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1章 DT、父親になる

7話 デビューしました

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 雄一はしまった……とさすがに反省していた。

 今の置かれてる状況と夢見た冒険者の初依頼という事で浮かれ気味だった自分の状況を思うと思わず、やってしまったと。

 基本、戦いに参加しない方針だからといって、肩で止めている風呂敷に入ったイモしか持ってきてない自分を馬鹿にする意味で言った言葉でホーラの心を折る結果になって、醜態を晒させてしまった。

 本人は、色んな事が一気に起きてしまったせいか、今、自分がどういう状況なのか理解できてない。

 いや、したくないのか放心していた。

 どちらの理由でそうなっているにしろ、時間の問題だろう。はっきり自覚した瞬間にホーラに消せない傷を作る事になる。

 そして、雄一は考える。

 雄一が取るべき行動を。

 まず、目の前の障害を排除して、ホーラの醜態を隠ぺいする。

 それから、男らしい謝罪をするプランを練りながら、先程、拾った石を掌で転がしながら考える。

 石は3つ、さっき、ゴブリンの手を打ち抜いた感じからすると狙いを外さなければ一撃必殺になりえそうであるが、相手は9匹、現実的ではない。

 雄一は視線を走らせると、1匹だけ、腰布だけじゃない奴が少し離れたところにいるのに気付く。錆がついているが、サイズがあっていないが鉄の鎧を纏うゴブリンがいる。

 直感から、あれは、ゴブリンリーダーだと理解した雄一は取るべき行動を決めた。

 決めた雄一は、迷わず即行動に移した。

 一番手近にいたゴブリンの胸に目掛けて、石つぶてを飛ばす。狙いは違わず、心臓付近に命中して貫通する。

 吐血して絶命して倒れゆくゴブリンに駆け寄り、持っていた錆びた剣を奪うと駆け寄ってくるゴブリンを一刀で仕留める。

 そして、雄一は「俺はここだぁ!!」と叫ぶ事でゴブリンの意識をこちらに向けさせながらゴブリンリーダーに特攻をかける。

 特攻してくる雄一に警戒するように、ゴブリンリーダーは奇声を上げ、その声を聞いたゴブリン達は雄一を追うようにホーラを無視して駆け寄ってくる。

 思惑通りに雄一に引きつける事に成功したゴブリン達に笑みを浮かべながら、石つぶてをゴブリンリーダーの持っている片手斧目掛けて狙い、牽制目的でするが、あわよくば手から落とさせたらと思い、駆け寄りながら親指で弾いて放った。

 すると予想外にも砕け散る結果になった。

 片手斧と石の両方がである。

 いくらボロくなっているとしても、自分が持つチートがいかに笑えないか身を持って自覚して、笑いだしたいが今は飲み込む。

 雄一がした事を理解する程度の知識があるのか、襲いかかろうとしてた足に急ブレーキをかけるが既に雄一の剣の射程に入っていた。

 舞うように体を一回転させた雄一は、大きな体でやるので、とてもダイナミックで、あれだけの速度で動いているのにも関わらず、遠目ではゆっくり動いているように見えた。
 無造作に延ばされた髪の縛った毛がまるで馬の尻尾のように回転する雄一に追い付けとばかりに後追いをする。
 回転を止めた雄一の周りには首がないゴブリンの体が立っており、思い出したように血が噴き出すと倒れて行くのに合わせるように雄一が持っていた錆びた剣もポキっと折れる。
 止まり切れなかった雄一の髪が前に来たのを手で払い、後ろに戻すのと同時に持っていた最後の石つぶてをゴブリンリーダーの胸に目掛けて撃ち放つ。
 狙い通りに飛んだ石つぶては、胸を貫通させて絶命させた。

