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4話 街にバカがやってきた

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 ゴツイと表現がしっくりとくる双角の鬼族の隻眼男は男より巨躯のオーガをポシェットから取り出した無骨な銅の片手剣で一刀する。

 振り抜いたその片手剣と言ったが刃らしい刃はなく、銅の棒というのがしっくりくるようなナンチャッテ剣を再びポシェットに仕舞うとオーガに背を向け、前に視線を向ける。

 向けた先には小奇麗なドレス、少し活動向きを意識されたドレスを着た幼女を庇うように年若い少女、侍女と思われる少女に守られながら幼女慌てたように男に言う。

「オーガを無視して背を向けるなんて……」
「もう終わっている」

 そう男が告げるのを聞いて、同時に男が振り向く前の格好で一切動きを見せなかった事に幼女も今、気付く。

 一切、動きを見せなかったかのように見えたオーガに僅かな変化が生まれる。

 オーガの左右の目の位置のズレを幼女と侍女は気付く。

 その気付きがキッカケになったかのようにオーガの左右のズレが酷くなり、加速する。

 ズッド――ン

 超重量の肉塊となったオーガの倒れる音に2人は思わず目を瞑る。

 そして、目を開けた時に見たモノは切られた事を今、思い出したかのように真っ二つオーガの肉体から血が噴き出すところであった。

 目を見開いて驚く2人の前には煙草を咥えた隻眼の鬼族の男がおり、2人を交互に見つめる。

 幼女は泥に塗れているようだが怪我はなさそうで、侍女の方は幼女を守ったせいか衣服の乱れとかすり傷が目立つ。ただ、足の怪我はこのままでは立てないと思われる怪我をしている。

 更に周りを隻眼の男が見渡すと壊れた馬車の周りに護衛と思われる男が2人倒れており気絶しているようだ。
 痛みに呻く様子と体、周りの様子から出血死するような状況でもないと見て、命に別条はなさそうだと判断する隻眼の男。

 隻眼の男が見渡しているのを見て、侍女が身じろぎした時に足の怪我を思い出したようだ。

 その痛そうな仕草を見た隻眼の男が近づくと身を固くするのに悪いようにしないとポシェットから小瓶を2つ取り出す。

 取り出した小瓶を片手に侍女の前にしゃがみ込む。

 小瓶の1つを開けると怪我をしている足に優しくかけ、かけ終えた場所を手拭で拭うとそこには傷もない綺麗な肌が現れる。

「……ッ!」

 驚く幼女と侍女に優しげに隻眼を細める男は侍女の肩を抱くようにして残る小瓶の蓋を開けて飲ませようとしてくる。

 顔を真っ赤にした侍女が隻眼の男を凝視して固まるのを見てくる。

「心配するな。お手製ではあるがポーションだ。効き目は先程見ただろ?」

 その言葉にコクコクと壊れた人形に頷く侍女の口に小瓶を当てて飲ませる。

 すると全身にあったかすり傷は消え、そっと抱いていた肩から手を離す隻眼の男は先程と同じ小瓶を4つ侍女に手渡す。

「あっちで倒れてる男達に使うといい。命の心配はなさそうだが放っておいて重症化したら困るからな」

 ポーと見つめる侍女の手に小瓶を持たせ、恐怖が去り好奇心勝り始めてジロジロと見てくる幼女を見る隻眼の男は指を器用にパチンと鳴らす。

 生活魔法のクリーナーを発動させ、汚れていた幼女と侍女の服や体についた土埃の汚れがなくなり綺麗になる。さすがにほつれや破れはどうにもならないがしないよりマシであろう。

 呆けていた侍女が我に返り、何かを口にしようとした時、近くの茂みから人が飛び込んでくる。

「兄(にい)やん、こっちは片付いたで、急ぐぞ!」
「おう、こっちも終わったところだ」

 飛び出してきた男前だがサルっぽさが抜けない長身痩躯の引き締まった体をタンクトップの隙間から見せる少年が隻眼の男を兄と呼んで「急げ、ジュラが加速してる」と急かしてくる。

