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夏の黄昏
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僕は、朝から悲しい気持ち。漢字がすぐに書るようにならないからだ。
あずき先輩はしっぽが3本あって、漢字も書ける。そんなあずき先輩くらい成長したら、お知らせ屋の猫は、アイスを丸ごと1本食べても怒られない。
それか3日、お絵かきの練習をしたけど……僕はまだ漢字を書けていない。そして読めない。
アイスまでの道は凄く遠い……。
お仕事の合間、人間でいられる間に、クレヨンで沢山の絵を描いた。太陽は凄く上手にかけたと思う。みんな上手って言ってくれるし…
あっ、でも、待って、この家族のみんなの絵は、みんなに凄く似ている。どうしょうこんなに似てるなら明日から、漢字の練習が始められるかも?
僕はダイニングテーブルで、黒一色で漢字を書いているあずきに、絵を見せてあげる事にした。
「あずき見て、この絵」
「あずき先輩だ……。みんなの絵か? 上手だな。でも、なんで稲穂いなほが二人いるんだ? 」
「人間の僕と猫の僕、どっちも好きだか選べなかったの」
「まぁ、絵は好きに書けばいい」あずき先輩は、習字の手を止めてそう答えてくれた。
「あずき先輩、これが漢字?」
「そうだ。……稲穂、触さるなよ」
「なんで?」
「手に、色がつくからだ。クレヨンの時みたいに泣く事になるぞ」
「あれはね……大変だったよね。手が青くなるし、涙は止まらないし」
「あずき先輩も、気をつけなきゃダメだよ?」
「はいはい、先生……。」
「ちゃんと、聞いて!」
あずき先輩は、習字を書き終わったカードを乾かす為に並べている。そして、その内の1つずつ指差し――。
「ほら、稲穂いなほ『縛バク』、『炎ほのお』,『水魔すいま』、『氷の楔くさび』これが漢字だ」
「稲穂は、この字をクレヨンで書いてみろ」
そう言うと、あずき先輩は、新しいカードに『止』と言う字を書いて僕に見せた。
「これでいい?」
僕の自由帳に、あずき先輩のカードを見ながら真似して書いてみた。
「うまいけど、こういう所で、ちゃんと止まるともっと上手く見えるぞ。上は山ぽい形を意識してやると、もっと上手になる」
「じゃあこれは?」
「凄く上手だ。じゃあ、このカードに書いて。そしてこの止まって欲しいって気持ちをカードにこめるんだ。凄く、とまれ! と」
「凄く、思うんだね。やってみる」
「あっ、足をバタバタさせるな!」
「はい……」
「書けたな、上手いぞ、後は瑞穂みずほに力を入れて貰えば、相手を少し足止め出来る。でも、絶対遊びに使うなよ」
「わかった、これでアイス!」
「アイスまでの道は、ひらがな、簡単か漢字、難しい漢字だから」
「遠いなぁ……やになっちゃう」
あずき先輩の漢字の授業は、こんな風に終わった。アイスまでの道は、遠いけど先輩に沢山褒ほめて貰うのは、大好きかもしれない。
この嬉しい気持ちを沢山持って、僕はお仕事に行く。
街を歩く。夏の夕方、子供達はいつもより遅い時間まで外で遊び、大人達はいつもと同じ時間なのに明るい街で子供と大人はすれ違う。
そんな街で、子供達を見つめてふと、昔を懐かしく思っている彼女が『虫の知らせの』受取人だ。
「貴方様に謹んで申し上げまする。娘さんに、電話してあげてください。彼女はきっと、貴方の電話を待っています」
僕と目があったどこかのお母さんは、少し僕を見つめた後……慌てて建物の影で電話をした。
「もしも、あい? なんか急に電話はしたくなっちゃて……ってなんで泣いてるの? ちょっと大丈夫? 今から行くから大丈夫、大丈夫、安心して待ってればいいから、電話つないでおくから安心しなさい」
そう言ってタクシーをつかまえてどこかに、行ってしまった。お母さんか……そろそろ僕も帰らなきゃ。
「稲穂いなほ?」
「あっ、みずほちゃん! と、するがくん……こんばんは」
「こんばんは、稲穂、大丈夫か? まだ俺の事怖い?」
「稲穂は、怖がりだから、でも、駿河君は優しいよ」
「えっ?」「あっ」
するがくんと、みずほちゃんは、トマトみたいに赤くなっている。なんかいや。
「お腹すいたから……、今すぐ帰りたい。みずほちゃん帰ろう」
僕が、みずほちゃんの手を、掴んで引っ張ってみる。ついて来てくれるみずほちゃんに、ほっとしながらそのまま進む。
「ごめんね、駿河くん、また明日」
「神代かみしろさん、稲穂、またな」
先を歩く僕に、黙ってみずほちゃんがついて来てくれた事が嬉しかった。そして僕は振り返った。僕の目には戸惑っている、みずほちゃん、そして僕達と違う方向に行ってしまうするがくんの後ろ姿……。
神社の境内けいだいまで来ると、僕は涙で前が見えなくなった。
「みずほちゃん、ごめんなさびぃ」
あんな風にするつもり、じゃなかったのに鼻水と涙が止まらない。
「今度ちゃんと、駿河するが君に謝れば大丈夫だよ」
そう言ってティッシュをくれた。そしてちょっと食べようとしたり怒られた。
境内の階段を今日は、二人で手を繋いで上がった。辺りは少し赤く染まって来ている。
「泣いたし、疲れたから今日は、美味しい缶のご飯を食べたい……」
「それはだめ、駿河くんに謝ってから!」
僕はまた、少し涙がでたが……。家に帰ると、迎えに来てくれた猫のあずき先輩を、見て泣き止んだのだった。
おわり
あずき先輩はしっぽが3本あって、漢字も書ける。そんなあずき先輩くらい成長したら、お知らせ屋の猫は、アイスを丸ごと1本食べても怒られない。
それか3日、お絵かきの練習をしたけど……僕はまだ漢字を書けていない。そして読めない。
アイスまでの道は凄く遠い……。
お仕事の合間、人間でいられる間に、クレヨンで沢山の絵を描いた。太陽は凄く上手にかけたと思う。みんな上手って言ってくれるし…
あっ、でも、待って、この家族のみんなの絵は、みんなに凄く似ている。どうしょうこんなに似てるなら明日から、漢字の練習が始められるかも?
