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9章 DTの後継者候補!

250話 とんだ菓子折りのようです

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 雄一がノースランドのアシストに意識を向けた一瞬の隙を突いた啓太の姦計が発動する。

 恵の時空魔法により、ホーラ、テツ、ポプリを一瞬で空間に引きずり込む。
 それと同時に啓太、そして本人である恵も一緒にこの場から姿を消す。

 舌打ちする雄一は、ノースランドにイエローライトグリーンのオーラを切り分けたようにして飛ばして保護するように包む。

 更に切り分けて、ホーラ達が消えた辺りに飛ばすと同じようにオーラは掻き消えた。

 巴を杖にするようにして両手持ちして背筋を伸ばして正面の大きな亀が放ってくる土柱を睨みつける。

「やんのか、こらぁ!」

 凄味のある声と共に威圧込みの視線をぶつけられた亀は頭などを甲羅に引っ込める。

 雄一の視線に掻き消されるように飛ばしてきていた土柱も消える。

 そして、しばらく亀との睨めっこが続いた。

 そんな雄一の足下に精神体で透ける巴の姿が現れる。

「ご主人、強欲なのじゃ。あの邪精霊獣を相手に力の分散、同時並行思考は隙が生まれる。あの者達を一旦放置してでも先に邪精霊獣を倒してしまうのじゃ!」

 不安そうな顔をする巴が雄一のズボンを両手で掴むようにして見上げてくる。

 巴が言ってくる上申には間違いはない。それが一番の効率を生み、雄一が傷を負う、最悪、死ぬ可能性を回避する、もっともの策である。

 勿論、雄一もその事には気付いている。

 それでも雄一は口の端を上げる笑みを浮かべる。

「大丈夫だ。この100倍の負荷をかけられようが俺は負けん! ここに来たのはノースランドの依頼だ。勿論、俺達の思惑もあるが、依頼を受けた以上、最優先事項だ」
「じゃが、じゃが……」

 言い出したら曲げない性格だと知る巴は、なんとかして思い留まらせる言葉を捻り出そうと奮闘するが思い付かずに焦りだけが募る。

 そんな巴に優しく微笑む。

「それにな、いくら口でああは言ってみたが、どうしてもホーラ達を見捨てる事はできそうにない。確かに俺一人では不覚を取るかもしれない。でも、俺には巴がいる。助けてくれるか?」
「ず、ずるいのじゃ、その言い方はずるい! じゃが、わっちはどこかのご主人と違って言った言葉を都合良く忘れたりしないのじゃ! わっちはご主人の刃。ご主人が歩く王道を共に行くモノじゃ、その言葉に二言はないのじゃ!!」

 そう言った巴が唇を尖らせて雄一を一睨みして邪精霊獣に向き合う。

 巴の態度に苦笑いを浮かべる雄一は気を取り直して、飛ばしたオーラの状態を確認する。

 ノースランドの方は大きな変化はないが、ホーラ達の方の状況が更なる予想外な展開になっている事に舌打ちしたい気持ちに耐えていると雄一と巴が弾かれるように『精霊の揺り籠』の最下層の天井を睨むように見つめる。

