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17話 カリーナの専属コーチ

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 冒険者ギルドを出た太助達が一旦、コミュニティに戻る。

 中に入るか一瞬、悩む素振りを見せた太助であったがお昼にはまだ早いと判断して早速、カリーナの訓練に入る事にした。

 コミュニティを囲むようにしてある腰ぐらいの高さの塀の上に大きめの石を3つ程、均等の間隔を空けて置きながらカリーナに話しかける。

「じゃ、早速、訓練しようか?」
「アンタ、本気? いくら弱めて魔法を打ったとして下手すると家を傷つけるわよ?」

 もうさすがにノーコンである事を隠す意味がないカリーナは憮然とした表情で太助に詰め寄る。

 しかし、太助もちゃんと分かって言っていたので苦笑して頭を掻く。

「まさか、魔法でやれって言わないよ。石を投擲してコントロールを覚える訓練だよ」

 太助の説明を受けて、ホッとした様子を見せるカリーナに「魔法だったら精神力がすぐ尽きるから練習には不向きだしね?」と言われて口をへの字にして拗ねられる。

 宥めようと太助はしたが、なんと声をかけたらいいか分からなくなり、差し伸べようとした手を彷徨わす。

 そんな太助を見て、何よ? と言いたげに睨まれて苦笑いをした後、誤魔化すようにそのまま屈んで小石を拾い始める。

「とりあえず反復練習あるのみだよ」

 そう言って小石を立ち上がると太助がおもむろに並べた石の1つに向かって投げ始める。

 いとも簡単に当てる太助を見て少し感心した様子で見上げるカリーナに気を良くした太助は調子に乗り始める。

 左右の手で投げだし、当てる場所を調整、そして威力も高めて明らかに重量的に上がるとは思えない、ティカ達ぐらいの頭の大きさの石を小指の爪程度の石で浮かせる。

 宙に浮いた石を見て目を丸くするカリーナとキャッキャと楽しげに騒ぐティカとリンを見て嬉しそうに微笑んだ太助は小石を全ての指に、8個の石を挟む。

「ハッ!」

 短く吐いた息と共に投げ放つと全ての石が違うルートを辿り、空中に浮いた石に全弾ヒットさせる。

 太助のしでかした事に目を丸くして口をパクパクさせるカリーナ。

 その様子を見てやり過ぎたかと困った顔をして頬を掻いていると復帰したカリーナが牙を剥き出しにして太助の甚平の襟を掴んで引き寄せようとしたが逆に体重差で引き寄せられる。

「あ、アンタ、おかしいでしょ? あんな真似出来る訳ないでしょ!!」
「あ、あははは……さすがにすぐに出来ると思ってないよ? 将来的に魔法で出来るようになったらいいね、とは思ってるだけだよ」

 とんでもない事をさせられると思ったらしいカリーナの興奮具合のせいか目をが赤くなり始め、綺麗な栗色の髪を両端に縛ったツインテールが風もないのにワナワナと浮いているように見える。

 その髪を見た太助は逆にカリーナに驚かされ、落ち着かせようと慌てて口を開く。

「まあ、まずは普通に投げて確実に当てられるぐらいになるところから始めようか?」

 そう言って塀から2m程、離れた場所に線を引いてカリーナを見つめる。

 渋々といった様子で小石を拾って線の前にくると投げていいのかと太助を見つめてくるので頷いてみせる。

 前を見据えたカリーナが小石を投げる。

「……」
「……うん、どんどんいこう」

 なんとなく予想をしてはいたが、見当外れな場所へと投げ放つカリーナにドンマイと声にせずに頷いてみせる。

 嫌そうな顔をしたカリーナが投げ続け、そして、わざと違う所に投げてるんじゃないかな? と願望を込めて見ていたが本気のようなのでアドバイスを伝える。

「慣れないうちは腕だけで投げようとしない方がいいよ?」
「アンタは腕すら使わずに指だけで投げてたじゃない?」
「うーん、感覚が掴めるようになったら応用が利いてるだけだよ。まずは……」

