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1章 始まりの物語

5話 人間、等身大が一番なのですぅ

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「ちぇ、連れて行って欲しかったぜ!」

 切り株に座り、膝に立てた手に小さな顔を載せて眉を顰めるレイアは唇を尖らせる。

「がうぅ!」

 レイアの隣に立ち、太めの眉を吊り上げるミュウが腕組みをしながら頷いてみせる。

 単純に面白そうだから乗ってるという疑惑が拭えないミュウではあるが、残されたメンバーも少なからずは同じ思いであった。

 たはは、と困ったような笑い方をするのは、唯一、残された男、ヒースであった。

「しょうがないと思うよ? 多分だけど、見て楽しいモノがなくて僕等を全員連れて行くと面倒の方が多いと判断されたんじゃないかな?」

 ヨイショ、と背中に背負ったゴミ袋の山を汗だくで運ぶヒースは『数いる女の中に男は1人だけど、決してハーレムじゃない、というか、こんなのがハーレムなら辞退したい』と心で念仏を唱えるようにして耐える。

 ヒースは「か弱い女の子に重い荷物を運ばせるの?」と言われて、当の自称かよわい女の子達にポイポイと背中の上に積まれていた。

 女の子が多いパーティだから家の状況が綺麗にしてあると思ってるのは幻想である。

 むしろ、テツ、ダンテ、ヒースの男部屋がもっとも綺麗だったりした。

 単純に狭いから散らかすと足の踏み場がないという実情もあったが世知辛い現実である。

 なので、一旦、掃除を始めるとやはり女の子というべきか男達よりは綺麗にするが横着していた副産物が大量に出てくる。

 その副産物、ゴミが今、ヒースが抱えているものであった。

 汗だくで運ぶヒースに軽い感じで「頑張ってなの」と告げるスゥがヒースの言葉に続く。

「ヒースの言う通りで、私達だと思わず足が止まるようなモノがあると判断したと思うの。だから、まずは司令塔のダンテに経験させると考えたと思うの」

 司令塔が思考停止したら瓦解すると理解するスゥはダンテが体験するだろう事を想像はできるが口にし辛いと思っているとアリアが口を挟む。

「多分、人の残酷な部分。人の生死、そういったもの」
「でもさぁ、アタシ達も結構、討伐依頼などして見てきてるぜ?」

 アリアの言ってる重さが理解できなかったらしいレイアがそう言うと傍にいたミュウが肩に手を置く。

「人の死、色々ある。ミュウのパパ、ママ、死んだ瞬間、砂のようになって崩れた。きっと他にも色々ある」

 普段、喜怒哀楽がはっきりするミュウの感情が抜け落ちた表情に透き通るような瞳で見つめられたレイアは気圧されるように視線を地面にやる。

 同じようにその場居るアリアとスゥも目を伏せる。

 以前にミュウが1度だけしてくれていた両親と最後の時の話を3人、いや、この場にいないダンテを含めて聞かされていた。

 ヒースもそれとなく触りだけはダンテに聞かされていて、聞こえなかったフリをして黙ってゴミを運んで行く。

「ごめん、ミュウ」
「がぅ、分かればいい」

 そう言うとミュウは肩に置いていた手で自分の胸元からビーフジャーキーを取り出し、口に放り込み咀嚼しながら空を眺める。

「レイアも分かったと思うけど、自分の理解外のモノを見せられた時はきっと混乱するの。それに遭遇するのは選べないかもしれない、でも選べそうな時は少数ずつが理想なの」
「ん、まあ、ホーラ姉さんの事だから、沢山いると面倒、って思った可能性は否定できない」