「この狭間から流れ出る力は……もしや!」
「間違いないのじゃ! あのジャスミンとやらと繋ぐ糸の先に居ったヤツと同じ力なのじゃ」

 巴との答えが一致した雄一は、「この菓子折りは詫びる気ゼロだな!」と今度は舌打ちを抑えられずにすると雄一を覆うイエローライトグリーンのオーラの大きさを激減させる。

 その雄一の様子に当然気付いた巴が円らな眼を大きく見開く。

「ご主人!!」
「まだだ、まだ、いける!!」

 まるで雄一達の応答を聞いて反応したようにタイミング良く甲羅に引っ込んでいた土の邪精霊獣の亀が動きだす。

 再び、土柱を生み出すと雄一に放ち始める。

 土柱は激減した雄一のオーラによって阻まれるが、雄一の表情が若干苦しげな様子を見せ始める。

「ご主人、さすがにこれは無茶し過ぎなのじゃ!」
「大丈夫だ。俺は決して折れん、信じてくれ!」

 額に汗を滲ませているが獰猛な笑みを浮かべる雄一に巴は下唇を噛み締めて泣くのを耐えるようして頷いた。







 一瞬の酩酊感に襲われたホーラ達は、地面に片膝を着いている状態で我に返る。

 すぐに立ち上がり、辺りを見渡すホーラは見覚えはあるがどこか分からない場所、つまり『精霊の揺り籠』だとは分かるが、現在地がどこか分からない。

「確か、ここは『精霊の揺り籠』の10階層だったような?」

 どうやらポプリは、ここがどこだったか覚えがあったようだ。

 最下層ほど拓けた空間ではないが、充分に広い場所であった。

 そして、会話に一切絡まないテツがジッと凝視して隙を見せないとばかりに睨む相手、啓太と恵にホーラとポプリも強い視線をぶつける。

「良く覚えてらっしゃいましたね? ただの通り道で似たような場所は他にもあったのに?」
「馬鹿にしないでくださる? 視野教唆になりやすい2人と同じと思われるの心外なので?」

 鼻で笑うようにして肩を竦めるポプリは話しかけてきた啓太を見つめるが、笑ってない目で観察する。

 ポプリの温度のない瞳に身震いをする啓太と恵は、戦力では明らかに優勢なのに一歩後ずさる。

 普段はふざけていても4年とはいえ女王として舵取りしてきた実績がポプリの貫録となって現れ、啓太達にプレッシャーを与える。

 ポプリが言うように啓太達に注意を向け過ぎていて、周りの事におざなりになっていた姉弟の2人は苦虫を噛み締めたように口をへの字にする。

 一見、余裕を滲ませるポプリだが、内心は外とは、まったくの別人かと言うぐらいに焦っていた。だが、元々腹芸が得意だったポプリだったが、女王業で磨きがかかり、この場にいる者達に誰にも気づかせない。

 本来なら各個撃破の状況を作る事を念頭に置いていた。

 それしか勝ち目がないと踏んでた為である。

 雄一にそう言われていた事でもあったし、人の能力を直感的に見抜く術を女王業をしていて身に付けたカンを信じるならば、想定以上の強さと判断していた。

 ほんの少しだけ、雄一が自分達を心配して過剰な反応をしていると信じたかったポプリの想いが打ち砕かれた。

 なにせ、恵の時空魔法にホーラとテツは反応できず、ポプリもまた魔法的な流れを感じ取る事ができなかった。

 これは喉元にナイフを突き付けられても気付けない事を意味していた。

「それで、ここに私達を連れ出したのは、どういう御用件でしょう? ああ、私達に愛の告白ですか? よくある事で慣れてはいますが、断るのもエネルギーがいるので踏み出す前に転んで思い留まってくれませんか?」

 小馬鹿にするよう笑みを浮かべて目を細めるポプリは、打開できるモノがないかと啓太達に悟られないよう必死に視線を走らせる。

 啓太は、ポプリが感情的にさせようとしてる事に薄らと気付いたのか、眉を寄せるが恵は頭を使う事を不得手としているようで少し信じてしまったらしく、啓太に「どういう事!」と聞いている。

「そうそう、メグミさんと言いましたか? テツ君にはべた惚れしている婚約者がいるので失恋確定ですよ?」
「なんで、アタシが告白する流れになってるのよ! 確かに可愛い顔してるけど、アタシが愛してるのはケータだけっ!」
「メグ! まだはっきりと狙いが分からないけど、挑発されてるのは間違いない。怒れば怒るほど向こうの思うつぼだよ」

 激昂しかけた恵のフォローに入った事により、少し冷静さを取り戻した事を感じたポプリは舌打ちしたいのを堪えて続けてみる。

「ごめんなさい。ケータさん、私には心に決めたユウイチさんがいるので……」

 そう言うポプリがホーラに目配せする。

 ポプリのサインに気付いたホーラがテツを肘で突くとポプリに続く。

「アタイもゴメンさ。アンタみたいなナヨナヨして、及び腰の男に興味ないさ」
「ごめんなさいっ! 僕はティファーニアさん以外の女性には興味ありません」

 珍しく空気を読んだのか、単純にポプリに騙されて誠実に答えただけなのかは分からないが、おそらく後者であろう。

 ホーラとポプリの言葉は啓太の言葉でかろうじて嘘と思えたようだが、テツの本気に申し訳なさそうな態度で告白の予定もするつもりもなかった恵が振られた形になり、引っ込みかけた感情が再燃する。

「なんで、告白もしてないアタシが振られた感じになってるわけぇ? もうアタマにきたぁ!!」
「落ち着いて、メグ! 僕達の目的を見失わないで! 怒りに任せたらアイツの思い通りだろっ……うぐぅ」