 太助はそう言うとキャッチボールをするような動作で山なりになる投げ方で石に当てて見せる。

 見よう見まねでやろうとするが足を上げただけでバランスを崩して尻モチを付いたカリーナがお尻を摩り、涙目になって太助を睨みつけてくる。

「こんな事、言われてすぐ出来ないわよ!」
「えっと、練習したらちゃんと出来るから」

 涙目で落ち込んでいるカリーナを見てハッと驚いた表情を浮かべた太助はバツ悪そうに頭を掻く。

 太助が最初に普通の人が出来ないような事を見せた為、酷く自分が劣っていると思わせた事に気付いたからである。

「あのね、カリーナ。俺はバアちゃんに子供の頃に鍛えられたから出来るだけだよ? 何せ、バアちゃんは投擲の達人だからね」
「……じゃ、アンタも達人な訳?」

 目尻に浮かべた涙を拭ったカリーナは太助に助けられた時にホーラとテツに追いかけてきた軍をあっさりと撃退してみせたと聞かされていたのを思い出して納得したらしく太助に問いかけてくる。

 問われた太助は弱った笑みを浮かべて答える。

「その……嗜み程度でバアちゃんに怒られてばかりさ」
「ホーラさんから見ればそうかもしれないけど、私から見ればアンタも規格外よ!」

 化け物のように言われて「酷いよ」と肩を竦める。だが、カリーナも立ち直った様子を見てホッと胸も撫で下ろす。

 気を取り直して練習を再開したカリーナをしばらく眺めていたが一向に近くに石が行く素振りすらない。

 どうしたものだろう、と太助が首を捻っているとカリーナが駄々を捏ね始める。

「無理! 全然、思ったところに飛ばないわ!」
「うーん、やっぱりバランスが崩れているからだと思うけど……」

 ずっと見ていて太助はある事に気付いていた。

 どうも太助の投げ方を真似ようとしているらしい。ようは格好をつけようとしている。

 最初にちゃんとした見本を見せなかった太助のせいではあるがどうしたものだろうと頭を捻っているとカリーナの傍にティカとリンが近寄る。

 足をペチペチと叩いて自慢げな顔、ティカに至ってはムフンと鼻息も荒くして話けてくる。

「ふっふふ、遂にティカ大先生の出番なのだ!」
「カリーナ姉ちゃん、見ててデシ」

 何をしようとしてるのか分からないカリーナの目の前で小石を握るとティカとリンが短い足を掲げてピッチャーのようして石を目掛けて投げ放つ。


 コン、コン。


 見事に狙い通りに石に当てる2人を見て、カリーナは口をパクパクしてみせる。

 そんなカリーナに腰に両手を当てて胸を張るティカとリンが話しかける。

「アタチ達はタスケに教えて貰って当てられるようになったのだ!」
「カリーナ姉ちゃん、こうやって足を上げるデシ?」

 まだ立ち直ってないカリーナが太助を見つめてきたのでクスッと笑って言う。

「前に子供達の間で的当ての遊びをして負けて悔しがる2人にちょっと教えたんだ」

 そう言うと自慢げに嬉しそうにするティカとリンの前でしゃがむ太助は2人を抱き寄せる。

「なぁ、2人にお願いがあるんだけど、カリーナの先生をしてあげてくれない?」
「えっ!?」
「任せるのだ!」
「えへへ、任されたデシ!」

 嬉しそうにする2人を抱き寄せて顔を寄せ「有難う」と言うとギュッと抱き着かれる。

 先程の2人に負けたとばかりにショックを受けた様子を見て、もう格好を付けている場合じゃないと思い始め、更に2人に教わる立場になって年上の矜持から必死になるだろうと目論んだ。

 早速とばかりにティカとリンが指導を始めると情けなさそうに眉尻を下げるカリーナは一生懸命に投げる練習を始める。

 そんな3人を微笑ましげに見つめ、そして太陽の位置を見て昼が近い事を知る。

 ロスワイゼに言って昼食を用意して貰えるように頼みに行こうと太助は「頑張ってね?」と声をかけて家に向かって歩き始める。

 背を向けた太助はクスッと笑みを浮かべる。

 何故なら、本当にティカとリンに教えを受ける事実に太助を恨めしそうに見つめるカリーナが居た為である。

 あの様子だと太助が教えるより短い時間で基本が出来るようになりそうだと太助はもう一度、笑みを浮かべた。
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