 スゥが説明する言葉に補足するアリアの言葉は本音なのか、場の空気を軽くしようとしているのか微妙なラインだが少し持ち直したレイアは少し笑みを見せる。

「そうだよな? ホーラ姉はともかく、テツ兄が意地悪でのけ者なんかにしないよな?」
「そうなの!」

 追従するようにアリアとミュウが頷く。

 いないから言える事を平気で言い合う少女達だが、万が一、耳に入ったら涅槃行きである。

 元気を取り戻したレイアは立ち上がり、拳を突き上げる。

「そうとなればアタシ達が出来る事をやろう! 掃除が終わったし、次は……」
「お楽しみの狩り……するのは毒見でツマミ食いじゃない」

 キュピンという擬音が聞こえそうなキレでサムズアップするミュウが男前な顔を披露する。

 良く見ると両手にナイフとフォークを握り締めるミュウ。

 そのミュウを満足そうに頷くアリア。

「手掴みじゃなく、道具を使う事を言われなくてもやるようになったのは成長」
「当然」

 胸を張るミュウは鼻息を荒くドヤ顔をする。

「食い意地は据え置きなの」

 呆れを隠さずに苦笑するスゥの言葉が漏れたと同時にゴミを捨て終わったヒースが戻る。

「ゴミ捨ててきたよ」

 そう言ったヒースに少女達の視線が集まり、仰け反るようにする。

「な、何かあった?」
「なんでもない、だから馬車用意する」

 男前を維持するミュウにバッサリと言われるヒースが目を白黒させる。

 汗掻いてますとアピールするように額の汗を若干オーバーリアクションで拭う。

「ゴミ捨ててきたばかりだから、少しやす……」
「ヒース、貧弱?」

 アリアが可愛らしく首を傾げながらヒースに問いかけると背筋をシャキっとさせたヒースが敬礼する。

「ま、まだまだ余裕です! すぐに貸し馬車屋で借りてきます!」

 駆け足を始めたヒースがアリア達に背を向けると土煙を上げて街の方へと爆走していく。

 男、ヒース、意識する少女に言われたくない言葉がいくつもある。その一つを刺激されて黙っていられないのが男、いや、漢であった。

 アリアの言葉が覿面なヒースを見つめるレイアが重たい溜息を吐くのをスゥはクスクスと口許を拳で隠すようにして見つめた。





 それから、しばらく時間が経った後、ヒースが借りてきた馬車の御者席でヒースはホロホロと涙を流していた。

 最速で借りてきて疲れて帰ったヒースにアリアは「お疲れ」といつものトーンで言われ、機嫌の悪いレイアに御者席に追いやられ、まさに泣きっ面に蜂であった。

 このトライアングルを正確に理解し、静観するスゥはお腹の筋肉に叱咤しながら笑うのを耐えていた。

 そんななか、馬車の荷台ではアリアが取り出した地図を広げられていた。

 地図を見ながらアリアは前回、行った場所の狩り場を指差す。

「前回、狩りに行った場所はここだけど……」
「普通なら次はここなの」

 スゥが指差す所は少し遠く、今から行くと夕方から夜に変わる頃に到着する。

 アリアとスゥが顔を見合わせ、頷くと近くの山を指差す。

「ホーラ姉さんもダンテもいない。ここで手っ取り早く済ませよう」
「そうなの。バレても間違ったと言えば問題ないの!」

 いつもならレイアとミュウが言いそうな事を言う2人がいるように、逆に普段と逆を行くレイアとミュウがいた。

「いや、今回は守ろうぜ。ここで適当にすると次の機会も留守番させられるかもしれないしさ?」
「がぅ、それに、ここの山、こないだ見た時から考えて果物食べ頃」

 ミュウの言葉を聞いた3人が『へぇ~』と納得しそうになったが、すぐに首を傾げる。

「おい、ミュウ。サイクルで廻って丁度一周したとこだけど、前回、この山に行ったの2か月前だぞ? なんで、2カ月後の生育状況が分かるんだ?」

 そうレイアが聞くとミュウはどこを見てるか分からない目をして前を見つめる。

「そういえば、2週間前の休みを取った時、1日以上、家を空けた日があった」
「ミュウ?」

 アリアとスゥに責めるような目で見つめられたミュウは荷台の隅に転がり、壁に顔を付けるようにする。

「慌てない、慌てない、一休み、一休み」

 寝ようとするミュウを揺するレイアが叫ぶ。

「ズッコイぞ! 自分だけ美味しいモノ食べに行ったんだな!?」

 グゥゥとタヌキ寝入りするミュウと格闘するレイアを眺めるアリアとスゥ。

 呆れたように溜息を吐くスゥは御者席にいるヒースに地図を差し出し、サイクル通りの山を指差す。

「ここを目指して欲しいの」
「了解」

 そう言うとヒースは地図を指し示す場所の山を目指して馬車を発進させる。

 これから数時間後のダンテの危惧が確定した瞬間であった。
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