 それはヤバいと呟く隻眼の男が立ち上がろうとするのを止めるように幼女が声をかける。

「待て、鬼族の男。今は礼は出来ないが此度の事天晴れである。いつか礼を……」

 そこまで言いかけた幼女が止められる。隻眼の男の手が腰まで届く金髪の幼女の頭に手を置かれた事に驚いた為だ。

「子供がそんな気にしなくていい。礼はにっこりと笑って『ありがとう』でいいんだ」

 優しげな隻眼を向ける男の瞳を覗きこんでしまった幼女は顔だけでなく耳まで真っ赤にすると俯く。

「あ、ありがとう、ございます」

 はにかむようにつっかえ気味で言ってくる幼女の頭を優しく撫でる隻眼の男。

「兄やん、マジでピンチやって!」
「分かってる。送ってやりたかったがこちらも急いでる最中でスマン。周辺のモンスターは粗方倒してるはずだから気を付けて帰るんだぞ?」

 急かしてくる少年が早く早くと手で招く方向へと隻眼の男が駆けて行く。

 離れて行く隻眼の男は円らな瞳を爛々とさせる幼女と熱くなった頬に手を当てて吐息を洩らす侍女に見送られた。



 幼女と侍女と別れ、森を疾走する隻眼の男と少年。

「ジュン、すまん、少し時間を食った」
「ええって、あの様子やとピンチやったみたいやし、兄やんが子供を見捨てられると思わん」

 でも、と続ける少年、ジュンは背後でこの速度で走りながら美味しそうにプリンを頬張るウサギ族の少女ジュラを戦慄の表情で見る。

「なんで器用に食べれる? ってかどんどん食う速度上がってるんやけど!」
「走ってカロリー消化して更に美味しく感じてるんだろう……」

 兄貴の言葉にナンダッテと器用に表現するジュン。

 走りながらよくやるものである。

 兄貴は想定外だ、と項垂れる。こちらも走りながら器用である。

「なんでこんなにやたらとトラブルがおこんねん!」

 そう、急ぐと決めてペースを上げる事になった3人は数々のトラブルに巻き込まれている。

 山賊から始まり、最短コースを選んで険しい道で調子に乗ったジュンがバランスを崩して滑落した先のオークの集落。
 で、最初に戻って山賊のお代わりが昨日の話である。

 オークの集落に関しては完全にジュンのせいである。

「これが神の試練ってやつか……」
「そんな試練あるか。単純にお前の普段の行いの悪さと俺の運が悪い辺りだろ」

 急ぐと決める前の3日などハイキング気分でいられる平和さだったが、急ぎたいとなるとこうなるのは神の試練というよりジュンの行いと自分の運の悪さという方が信憑性があると兄貴は思う。

「えっ? ワイ、ええ子やで?」
「……一回、味噌汁で顔を洗って入ってる豆腐でコメカミを陥没したらいいと思うぞ」

 兄貴の言葉にヒデェと告げて文句を言おうとしてくるジュンを止める。

「じゃれてる場合じゃない話がある」
「なんやねん、兄やん」
「ストックが残り2、だ」

 兄貴の言葉に目を剥くジュン。

「マジで急ぐぞ、兄やん!」

 ああ、頷く兄貴は後ろで走るジュラを掴まえてお姫様抱っこする。走らせずにカロリー消費させないようにしてジュラのアレの消費速度を落とすのが狙いだ。

 兄貴の行動を見たジュンは頷くと更に速度を上げる。

 ジュラをお姫様抱っこした兄貴はジュラの重みを感じさせない動きを見せ、加速するジュンに追い付き、街を目指して走り出す。

 お姫様抱っこされたジュラは御満悦といった様子でうっとりとアレを眺める。

「プリン様、やっぱり最高ぅ」

 幸せそうなジュラはプリンをスプーンでツンツンと突っついた。



 走り続けてやっと足を止め、ゼイゼイと肩で息するジュンは視界に映る防壁を見て大きな笑みを浮かべる。

「やっと着いたわ」

 その隣にはジュラをお姫様抱っこした平然とした様子の兄貴が紫煙を吐きながら頷いている。

 お姫様抱っこされているジュラの手にはラストプリンがまだ健在なのを見てジュンは額に浮かぶ汗を拭う。

「間に合ったな」

 そう言うとゆっくりと防壁が見えるその先にある街を目指して2人は歩き始める。

 ジュンはまだ陽の高い太陽を見つめ、夜にはお姉ちゃんがいるお店にとウキウキしていた。

 呑気に浮かれるジュンはまだ知らなかった。

 この防壁の向こうの街の事を……

 そう、この街はジュンにとって第二の大阪になる事を……

 知らないジュンは一歩一歩、そのジュンにとって大事な街になる場所へと歩き出す。

 この街、モルプレへと。
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