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カテゴリー『家族』
家族の時間
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梅雨の日の今日も雨。
朝からの準備も終わり、ゆっくりとお茶を飲む。
時計を見ると出発までまだ時間がある。
「少しだけ待っていてくれ、鍵を持って来る」
そう妻に言い、書斎へ向かう。
書斎に入った、僕は机の引き出しから鍵と手紙を取り出しリビングに戻る。
妻と今年の6月に15才になる息子の前に、その2つを並べる。
「今、じやなくていいでしょ?」
抗議する妻の手に優しく触れながら……。
「あと5分……それだけでいいから」
妻は、目に少し涙をためながらも、僕の手に自分の手を重ねながら小さく頷く。
そして二人の様子を見守っていた息子に向かって、僕は静かに話かける。
「蓮」
「父さんの大事にしてる人形の箱の鍵を今、お前に渡そうと思っている」
「父さんもお爺ちゃんもあの人形を、15才の時に受け取っているのは話たよな?」
「うん……」
蓮は複雑そうな顔で頷く。
「父さん、蓮の誕生日の日にはまだ病院から帰れそうも無いから受け取ってくれ」
蓮の顔に喜びの色がほんのり浮かぶ。
「もう5分ったかな?」
僕は立ち上がると妻は、やっぱり泣いていた。
「もうあと5分!」
そう僕は言って、妻の手を引いて2階の書斎の人形の箱の前に連れていく。
そしてプロポーズの時の様に、妻の両手を握る。
「葵さん」
涙で濡れた妻の目は、以前の時と変わらず綺麗だ。
「君が、僕が手術前に蓮へ人形を渡すと、僕がもうここへ帰って来ない様で嫌だって気持ちは知っていた」
「けど、戻って来るから、必ずいつもと変わらない日常がきっと続くから、信じて待っていて欲しい」
「うん、うん」
妻は泣きながら頷く。
二人で手を繋ぎながら扉を開けると、蓮は鍵を持って立っていた。
蓮は、慌てて手を離した僕たちの間を通り、手慣れた手つきで開ける時にコツのいる人形の箱を素早く開けた。
「蓮……」
僕の声など気にしない様に、僕達を手招きして人形の前に並ばせた。
「お父さんが無事で帰って来ますよに、お願い遙ちゃん」
蓮が祈りながらそう言う。
「あっ……」
あっ?妻の声に一抹の不安を感じた……。
「もう合わせて十分たったよ」
振り返った蓮がそう言い、僕たちをせき立てて玄関の前に連れて行った。
入院と手術前に、いろいろ不安になったが、病院には入ってしまえばゆっくりなのに慌ただしい時間を過ごして行く内に、見舞いに来ていた二人に聞く事も忘れてしまった。
今、病院の窓から迎えの車を探して見ていると新緑が美しく輝いている、人形の瞳と同じその「エメラルド」の色を見ると、毎年、あの『10分』を思いだすのだろうか?
もう梅雨も終わり……遥か遠いと思っていた夏が始まっていた。
おわり
朝からの準備も終わり、ゆっくりとお茶を飲む。
時計を見ると出発までまだ時間がある。
「少しだけ待っていてくれ、鍵を持って来る」
そう妻に言い、書斎へ向かう。
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「今、じやなくていいでしょ?」
抗議する妻の手に優しく触れながら……。
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妻は、目に少し涙をためながらも、僕の手に自分の手を重ねながら小さく頷く。
そして二人の様子を見守っていた息子に向かって、僕は静かに話かける。
「蓮」
「父さんの大事にしてる人形の箱の鍵を今、お前に渡そうと思っている」
「父さんもお爺ちゃんもあの人形を、15才の時に受け取っているのは話たよな?」
「うん……」
蓮は複雑そうな顔で頷く。
「父さん、蓮の誕生日の日にはまだ病院から帰れそうも無いから受け取ってくれ」
蓮の顔に喜びの色がほんのり浮かぶ。
「もう5分ったかな?」
僕は立ち上がると妻は、やっぱり泣いていた。
「もうあと5分!」
そう僕は言って、妻の手を引いて2階の書斎の人形の箱の前に連れていく。
そしてプロポーズの時の様に、妻の両手を握る。
「葵さん」
涙で濡れた妻の目は、以前の時と変わらず綺麗だ。
「君が、僕が手術前に蓮へ人形を渡すと、僕がもうここへ帰って来ない様で嫌だって気持ちは知っていた」
「けど、戻って来るから、必ずいつもと変わらない日常がきっと続くから、信じて待っていて欲しい」
「うん、うん」
妻は泣きながら頷く。
二人で手を繋ぎながら扉を開けると、蓮は鍵を持って立っていた。
蓮は、慌てて手を離した僕たちの間を通り、手慣れた手つきで開ける時にコツのいる人形の箱を素早く開けた。
「蓮……」
僕の声など気にしない様に、僕達を手招きして人形の前に並ばせた。
「お父さんが無事で帰って来ますよに、お願い遙ちゃん」
蓮が祈りながらそう言う。
「あっ……」
あっ?妻の声に一抹の不安を感じた……。
「もう合わせて十分たったよ」
振り返った蓮がそう言い、僕たちをせき立てて玄関の前に連れて行った。
入院と手術前に、いろいろ不安になったが、病院には入ってしまえばゆっくりなのに慌ただしい時間を過ごして行く内に、見舞いに来ていた二人に聞く事も忘れてしまった。
今、病院の窓から迎えの車を探して見ていると新緑が美しく輝いている、人形の瞳と同じその「エメラルド」の色を見ると、毎年、あの『10分』を思いだすのだろうか?
もう梅雨も終わり……遥か遠いと思っていた夏が始まっていた。
おわり
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