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3章 砂漠の国の救世主物語

46話 自分らしく、それが大事なのですぅ

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 砂漠の隠れ家、ザバダックの家の中に表の仕掛けを作動させずに侵入を果たした若い3人の姿があった。

 白いマントを羽織り、黒いワンピースのようなローブを着る少女はまるで舞踏会の会場の真ん中に向かって歩くような優雅に歩く姿は様になっており、違和感を感じさせない流れる動作でテーブルの上にあった紙を手に取る。

 手に取った手紙をサッと目を通したセミロングの赤髪をポニーテールにする少女はおかしそうにクスクスと可愛く笑い始める。

 その少女の後ろに残る2人、日本人の特徴が色濃く出ている男女が顔を出し、女の方が不機嫌そうに鼻を鳴らす。

「いつまでここにいる気? あちこち引っ張り回されていい加減、帰った時の仕事の溜まり具合を想像するのが怖いんですけどぉ!」
「あらぁ? そのおかげで、結婚を約束する仲なのに未だに照れてキスも碌に出来ない貴方が仕方がないと理由を付けて堂々出来る理由作りには協力出来たと思うんだけど?」

 なっ!? と絶句する女にいたぶるような流し目をした後で、その隣にいる少し嬉しそうな男に「ねぇ?」と同意を求めると力強く頷いてくる。

「はい、満足です! あの人に視る力、空間を色んな角度から知覚する能力の開花に協力して貰った時はそう感謝しませんでしたが、キスしたら能力が共有出来て、見えなかった場所、知らない場所には転移出来なかったが出来ると分かった時は……」

 男は分かった日に教えを受けた相手に土下座をして感謝を告げたらしい。

 男泣きする姿に恥ずかしそうではあるが、嬉しい気持ちも見え隠れする女にニンマリした笑みを贈る。

「ねぇ? 私は良い事してるわよ?」
「ぐぬぬぅ! もう、いいわよ! で、何を読んでたの?」

 肩をいからせる女は赤髪の少女から引っ手繰るように手紙を奪う。

 少女と同じように読んだ女は鼻と眉間の間に皺を作り、両手を広げて肩を竦める。

「アオクサァ! 本人が自覚してない感じがヒシヒシと伝わって背中が痒い! ラブレターは相手の想像力を刺激するように書かないと!」
「ん……確かに自覚してないみたいだけど、僕はこういうのでもいいから貰えたら嬉しいだろうな……」

 横から覗き込んだ男の言葉に挙動不審になる女。

 それを見ていた赤髪の少女は口許を三日月のように弧を描く。

「そんなに欲しい? 家に帰ったら化粧箱の底を調べてみなさい。2重底になってて、その下に沢山あるわよ?」
「あ、アンタ、何で知ってるの!?」

 真っ赤に顔を染める女は余裕たっぷりな赤髪の少女の胸倉を掴む。

 まったく怯える様子を見せない少女を訝しげにしながら質問する。

「私が本気になったら、この距離でアンタに勝ち目ないの、分かってる?」
「ふっふふ、戦いとは戦う前に勝敗を着けておくものよ? つまり、私の勝ち」

 赤髪の少女が何を言いたいか分からない女は首を傾げる。

「どういう事よ!」
「私の手札にあるのが、あの程度の秘密が切り札だと思ったの? 拡散されて困る秘密はあれだけかしら?」

 言われた女は目を左右に忙しげに動かして徐々に口をへの字にしていき、最後には肺にある息を全部、吐き出す。

 そして、突き離すようにしながら吐き捨てる。

「私の負けよ……アンタ、最低よ」
「その遠吠え、最高よ?」

 ほっほほ、と勝鬨を上げる少女に苦笑する男が質問する。

「遊ぶのはそれぐらいで……そろそろ追いかけないとマズイのでは?」
「そうね……そうしたいのはヤマヤマだけど、まだまだ打っておかないといけない事がある」
「やらないと駄目な事があるのを分かってるのに遊んでるじゃない!」

 先程やり込められた事もあり、怒りをぶつける女に余裕の笑みを返す。

 その余裕を見せつけるようにテーブルの上にあった手紙を元の位置に戻し、女に振り返る。

「良い女はね、100でも200でも策も情報も集めるの。そのほとんどが無駄になろうとも、その内、たった1つの成功で望みのものを手にする。分かる?」
「へぇ……だったら今回の意味、収穫は?」

