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プロローグ

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 私はある場所を目指して歩いている。

 そこは特に何かがあるという訳ではなく、変哲もない草原が広がっていた。

 しかし、私はそこに行かねばならない。何故なら、1カ月前の教会で祈りを捧げている時に神託を得た。

 神はこう仰った。

「信仰深き神の子、レティスよ。1カ月後にハヤフル王国の北にある草原に異世界の魔王が顕現します。魔王が力を付ける前に皆と協力をして倒すのです。しかし、魔王は強敵です。子だけの力だけでは足りないかもしれません。貴方に神の剣、聖剣を授けましょう」

 その言葉を思い出した私は腰にある美しい作りの剣の柄をソッと触れる。

 私はきっとこの聖剣で魔王を打倒してみせると拳を握りしめた。

 決意を胸に私は歩き、そっと自分の周りを見渡す。

 私は1人……

 そう、神に皆と協力をして、と言われたにも拘らず私は1人で魔王が顕現する場所へと向かっていた。

 魔王が顕現した直後であれば私の力だけでもなんとかなるはず!

 危険なのは私だけでいい。血を流す者は少ない方がいい。

 私は強い。

 これでも王国一の騎士だ。男だろうが誰であろうが一刀で勝利を収めてきた。

 幼少の頃から強き騎士に憧れて自分を鍛えてきた。

 しかし、どれだけ強さを示しても生まれを遠慮して勝ちを譲られている、本当の実力ではないと影で言われてきた。

 そう、私は王族である。王位継承権2位の長女だ。

 見目麗しいのだから着飾れば、どこの舞踏会やパーティに出しても恥ずかしくないのだから剣を捨てろ、と何度言われたか分からない。

 そんな事はない、と言い続けてきたが相手にされなかったが今日、証明してみせる。

 魔王を私が倒す。

 神より授かりし、この聖剣を持って。

 緊張からくる震えが掌に伝染し、私は歯を食い縛って拳を握り締める。

 神に選ばれた私は強い、自分を信じろ!

 意志の力で掌の震えを抑えた私は目的地を目指して歩き続ける。

 そして、神より伝えられし、魔王が顕現すると予言された少し小高くなった場所に到着した。

「この辺りのはずだが……」

 誰もいないのに独り言を呟いてしまった……やはり私は緊張しているのか!

 思わず下唇を噛み締める私は聖剣の柄を握りながら辺りを見渡していると近くに晴天なのに落雷した。

 衝撃が風になり、私の長い金髪を靡かせ、目にゴミが入らないように青い目を細める。

 立ち込める土煙の視界ゼロの先に私は気配を感じ取った。

「そこにいるのは魔王かっ!」
「ほっほう……ニャーが顕現した場所に居て、尚且つ、ニャーが魔王と知るお前は神の手の者かにゃ」

 私は腰にある聖剣を抜き放ち、土煙の先に剣先を向けると私の戦う意志が反映したかのように聖剣が輝きだす。

「そうだ! 神より頂いたオルナ・ソラスをもって魔王を倒す」
「なるほどにゃ、つまり、お前がこの世界で一番と神に認められし者にゃ」

 もしかして、とは思っていたが魔王がそういうなら本当かもしれないと私は我知らず頬が緩ませる。

 そんな私の心境を知ってか知らずか魔王はまだ晴れない土煙の中で頷いているようだ。

「ところで相談にゃ。まだニャーはこの世界に来たところで部下がいないにゃ。今、部下になるなら世界の半分をやるにゃ?」
「断る!」

 土煙の向こうで魔王が「にゃ、にゃにゃ!?」と驚く鳴き声がするが私は身を震わせていた。

 カ・イ・カ・ン

 そう、私は快感に身を震わせていた。

 物語で見た勇者が魔王に言われる世界を半分やる、と言われて断るという定番のセリフを言える日をどれだけ夢想しただろうか……

 今こそ、英雄になる時、と聖剣オルナ・ソラスを掲げると光を放ち、周りを舞っていた土煙が晴れ、影しか見えなかった魔王の姿が現れた。

「なっ!?」
「ま、待つにゃ! まずはニャーの話を聞くにゃ」

 私の目の前には短毛の白、茶色、黒の三色の毛がまだら状に生えている生き物が二足歩行し、黒いマントを着けていた。

 こ、こんな生き物見た事ない。

 手もガタガタと震え、震えは手だけでなく膝まで震える。

「お前は何者だ!?」
「にゃ? 魔王って言ったにゃ? ニャーはネコの魔王にゃ」

 ネコっ!!

 その言葉を聞いた瞬間、私の胸を何かが貫き、手にしていた聖剣オルナ・ソラスを落としてしまう。

 放心する私に「大丈夫かにゃ?」と魔王が掌を眼前に振ってみせる。

 そこには綺麗なピンク色のプックリとした柔らかそうなモノが目に入り、私は目が離せなくなる。

 振られる度に目を走らせるのを見た魔王が可愛らしく首を傾げる。

「くっ、なんて悪魔的な可愛さだ……これは魔法か……」
「何の話にゃ?」

 それでも私が掌のピンクから目を離せず、見つめ続けていると遂に魔王が何を見てるか気付いたらしく自分の掌を見つめて私をジッと見た後、掌を背中に隠す。

「ああっ……」

 思わず声を出してしまった私は手を伸ばしてしまう。

 魔王は何やら信じられないといったように半眼になりながら私を見てくる。そして、もう一度、掌を見つめた後、そっと掌をこちらに向けてくる。

 か、可愛い……触ってみたい!

 自分でも分かるぐらいに私の顔が微笑んでいるのが実感出来た。

 魔王は疑心暗鬼に囚われながら掌を向けながら言ってくる。

「ニャーの部下になるなら、この高貴な肉球を触らせてやらんでもないにゃ」

 に、肉球!? なんて甘美な響き……

 そう考えたのが最後、私は気付けば魔王に傅いて、魔王の肉球をプニプニしていた。

 この時より、私は人類の敵となり魔王の右腕に就任した。
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