウイチ様がお知りにならなくても良い事ですよ」
「ふむ、そうかもな。だが、こっちは知っておいた方が良さそうだよな?」

 ミレーヌを見つめる雄一が先程の緩い感じでもなく、家でのお父さんとしての顔でもなく、男の顔をして問いかける。

「ポプリにしろ、ミレーヌにしろ、そんなにフットワーク軽く城を出れる身分じゃないだろう? 俺に会いに来た本命は何なんだ?」
「酷い、ユウイチ様。こんなにお慕いしておりますのに……」

 雄一にそう言われたミレーヌが、よよよっ、と泣き崩れる真似をするが静かな瞳でジッと見つめられるので、拗ねた風に唇を尖らせる。

「信じて下さらない!? 本当にそういう想いもあるんですからね?」

 プンプンと怒るミレーヌに苦笑しながら、ありがとう、と伝える雄一。

 まだちょっと拗ねてる空気が残るが渋々ミレーヌが話し始める。

「様子見してた過去の不良債権の処理をしようかと思いまして……次世代、ゼクスに継がせなくても良いモノですから」
「なるほど、それが先程からつけてきているリホウに繋がるんだな?」

 雄一がそう言った瞬間、雄一の背後にリホウが姿を現す。

「はい、そういう事です」

 気付かれていた事をまったく何とも思ってない態度で話しかけてくる。

 突然、声をかけられた2人であったが驚く様子も見せずに頷く。

「じゃ、話を聞かせて貰おうか」
「では、場所を変えましょう」

 仕事ができると信頼するリホウに連れられて雄一とミレーヌが市場を外れていく。

 ふと、思い出した様子を見せたリホウが雄一に話しかけてくる。

「アンナちゃんの話を聞いて思い出したんですが、アニキに新しい二つ名が生まれそうな勢いらしいですよ?」
「……聞こうか?」

 雄一のカンが全力で警報を鳴らしているが無視しても変わらないと腹を括り、耳を傾ける。

「扱いに困る娘がいたら、『不良債権ボックス』に嫁にやれ、と……」
「リホウ、多少の業務の停滞は許す。その二つ名を握りつぶせ!」

 へい、と返事するリホウであるが、まったく信頼できない雄一は回避不可能の予感しかしない未来に涙した。
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