僕はダイニングテーブルで、黒一色で漢字を書いているあずきに、絵を見せてあげる事にした。
「あずき見て、この絵」
「あずき先輩だ……。みんなの絵か? 上手だな。でも、なんで稲穂いなほが二人いるんだ? 」
「人間の僕と猫の僕、どっちも好きだか選べなかったの」
「まぁ、絵は好きに書けばいい」あずき先輩は、習字の手を止めてそう答えてくれた。
「あずき先輩、これが漢字?」
「そうだ。……稲穂、触さるなよ」
「なんで?」
「手に、色がつくからだ。クレヨンの時みたいに泣く事になるぞ」
「あれはね……大変だったよね。手が青くなるし、涙は止まらないし」
「あずき先輩も、気をつけなきゃダメだよ?」
「はいはい、先生……。」
「ちゃんと、聞いて!」
あずき先輩は、習字を書き終わったカードを乾かす為に並べている。そして、その内の1つずつ指差し――。
「ほら、稲穂いなほ『縛バク』、『炎ほのお』,『水魔すいま』、『氷の楔くさび』これが漢字だ」
「稲穂は、この字をクレヨンで書いてみろ」
そう言うと、あずき先輩は、新しいカードに『止』と言う字を書いて僕に見せた。
「これでいい?」
僕の自由帳に、あずき先輩のカードを見ながら真似して書いてみた。
「うまいけど、こういう所で、ちゃんと止まるともっと上手く見えるぞ。上は山ぽい形を意識してやると、もっと上手になる」
「じゃあこれは?」
「凄く上手だ。じゃあ、このカードに書いて。そしてこの止まって欲しいって気持ちをカードにこめるんだ。凄く、とまれ! と」
「凄く、思うんだね。やってみる」
「あっ、足をバタバタさせるな!」
「はい……」
「書けたな、上手いぞ、後は瑞穂みずほに力を入れて貰えば、相手を少し足止め出来る。でも、絶対遊びに使うなよ」
「わかった、これでアイス!」
「アイスまでの道は、ひらがな、簡単か漢字、難しい漢字だから」
「遠いなぁ……やになっちゃう」
あずき先輩の漢字の授業は、こんな風に終わった。アイスまでの道は、遠いけど先輩に沢山褒ほめて貰うのは、大好きかもしれない。
この嬉しい気持ちを沢山持って、僕はお仕事に行く。
街を歩く。夏の夕方、子供達はいつもより遅い時間まで外で遊び、大人達はいつもと同じ時間なのに明るい街で子供と大人はすれ違う。
そんな街で、子供達を見つめてふと、昔を懐かしく思っている彼女が『虫の知らせの』受取人だ。
「貴方様に謹んで申し上げまする。娘さんに、電話してあげてください。彼女はきっと、貴方の電話を待っています」
僕と目があったどこかのお母さんは、少し僕を見つめた後……慌てて建物の影で電話をした。
「もしも、あい? なんか急に電話はしたくなっちゃて……ってなんで泣いてるの? ちょっと大丈夫? 今から行くから大丈夫、大丈夫、安心して待ってればいいから、電話つないでおくから安心しなさい」
そう言ってタクシーをつかまえてどこかに、行ってしまった。お母さんか……そろそろ僕も帰らなきゃ。
「稲穂いなほ?」
「あっ、みずほちゃん! と、するがくん……こんばんは」
「こんばんは、稲穂、大丈夫か? まだ俺の事怖い?」
「稲穂は、怖がりだから、でも、駿河君は優しいよ」
「えっ?」「あっ」
するがくんと、みずほちゃんは、トマトみたいに赤くなっている。なんかいや。
「お腹すいたから……、今すぐ帰りたい。みずほちゃん帰ろう」
僕が、みずほちゃんの手を、掴んで引っ張ってみる。ついて来てくれるみずほちゃんに、ほっとしながらそのまま進む。
「ごめんね、駿河くん、また明日」
「神代かみしろさん、稲穂、またな」
先を歩く僕に、黙ってみずほちゃんがついて来てくれた事が嬉しかった。そして僕は振り返った。僕の目には戸惑っている、みずほちゃん、そして僕達と違う方向に行ってしまうするがくんの後ろ姿……。
神社の境内けいだいまで来ると、僕は涙で前が見えなくなった。
「みずほちゃん、ごめんなさびぃ」
あんな風にするつもり、じゃなかったのに鼻水と涙が止まらない。
「今度ちゃんと、駿河するが君に謝れば大丈夫だよ」
そう言ってティッシュをくれた。そしてちょっと食べようとしたり怒られた。
境内の階段を今日は、二人で手を繋いで上がった。辺りは少し赤く染まって来ている。
「泣いたし、疲れたから今日は、美味しい缶のご飯を食べたい……」
「それはだめ、駿河くんに謝ってから!」
僕はまた、少し涙がでたが……。家に帰ると、迎えに来てくれた猫のあずき先輩を、見て泣き止んだのだった。
おわり
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