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6章 DT、出番を奪われる?

166話 危険を冒す者の役割らしいです

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 村の宿まで戻ってきたアリア達は夕食を重い空気の中でとっていた。

 こんな空気に耐えれずに騒ぎそうなレイアはこの場にはいない。

 ゼペットの家の前で騒ごうとしたレイアの口をアクアが押さえた時、口だけではなく鼻まで押さえてたようで、アクアがレイアをオトしたからである。

 気付くのが若干遅かったが命には別条はなく、今は部屋で寝ている。

 勿論、重くなってる理由はレイア絡みの話ではない。

 ゼペットに言われた依頼を降りろ、という事についてである。

 これが脅迫的な話であれば奮起する理由になったであろうが、自分達を心配し、冷静な判断で応援を呼ぶべきだと言ってきている事を理解してしまっていたからである。

 勿論、アリア達も今回の件は自分達の手に負えない可能性を理解し始めている。

 少なくとも、依頼に書かれているゴブリン討伐では済まないほどに想像以上に事が大きくなってる感じ取っていた。

 重い空気のなかでいつもより食の進みが遅かったが終わるのをお茶を飲みながら見守ったスゥが口を開く。

「相談は部屋に戻ってからにしましょうなの」

 勿論、今朝のように宿の女将などに耳に入れるのを嫌ったという理由もあるが、寝ているレイアの心配もあった為である。

 スゥの提案に頷いた皆が立ち上がるなか、アリアが宿の女将にパンと果物と水をお願いする。

 レイアが起きた時の食事の為である。アクアの見立てだと後、数時間は起きないという話だがいつ目を覚ますか分からないので用意しておこうという事らしい。

 宿の女将から食事を受け取ったアリアは、遅れて皆がいる部屋へと戻って行った。


 部屋に戻った子供達はしばらく口を開かずにレイアを横目に黙り込んでいた。

 だが、黙ったままでは拉致があかないと判断したスゥが口を開く。

「正直、想定外ですの。あの村長の言動から罠などは考えましたが、まさか、高位の魔物使いの可能性が浮上するとは……」

 そう、村長は只の魔物使いではなく、高位の存在である可能性を示唆していた。

 普通の魔物使いであれば、獣などの知能が低いモノを操る者を指す言葉であるが、低位とはいえ、知恵のあるゴブリンを操るという事は普通ではない。
 条件さえ、揃えれば人すら操れても不思議ではない可能性も見え隠れするのである。

 自分達の力では太刀打ちできないかと不安に襲われはするが、子供達は逃げたくないという気持ちに駆られていた。

 止められていたにも関わらず、強引にやってきた依頼ができませんでした、と泣きを入れる事に子供ながらのプライドもあり、それは屈辱であった。

 それ以上に、そこまで強行して逃げ帰った自分達を見た雄一に失望される事を恐れた。

 勿論、雄一はそんな事はしないだろう。だが、子供達にとったら死活問題であった。ここまで育て、鍛えられたのに何も応えられずに恥を晒す事を恐れたのである。

「僕は今回の件は降りたくはないです」

 普段なら恥だろうが冷静に判断して止める側にいるダンテだが、今回は感情的になっていた。
 先程に述べた理由もあるにはあるが、どうしても譲れない情報を得てしまったからである。

 そう、ペリである。

 かつて、自分を苦しめ、姉を暗殺者として使い倒すキッカケになった薬を使われたと聞いたダンテの胸中は激しい怒りに包まれていた。

 あの時、姉であるディータが雄一に出会わなければ、どことも知れない場所で死んでいる未来が姉の末路であったと難しく考えずとも理解できていた。

 そして、自分はここにこうしていられなかった事は言うまでもないことであった。

 両手を組んで指に力が入り過ぎて白くなってるのを見て、溜息を零すスゥはダンテを諭す。

「ダンテ、落ち着いて。確かに私も降りたくないと思ってるの。でも、いつも逃げ腰気味とはいえ、冷静な意見を言う貴方がそんな有様だと猪突猛進の面子だけになったら最悪の末路しか無くなるから自分を取り戻して」

 力が入り過ぎてる組んだ手の上にスゥの掌が置かれて、初めて自分の手が白くなるまで力を込めている事に気付く。

 ダンテは、弱々しい笑みを浮かべて「ごめん」と詫びると組んでた指を外す。

 目を閉じて、ゆっくりと深呼吸をしたダンテは、目を開けるともう一度手を組み直すと皆を見渡す。

「ごめん、頭に血が昇り過ぎてたようだ。今回の件はゼペットさんに話を聞きに行くまでは情報を集めたら、洞窟に調査に行って、ちょっと藪を突いて様子を見ようと思ってた」

 周りを見つめるダンテは「皆も似たような事を考えてたんじゃない?」と問うとアリア達は頷いてくる。

 皆の反応を受け取ったダンテが1つ頷くと話を進める。

「でも、得た情報から考えられる可能性がそれは悪手だと教えてくれた」
「多分、ゴブリンキングぐらいは出てきてもおかしくない」

 ダンテの言葉にアリアが可能性を伝える。

 そう考えるのは大袈裟でも何でもない。何故なら冒険者を呼んでも撃退、いや、壊滅させる自信があるから依頼を出しているはずである。

 当然のようにゴブリン程度では駆け出し冒険者をヒヤっとさせるのが関の山で熟練冒険者だと邪魔な枝を払うように倒されてしまう。

 そんな事は分かり切ってる以上、熟練冒険者相手でも対抗できる手札が用意されているはずである。

「聞いた話だと、ホーラさんとテツさんの2人でユウイチさんの下で修業を1カ月ほどして、オークキングを撃破したと聞きます」
「うん、それは本当。かなりギリギリだったようだけどボロボロになって帰ってきた」