 雄一が動き出して3分もかけずに起こった出来事であった。


 それを座りこんで見ていたホーラは、凄い……と言葉を洩らす。

 明らかに雄一のあの動きに魔力を使われた形跡はなかったのに、魔力を使った者でも難しい動きと力強さが垣間見たホーラは放心して見つめた。

 何しろ、どれもこれも魔力なしでやった、と誰かに説明しても信じて貰えないような事ばかりであった。

 石つぶてを飛ばして、ゴブリンを絶命させた事もそうだが、いくら粗悪品とはいえ、片手斧を石つぶてで破壊するなんて馬鹿げてるにも程があった。

 確かに、雄一は強いだろうと思って、一か八かの賭けに出る為に冒険者ギルドで話しかけたホーラであったが、こんな強さを持っているとは予想だにもしなかった。

 だが、これは嬉しい誤算であった。

 勿論、ここで命拾いした事もそうだが、ホーラが抱える問題を解決できる可能性を見たのである。

 早速とばかりに立ち上がろうとするが完全に腰が抜けているようで、ピクリっとも動いてくれない腰に歯軋りをしかけるが、ある事に気付いてしまう。

 振り向いた雄一がこちらに歩いてくる事が更に拍車をかけて、パニックになりそうになる。

 そう、気付いてしまったのである。自分の股の湿り気の存在に……

 慌てて、自分の匂いを確かめると、自分でも感じる僅かな匂いに戦慄を感じる。
 ホッとしたような表情をした後、先程までのやさぐれた感じを匂わす表情に戻るとこちらに戻ってくるのを見て、ホーラは叫んで止める。

「く、くるる、来るな、頼むから、そこで止まってくれ」

 叫ばれた雄一は、怪訝な顔をして何故だと問い返しそうになるが、真っ赤な顔をして叫ぶホーラを見て、なるほど……と呟いてバツ悪そうな顔をする。

 雄一もどうしたら良いか分からないらしく、頭を掻いて明後日のほう見ていた。

 ホーラも雄一を直視できないらしく、自分の後ろのほうにある茂みに視線を向けるその茂みからゴブリンが飛び出してくる。

 ヒッ、と悲鳴を上げて逃げようとするが腰が立たず、後ろに這いずるように逃げようとするが、当然、逃げ切れる速度が出る訳ではなく、ホーラに凶刃が届くかという時、ホーラの右頬の辺りから大きな拳が駆け抜ける。

 狙い違わぬといった感じで、ゴブリンの顔を打ち抜いて、吹っ飛ばす。

「まだ残りが隠れてたかっ!」

 そう叫ぶ雄一は、左手でホーラの胸を回すようにして抱き抱え、左手にすっぽり収まったホーラを連れて、後方へと跳ぶ。

 雄一はホーラを下ろすと、前に飛び出し、ホーラがしゃがんでいた辺りに落ちているホーラの短剣を拾うと体勢を立て直そうとしていたゴブリンに跳びかかり斬りかかる。

 まだ体勢を整え切れてなかったゴブリンの喉を短剣で突き刺して、返り血を受けないように抜く動作と後ろに逃げる動作を同時にこなし、返り血を回避した。

 短剣を一振りして血を吹き飛ばし、ホーラの下へと帰って行く。

 近寄ってくる雄一に再び、来るなと騒ぐホーラだったが、今回は雄一は止まらずに近寄ると許可も取らずに抱き抱える。

「ここで、チンタラしてたら同じ事あるかもしれないし、これだけ血の匂いがしたら獣も寄ってくるだろうから、離れるぞ? 近くに水の音がするからそこで体を洗って帰ろう」

 それでも必死に抵抗を示そうとするホーラを困った顔をした雄一が言う。

「気持ちは分かるが、もうさっき抱き締めたんだから、もう隠すようなものないだろう?」

 など、とデリカシーに欠ける言葉を吐くが、雄一の言い分も正しいと理解したのか、おとなしく抱えられた。


 しばらく歩くと、水音がはっきりしてくる。

 到着すると湧水でできたと思われる泉に到着する。

 その辺りにくるとホーラもだいぶ回復したのか、生まれたての小鹿のようにではあるが歩けるようになったので「自分で洗ってくる」と言うので泉の傍で降ろした。

「分かった。近くで火を起こしておくから、水は冷たいだろうが、しっかり洗ってこいよ?」

 そう言うと雄一は、着ているブレザーとイモを運んでいた風呂敷を渡し「しっかり体は拭くんだぞ? 風邪を引くからな?」とオカンのように注意をする。

 裸でいる訳にはいかないから、ブレザーをワンピースのように着て、誤魔化すように指示をするが、だいぶヘコんでいるようで、素直に「ウン……」と頷くとフラフラして泉のほうへと歩いて行った。

 ホーラを見送った雄一は薪を集めてきて、火を点ける準備をした時点で、火を起こす方法に悩む事になった。

 アニメだったら、木の枝を使って手で回して火種を生むのを見た事あるが、あれって実際はかなり大変らしい。力もそうだが、何より速度とスタミナ重要らしいと聞いた事がある雄一はどうしたものかと考える。

 それを工夫で楽にする方法で靴の紐などを使って弓を作ってやる方法が聞いた事があるが、さっぱり覚えていなかった。

 本来ならここで違う手を……と思うところだが、雄一にはチートがある。先程の戦闘ではっきりと手応えを感じていた。
 肉体強化がかなり仕事していた。

「今の俺ならアニメのようにできるはず!」

 そう、鼻息を荒くする雄一は、回転させるのに丁度良さそうな枝と土台になる木を見つけるとホーラから借りっぱなしになっていた短剣で枝を尖らせて土台の木の皮を剥がし、回転させる基点に小さな穴を開けて、短剣で擦るようにして作った木屑を穴の周りに配置する。