 女と男が立ってる場所へ優雅に歩いて戻る少女は頬に人差し指を当て、天井を見上げ微笑む。

「がさつだった妹が色気づいた事の確認?」
「アンタ、絶対、碌な死に方しないから!」

 女が威嚇するように歯を剥き出しにするのを大袈裟に怖がるフリをし、「せめて、生きてる間は幸せであるように頑張ります」と健気さを演出する。

 だが、口許の相手を小馬鹿にするような笑みが台無しになっている。

 その事に気付く男は苦笑いをし、女は地団太しながら「やってられない!」と怒鳴る。

「さっさとその打つべきとやらを終わらせるわよ! アンタと一緒にいたら頭の血管が切れて私が死んじゃうわよ!」
「長生きしてね?」

 その言葉で額に血管を浮き上がらせる女に男が、まあまあ、と言いたげな表情で落ち着かせる。

 女が諦めるような素振りを見せると能力を発動させて3人はその場から消え去った。





 ザガンからクロで夜間飛行を繰り返してゼグラシア王国近郊、1km程の岩場に3日前の昼に到着したアリア達。

 デングラが王国の兵士は敵味方の見分けが難しいが国民は自分の味方だと力説していた事を信用して4日目の早朝に城下町を目指して出発した。


 そして、4日目の昼、現在、アリア達はゼグラシア王国を背にして全力疾走していたりする。

「おおいぃ!! どういう事だよ、デン!!」

 追いかけてくる兵士、一部、国民も混じる追走者から我先とばかりに逃げるデングラ。

 アリア達から見ても逃げ足だけはアリア達を超えるデングラを追いかけるレイアが怒鳴る。

 首だけ振り返るデングラが爽やかな笑みを見せながら答える。

「いやぁ~計算外。どうやら俺様を掴まえる命令が出てて、何故か国民が従ってるようだ。最初に俺様に気付いたのが女ならきっと匿ってくれて説明してくれたはずだ」
「ない! だって、最初にデングラに気付いて、石投げてきたの若い女の子だったよ! 『変態死すべし』って言ってた」

 半泣きでダンテが叫ぶが聞こえないような顔をするデングラを見て、都合の悪い事は聞こえない人だ、と悲しい事実を知る。

 ダンテに並走するように重量装備をするスゥと比較的走るのが苦手なアリアが新しい疑惑を浮上させる。

「よくよく考えるとデングラが王族という話が虚偽かもしれないの」
「ん、こんな王族いたら女の敵とクーデター起きるワンチャン」
「待て、虚偽でも思い込みでもなく、正真正銘の王族だからな!?」

 王子様だから! と叫ぶデングラであるが、只今、アリア達の信頼度は限りなくゼロである。

 そこでミュウがみんなが思わず賛同する意見を口にする。

「デングラ、掴まえて後ろに放り投げたらミュウ達、助かる」
「ミュウ、ナイスだ!」

 真っ先に賛同したレイアと頷き合ったミュウが加速を始め、先頭を走るデングラを追いかけ始める。

 それにギョッとしたデングラも負けじと加速する。

「冷静になれ、みんな! 俺様はやらねばならん事が沢山ある……だから死ねない」

 キリリ、と表情を引き締めるのに息を呑むダンテが問う。

「別人みたい……何をやるんだい? それ次第では微力……気休めでもフォローはするよ!」

 ダンテに「ありがとう」と告げる男前な顔をしたデングラが爽やかに風の力を利用して汗を首を振って飛ばしながら言ってくる。

「城にある女性浴場の覗き穴の完成が目前なんだ!」
「死刑」

 溜めなしに刑を言い渡すアリアに同意とばかりに頷くレイア達。ダンテもフォローもする気がないようで半眼で見つめる。

 ダンテの様子に慌てるデングラがダンテに驚愕の表情を見せる。

「フォローはっ!?」
「今の内容であると思うデングラにびっくりだよ!」
「良し、ダンテも黙認する! デンを掴まえるぞ!」

 レイアの掛け声に賛同するアリア達はデングラを掴まえる為に本格的に加速を始める。

 アリア達が本気だと肌で感じたデングラも必死に加速を始め、腹の底から叫ぶ。

「掴まって堪るかぁ!」

 逃げるデングラを追うアリア達、そして、その2勢力を追いかけるセグラシア王国兵士という変な構図で走り続けるのを陽が暮れるまで続けられる事になった。
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