 アリアがダンテの言葉を肯定するが続けるようにミュウが呟く。

「でも、ユーイ、一緒だった」

 ホーラ達が1カ月で自分達が2年と時間をかけて修行している。まだ本格的な修行はしてないそうであるが、ゴブリンキングなら勝てるのでは、という思いが子供達にある。

 だが、ミュウが言うようにホーラ達にあってダンテ達にないモノ、そう、雄一の存在である。

 雄一はいないがシホーヌとアクアは一緒に居てくれる。確かに命の心配はないかもしれないが、今、子供達が必要としているものが決定的に足りてない。


 それは安心感である。


 雄一がいるから大丈夫、雄一が見ててくれるから後先、考えずに無茶ができるという思いっきりが出せない。

 ただ、後ろで笑みを浮かべている雄一の存在が子供達の力となった。それを確認するだけで、自分達は間違ってないと信じる指針があった。

「私達にはユウ様がいないの。この意味はとても大きく、強い敵と戦う意味で不安要素なのは間違いないの。でもそれとは別に不安要素があるの」
「ユーイ、いない以外?」

 そう聞いてくるミュウの言葉に頷いたら良いか迷いを見せるスゥだが、とりあえずといった風に頷いてみせる。

「私達の場合であればユウ様がいれば解決したと思うの。でもこれが私達じゃなく熟練冒険者が来てた場合、どうしたんだろうと考えた時、怖い事にも気付いたの」
「もしかして、熟練冒険者が来ても返り討ちにできる算段があった……?」

 その意見にはダンテも可能性として考えがあったので目を細めるだけに留まる。

 だが、驚きが隠せないアリアが呟いた内容にスゥは頷いてみせる。

「勿論、可能性の問題なの。依頼書にはゴブリンと書いてる以上、新米の仕事を取らないように熟練冒険者は避けるのが暗黙の了解になってるの。住人もゴブリン2匹ぐらいなら多少の犠牲を覚悟すれば撃退できるという思いから、近隣に助けを求めるという行動を取らないの。だけど、そうだとしたら余計に分からない事が出てくるの」
「あっ、そうか、そこまで危険を冒してまで村長達が得るモノが分からない」

 スゥの疑問に気付いたダンテは呟き、その思惑はなんだろうと考えるがさっぱり理解できない。

 力を誇示したいのなら、こっそりと戦力の拡充を狙えばいい。だが、いくら見つかったと言えど、冒険者を呼ぶ行動に出ている。

 隠す気があって見つかっただけであれば、ゴブリン2匹を捨て駒と扱い、村長宅で出会った大男に茶番で殺させておけば一件落着と話を収束させる事ができたはずである。

 その後に再び、集め始めれば良いのだから。

 もしかしたら、村長を疑うところから間違っているのかもしれないと疑心暗鬼に襲われて答えが何か見えなくなっていた。

「こうなったら、尻尾を巻いて逃げるか、危険を覚悟して藪を突っつくしか打つ手がない……」
「その2択ならアタシなら藪を突っつく。少なくとも尻尾を巻いてなんて御免被る」

 ダンテの苦渋の選択を口にすると寝てたはずのレイアが起き上がっていた。

 皆の注目を浴びるがマイペースに枕元に置かれていたパンを手に取るとガブリと噛みつく。

「レイア、いつから目覚ましてた?」

 ミュウが首を傾げながら聞くとパンを咀嚼して水で流しこむと答えてくる。

「ダンテが謝った辺り? まだちょっと眠かったから話だけは聞いてたけど腹が減ったんで起きたついでに口出した」

 レイアが無事に目を覚ました事にホッとしたアリアが問う。

「でも突っついた結果、私達に手に負えない相手が出てくる可能性がある。それはどうする?」
「それはアタシ達が逃げて、次に来る相手が熟練冒険者以上の者が来ると判断されたら、証拠隠滅を計るようにこの村の人を全滅させて、逃亡という展開がお約束じゃね?」

 珍しく、的を射た事を言うレイアにアリアは二の句を告げられなくなる。

「だけど、アタシ達が突いて、出たのがアタシ達がなんとかできる相手なら撃破、できないなら逃げ出して村の人に危険を知らせて避難させる。それが冒険者である危険を冒す者としての役割じゃない?」

 リンゴを齧りながら何でもないように言うレイアにアリアだけでなく、スゥもダンテも目を丸くさせる。

 少なくともスゥやダンテが知る限り、レイアに論破されるというのは初めての体験で、アリアの様子を見ても初めて、もしくは、かなりレアな事のようである。

 目を点にする子供達をクスクスと笑うシホーヌとアクアは話が纏まったと見て声をかける。

「珍しくレイアの一人勝ちのようなのですぅ」
「ゴブリンキングぐらいの相手で貴方達を死なせたりさせません。このまま引き下がれないと貴方達も思ってるのでしょ? 頑張ってみなさい」

 駄目っ子シスターズポーズを取る2人を見つめる子供達は、ああいうところがなければ、もう少し信用できるんだけどな、という言葉を胸の内に仕舞い、深い溜息を吐く。

 だが、2人が言うように引き下がれない思いがある。

 5人は頷き合うとこの件に片足だけ浸かるだけではなく、どっぷりと浸かる覚悟を決めた。
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