「さーて、やってやんよっ!」

 若干、楽しそうにする雄一は、枝を土台の木にあてると気合いを入れて回転させ始めた。

 それから、いくらか時間が過ぎた頃、薪が火で弾ける音を聞きながらホーラの帰りを待っていた。

 なんとか火を点ける事は成功したが、かなりの苦労を伴った。

 この方法で火を点けるのは力と速度以外に間違いなくコツが大きいと雄一は思った。

 火を点ける方法の確立は急務だな……と思う。

 家ではシホーヌがあっさり点けていたから気にしなかったが、冒険者をしていくなら必要になっていく。

 元の世界では、ガスなどがあったからコンロで簡単に火が点くし、ライターがあれば野外でも火の調達が楽だったと思い、その製作者と広めた人にお世話になりました、有難う、と心で礼を言う。

 イモを火の傍に置いて、温めながらホーラの帰りを待っていた雄一であったが、少し遅いように思い、心配しだした頃、人が歩いてくる音に気付いて振り返るとそこにはホーラの姿があった。

 ブカブカのブレザーの袖を降りまくって、ふらつきつつも木に寄りかかるようにして歩いて近寄ってくるホーラを見つけると駆け寄り、抱き上げるが今度は抵抗もせずに抱え上げられる。

 泉で洗ったおかげか、頭に着けていたカチューシャを外したホーラの髪はくすんだ栗色が明るい栗色になり、煤汚れていた顔も少し日焼けしているが触れば、しっとりしてそうである。

 雄一も気付いていた事ではあるが、将来、可愛いと言われるより、美人と呼ばれる素養がはっきりと見える少女であった。

 ホーラはジッと雄一を見つめ続けて何か言いたげであるが言葉が纏まらない、と言った表情をしていた。

 ジッと見つめられて、少し居心地が悪い雄一は、気にしてないフリをして焚き火の下へと急ぎ、倒木の上にホーラを座らせる。

 だが、ホーラの視線は外れず、逃げたい衝動に駆られるがそういう訳にもいかないしと溜息を吐きたい衝動に悩むが、焚き火で温めていたイモを思い出し、差し出して「お昼にしよう」と声をかける。

 それでも、まだ見つめ続けるので、とりあえず、雄一はイモに被り付く。

 イモと雄一に視線を往復させていたホーラだったが「雄一に食べなよ」と言われて、小さな口でパクっとイモを咥える姿を見て、安心して雄一も食事を再開した。

 雄一は、早々に食事を終わらせてしまったので、ゆっくり食べるホーラを待つ時間稼ぎのように火の番をしていた。

 ホーラも食べ終わって、30分ぐらいした頃、雄一が空を見上げると、陽の傾きがそろそろ帰らないと暗くなるかもしれない……と判断してホーラに出発しようと声をかける。

 雄一は焚き火の火の始末をしながら横を見るとまだふらつくホーラを見て思う。

 体を洗うのに手こずって、水の中に長い事いたのではないかと、精神的にも結構参っていただろう。

 しかも、この季節の水に長時間入っていたら、だいぶ体力をガリガリと削っただろうと思った雄一は、ホーラの前で屈むと「乗れ」と言うとホーラは少し考えたそぶりをしたが、おとなしく雄一の背中に乗った。

 雄一の背中に乗って、帰り道を歩くホーラは、雄一の背中に乗りながら、何やら考えているようで、時折、うーん、とか言っていた。

 ホーラをおんぶしている雄一はというと、唸るホーラの吐息が首にかかり、カチューシャを取ったせいか、前髪が跳ねているようで耳の後ろにツンツン、としてくるのでダブルでこそばゆかったが必死に耐えながら歩いていた。

 森の出口が近づいてくると、うーんと唸る声がしなくなったと思っていた雄一にホーラが意を決したように声をかけてきた。

「ねぇ、アンタに頼みがあるんだ」
「なんだ? さっきから考えていた事はそれか?」

 思わず、足を止めて聞き返されたホーラは「うん、そうさ……」と消え入りそうな声で言ってくる。

 一回、口に出したんだから迷わず言い切ってしまえ、と雄一はぶっきらぼうに言う。

「つまらない話だけど、アタイの話、身の上話を聞いておくれよ」

 空虚な瞳をして雄一に語り始めた。
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