 恵を抑えにかかった啓太が突然、膝を着いて苦しそうにする。

 まるで伝染したかのように恵も苦しそうな顔をして膝を着く。

 いきなりの2人の行動に驚いたホーラ達だったが、好機と判断して飛び出す。

 苦しそうに顔を片手で押さえていた啓太が目を見開くようにしたと思った瞬間、ホーラとポプリは膝から力が抜けて地面を転がるように倒れる。

 テツは、嫌な予感がしてとっさに横飛びして前転すると啓太に叫ぶ。

「ホーラ姉さん達に何をしたっ!」
「勿論、チートの力で彼女達の体に掠らせて体力を奪ったのさ。大丈夫、命までは奪う気はないから」

 作り笑いを浮かべて虚勢を張ろうとする啓太の視界で荒い息を吐きながら立ち上がるホーラとポプリの姿を見て、笑みを浮かべた顔で固まらせる。

 荒い息を呼吸法で短時間で整えた2人が額に浮かぶ汗を拭う。

「やっかいな力さ」
「ええ、視認は勿論、魔力の流れも感じ取れなかった」

 2人は雄一が言っていた事を今、正しく理解に至る。自分達に啓太と正面から戦って勝利はない事を。

 驚愕の表情を浮かべる啓太達。

「君達は何者なんだい? 僕達のようにチートがある訳でもないのに。それ以上に驚かせるのがユウイチだ。距離もあるし、視認もできてないのにこんな真似ができるなんて……」
「どうやったらアタシ達の動きを阻害できるのって! やっぱり、化けモンよっ!」

 苦しそうにする2人を注意深く見つめると薄らとイエローライトグリーンのオーラを纏うようにしてるのが分かる。

 それを見た3人の表情、心に活気が宿る。

 厳しい言葉を放ちながらも、いつでも自分達を心配してくれている存在が健在してる事を心で感謝を伝える。

「やっぱりユウイチさんは私の事を愛してる!」
「馬鹿言ってるんじゃないさ。ユウもやらないといけない事が一杯あるんだ。さっさと事を済ませて、こっちに世話焼かないでいいようにするさ!」
「はいっ!」

 身構えるホーラ達を、顔を顰めて見つめる啓太達であったが、驚いた顔をしてホーラ達の背後を見つめる。

「そんな引っかけに……引っかけといってくれませんか?」
「ポプリさん、僕、凄まじく嫌な予感がするんですが……」


 ズッシン、ズッシン


 おそるおそる振り返るホーラ達も啓太達と同じような顔をする。

「ぶ、ブラックドラゴン!」

 ポプリが噴き出すように後ろにいた大きなトカゲ、まさにドラゴンと言えばコレという姿の黒い鱗が特徴の種類が近寄ってくる。

「ヤバいさ?」
「私も文献だけしか知りませんが、上位版のドラゴンとかエンシェント級とか言われるドラゴンの1頭です。その中でも最下位と言われてはいますが、文献通りなら勝てる相手では……」

 ポプリの言葉に生唾を飲み込むホーラとテツ。


 前門の啓太達に黄門のブラックドラゴン


 笑えない展開に心を折られそうになるホーラ達をよそにブラックドラゴンが啓太達に話しかけた。

「さあ、その者達を殺して首をアイツの前に晒して戦意を挫かせに行くぞ」
「あっ! その声は『ホウライ』か! 言っただろう、俺はユウイチ以外の者は殺さないと!」

 啓太の言葉に鼻息を荒くさせると鼻息から火が漏れ、煙が上げるブラックドラゴン、こと『ホウライ』。

「そうは言って手加減していて形勢が悪くなってるようだが?」
「ウルサイ! それより、手を打つと言ってたのは、そのドラゴンか? あの化け物にドラゴン1頭でどうしようって言うんだ!」

 帰れ、と身ぶりで示す啓太が嫌な汗を掻きながら言う。

 そんな啓太を鼻で笑うように鼻を鳴らす『ホウライ』は「手を打ってる」と告げる。

 すると何もない空間にスクリーンが現れてある場所を写す。

 啓太達は元の世界のスクリーンと似たモノと思う事で冷静だったが、驚きが隠せないホーラ達だが、ポプリだけが驚きながらも見覚えがある場所だと気付く。

「ザガンを出てしばらくした所?」
「その通り、良く気付けたな、小娘。目を凝らしてよく見てみろ」

 呟いたポプリにそう答える『ホウライ』の言葉に従うようで抵抗も多少あったが、確認するポプリがすぐに驚きの声を上げる。

 それと同時に啓太も気付いて、『ホウライ』に怒鳴りつける。

「お前は正気か!? こんな事したら人の世が滅びかねないぞ!」
「おおげさな、この大陸の人が死ぬだけで別大陸にいるから数百年もすれば、馬鹿な人がこの大陸に渡ってくる」

