猫のお知らせ屋

もち雪

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夏休み

8月20日の満月の日の出来事

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 その日、猫の僕は、おもちゃの前で悩んでいた。

 ねずみの形のおもちゃか、それかねこじゃらしのおもちゃかどっちを、みずほちゃんの前に持って行って遊んでもらうか、それは大問題で、僕の頭を悩ませた。
 みずほちゃんは、今、ソファーに寝っ転がってクッションを上に投げては、キャッチをする遊びをしている。あそこへ飛び込んでいくのも捨てがたい……。

 その時、不意なお客さんがやって来た。
 茶トラの猫さんが、テラス窓を叩いている。僕が行っても猫は、僕に威嚇するだけで、フゥ――フゥ――!言ってるだけだ。

 その様子を見てソファーに座り直したみずほちゃんが、キャトタワーの方に歩いて向かった。

「あずき、猫が来てるけど……」

 そうすると、あずき先輩が、ゆっくりキャットタワー顔を覗かせる。ミャァーあずき先輩は、そう鳴くと両手を上げる。

「えぇ……、あずき、ちょっと重いし、そこからの高さじゃ……抱っこ出来ないよ。」
 
 少し後ずさるみずほちゃんに、不服そうにしながらあずき先輩はキャトタワーの下へと飛び移る。やがて下まで来ると……のっしのっし歩きながら、テラス窓の確認する。
 茶トラの猫は、口にくわえていた、松の枝をあずき先輩に差し出すように見せると、さっさとどこかへ行ってしまった。
 
「みずほ、今日は猫の集会へ行ってくる――」
 横を見ると、あずき先輩は人間になっていた。そしてちょっとめんどうそうに話している。

稲穂いなほも行くの?」ソファーに座り直しブラブラと足をバタつかせてるみずほちゃんの横に、あずき先輩が座り、その間に僕は飛び乗った。

「いく。俺達に猫は、近寄らないし大丈夫だろう。それに神社の境内けいだいでやるし……」
 
「わかった。お母さんに伝えとく。あずき頑張ってね」
 みずほちゃんに、言われて……見知らぬ猫の集会を僕は、頑張る事にした。

  三☆★☆★☆★       三☆

 日が沈むのを窓から見ていた、巫女姿のみずほちゃんが……。
 
「行こうか………」と言って歩み始める。本殿につくといつもの様に儀式を済ませる。
 
 儀式が終わった僕達を、外で待つのは、まんまるな月。
 
 月の光を浴びると制服のシルエットがゆっくり歪む。
 僕の制服は、黒いスーツに変わった。境内で待っていたあずき先輩の制服も黒のスーツになっていて、いつもより怖い雰囲気だ。

「七五三だな、まあ、いいや……。稲穂いなほ、怖い顔を今日はしてろよ。今日呼ばれた事について詳しくはわからないが、俺たちが呼ばれる時は厄介事やっかいごとのある時だ。漢字のカードは、胸ポケットに入れておけ」
 あずき先輩から渡されたカードには、『止』と、書いてあった。

「止まれって念じれば、止まるからな、後、俺の横で黙って立っておけばいいから」

 僕達が、向かったのは神代神社のもう1つのやしろで、境内けいだいの外れの方にひっそりたたずんでいる。その横にベンチが、置かれていて、その上に尾が2つに分かれた猫が座ってるその前に大勢の猫達が集まつている。

 あずき先輩が、ずかずか、と近づいて行くと、猫達の声が聞こえだした。
 
「何故、神代かみしろの猫達が!?」
 
「怖いにゃ~」
 
「お腹すいたにゃ!」
 
「もう、扇は来ないのか……」
 
 あずき先輩は、ベンチの猫の隣に座った。僕も、怖い顔でベンチの横に立つ。猫の声がこんなにも聞こえるのは不思議だけど僕は、怖い顔を頑張った。

「久しいのう、猫達よ。新参者は、よく聞くがいい、我はたま蔵だ。今日、集まって貰ったのは他でもない。我々の中に山の猫が紛れていると言う話を、聞いて来たのじゃ」
 そうベンチに立った2つのしっぽを持つ、猫又ねこまたは、威厳いげんを持ってそう言う。

「山の猫の末裔まつえいならそこにいるじゃないですか?」

「だから、こわいにゃ――」

「宴会まだ始まらないの?」

「神代の猫なら、ちゃろちゃん達が良かったのに……」

 猫達は、口々に言うがあずき先輩は、何も言わずただ座って居る。猫達は次々に話すのでもう収拾がつかない。そしてかわいい。

 (一人一人並べ!抱っこしてあげますね~ってしたい……)

「皆さん、聞いてください」そう言ったのは、松を持って来たあの茶トラだった。茶トラが、前へ進み出てベンチの上に飛び乗った。

「皆さんを呼んで貰ったのは、僕です。公園に住む僕には、毎日話しかけてくれた少年が居たのですが……つい先日、山の猫に襲われて、助けが入って無事に済んだのですが……きっと山猫は、みなさんの近くに潜んでいるはずです。その事をみんなさんに伝えたかったのと……」

 茶トラの彼が話している時、あずき先輩は、胸の所のポケットから2枚のカードを出して使った。

「あずきさんあの猫です!」茶トラの猫が、そういうと猫達は一斉に居なくなっていた。ただ1匹の黒色の猫だけが、その場に釘付けられている様に動けない。

「どうしてわかった!? 負け犬になり下がった神代の猫よ!!」
 残った黒い猫が、怖い声でそう怒鳴る。怖い、とっても怖い。

 あずき先輩は、ふたたび捕『縛』の綱を山猫につないでいる。

稲穂いなほ早く、お父さんを呼んこい! 本殿に待機しているから!」

 あずき先輩が、そう言っている間に捕縛の網が、ギリギリ、パチーンパチーンと音を立てて糸が千切せんぎれれている。僕は、下へくだる坂を草をかき分け走る。拝殿はいでんの横まで来ると僕は大きな声でお父さんを呼んだ。

「お父さ――ん」

 僕の声を切っ掛けとしてすぱーんと扉が開き、飛び出してきたお父さんは、僕の横を風の様に駆け抜ける。僕は、その背中をただぽかーんと見つめていたが、慌ててお父さんの後を追った。僕が、追いついた時、さっきまで無かった、白い箱を悲しそうに、大事そうに拾い上げ懐にいれるお父さんの姿が見えた。

 茶トラの言葉が続いている内から、凄い早さで隠れた、たま蔵のおじいちゃんと茶トラの猫さんが、僕達にお礼をいい頭を下げ帰って行った。

稲穂いなほ満月が、近づくとこういう事が起こる事がある。でも、お前はまだ何もしなくていいから、子猫の内は大丈夫だから本当に……」
 
 いつの間にか僕に寄り添うように立っていたあずき先輩が、そう言って僕の頭を撫でる。

「さぁ、二人とも僕達の家に帰ろうか……」お父さんの声が優しく響くから、僕もあずき先輩もお父さんと手をつないだ。

 僕達3人は、境内けいだいの道を家まで歩いた。僕らの背中には、まあるい満月が僕らを見下ろしていたが、家に帰ればそんな事は見えない事だった。


 

                  おわり 
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