 そのスクリーンには無数のモンスターが地面を蹴って走り、土煙を上げる様子と上空には目の前のブラックドラゴンが可愛く見えるドラゴンが数頭とその眷属のようなドラゴンが舞うように飛んでいた。

「一万のモンスターだ。しかもエンシェント級が数頭いる。さすがにこれだけあれば、アイツを殺す事も可能かもしれんが、お前達も手を打て」
「待て、俺達がこの世界に来た理由を潰す気か! 俺達はモンスターと友達になりにきたんじゃない。この異世界で楽しく生きる為にきたんだ!」

 爬虫類の独特な視線で啓太を見つめているが、そこに浮かぶ感情があるとすれば、物を見るような冷たさであった。

 口を開いて何かを言おうとした『ホウライ』だったが、すぐにスクリーンに視線を向けると苦々しく呟く。

「くっ、まだ、そんな余裕があるというのか!?」

 『ホウライ』が見つめる先をホーラ達、啓太達も見つめるとモンスターの行進を遮るようにオーロラのようなモノ、イエローライトグリーンのオーラを確認できた。

「ユウっ!」

 嬉しげな声を上げるホーラを見つめるテツが、気合いを貰ったとばかりツーハンデッドソードを身構える。

 遅れてホーラとポプリも身構えるのを見て、『ホウライ』が啓太達に警告なのか命令なのか分からない指示を出す。

「最後のチャンスだ。あの者らを殺せ」
「断る!」

 そう言い切った啓太の背後から悲鳴が聞こえる。

 悲鳴の主は、啓太の背に隠れていた恵で頭を両手で抱えてしゃがんだと思うと地面を転がり出す。

 目を剥いた啓太が『ホウライ』を睨みつける。

「メグに何をした!」
「お前達のように心の弱い奴等が土壇場で使えない可能性を考えなかったと思うのか? お前達に力を与える時に一緒にマインドコントロールの下地を仕込んだ。自分の意思で動くより、使い勝手が悪いから、ここまでお前達の行動に目を瞑ってきたが、動かない駒よりはマシだ」

 そう話し合うのを見ていたホーラがテツとポプリにだけ聞こえるように話しかける。

「アヤシイ雲行きさ。あの『ホウライ』というヤツが何かしたら、一斉に飛びかかるさ」

 ホーラの言葉に頷くテツとポプリ。

 まるでホーラ達を忘れたかのような啓太は『ホウライ』を罵り続ける。

「契約違反だぞ、『ホウライ』!!」
「ただのゴミのお前と神である私で対価なしで対等な契約が為されると思った世間知らずのガキな自分を恨むといい!」

 そう言った『ホウライ』、ブラックドラゴンの瞳が輝くと啓太も頭を抱えて転がり出す。

「行くさっ!」

 ホーラの掛け声が合図になってテツはツーハンデッドソードを振り翳して『ホウライ』に特攻をかけ、ポプリは魔法の詠唱を始め、ホーラはパチンコの玉に付加魔法を込めながら引き絞る。

 それに気付いた『ホウライ』は、ホーラ達を見て笑った。何故かホーラ達にはドラゴンの表情など分からないのにそう感じた。

「私も忙しいのだ。お前達の相手はこいつ等とこのブラックドラゴンに任せる事にしよう。安心してくれ、手応えを感じて貰う為にブラックドラゴンのリミッターは外しているので期待には応える」

 声なき高笑いを受けたと思った瞬間、ブラックドラゴンの瞳に理性が消え、咆哮をテツ達に叩きつけてくる。

 咆哮に衝撃波が込められていたのかという具合に吹っ飛ばされたテツはホーラ達の下に戻され舌打ちをする。

 幽鬼のように立ち上がる啓太達の姿を捉えた為であった。

 最悪の状況になりつつあるホーラ達はジリジリと下がりながら背中合わせで身を寄せながら打開策を求めて辺りに視線を走らせ始めた。
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